第107回:修復歴アリに勝負を賭けろ
2018.10.16 カーマニア人間国宝への道激安BMWの魅力は絶大!
国民車議論再びで盛り上がっている当連載だが、閑話休題。価格的には「N-BOX」(新車)のガチライバルである、「BMW 320d」の中古車の話題を取り上げさせてほしい。
先日、旧知のクリさんから連絡があった。クリさんは10年前、コーナーストーンズを通じて、私が乗っていた黒い「フェラーリ360モデナ」を買ってくれた方。スーパーカー世代のカーマニアである。
クリさん「現在、モデナと『アルファ159』の2台体制ですが、アルファ159は中古で150万で買って4年、距離は10万kmを優に超え、最近一気にボロくなってきました。そこで、次期通勤&生活車として、先生と同じ「BMW 3シリーズ」を考えています! というか私が3シリーズを買おうか考えている間に、先生が先に買われた次第ですが。で、最近見つけたこの物件はいかがでしょうか?」
それは、関東圏で頂点(底辺)に君臨する激安店の、「BMW 320dラグジュアリー」(2015年式/走行2.7万km/修復歴アリ)だった。
クリさん「2015年式の2.7万kmで179万というのは、すごく安くないですか!? 修復歴アリとのことですが、このあたりどう判断すべきか……」
それは猛烈に難しい問題である。
クリさん「お店に見積書を依頼したところ、法定費用と諸経費で合計26万円ぐらいかかるようです。いわゆる激安価格で釣って諸経費で取るパターンですね。総額にすると208万ぐらいになるらしいのですが、それでもお得かなぁって思いまして。アドバイスをお願いします! ちなみに上記の店は、ネットの評判は良くないです(笑)」
さもありなん。しかし激安の魅力は絶大である。
激安店の修復歴アリ車両はOKか!?
わがエリート特急は、「320dスポーツ」の3年落ち走行2.4万km(修復歴ナシ)で、車両本体価格223万円、諸経費32万円(車検取得費用含む)、支払総額255万円だったので、それより50万円近く安い。さすがスーパー激安店の修復歴アリ車両だ。
私は熟慮の末、このように返答した。
清水「これは勝負師の選択ですね! 『ほにゃら』(仮名)は関東圏ではたぶん最安のお店だと思います。私も検討しましたが、あまりにもすべてが安っぽかったので、そこだけはやめておこうと思ったお店です! でも、3年落ちのBMWなら、基本的にそんなにヤバいクルマもないはずなので、お店は関係ないともいえます。それは私が実際買ってみて、しみじみ実感しました。
問題は修復歴アリの部分ですよね。どこがどうぶっ壊れて、どう直されたのか、ほぼ闇の中! もちろん、だからこそあえて勝負するという男の選択はスバラシイと思います!
ちなみに私が買ったのは、『ふにゃら』(仮名)という、『ほにゃら』の次くらいに安いお店です。似たような業態だと思います。ただ、整備やコーティングはとってもちゃんとしていたので、決して悪い店じゃなかったです」
そのように答えつつ、『ほにゃら』の在庫車を検索して愕然(がくぜん)とした。そこには、修復歴アリか過走行車しかなかった。うーむ、さすが激安の帝王。
クリさん「修復はルーフ部分となっていますが、横転でもしたのでしょうか(笑)? 一度見に行って、お店も含めた全体の雰囲気で勝負するかどうか決めたいと思います!」
激安の帝王VSカーマニア
数日後、クリさんから続報が届いた。
クリさん「実車を見て、触れてきました。キレイで、ルーフパネル交換の修復歴など、見る限り全然わかりませんでした。当たり前でしょうけど。スタッフの方もエグザイル系ではなく、普通のあか抜けない感じのお兄さんで、気さくにいろいろ教えてくださいました」
お店での会話は、こんな感じだったという。
クリさん(以下 ク):このクルマ、すごくお買い得ですよね?
スタッフ(以下 ス):修復歴アリですから(ニヤニヤ)。
ク:屋根といっても、横転したわけじゃないですよね?
ス:ドアとかピラーとか換えてるわけじゃないので、たぶんそんなには(ニヤニヤ)。
ク:3年落ち、3万km以内なので、機関は絶好調ですかね?
ス:そうですね……。屋根を換えてる以外はね(ニヤニヤ)。
普通の人間なら、このあたりで「やっぱヤバイかな」と回れ右するだろう。しかしさすがは中古フェラーリ購入という、人生の鉄火場(てっかば)をくぐりぬけたカーマニア。スタッフのはぐらかし&ニヤニヤ攻撃にもめげず、クリさんは前向きだった。
クリさん「タイヤはワックスでピカピカだったので、バリ山かと期待したら、スリップサインが出てました。交換する場合、ランフラットと普通のラジアル、どっちがいいですかね?」
2.7万kmぽっちでスリップサインが出るはずはない。さすが激安の帝王。過走行車のタイヤに付け替えたのだろうか。それでもクリさんは、買う気マンマンの様子であった。
(つづく)
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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