ランボルギーニ・アヴェンタドールSロードスター(4WD/7AT)
生きててよかった! 2018.07.09 試乗記 「ランボルギーニ・アヴェンタドールSロードスター」に試乗した。全長4.8m級のボディーに最高出力740psの6.5リッターV12エンジンを搭載。それでいながら乗車定員2人という“浮世離れ”したモンスターマシンは、どのような世界を見せてくれるのだろうか――。信号停車時はご用心
“アヴェンタドール”とは、かつて人気を博したスペインの闘牛の名だという。闘牛は強いが、静かだ。けれども、740psの闘牛は、すさまじく吠(ほ)える。特にエンジン始動時のひと吠えは、爆音だ。
地下駐車場にその音を轟(とどろ)かせたあと、恐る恐る地上に出る。ドアミラーを入れると、幅はかるく2.2m以上あるのに、高さは113cmしかない。イビツなプロポーションの巨体でいきなり混んだ都内へ出るのは、はっきりいって不安だ。総額5700万円オーバーの借り物でもあるし。
走りだすと、背後のエンジンそのものはそんなに大音声ではなかった。ただ、アイドリングストップ機構は付いていないから、停車しても後ろに6498ccのV12がいる。
信号待ちで止まってしばらくすると、7段自動MTのクラッチを保護するために、ギアがニュートラルに戻ることがある。クラッチの温度次第らしく、戻らないこともある。“N”になったときは軽い電子音で教えてくれるが、忘れていると、発進時に思いっきり空ぶかしをしてしまう。それはやっぱり爆音なので、恥ずかしい。
その日は高速道路から行きつけの山道を走って、なんとか無事に自分ちの車庫へお連れする。
V12ランボのアイコン、シザードアは、横方向に45cmのスペースがあれば全開にできる。がしかし、ドアの頂点は190cmに達する。車庫で開けたとき、梁(はり)にぶつかりそうになって肝を冷やした。カウンタック時代は、閉めるときに腹筋も使う必要があったが、カーボンモノコックでできたアヴェンタドールは、ドアも軽く、軽々と閉まる。
ボディーの4割をエンジンが占める
アヴェンタドールが登場したのは2011年。以来、歴7年になるV12フルサイズランボの最新バージョンが、2017年に出たSロードスターである。
オープンのロードスターボディーに、6.5リッターV12パワートレインを縦置きする。開閉可能なキャビン後方の小窓からテールエンドまで測ったら、ちょうど180cmあった。ボディー全長は4.8mだから、クルマの4割近くをエンジンルームが占めているわけである。
エンジンフードはダース・ベイダーみたいなデザインで、試乗車は中央のオープニング部がガラスのスリットになっていた。エンジンルームをスケルトンで見せる80万円超のオプションだ。
ロードスターといっても、上屋はいわゆるタルガトップ。左右2枚のルーフを外すとオープンになる。カーボン製で1枚6kgだから、それほど重くない。とはいえ、この価格のスーパーカーに完全手動ルーフとは、ランボルギーニも漢(おとこ)である。そのかわり、スタイリングはロードスターでもまったく損なわれていない。
ロードスターボディーは約500万円高だが、予算に余裕がある人(笑)は、ぜひこちらにしたほうがいい。低く寝たフロントガラスがかなり後方まで延びているため、上を開けたときの開放感がハンパないのだ。初めてトップレスにしたときは、別のクルマに乗り換えたような気がした。2枚のルーフは、けっこう深いフロントのトランクにシステマチックに収納される。
行きつけの山道に挑むも!?
