アルファ・ロメオ・ステルヴィオ クアドリフォリオ(4WD/8AT)
背の高いフェラーリ 2019.01.31 試乗記 フェラーリゆかりのハイパワーエンジンを搭載するイタリアンSUV「アルファ・ロメオ・ステルヴィオ クアドリフォリオ」に試乗。その走りは、名だたるスポーツカーブランドの高性能SUVでも得がたい、アルファならではの快楽に満ちていた。スペックだけでもこころが踊る
アルファ・ロメオ・ステルヴィオのハイエンドモデル、クアドリフォリオの受注が2018年11月から始まっている。日本仕様のステルヴィオは2リッターターボのみだったから、これでグッと華やかさを増した。「ジュリア クアドリフォリオ」のSUV版である。もうメチャクチャ、こころ躍るではないか。
エンジンは、あの3855㏄のフェラーリV8から2気筒削(そ)いだだけ、という2891㏄の90度V6ツインターボである。1気筒あたり481.9㏄の排気量、86.6mm×82mmのボア×ストロークもフェラーリV8とまったく同じだ。最高出力は510ps /6500rpm、最大トルクは600Nm/2500rpmもある。リッター当たりの馬力はフェラーリV8の156psに対してアルファV6は176psと、アルファの方がハイチューンである。ああ、もうメチャクチャ、こころ躍るではないか。
ということで、筆者はこころ躍らせながら、東京・田町にあるFCAジャパンへと向かった。で、タワー式駐車場から、ステルヴィオ クアドリフォリオが後ろ向きに出てきたときには、さほど感激しなかった。エンジンフードの冷却用ダクトとリアのディフューザーにそそるものがあったとはいえ、ごく一般的なSUVのカタチをしていたからだ。後ろ姿はちょっと現行FFの「ジュリエッタ」にも、「マセラティ・レヴァンテ」にも似ている、なんてことを思ったりはしたけれど。
ドアを開けると、いかにもアルファ・ロメオっぽい内装が現れた。運転席はフツウのセダンよりちょっと高い程度で、本格オフロード4WD、例えば、メルセデス・ベンツの「Gクラス」みたいによじ登る感覚ではない。着座して、ふとルームミラーに目をやると、後方視界がかなり狭い。「ポルシェ・マカン」やレヴァンテとその点では同じだ。リアガラスがクーペのように寝ているからである。
でもって、ステアリングホイールの6時と9時のスポークの間に設けられた小さめの丸くて赤いスタート&ストップボタンを押す。マラネロゆかりのエンジンが目を覚ます。
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決してじゃじゃ馬じゃない
8段ATのレバーをDに入れ、一般道へと走りだす。乗り心地は硬い。とりわけ低速ではそう感じる。路面の荒れ具合によっては体が揺すられる。ああ、ここは道が悪いんだ、とすぐわかる。SUVなのに、足まわりとお尻の距離を感じない。視点はやや高いのに、まるでフツウのセダンを運転しているように感じる。
タイヤはピレリPゼロの20インチ。前245/45、後ろ285/40とSUVで4WDなのに前後異サイズで、510psもあるのにZR規格ではないところが不思議だけれど、スーパーカー顔負けのサイズである。いや、510psもあるのだから、りっぱなスーパーカーなんである。
4WDシステムは電子制御で前輪に最大50%のトルクを送る。ドライブ感覚は後輪駆動っぽい。例えば、前輪駆動由来のハイパワーフルタイム4WDの場合、フルスロットルにするとボディー全体が浮き上がるように感じることがあるけれど、ステルヴィオは違う。後輪駆動車のように、しっとりと加速する。
車重1910kgと、ジュリア クアドリフォリオよりちょうど200kg重いこともあって、ジュリアよりも全体に落ち着きが感じられるところが好ましい。ジュリアときたら、切れ味鋭いカミソリのような、超軽くてシャープなステアリングフィールとハンドリングの持ち主で、フェラーリの4ドアセダンと呼ぶにふさわしい。対してステルヴィオ クアドリフォリオは、フェラーリのSUVなのだ。キレてないですよ。というわけではないけれど、重さがある種の重厚感をつくり出している。ジュリア クアドリフォリオが切れすぎのカミソリを操る快楽だとしたら、ステルヴィオ版のこれは、ちょうどよいあんばいで切れるカミソリを操る快楽なんである。
いくぶん地に足がついている。後輪駆動のジュリアに対して、ステルヴィオは4WDであることがドライバーになにがしかの安定感と安心感をもたらしているに違いない。
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味付けは気分に合わせて
ドライブモードには、d(ダイナミック)、n(ナチュラル)、a(アドバンストエフィシェンシー)に加えて、RACEモードの設定がある。ダンパーだけ、独立して変えることもできる。ダンパーの図が描かれたボタンを押すと、dではソフトに、RACEではミドに設定と表示される。RACEでもソフトになればいいのに、と思ったけれど、いや、これはこれでいいのだ、とのちに思い直した。
