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これが世界最高峰ラリーの“今”
WRCの最新動向と日本ラウンド開催への課題

2018.08.27 デイリーコラム 山本 佳吾

4チームがしのぎを削るトップカテゴリー

深夜とはいえ地上波での放送があったり、日本での開催話が持ち上がったりと、最近なにやら騒がしくなってきた世界ラリー選手権(WRC)のかいわい。それでも、F1やSUPER GTのようにちまたに情報があふれているわけではなく、モータースポーツ全般にはそこそこ詳しいものの、「ラリーだけは……イマイチよくわからん」という方も多いのではないでしょうか? ルールの説明から始めると3年ぐらいかかってしまいそうなので、そこんとこはまたの機会に譲るとして、今回はきたるべき日本ラウンド開催(?)へ向け、WRCの現状と、ちょっと気になる課題をおさらいしたいと思います。

現在、WRCのトップカテゴリーに参戦しているのは、2013年から5連覇を果たしているセバスチャン・オジェを擁するMスポーツ・フォードと、シトロエン、ヒュンダイ、トヨタの全4チーム。ひと昔前なら、ここにスバルや三菱も名を連ねていたわけで、当時を知るファンの中には「なんで出てこないんや……」と嘆いている方もおられるかもしれません。車両のレギュレーションだとか会社の状況だとか……まあ、いろいろあると思うので、そっとしておいてあげてください。

偉大なるプライベーターであるMスポーツ・フォード。今年はフォード本体の協力も得て、純粋なワークスチームとは言えないものの、充実した体制でWRCに臨んでいる。
偉大なるプライベーターであるMスポーツ・フォード。今年はフォード本体の協力も得て、純粋なワークスチームとは言えないものの、充実した体制でWRCに臨んでいる。拡大
Mスポーツ・フォードのエースであり、去就が騒がれるセバスチャン・オジェ。6度目のタイトル獲得が危うい状況で、引退の可能性や古巣シトロエンへの移籍など、その動向に注目が集まっている。
Mスポーツ・フォードのエースであり、去就が騒がれるセバスチャン・オジェ。6度目のタイトル獲得が危うい状況で、引退の可能性や古巣シトロエンへの移籍など、その動向に注目が集まっている。拡大

“勝つ”だけがメーカーの役割ではない

で、ここからがちょっと地味だけど、ラリー的に大事なお話。WRCでは先ほど述べたトップカテゴリーに加え、いくつかの下位カテゴリーが存在します。例えば、WRC直下のWRC2には、シュコダ、シトロエン、ヒュンダイ、Mスポーツといった面々が参戦しています。そして、こちらで使用されるのがR5規定というレギュレーションの車両。トップカテゴリーで使われるワールドラリーカーと違い、カスタマー向けに販売されることが前提のクルマです。

このR5規定は各国の国内戦でも用いられているので、車両の販売から消耗部品の供給など、ビジネスとしても重要なものといえるでしょう。カスタマーにとっても、市販車を購入してラリー用パーツに換装していたグループAやグループNの時代とは違い、メーカーが生産した完成車両や、市販車両にキットパーツを組み込むグループR規定の車両を使う現代のラリーでは、こうしたメーカーの取り組みがなければお話になりません。

ここでちょっと気になるのが、最近のしてきた東の巨人、要するにトヨタの様子。実はこのようなカスタマー向け車両が、トヨタにはないんですね。欧州メーカーやヒュンダイのように、ラリーをビジネスとしてとらえているのであれば、R5車両の開発にはぜひ期待したいところ。なにより、過去には世界中で「セリカ」や「カローラ」のラリー車が走っていたわけですから。

フォルクスワーゲンの傘下にあるチェコのシュコダは、「ファビアR5」で参戦中。ファビアR5は世界中のラリーに参戦しており、“最も売れているR5車両”といえる。
フォルクスワーゲンの傘下にあるチェコのシュコダは、「ファビアR5」で参戦中。ファビアR5は世界中のラリーに参戦しており、“最も売れているR5車両”といえる。拡大
復帰2年目にしてコンストラクターズランキングで2位につけるなど、快進撃を見せるトヨタ。他のメーカー同様、R5車両を供給するなどして、“ラリーを盛り上げる”ことについてももうちょっとがんばってほしい。
復帰2年目にしてコンストラクターズランキングで2位につけるなど、快進撃を見せるトヨタ。他のメーカー同様、R5車両を供給するなどして、“ラリーを盛り上げる”ことについてももうちょっとがんばってほしい。拡大

