トヨタとソフトバンクが戦略的提携
時価総額トップ2が手を組んだワケ
2018.10.15
デイリーコラム
トヨタ自動車とソフトバンクが、モビリティーサービスの分野で共同記者会見を開く――衝撃の第一報が駆け巡ったのは2018年10月4日朝のことだった。その日の午後、東京都内のホテルで、トヨタ自動車の豊田章男社長と友山茂樹副社長、ソフトバンクの孫 正義代表と宮川潤一副社長が勢ぞろいして共同記者会見を開催。前半は新会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」(以下MONET)の設立について発表し、後半は豊田社長と孫代表のトークセッションという力の入った会見だった。
日本経済をけん引する大企業が提携
トヨタとソフトバンクが戦略的提携と聞いて、「トヨタとKDDIの間違いでは?」と思った人は少なくないだろう。トヨタは電気通信事業者KDDIの大株主で、ディーラーではauのスマホやケータイを扱っている。「組むならKDDI」と考えたくもなるのだが、今回、トヨタが選んだのはソフトバンクだった。
経済誌的に言えば、時価総額1位のトヨタと2位グループのソフトバンクという、日本経済を代表する大企業同士の提携である。
その両社、最初の接点は20年も前にさかのぼる。当時、ベンチャーの旗手と呼ばれていた若き孫代表がインターネット関連事業でトヨタに協業を申し入れるも、課長だった豊田社長と同じく係長だった友山副社長が出向いて丁重にお断りしていたのだという。これが火種なのか、両社は相性が悪いとのうわさがまことしやかに流れていた。今回の提携話に驚きの声が多く上がったのは、以前から不仲説が出ていた影響もあったのかもしれない。
しかし、時代は変わった。今回の提携はトヨタからソフトバンクにラブコールを送ったことが始まりだ。共同出資で立ち上げる新会社MONETの出資比率はわずかながらソフトバンクが多く、社長にはソフトバンクの宮川副社長が就任する。
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自動運転を利用したモビリティーサービス
この新会社が具体的に何をするのか、会見では十分に語られなかったが、トヨタが有するモビリティー分野の強みと、ソフトバンクが持つAIやIoT分野の強みを持ち寄って、需給最適化システムを作り、2018年度内にオンデマンドモビリティーサービスを提供する計画のようだ。
さらにその先、2020年代半ばには、トヨタの「e-Palette(イーパレット)」を使ったAutono-MaaS(オートノマーズ)事業を立ち上げる構想がある。Autono-MaaSとは自動運転を意味するAutonomousと、昨今はやりのMaaS(Mobility as a Service)を組み合わせた造語で、トヨタによる自動運転車を利用したモビリティーサービスを指す。
使用具体例として、e-Palette車内に商品棚を設置した移動コンビニや、車内のモニター等を使って診察前診断を受けられる病院シャトルなどが示された。2020年代の半ばというから5年以上は先の話だが、e-Paletteのフレキシブルなコンセプトと、生活に密着したサービスを組み合わせた事業になりそうだ。
自動車製造業からの変革を目指すトヨタ
このところ、トヨタはものづくり以外の発信が目につく。特に印象的だったのは2018年1月開催のCESのプレスカンファレンスで、豊田社長が「モビリティー・カンパニーへの変革」を打ち出したことだ。自動車業界が100年に一度の大変革期にあるいま、トヨタは自動車製造業から、多様なモビリティーに対応する企業へと変わろうとしている。
実は、その流れは何年も前から始まっていた。2016年10月末、トヨタは「モビリティーサービスプラットフォーム(MSPF)」を発表している。これはライドシェアや保険などさまざまなサービスを提供する事業者と、車両や車両メーカーとをつなぐことで、新しいサービスを創出しようというもの。具体例のひとつが個人間のカーシェアリングでの活用を想定した「スマートキーボックス(SKB)」だ。車両の所有者は事前に専用デバイスを車内に設置し、利用者はスマホのアプリを使うと、ドア開閉やエンジン始動を行える。アメリカではすでにベンチャー企業を交えた実証が進んでいる。
こういったSKBのようなサービスを実現するには、車両側のデータをオープン化しなければならない。この点がMSPFでは画期的だった。APIというデータアクセスのための情報を公開することで、トヨタ以外の企業でもデータを扱えるようにしたのだ。自動車メーカーは以前からデータのオープン化に保守的とされてきたが、APIのオープン化により、多様な企業との連携と新規サービス開発の可能性が広がった。
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投資家として存在感を増すソフトバンク
トヨタは自社のサービス体系を変革していくとともに、モビリティーサービス分野でさまざまな企業との提携や協業の可能性を模索してきた。特に注目されたのはライドシェアサービスの米国Uberへの出資だろう。そのほかにも、東南アジアの配車サービス提供事業者Grabへの出資や、中国のライドシェア最大手Didi(滴滴出行)、カーシェアサービスを展開するパーク24との連携も話題になった。
もちろんトヨタの本流は今現在も、ものづくりにある。モビリティー・カンパニーを宣言しようとも、豊田社長の「愛あるクルマ」にこだわる姿勢は健在だ。
しかし、市場の関心はクルマの所有よりも、クルマで何をするか、何ができるかに変化しつつある。トヨタがモビリティー関連サービスを提供する企業とのつながりを急激に広げているのは、そんな市場の変化に対する危機感があるからにほかならない。
一方のソフトバンクは、以前からIoTやAIの進展を見越して、国内外を問わず、有望な企業に投資してきた。ソフトバンクは産業分類上、通信事業者だが、ソフトバンクグループ全体はもはや目利きのグローバルファンドと見る方が正しい。
モビリティー分野ではシェアリングサービス、自動運転のシステムやセンサー、ロジスティクス、3次元マップと、幅広い対象に出資しており、まさに全方位の“モビリティーAI群戦略”を展開中だ。具体的な出資先は、Uber、DiDi、Grab、画像処理のNVIDIA、個人間カーシェアリングのGetaroundなど。そう、トヨタが提携先として選んだ企業がほぼ含まれる。
トヨタにとっては「これぞ!」と思った企業にアプローチすると、そこに必ずソフトバンクが控えていた、という状況だったという。つまり、トヨタが思い描くモビリティー・カンパニーを実現するために、ソフトバンクとの協業は必然だったのだ。
目指すはモビリティー界のGoogle?
トヨタとソフトバンクが立ち上げる新会社MONETはオンデマンドモビリティーサービスなどを提供するわけだが、会社の位置づけはいちサービス事業者ではなく、車両メーカーとサービス事業者の間をつなぐプラットフォーマーである。
その立ち位置はMSPFと似ているが、友山副社長いわく、MONETは車両メーカーとサービス事業者の間をつなぐ「第3の事業体」である。MONETのプラットフォームにはトヨタ以外の車両メーカーも参画できるし、ありとあらゆるサービス事業者に参入可能性がある。むしろ、多様なプレイヤーが加わってこそ、プラットフォームとしての価値が高まる。
一般にプラットフォーマーとしてはGoogleやApple、Facebookなどが有名だが、トヨタがモビリティー分野でプラットフォーマーになりたいのだとすれば、その成否は、今後どれほどのプレイヤーを巻き込んでいけるかにかかっているといえるだろう。
(文=林 愛子/写真=トヨタ自動車/編集=櫻井健一)
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林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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