第25回:そんな気分の日もあるさ
2018.06.09 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
マイカーとの日々がいつもシアワセとは限らない。「ダッジ・バイパー」の不具合もおおむねおさまり(エアコン除く)、安息の日々を送っていたはずのwebCGほったに冷や水をぶっかけた出来事とは? 「もう何度目だよ!」なトラブルの発生に、貧乏オーナーが本音を漏らす。
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ダン・ガーニーの霊でも憑いた?
ジドーシャに乗っていると、ハッピーなこともアンハッピーなこともある。それはまあ当ったり前のことで、かつどんなジャンルのどんなクルマでも言えることなのだろうが、やはり“趣味性が高い”なんて言われる代物であればあるほど、この振れ幅は大きくなる気がする。小林彰太郎氏や徳大寺有恒氏といった先達(せんだつ)の逸話を聞くにつけ、クルマ道楽というのは、この乱高下をいかに笑って楽しめるかなんだろうなあと見つける次第である。
もちろん「ランチア・ラムダ」や「シトロエンDS」などと比べるつもりはさらさらないが、わが家のバイパーもパラメーターを道楽に全振りしたようなクルマではあり、そうしたクルマのご多分に漏れず、飼い主を天国にも地獄の底にも連れていく。このひと月も、まさにそんな感じだった。
ハッピーなことを挙げればきりがないが、まずはなんといっても、4月末に参加した3度目のAUTO-X(オートクロス)だろう。当該連載でも何度か紹介しているアメ車中心の走行会だが、今回ようやく、バイパーオーナーとして(多少は)人様にお見せできる走りを披露できたのだ。
……などと書くと、記者の運転技術を知る向きから、「ウソはいかんよ、ウソは」とか、「自己満足を公にさらすな見苦しい」とか言われそうだが、ふっふっふ。さにあらず。タイムがよかった(当社比)のはもちろん、バイパー乗りの仲間や顔見知りのメディア関係者からも、「何かドライビングレッスンに参加した?」「目線の持っていき方からして違う」とお褒めの言葉を賜ったのだ。
まあ、ホントにタイムがよかったのは最初の1本だけで、2本目は突然の2秒ダウン。その後は「俺、どうやって38秒台なんて出したんだろ?」と試行錯誤する羽目となったのだが。
「読んでますよ」と言われるヨロコビ
それと並んでハッピーだったのが、過日取材した「CHEVROLET FAN EVENT 2018」での出来事。ドライビングセミナーで講師を務めていた古賀琢麻選手にあいさつしたところ、「読みましたよ、この間の回。山田さん面白かったですね」などと言われてしまったのだ。
なんのこっちゃと問われれば、それはもちろん当連載のことである。そして一応説明させていただくと、古賀選手はシボレーレーシングからNASCAR K&Nプロシリーズにフル参戦する現役のレーシングドライバーだ。海の向こうで頑張る人に「読んでますよ」なんて言われたら、申し訳ないやら気が引けるやら。当然のことながら、わが家にバイパーが来なければこんな連載は世に生まれ得なかったわけで、これもまた毒ヘビさまのご利益といえるだろう。
ちなみに、古賀選手は最近ニュルブルクリンクで3代目の「バイパーACR」をドライブしたそうで、「速いけどホントに疲れる」「サーキット仕様だと乗り心地が悪くって、初めて自分の運転で酔った」と散々だった様子(笑)。それでも、僭越(せんえつ)ながらバイパーについてはオーナーのワタクシなどよりはるかに理解が深く、メーカー指定のキャンバー角が遠慮なしの“ネガキャン”であることを例に挙げ、「『コルベット』はあくまでもスポーツカーだけど、バイパーはサーキットで遊ぶ人のためのツール。出自が全然違うんだよね」と笑顔で語っていた。
この例え、分かる。めっちゃくちゃ分かる。やっぱりバイパーは、アメリカの愛すべきカーヲタたちがハンバーガー片手に作った、ちょっと(?)でっかいバックヤードスペシャルなんだよ。
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禍福はあざなえる縄の如し
かようにハッピーなことが多々あったこの1カ月だが、こうした記事では“上げて落とす”が常とう手段。これらのハッピーをぜんぶチャラにできるぐらい、アンハッピーにも見舞われた。
こう書くと、季節柄「自動車税の話だナ」と予想する向きもおられるだろうが、残念ながらハズレである。乗用車としては上限いっぱいの、11万1000円もの自動車税を掛けられているバイパー。それもこれも、排気量に応じて税を課す憎き日本の税制体系の所為ではあるが、まあね。これについてはもう悟りましたよ。「燃費に応じて/CO2排出量に応じて課税する」なんてトレンディーなシステムになったとしても、わが家のガスガズラーに重税が課せられるのは変わらなそうですし。せめて、迫りくる“クラシックカー増税”だけはどうにかならんもんかと、三鷹のコミュニタリアンこと鈴木真人氏と世界同時革命の準備を進めている次第である。
