オープントップもいつか出る?
最新の「NSX」について開発者に聞く
2018.11.02
デイリーコラム
誰もが気持ちいいと思えるように
「時代とともに進化するのが『NSX』の宿命。今回の“エボリューショナルNSX”では、ドライバーとクルマとの一体感を向上させつつ、限界領域でのコントロール性を高め、それらを表現できるようデザインも磨き上げました」
2019年5月に発売されるマイナーチェンジ版ホンダNSXの説明会で、開発責任者の水上 聡さんは、最新型の特徴について熱く語った。
「インテグレーテッドダイナミクスシステムの各走行モードの制御最適化」に「アクティブダンパーシステムおよびVSA、ESPの制御や、スポーツハイブリッドSH-AWDの駆動配分制御の熟成」――手元の資料にはリファインのポイントとして、いかにもサーキットやワインディングロードで強みを発揮しそうな専門用語が並ぶ。
とはいえ、実際のNSXユーザーはさまざま。今回の改良に際しては、スポーツ走行のレベルアップだけを考えたわけではない。「マイナーチェンジ前からの変化は、近所の街乗り程度でも感じられるはずです」と、水上さんも強調する。
「走りだしから違いがわかります。今回は『形はいままでと変わらないが中身は違う』という進化を提案したかったのです」
その進化を説明するにあたっては「最適化」という抽象的な言葉が多用されるのだが、つまりは、駆動力の伝わり方などドライバーのフィーリングに直接関わるところをトライ&エラーで煮詰め、運転する誰もが「気持ちいい」と思えるように仕立て直したということだ。
そうした改良は、ユーザーの要求や市場からのフィードバックによるものではなく、純粋にホンダからの提案なのだという。NSXのようなスーパースポーツでは、お客さんの「もっとこうしてほしい」という評判だけを元にあれこれ変更すると、まとまりのない“ヘンな方向”に行ってしまう恐れがあるそうだ。
独自のポリシーで開発していい
では実際にいま、新型NSXのユーザーがどれくらいいるかというと、世界全体で「1900人以上」。この2年間でおよそ2000台が販売されてきた。このうち生産地でもあるアメリカ国内の需要が約1000台。残りを欧州と日本が分けあっているというから、おおざっぱに米:欧:日で50:25:25くらいの比率になる。
具体的に公表された国内販売台数は「約400台」。年間200台、月でならすと20台以下だ。当初の目標販売台数が「年間100台」だっただけに「セールスは好調」とホンダは胸を張るが、絶対的には少ない。鳴り物入りで登場しただけに、クルマ好き・スポーツカーファンの目にはちょっと寂しく映らないか。
その点を水上さんに振ってみると、「まぁ“苦戦”はしていませんね」と苦笑い。
「希少性を求めているお客さんからすれば、あるいは『あまり売れないでほしい』と思われるかもしれません。街にいっぱいあふれるよりは、ばったり出会ったときの感動があったほうが……」
もちろん売れたほうがいいには決まっているものの、絶対的な販売数とは関係なくNSXに対する世の関心は高いので、懸念はないという。
販売上のライバルについては、「ハイブリッドのスーパースポーツということで比べるならば『ポルシェ918スパイダー』や『ラ フェラーリ』など、はるかに高額なモデルになってしまう」し、「2000万~3000万円という価格帯のスポーツカーは各ブランドのヘリテージを元に作られているわけで、NSXもまた、独自のポリシーで開発すればいいと考えています」とのこと。
NSX独自ということでは、初代に見られたオープントップの「デタッチャブルトップ」仕様がいつ出るのか、心待ちにしているファンもいるようですが……?
「新型NSXはスペースフレームなので、屋根を取っちゃうとつながらないんですよ(苦笑)。いざホンダがやるとなったら何が何でも実現するでしょうけれど、根本的な問題がある。それに、これだけ優れた“素材”なのですから、まだこの(クーペの)方向でいろいろやってみたいんです」
その目指すところは「究極の、いつでも意のままになるクルマの開発」。「操るよろこびとは何か」を自問自答しながらの旅に終わりはないような気もするが……そこは“ニュースポーツカーX”を車名とするNSX。これからどう進化するのか、楽しみに見ていこう。
(文と写真=関 顕也)
![]() |

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。
-
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性NEW 2025.9.5 あのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。
-
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代 2025.9.4 24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。
-
マツダの将来を担う次世代バイオディーゼル燃料 需給拡大に向けた最新の取り組みを知る 2025.9.3 ディーゼルエンジンを主力とするマツダにとって、カーボンニュートラルを実現した次世代バイオディーゼル燃料は生命線ともいえる存在だ。関係各社を巻き込んで需給拡大を図るマツダの取り組みと、次世代燃料の最新事情を紹介する。
-
意外とクルマは苦手かも!? 自動車メディアの領域で、今のAIにできること、できないこと 2025.9.1 AIは今や、文章のみならず画像や動画もすぐに生成できるレベルへと発展している。では、それらを扱うメディア、なかでもわれわれ自動車メディアはどう活用できるのか? このテクノロジーの現在地について考える。
-
世界の議論を日本が主導! 進むハンズオフ運転支援機能の普及と国際基準制定の裏側 2025.8.29 世界的に開発と普及が進むハンズオフ(手放し運転)運転支援機能の、国際基準が改定された。先進運転支援や自動運転の技術の基準は、どのように決められ、またそこで日本はどんな役割を果たしているのか? 新技術の普及に必須の“ルールづくり”を解説する。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。