開催地域の拡大をもくろむFIA

ここまではマシンとカテゴリーに注目してきましたが、ここからはまた違ったお題、最近ちまたでうわさにのぼるWRC日本開催について語りたいと思います。

現在、WRCの舞台となっているのは、欧州、南米、オーストラリアの大きく分けて3地域。過去にはアメリカやケニア、日本を含めたアジア地域で開催された時期もありましたが、さまざまな理由で今の開催地に落ち着いたわけです。しかし、ここにきてFIA(簡単にいうと世界のモータースポーツを統括する組織)は、WRCの開催地域を広げるべく、アフリカやアジアでも再びWRCを開こうと動き出しました。これに呼応して、各国の誘致活動も本格化。2002年までサファリラリーがWRCのカレンダーに入っていたケニアや、チリ、クロアチアなどがその代表で、しかもこれらの国々では、政府のバックアップもあって誘致争いが激化しています。そんななか、日本も2019年から4年間のWRC開催の契約を、WRCプロモーターと締結。FIAに対して2019年のカレンダー申請を行いました。

では現時点において、これらの地域のいずれかでWRCの開催が決定したかといえば、さにあらず。開催するにあたってはさまざまな関門が待ち受けています。最も重要なのがキャンディデートイベントという、簡単に言うと査察イベント。WRCの開催は、ここでの査察の結果を受けて、12月のワールド・モータースポーツ・カウンシル(WMSC)で正式に決定するという流れとなります。ほかにもさまざまな条件があるのですが、ともかくこの査察イベントの成否が、結果を大きく左右するのは事実。日本も、今年の11月に査察イベントを開催すると発表しましたが、詳細はまだ明らかにされていません。

マニュファクチャラー、ドライバーの双方でランキングトップを走るヒュンダイ。ティエリー・ヌービルのベルギー人初となるチャンピオン獲得と、ヒュンダイ初となるタイトル獲得に注目が集まっている。
マニュファクチャラー、ドライバーの双方でランキングトップを走るヒュンダイ。ティエリー・ヌービルのベルギー人初となるチャンピオン獲得と、ヒュンダイ初となるタイトル獲得に注目が集まっている。拡大
前半戦ではイマイチ成績を残せなかったシトロエンレーシングの「C3 WRC」。後半戦に入り、徐々に巻き返し始めた。
前半戦ではイマイチ成績を残せなかったシトロエンレーシングの「C3 WRC」。後半戦に入り、徐々に巻き返し始めた。拡大

ちゃんと盛り上げる準備はできているの?

ただ、仮に日本での開催が決まったとしても、欧州から遠く離れた極東の地に、果たしてどれだけのチームが海を越えて来てくれるか……。開催時期にもよるでしょうが、欧州イベントの合間にでも放り込まれたらどうなることやら。ワークスチームは飛行機で来るので問題ないとして、船便を利用するその他のチームは大変でしょう。約1カ月、早くても3週間はかかる船旅のスケジュールに、頭を悩ます様子が目に浮かびます。

もうひとつ気がかりなのが日本サイドの事情。FIAの車両規定から微妙にズレた日本の競技車両、例えば全日本ラリーに参戦している車両などは、そのままではWRCに参戦できません。改修して参戦するか、FIA規定で製作された車両を購入するか、新たにイチから作るか、あるいは、海外からメカニックごとクルマをレンタルするかになります。こうなると、日本側でもエントラントがどれだけ集まるか。結局、日本でのWRC開催は、内でも外でも、エントラントを集めるのに難があるのが現状なのです。開催の可否はもちろん気になりますが、仮に開催が決まったとして、ちゃんと盛り上げる準備はできてるの? ちょっと落ち着いて考えるべきかもしれません。

……とまあ、長々と語らせていただきましたが、もし仮に開催が決まれば久々の日本ラウンド。せっかくなので、お祭りを見に行くつもりでぜひ観戦してみてください。残念ながらもし開催されなかったら……奥さんをダマして海外に見に行きましょう!

(文と写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)

今年デビューしたばかりの「シトロエンC3 R5」。現時点におけるR5勢で最も新しいマシンで、WRCのほかにフランス国内戦へも参戦中。こうしたマシンが、日本ラウンドでもたくさん見られればいいのだが……。
今年デビューしたばかりの「シトロエンC3 R5」。現時点におけるR5勢で最も新しいマシンで、WRCのほかにフランス国内戦へも参戦中。こうしたマシンが、日本ラウンドでもたくさん見られればいいのだが……。拡大
こちらは2018年のラリー・ポルトガルの様子。日本と比べてラリーの存在が遥かに身近な欧州。写真の通り、お祭りみたいな雰囲気で家族や友人同士で気軽に観戦できるのが、ラリーの魅力なのだ。
こちらは2018年のラリー・ポルトガルの様子。日本と比べてラリーの存在が遥かに身近な欧州。写真の通り、お祭りみたいな雰囲気で家族や友人同士で気軽に観戦できるのが、ラリーの魅力なのだ。拡大
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