しかし、2ケタ万円というお国への上納金がそうでないのなら、記者をどんな不幸が襲ったのか。それを語るには、時計の針を5月13日まで戻さねばなるまい。この日、記者はさる特集記事制作のため、バイパーとともに東京湾岸地域をロケハンしてまわっていた。そして「なんだかヘンだな」と思って手元に目をやり、思わず二度見した。クルマは直進しているのに、ハンドルは10°ばかり左に切れていたのだ。
最寄りのパーキングエリアにクルマを止めてタイヤの状態を確認したが、パンクなどの気配は一切ナシ。一応ガソリンスタンドで空気圧も見てもらったが、前も後ろも正常値だった。いや、まあ「タイヤのせいじゃないだろうな」とは察していましたよ。真っすぐ走るし、乗り心地も問題なかったし。
缶コーヒーで一息入れつつ、未練がましく周囲を一周。「また面倒くせえことになったなあ……」と思いながら、記者は主治医に連絡すべく、スマートフォンを手に取ったのである。
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またややっこしい部分が……
「実際に見てみないとなんとも言えませんが、恐らくはステアリングラックだと思います」
毎度おなじみ、コレクションズの本多さんはわがバイパーの症状を聞いてそう述べた。浅学ながら、記者も同意見である。タイヤやハブ、タイロッドエンドなんかがおかしくなると、ガタガタ振動が出たり、ブレーキングでハンドルをとられたりするはずなのだ(「ローバー・ミニ」で経験済み)。
しかし、原因がステアリングラックとなると、それはケッコウな大ごとだ。初代バイパーのステアリングラックなぞ、廃番になって久しいからだ。アメリカ本国には、こうした部品のオーバーホールを専門に請け負う業者もいるというが(壊れたステアリングラックを送ると、オーバーホール済みのものを送ってくれるのだそうだ)、なにせ相手は、良くも悪くもおおらかなアメリカ親父。こちらの依頼を忘れちゃったり、頼んだ品を他の人に送っちゃったりといったトラブルが日常茶飯事なのだとか。
一番手っ取り早いのは、デッドストックを探して交換するという手なのだが……。
「一本30万円だって言われることもあるんですよ」
先述のオーバーホールだと費用は20万円。完全に足元を見られている。本多氏いわく、そもそも値段が上がることを見越して買いあさっている人もいるのだとか。旧車かいわいじゃありがちな話だけど、正直、うんざりである。
いずれにせよ、これまでと同じく問題は時間と費用。手間に関してはお店さんに頑張ってもらうしかないし、こちらは長期戦の覚悟をしておきましょう。……と、今までならそう結論づけていたワタクシだが、今回はちょっと違った。さすがに違った。
いやね。バイパーさん、ちょっと壊れ過ぎじゃないですか?
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仏の顔もなんとやら
いや、壊れるというのは違うかもしれないけど、なんかいろいろ起き過ぎじゃない? だってさ、3カ月にわたる長期治療がようやく終わったのが2017年10月末。それでもエアコンは完治せず、通院を続けている最中にこのトラブルですよ。長期入院から戻って半年、車検を終えて3カ月。『四季報』かアンタは。
ちなみに今回、「タイヤを打った/ぶつけた」といった失態を犯した記憶はない。というか、もしぶつけていたら、たとえドライバーに覚えがなくても(普通そんなことはないと思うが)タイヤのサイドウオールやホイールリムにひどいキズが残るはずである。本多氏いわく、「あとは経年劣化によるガタ」ということになるのだが、うーん……。
……さるアストンマーティン・オーナー氏からうかがった話なのだが、かつて六本木の某高級輸入車販売店は、メンテナンス保障の費用として、年間80万円(!)をオーナーに求めていたんだとか。英国諜報機関の社用車がいかなものかを物語るブルジョアエピソードだが、この調子だとわがバイパーもそんなに変わらないんじゃないか?
もちろん、「アストンには80万円かける価値はあるけど、バイパーにはない」なんていうつもりは毛頭ない。問題はオーナーとクルマの関係性であり、クルマに対するスタンス、そして何より銀行の残高である。
記者はこの連載を続けるうえで、安易に「ビンボー人だって、肚さえくくればスポーツカーが持てるんだぜ」と言っちゃうのだけは違うと思ってきた。そしてそのスタンスからすれば、一介のリーマンにとって、1年で3度も4度も入院し、その都度ヘビーな修理費用が生じるというのは明らかに一線を越えている。
これがわがバイパーに特有の出来事なのか、こうした類いのクルマ全般に言えることなのか、18年落ちのジドーシャなら当然のことなのかはわからない。そもそも、実際のところはまだなにがどうなると決まったわけでもない。本多氏も「ステアリングのセンターを調整して様子を見る、という手もあります」と言っていたし、“大山鳴動してねずみ一匹”なんて恥ずかしいオチになる可能性だって十分にあるわけだ。
ただそれでも、今回のトラブルが今まで以上に心身に堪(こた)えたのは事実。帰りがけ、預けて帰るわがバイパーの後ろ姿を見て、「……お前、さすがにいい加減にしろよ」とタイヤのひとつでも蹴飛ばしたくなってしまった。
(文と写真=webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。