車検証によると、車重は1940kg。以前、webCGで取り上げたSの「クーペ」より50kg重い。その分、わずかに加速性能(公称値)は落ちているが、それでも0-100km/hは3.0秒。「フォルクスワーゲンup! GTI」だと、やっと100km/h出たくらいの9秒フラットでこいつは200km/hに達している。350km/hの最高速はクーペと変わらない。
パワートレイン、サスペンション、ステアリングなどの硬軟キャラを変えるドライブモードは、「ストラーダ」「スポーツ」「コルサ」の3つ。スポーツ以上だとアフターファイアふう排気音が大げさになりすぎて、気が引ける。
ドライブモードは、上記の要素を別個に個人設定することもできる。そのモードを“エゴ”(ego)と名付けるのがランボルギーニらしい。コルサを選ぶと、液晶メーターのパターンが変わり、Gメーターや4WDのグラフィックが出る。
足まわりは前後ともダブルウイッシュボーンで、ほぼ水平に寝たコイル/ダンパーユニットをプッシュロッドで押す。レーシングカーでおなじみのサスペンションにひと泡ふかせてやろうかと思ったが、行きつけの山道は、その前にまずアヴェンタドールには狭すぎた。
弱点はシングルクラッチの7段自動MTで、シフトショックも音もやや大きめだ。右側のシフトパドルを操作すると、カチッという振動が左パドルに伝わる、なんていうことも含めて、そろそろ設計年次の古さを感じさせた。
ランボはこうでなくっちゃ!
返却日でもあった2日目は、伊豆・修善寺のサイクルスポーツセンターへ向かった。修善寺の街なかから亀石峠へ向けて登るこのルートは、くしくも30年前、「カウンタック5000クアトロバルボーレ」で走った道である。
まだ455psだったが、2WDで、しかもあいにくの雨だった。稲妻が光るサイクルスポーツセンターで撮影し、静岡のオーナー宅に返すまで、まる1日運転したら、手のひらにマメができていた。ノンパワーの重いステアリングを緊張で強く握り続けていたせいである。
それに比べたら、いまのアヴェンタドールは、もちろんパワーステアリングで、2ペダルで4WDである。なんとユーザーフレンドリーなことか、といいたいところだが、今回接して、やっぱりランボはランボだと思った。見て、乗って感じる“途方もなさ”はフルサイズランボならではである。
ちょっと目を離すと、燃料計の針が下がっている。約510km走り、燃費は4.1km/リッターだった。残量がこころもとなくなって、1日に2回給油したなんて、何年、いや何十年ぶりだろうか。
しかし、こういうクルマが元気でいるのは、「ゴジラが生きていた!」みたいで、うれしい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・アヴェンタドールSロードスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4797×2030×1136mm
ホイールベース:2700mm
車重:1625kg(乾燥重量) ※車検証記載値1940kg
駆動方式:4WD
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:740ps(544kW)/8400rpm
最大トルク:690Nm(70.4kgm)/5500rpm
タイヤ:(前)255/30ZR20 92Y XL/(後)355/25ZR21 107Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:20.1リッター/100km(約5.0km/リッター、欧州複合モード)
価格:4996万9107円/テスト車=5748万3747円
オプション装備:エクステリアカラー<グリジオアダマス>(151万2000円)/トランスペアレントエンジンボンネット(86万4000円)/エクステリアカーボンファイバーパッケージ<底部>(203万3640円)/リアビューミラー<ハイグロスブラック>(8万1216円)/リムーバブルハードトップ<ハイグロスブラック>(20万4660円)/ホイールリム<ハイグロスブラック>(27万2808円)/ブレーキキャリパー<ブラック>(14万5044円)/Sensonumプレミアムサウンドシステム(44万2800円)/パークアシスタント<パーキングセンサー&リアビューカメラ>(51万8400円)/シートヒーター付き電動調節式シート(44万2800円)/ビジビリティー&ライトパッケージ(17万8632円)/カラーステッチ(9万7416円)/ブランディングパッケージ<Lamborghiniエンブレム付き>(16万2432円)/Q-cituraレザーインテリア(34万1064円)/ルーフライニング&ピラー&ウインドスクリーンフレーム<レザー>(11万5344円)/リアベンチ&ロッカーカバー<レザー>(10万2384円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:4403km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:509.0km
使用燃料:123.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:4.1km/リッター(満タン法)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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