スズキ・ワゴンR ハイブリッドFZ(FF/CVT)
すべてにおいて新しい 2017.03.25 試乗記 軽ハイトワゴンの元祖「スズキ・ワゴンR」が6代目にモデルチェンジ。新世代のプラットフォームやマイルドハイブリッドシステムの採用などで話題を集める新型の実力を、上級グレード「ハイブリッドFZ」で試した。3つの顔で攻める
いよいよここまで来たか――。2016年2月に登場した新型ワゴンRを見てそう思った。いよいよここまで、というのは「ついに顔が3つに増えた」からだ。ワゴンRは標準車種と「スティングレー」の2種類の「顔」を持っていたが、新型では標準車種の中でも「FA」「ハイブリッドFX」「ハイブリッドFZ」と3つあるグレードの中で、最上級車種のFZグレードに、FAやFXとは異なるフロントデザインを与えたのだ。
このFZの「2段重ね」のフロントデザインがトヨタ自動車の上級ミニバン「ヴェルファイア」に似ているとか、スティングレーのフロントデザインが米GM社の「キャデラック・エスカレード」に似ているという意見もあるのだが、そのヴェルファイア自身、日産自動車の「エルグランド」との類似性が指摘されていたわけで、この手の議論はここでは深入りしないでおく。
マイルドハイブリッド機構を搭載
今回の試乗車は、そのハイブリッドFZなのだが、グレード名にハイブリッドと付くのは、今回のワゴンRが、小規模なハイブリッドシステムを備えるからだ。従来からワゴンRは、小型モーターとリチウムイオン電池で駆動力を補助する「S-エネチャージ」と呼ぶシステムの搭載車種を設定していた。今回の新型ワゴンRでは、S-エネチャージに対して、モーター、電池とも大幅に強化し、名称も「マイルドハイブリッド」に改めた。
従来のS-エネチャージではモーターの出力が1.6kWだったのが、今回は2.3kWと約1.4倍に、リチウムイオン電池の容量は36Whから120Whへと、3倍以上になった。JC08モード燃費は、従来モデルでS-エネチャージを搭載していた「FZ」(前輪駆動、CVT仕様)の33.0km/リッターから、ハイブリッド FZ(同)では33.4km/リッターに向上した。
もう一つ、新型ワゴンRの技術的な特徴として、安全性能の強化が挙げられる。新型ワゴンRに搭載する「デュアルセンサーブレーキサポート」は、新型「スイフト」から採用を始めたスズキの最新の安全技術で、赤外線レーザーとカメラの2つのセンサーを組み合わせ、先行車両だけでなく歩行者も検知する自動ブレーキや車線逸脱警報、誤発進防止、対向車両などが来るとハイビームを自動的にロービームに切り替えるハイビームアシストなどの機能を実現する。
「軽に乗っている」という感覚が薄い
室内は広くなっている。新世代プラットフォーム「Heartect(ハーテクト)」を新たに採用したことで、エンジンルームを短縮し、またホイールベースを従来よりも35mm長い2460mmに伸ばしたことで、前後の乗員の間隔を従来よりも、ホイールベースが伸びた分がそのまま35mm長くなっている。実際、後席に座っても足元スペースは広々としており、後席のスライド位置を一番前にしても、膝が前席に当たるようなことはない。ただし、助手席下に搭載するリチウムイオン電池を大型化したために、助手席下への足入れ性は従来よりも低下している。
実は、カタログ室内長は2450mmと、従来よりも285mmも長くなっているのだが、これにはからくりがある。室内長はメーター前端から、後席の背もたれの後端までを測ることになっているのだが、新型ワゴンRはセンターメーターを採用し、メーターの位置が従来よりも前方に移動しているので、実際の室内空間以上に、数字上の室内長が伸びているのだ。
センターメーターの採用はワゴンRとしては初めてで、数字のマジックはともかく、運転席に座ったときに開放感があるのは事実だ。センターメーターは、最大のライバルであるダイハツ工業の「ムーヴ」が先代まで採用していたのだが、現行車では通常の形式のメーターに変更した。これと逆行するようにワゴンRがセンターメーターを採用したのは興味深い。
なお新型ワゴンRの室内スペースは、長さ方向だけでなく、幅方向でも広がっている。室内幅は、ドアトリムをえぐった形状にすることで、従来よりも60mm広い1355mmとなった。前席では左右の乗員の間隔も30mm広げている。この効果で、運転席に座っても、軽自動車に乗っているという感覚は薄い。
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軽さと良好な乗り心地を両立
一方で、車両重量は新世代プラットフォームの採用によって、従来のワゴンRに対して、約20kg軽くなっている。2017年1月にフルモデルチェンジした新型スイフトが最大で120kg軽量化したのに比べると物足りない感じがするが、ワゴンRは先代で、新世代プラットフォームの採用を待たずに、さまざまな軽量化技術を先取りしており、その結果、今回の軽量化は小幅にとどまったのだという。実際、競合他社に比べると、新型ワゴンRは70kg程度軽い。