乗り心地は、nモードのまま高速道路に入ると気にならなくなる。dにすると、乗り心地も硬くなるからダンパーだけソフトに切り替える。すると、ボディーが路面に対して適度にゆったり、ゆっくり、滑らかに揺れ、快適に思えてくる。RACEにすると、前述したようにガツンといっそう硬くなるわけだけれど、RACEモードは神経が高ぶっているときか、高ぶりたいときだから、乗り心地が少々硬かろうが、そんなの関係ない。むしろレーシィなムードを醸し出す演出としてウェルカムなんである。
速さについてはnで十分。そりゃそうである。510psもある。dにすると8段オートマチックのプログラムが自動的に1段ギアを下げ、エンジンの音量が上がってレスポンスが明瞭によくなる。乾いた、いかにもアルファ・ロメオらしい快音だ。それがRACEにすると、排気管のフラップが開いて、爆音モードに変わり、アクセル開度に対してかみつくような反応を見せる。ステキなアルミニウム製パドルでダウンシフトすると、2.9リッターV6ツインターボがごう音を発していななく。100km/h巡航はnモードだと1750rpm程度だから、2度、3度とダウンシフトする余裕がある。ヴァフォンッ! ヴァフォンッ!!
ひなにもまれなファミリーカー
フツウに一般道や高速道路を走っていてもSUV感は薄いわけだけれど、山道でのハンドリングときたら、これまたSUVとは信じられない。とかいうレベルを超えて一台の自動車としてすばらしい。前後重量配分がジュリアと同じく50:50だとか、ステアリングのギア比が12:1と極めてクイックだとかいうことだけではなくて、電子制御4WDシステムが前後トルク配分を、ふたつの電子制御クラッチが左右後輪へのトルク配分を最適化しているなど、電子制御技術が陰で行っているもろもろが大いに貢献していると思われる。
最低地上高のデータがないため、不本意ながら全高で比較すると、ステルヴィオ クアドリフォリオは全高1680mm、ジュリアは同1435mmで、245mmも高いのに、よくもまあ、こんなにスポーツカーライクなハンドリングを実現したものである。
重量増に合わせて、ファイナルのギア比がジュリアの3.090から3.730に低められている。その分、加速力は増している。0-100km/h加速と最高速の公表値は、ジュリア クアドリフォリオがそれぞれ3.9秒と307km/h、ステルヴィオは3.8秒と283km/hである。SUVという性格から、最高速度より加速を重視しているわけだ。もっとも、それはあくまで両車を比較すると、という話であって、絶対的にはどちらもモーレツに速い。
「SUVのスポーツカー」という言葉はずいぶん前からある。でも、SUVで、これほど「楽しいなぁ」と思わせたクルマがあっただろうか。マセラティ・レヴァンテは? よいけれど、少々デカすぎる。ポルシェのマカンは? ひとことで申し上げてポルシェである。もちろん素晴らしいのである、ポルシェだから。だけど、ステルヴィオ クアドリフォリオはアルファ・ロメオなんである。これぞSUVのスポーツカー、フェラーリとの血脈を感じさせる、これぞイタリアのスーパー・スポーツ・ファミリーカーなんである。
ファミリーカーとしての欠点がないわけではない。例えば、ボディー剛性重視のためだろう、リアドアの開口部が狭い上に、リアドアの開く角度が十分とはいえず、おまけにデザイン上、ドアの内側の出っ張りが大きい。そのため、私は降りるときに膝をぶつけちゃったのである。荷室も居住空間も、これより広い空間を持つライバル車はほかにもあるだろう。
けれど、それのどこがいけないのか。ステルヴィオ クアドリフォリオはSUVのイタリアンスポーツカーなんである。フェラーリのSUVなんである。お金があったら、欲しいです。
(文=今尾直樹/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ステルヴィオ クアドリフォリオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4700×1955×1680mm
ホイールベース:2820mm
車重:1910kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6500rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/2500rpm
タイヤ:(前)255/45R20 101Y/(後)285/40R20 104Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.0リッター/100km(約11.1km/リッター、欧州複合モード)
価格:1167万円/テスト車=1205万5344円
オプション装備:フロアマット“Alfa Roneo”ブラックRHD(4万3200円)/ETC車載器(1万8144円)/有償ボディーカラー3層コート<コンペティツィオーネ レッド>(32万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:8565km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:319.7km
使用燃料:42.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/7.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。