トヨタの「オーリス」と「エスティマ」が兄弟車!?
プラットフォームの共通化について考える
2018.08.22
デイリーコラム
どこからどこまでがプラットフォーム?
最近よく、「プラットフォームの共通化」という言葉が聞かれる。トヨタとBMWが共同で開発を進めている次期型「スープラ」と「Z4」も、同じプラットフォームを使う。
プラットフォームは「車台」などと訳されるが、その定義は意外と曖昧だ。チーフエンジニアと商品開発担当者は「プラットフォームを一新した」というのに、同じ車種の足まわり担当者は「プラットフォームは先代型を踏襲して、サスペンションは新規開発」と表現することもある。
これは解釈の違いだ。ボディーの底面には骨格が配置され、前後方向のサイドメンバーと左右方向のクロスメンバーがある。この部分だけをプラットフォームとすれば、サスペンションとその取り付け部分の変更は、プラットフォームの一新にならない。
しかしサスペンションまでプラットフォームに含めると、サイドメンバーやクロスメンバーが先代型と同じでも、プラットフォームの一新と表現される。
ちなみにプラットフォームという言葉が使われ始めたのは1990年代の後半だ。走行安定性や衝突安全性など、安全面への関心が高まってプラットフォームという言葉が使われるようになった。1998年に発売された9代目の「日産サニー」では、プラットフォームをエンジンまで含めた走行メカニズム全般を示す言葉としていた。
このようにプラットフォームの解釈が分かれる理由は、厳密に定義しても意味がないからだ。抜本的に軽量化する時などは車両のすべてを造り変えるから、プラットフォームの一新になる。
しかし実際は、ボディー底面の前輪よりも前側だけとか、後輪よりも後ろ側など、足まわりを含めて部分的に変更することも多い。この場合、プラットフォームの一新なのか違うのか、言い争うことにメリットはない。
幅広く使われたトヨタのFFプラットフォーム
プラットフォームの共通化は以前から幅広く行われている。
例えばTNGAより前の世代で、トヨタの前輪駆動車に使われたプラットフォームは、低床/中床/高床と、床の高さを3段階に使い分けていた。低床は2代目の「オーリス」や「マークXジオ」などのミドル&Lサイズカーに使われ、中床は(国内で)販売を終えた「RAV4」や「ヴァンガード」などのSUVだ。さらに高床はフラットフロア構造のミニバンで、現行「エスティマ」や先代「ヴェルファイア/アルファード」が採用した。
こうなると同じプラットフォームを使う兄弟のような間柄でも、走行性能や乗り心地に共通性はほとんどない。オーリスとヴァンガードとエスティマでは、全然違うクルマだ。
それでも三菱の現行「デリカD:5」と先代「アウトランダー」など、カーブの曲がり方が似ていると感じることはあるが、共通のプラットフォームを使うためではないだろう。同じメーカーのクルマで、開発者や実験担当者が根底のところで同じテイストに仕上げているからだ。
そして、根本的に剛性が不足したプラットフォームでは、補強を加えても上質な運転感覚が得られない。
例えば「トヨタ・ルーミー/タンク」「ダイハツ・トール」「スバル・ジャスティ」の姉妹車は、2004年に発売された初代「トヨタ・パッソ」&「ダイハツ・ブーン」のプラットフォームを使う。初代パッソの車両重量は、1リッターエンジン車が900kg、1.3リッターが930kgで、全高は1535mmだった。それがルーミーほか4姉妹車の車両重量は1070~1100kgで、全高も1735mmと高い。4姉妹車の走りを支えるにはプラットフォームが力不足で、走行安定性や乗り心地に悪影響が生じた。
時間を費やして補強を加えるなどすれば改善されるものではあるが、ダイハツはすでに軽自動車からコンパクトカーまで柔軟に使えるプラットフォームを開発中だ。4姉妹車は現状維持のままで生産を続ける可能性が高い。
共通化によってコスト削減を図る
プラットフォームを幅広い車種で共通化するのは、車両の土台に相当する部分とあって、開発費用が膨大になるからだ。衝突安全性や動力性能、燃費、走行安定性、乗り心地、居住性まで、車両の機能のすべてに影響を与える。
しかも今後は、プラグインハイブリッド車や電気自動車なども商品化するから、1つのプラットフォームでいろいろなパワートレインに対応しなくてはならない。
そうなるとプラットフォームの種類を抑えて、多くの車種に使うほうがメリットが大きい。コスト低減がより重要な軽自動車は、前輪駆動の乗用車であればプラットフォームは基本的に全車共通で各社1種類のみだ。「スズキ・ジムニー」などの特殊な車種は、10年以上(先代ジムニーは20年)造り続けて償却する。
マツダはプラットフォームの種類が少なく、「デミオ」と「アテンザ」といった異なるタイプでも、基本的な考え方は共通だ。サイズは違っても、同じ技術を使える。
トヨタでは「レクサスLS」と「クラウン」が同じプラットフォームを使う。以前のレクサスの開発者は、「レクサスの機能はトヨタブランドには使わせない」などと言い、トヨタブランドの開発者からは「子供じみたことをやっている」という自嘲的な意見が聞かれた。このような一種のセクト主義も、効率を高める上では通用せず、共通化が進む。