試乗してまず好感を持ったのが、市街地での良好な乗り心地だ。他社に比べて車体を大幅に軽量化しているので、車体剛性が気になったのだが、結論からいえば十分高い。もちろん高級欧州車のようなガッチリとした剛性は望むべくもないが、サスペンションから伝わる衝撃や振動をすぐに収束させるので、余計なストレスを感じない。そして、その足まわりと車体剛性とのバランスが取れている。他社の製品では、ボディー剛性に対して足まわりが硬すぎて、車体がブルブルと振動してしまったりする場合があるのだが、ワゴンRにかぎらず、スズキの最近の車種はどれもそういうことがない。
遠乗り派はターボもお試しを
一方の走行性能では、モーターアシストの効果で、それほどアクセルを強く踏み込まなくても市街地での交通の流れに乗るのは容易だ。交通の流れに合わせて走っている限りでは、それほどアクセルを踏み込む場面もなく静粛性も高い。ただ、高速道路に乗り入れると、不満点も出てくる。絶対的なパワーが不足しているので、本線へ合流するために加速する場面では、かなりエンジン音がやかましくなるし、巡航時も3000rpmくらいはエンジンが回るから、うるさいというほどではないが、やはりコンパクトカークラスと比べると騒音レベルには差がある。加えて、街中では快適だったサスペンションも、高速道路では継ぎ目を越えたときのショックをやや大きめに伝えるようになってくる。
別の機会に、上級車種のスティングレーに乗る機会があったのだが、FX、FZに比べてバネやダンパーのセッティングが硬めで、乗り心地も、より引き締まっている。といって街乗りでも硬すぎるというほどではなく、結果として、より落ち着いた乗り心地に仕上がっていた。このサスペンションセッティングだと、高速道路に乗り入れても、段差を通過した時の衝撃がFZに比べて小さかった。加えてスティングレーだけに用意されているターボエンジンを組み合わせれば、高速走行時もエンジン回転数は2000rpm程度に抑えられる。スティングレーは吸音材もFXやFZよりおごっていることも相まって、静粛性は高い。高速道路を走行する機会が多いユーザーはスティングレーも一度試乗してみることをお勧めする。
(文=鶴原吉郎/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
スズキ・ワゴンR ハイブリッドFZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1650mm
ホイールベース:2460mm
車重:790kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:52ps(38kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:6.1kgm(60Nm)/4000rpm
モーター最高出力:3.1ps(2.3kW)/1000rpm
モーター最大トルク:5.1kgm(50Nm)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:33.4km/リッター(JC08モード)
価格:135万円/テスト車=159万1758円
オプション装備:セーフティーパッケージ<デュアルセンサーブレーキサポート+誤発進抑制機能+車線逸脱警報機能+ふらつき警報機能+先行車発進お知らせ機能+ハイビームアシスト機能+ヘッドアップディスプレイ>(5万9400円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション<メモリーナビゲーション+TV用ガラスアンテナ+ハンズフリーマイク+外部端子+全方位モニター+フロント2ツイーター&リア2スピーカー>(14万0400円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万0142円)/ETC車載器(2万1816円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2647km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:202.1km
使用燃料:10.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.9km/リッター(満タン法)/19.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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