おめでとう25周年!
「スズキ・ワゴンR」の栄光の軌跡
2018.09.17
デイリーコラム
背の高い軽自動車のパイオニア
2018年8月30日、「スズキ・ワゴンR」に特別仕様車「25周年記念車」が設定された。その名が示すとおり、初代ワゴンRが発売されてから、25年が経過したことになる。
今は新車として売られるクルマの35%以上を軽自動車が占め、このうちの75%が、全高を1600mm以上に設定した背の高い車種だ。ワゴンRと同じスズキの「スペーシア」、そして「ホンダN-BOX」などは、国内販売の主力車種になる。特にN-BOXは、目下のところ国内販売の総合1位だ。
この今に通じる背の高い軽自動車の先駆けが、25年前、つまり1993年に発売された初代ワゴンRであった。
さらに過去にまでさかのぼると、1990年に「三菱ミニカトッポ」が発売されている。これも「トッポBJ」「トッポ」と車名を変えながら発展したが、車内の造りはベース車の「ミニカ」に近い。着座位置の高さも同程度で、背が高い割には低い位置に座ることになる。
したがって頭上に大きな空間のできる個性的な軽自動車ではあったが、座る位置が低いと、足が前方へ伸びてしまう。短い室内長でゆったり座ることはできなかった。
しかし、初代ワゴンRは、軽自動車の背を高くしたというより、ミニバンのサイズを小さくしたようなクルマであった。床と座面の間隔を大きく確保したから、座った時に乗員の足が前側へ伸びない。手前に引き寄せられ、短い室内長でも快適に座ることができた。
この室内設計はミニカトッポとは本質的に異なり、今の背の高い軽自動車やコンパクトカー、ミニバンと共通だ。
きっかけは1989年の消費税導入
ワゴンRの開発が最初にスタートしたのは1987年ごろであった。この時には、「スズキ・アルト」の背を高くしたようなデザインが検討された。
ただし、この時代の軽自動車は、アルトや「ダイハツ・ミラ」といった、軽商用車のボンネットバンが売れ筋だった。消費税導入前は、車両価格には卸値に課税される物品税が上乗せされ、この税率が軽乗用車は15.5%、軽商用車は5.5%であった。そこで売れ筋の軽自動車は商用車規格で開発され、価格を安く抑えていた。これを最初に行ったのが1979年に発売された初代アルトで、価格は47万円と安かった。
この手法を用いると商用車の要件が適用されるから、後席よりも荷室の面積を広く取らねばならない。荷室を広げれば後席は狭まり、当時のボンネットバンの居住性は、実質的にクーペと同等であった。仮に背の高い軽自動車を開発しても、ボンネットバンでは4人で快適に乗車するのは難しく、商品化には至っていない。
この流れが変わったのが1989年だ。消費税が導入されると物品税は廃止され、軽商用車の規格で開発する必要はなくなった。アルトやミラも乗用車に移行している。
そこで前述のミニカトッポが発売され、スズキも1991年に「アルトハッスル」を投入した。アルトの天井を高めたワゴンで、バンと乗用車を用意している。
ここであらためてワゴンRの企画が浮上した。乗用車ならば後席の足元空間を大幅に広げることができ、4人乗車の快適な軽自動車を造れるからだ。
それでも前例のないクルマだから、売れるかどうかは分からない。コスト低減が重視され、ハンドルやATレバーはアルトと「セルボ」、パワーウィンドウのスイッチとヘッドレストは「エスクード」、リアゲートは「エブリイ」という具合に、当時のスズキ車と共通化させた。部品の共用化率は70%に達する。開発と製造を安く行うことで、販売不振に陥っても痛手が少ないように配慮した。
「軽自動車の時代」を築き上げた
しかし、1993年に発売されたワゴンRを見る限り、70%の部品を使い回したとは思えない出来栄えだった。
それとともに、背の高いシンプルな外観が注目を集めた。従来の乗用車は、カテゴリーを問わず全幅をワイドに見せようとしていた。大きくて安定した印象になるからだ。
そこをワゴンRは、ヘッドランプの形状を含めて縦長に見せた。装飾はほとんど見当たらないが、発売時点のボディーは左右非対称だった。左側は前後に横開きのドアを配置して、サイドウィンドウは3分割。右側は運転席のドアのみで、サイドウィンドウは2分割だった。当時の商用車やミニバンには、右側のドアが運転席のみになる車種が多かったものだ。ボディー剛性を高められて子供が車道に飛び出すのを防げるメリットもあった。
ワゴンRでは、ドアが装着されない後席の右側には、缶ジュースなどが収まるポケットを装着している。
ボディーサイズは、当時の軽自動車だから全長が3295mm、全幅は1395mmに収まる。その一方で全高は1640~1695mmと高い。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は当時の3代目アルトと同じ2335mmだが、全高が200mm以上高いから居住性がまったく違う。着座位置を高く設定して足元空間が節約され、後席を含めて居住性に優れていた。
シートアレンジは実用的で、今日と同様、後席の背もたれを前側に倒すと、座面も連動して下がりフラットな荷室に変更できた。この機能は左右分割式だ。
助手席の座面を持ち上げると、大容量のシートアンダーボックスが装着されていた。ハンドルが付いているから車外へ持ち出せる。同様の収納設備が、今ではさまざまなスズキ車に採用され、大切なセリングポイントになっている。まさに今日の軽自動車の礎を作ったのがワゴンRであった。
1993年9月3日にワゴンRが発売された時の1カ月の販売目標は5000台だった。ちなみに発売前には3000台程度で……、という考えもあったようだが、5000台に上乗せされている。
いざ発売されるとジワジワと売れ行きを伸ばし、1994年には月販平均が1万0816台、1995年には1万4820台、1996年には1万7054台と徐々に増えていった。今日のN-BOXに近い販売台数であった。
時間の経過に従って売れ行きが伸びるのは、市場へ着実に浸透している証しだ。初代ワゴンRは日本の風景の一部のようになり、ライバル車の登場を促した。軽自動車は税金の安さがメリットでガマンして乗るクルマ、という既成概念を打ち砕き、今日にまで続く「軽自動車の時代」を築き上げたのだった。
(文=渡辺陽一郎/写真=スズキ/編集=藤沢 勝)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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