スズキ・ワゴンRカスタムZハイブリッドZX(FF/CVT)
これぞ軽の本領 2022.12.14 試乗記 軽ハイトワゴンの元祖「スズキ・ワゴンR」に新グレード「カスタムZ」が追加された。「え、ワゴンRにカスタムってなかったの?」という印象だが、ともあれ現行型デビューから5年目で加わった新顔である。自然吸気エンジン搭載の「ハイブリッドZX」を試す。市場の主役はスライドドア車
現在、販売の主流となる軽乗用車の車型は大きく3つに分けられる。1つは「アルト」や「ミラ イース」に代表されるハッチバックなのになぜか「セダン」。1つは「N-BOX」や「タント」に代表される「スーパーハイトワゴン」。そしてもう1つがワゴンRや「ムーヴ」に代表される「ハイトワゴン」だ。
スーパーハイトワゴンとハイトワゴンのカテゴライズや呼称は種々さまざまで、トールワゴンという言葉もよく使われるが、双方の最大の違いは後席ドアがスライド式か否かということだ。そして今、市場の主役はスライドドアのスーパーハイトワゴンということになる。
取引が活発になる9月の販売台数ではN-BOXとタント、それに「スペーシア」でトップ3を独占。次いでワゴンRとムーヴが追従しているが、ここにはスライドドア付きハイトワゴンともいえる「ワゴンRスマイル」と「ムーヴ キャンバス」の票が乗っかっていることは想像に難くない。意地悪な言い方をすれば、鮮度抜群なそれらの援護射撃なくして、ヒンジドアのハイトワゴンは立ち行かないところにきているともいえる。
広さ比べは決着つかず
そんななか、ワゴンRは2022年の夏にラインナップの変更を受けている。標準モデルの最上位グレード「FZ」をこのカスタムZとして半ば独立化させつつ、他グレードは自然吸気のみ、そして「スティングレー」はターボのみとして、3つの顔を持つグレード構成となった。ハイトワゴンのパイオニアとしての意地だろうか、6代目の登場から5年以上を経てのテコ入れである。
試乗したモデルはそのカスタムZの自然吸気モデルとなるハイブリッドZX。切れ長な目玉と一直線につながるメッキ調グリルをみていると、なんとなく思い出すのは先代、先々代のスティングレーのそれだ。現行の「エスカレード」調はウケが悪かったということだろうか。あるいは標準車よりはちょっときらびやかなところで普通車からのダウンサイザー層でも狙っているのだろうか。ちなみにターボモデルの「ZT」とZXとの価格差は約16万円だが、ZXをZTと同等装備にするには、15インチタイヤや本革巻きステアリングなどを組み合わせた「アップグレードバッケージ」を選ばなければならず、実質差は9万円程度となる。
ハイトワゴンのパッケージというのはすでに熟しに熟した感もあって、単純に広さの面ではライバルとの差を見いだしにくい。ワゴンRに限らずだが、後ろに座っての広々感は普通のセダンあたりから比べてみるとちょっと衝撃的だ。で、さらに高さ方向にも余裕を与えて室内容積を最大化したのがスーパーハイトワゴンということになる。
ハイトワゴンならではの美点
普通に乗るぶんにはこんなに天井高あっても仕方ないだろうと思うわけだが、こちらは後席を倒して27インチのシティーサイクルがまるっと積めるというのが勘どころになっていて、そういう積み下ろしに際してはスライドドアのほうが都合がいい。あるいは子供を乗せるにもスライドドアは狭所の駐車時に安心……と、いってみれば貨客兼用のフルゴネット的なコンセプトが日本の軽乗用の客筋の日常に合わせて変態化したともいえるだろう。
それが現在のスタンダードという点に異論は挟めないが、果たしてみんながみんな、何がなんでもそれ必要? という疑問をどうしても抱いてしまう。というのも、いくら上手につくられていてもスーパーハイトワゴンはどうしても動的質感に見劣りがあるからだ。
今回の取材車であるワゴンRのカスタムZハイブリッドZXの車重は790kg。スタビライザーのない一番ベーシックな「FX」なら750kgとなる。それがZXと同じエンジンを積む同等装備のワゴンRスマイルでは860kg、そしてスペーシアは870kgと、ひと回りは重い。大開口ボディーゆえキャビンのみならず床まわりの補強も欠かせないし、ガラスや鋼板などの重量物が上側に増えるとあらば、足まわりもしっかり固めないと操安性にも影響が及ぶ。
重くなる要素が満載の軽自動車という齟齬(そご)は、もちろん燃費にも及んでいる。カタログ上の額面差はそこまでではないにしても、実燃費的には1割は違ってくるとみていいだろう。CO2的見地から重箱の隅をつつけば、あんまり都合のいい話ではない。と、そんなこんなに鑑みるにつけ、乗っても載せても実用的な空間がありながら、運動性能的にも燃費的にも無理がないハイトワゴンの利はもっと見直されてもいいのではないかと思う。
モーターアシストが効いている
実際、試乗車のZXは自然吸気でありながらあらかたの場面で必要十分なパフォーマンスを示してくれた。決定的にパワー不足を感じるのは長い登坂路や高速道路で追い越し車線を使おうかというときくらいのもので、タウンライドで普通に乗るぶんにはほとんどストレスがたまらない。ひと昔前なら790kgの車重でもけっこう苦しい印象だったが、CVTの進化に加えてモーターアシストのささやかなひと押しも効いているのだろう。
乗り心地やハンドリングをうんぬん言うようなものでもないかと思いつつも、カスタムZという名の劇画感からすれば、それは随分と丸く穏やかで、このグレードが走りの質感をウリにする位置づけであることが伝わってくる。そして間違いなく、スーパーハイトワゴンよりはロールやバウンドの入りや収まりが自然で違和感がない。
ワゴンRはスマイルのおかげで、ムーヴはキャンバスのおかげで、なんとか台数的に体裁が保たれている。そうこうしているとホンダも「N-WGN」名義のスライドドア車でも企画しそうな勢力へと成長するのかもしれない。でも、軽の本領はどこにあるかと問われれば、指すべきは迷わずハイトワゴンの側ではないだろうか。苦悶(くもん)するワゴンRながら、どうか再び日の目を見るときが来てほしいと思う。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
スズキ・ワゴンRカスタムZハイブリッドZX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1650mm
ホイールベース:2460mm
車重:790kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:49PS(36kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:2.6PS(1.9kW)/1500rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:23.2km/リッター(WLTCモード)
価格:147万4000円/テスト車=176万0165円
オプション装備:全方位モニター付きディスプレイオーディオ&スズキコネクト対応通信機(14万0800円)/アップグレードパッケージ(6万6000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(2万0515円)/ETC車載器(2万1120円)/ドライブレコーダー(3万7730円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:354km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:418.7km
使用燃料:21.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.1km/リッター(満タン法)/18.4km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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