結論を言えば、メーカーにとってはともかく、ユーザーにとってのプラットフォームは、ウンチクとかトリビアの類いにすぎない。クルマを買う時は、それぞれの車種を試乗して判断するのがいい。
それでもあえてひとつの傾向を挙げるとすれば、初採用されたプラットフォームは、走行安定性や乗り心地のセッティングが未熟なことも多い。
例えばTNGAに基づく前輪駆動プラットフォームを初めて採用した「トヨタ・プリウス」は、よく曲がる代わりに後輪の接地性がそがれやすい。それが「C-HR」や「カローラ スポーツ」になると同じプラットフォームを使いながら熟成が進んでいる。C-HRの開発者は「C-HRはプリウスの1年後に発売された。この時間差は大きく、安定性と乗り心地を熟成できた」と言う。
とても曖昧だが、車両の機能に大きな影響を与えるのがプラットフォームだ。個人的には非常に面倒な対象だと考えている。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、BMW、webCG/編集=藤沢 勝)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
-
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考えるNEW 2026.6.1 具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。
-
つまずきを糧に成功をつかみ取れ! 新型「CX-5」に宿るマツダの変革と覚悟 2026.5.29 既存のマツダ車とは一線を画す乗り味で、メディアをおどろかせた新型「マツダCX-5」。マツダの最量販車種は、なぜ3代目で大転換を迫られたのか? 賛否両論を巻き起こした“あのクルマ”との関係は? 新しくなったCX-5に宿る、マツダの覚悟と変革に迫る。
-
「日産テラノ」がPHEVで復活 往年のビッグネームを継承するSUVの特徴を分析する 2026.5.28 日産自動車が「北京モーターショー2026」で、往年のビッグネームを継承する新型SUV「テラノPHEVコンセプト」を世界初公開した。初代「テラノ」で採用された「3スロット」を想起させる車両のデザインに加え、日産が新型テラノで狙うグローバル戦略に迫る。
-
まさしく桁違いの1169PS&2000N・m 新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」が搭載する数々の新機軸 2026.5.27 2025年発表のコンセプトカー「メルセデスAMG GT XX」が新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」として正式にデビューした。その中身は100%電気自動車であり、上位グレードは最高出力1169PSという途方もないスペックを誇る。技術的ハイライトを解説する。
-
買った後にもクルマが進化! トヨタ&GAZOO Racingが提供するアップデートサービスのねらいと意義 2026.5.25 GAZOO Racingが「トヨタGRヤリス/GRカローラ」の新しいソフトウエアアップデートを発表! 競技にも使える高度な機能が、スマートフォンのアプリで調整できるようになった。その詳細な中身と、GRがオーナーに提供する“遊びの機会”の意義を解説する。
-
NEW
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える
2026.6.1デイリーコラム具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】
2026.6.1試乗記「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。 -
日産リーフB7 G(前編)
2026.5.31思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産リーフ」に試乗。初代のデビューから15年余りを経て生まれた3代目はスタイリングも中身も刷新。苦境にある日産を立て直す重責を担っている。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2026.5.30試乗記新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。 -
つまずきを糧に成功をつかみ取れ! 新型「CX-5」に宿るマツダの変革と覚悟
2026.5.29デイリーコラム既存のマツダ車とは一線を画す乗り味で、メディアをおどろかせた新型「マツダCX-5」。マツダの最量販車種は、なぜ3代目で大転換を迫られたのか? 賛否両論を巻き起こした“あのクルマ”との関係は? 新しくなったCX-5に宿る、マツダの覚悟と変革に迫る。 -
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】
2026.5.29試乗記キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。







