ルノー・日産とWaymoが自動運転で提携!?
業界を揺るがすウワサ話から開発競争の今を読み解く
2019.02.13
デイリーコラム
突然湧いた巨大提携のウワサ
カルロス・ゴーン氏の逮捕から約3カ月、ルノー・日産アライアンスに関する報道は絶え間なく続いている。クーデター、解任、交渉難航、関係見直し、政府介入など愉快とは言い難い単語ばかりが並ぶが、突如として毛色の違う情報が飛び出した。
「Waymo(ウェイモ)と自動運転で提携か」
第一報が出たのは2019年2月5日。日経新聞をはじめ、各社報道によれば「提携に向けて協議」「来春にも発表」といったことのようだ。これは公式発表ではなく、広報担当者が否定したとの報道もあるが、逆境にいるルノー・日産が何とかして市場の空気を変えたいと思っていることは間違いないだろう。
ただ、この報道が真実ならば、自動運転を巡る攻防は新展開に入る。矢沢永吉が手放し運転するCMを放映するくらい自動運転に熱心な日産にとって、Waymoとの提携はどんな意味があるのだろうか。
渦中のWaymoとは、2009年に始まったグーグルの自動運転プロジェクトから誕生した企業だ。グーグルは2015年にアルファベットという持ち株会社を設立しており、現在はWaymoもグーグルもアルファベットの子会社という位置づけになる。
新興企業だけに軽く見られがちだが、技術的にはあなどれない。カリフォルニア自動車局が2016年に発表したデータによると、年間の総走行距離はWaymoが約64万マイル(
このあたりに開発思想の違いを感じる。自動車業界は安全を重んじて完成度を追求するが、IT業界ではアジャイル思考が強い。つまり、ある程度の完成度に達したら動かしてみて、運用しながら磨き上げていくという発想だ。ウェブサービスにβ版は珍しくない。
拡大 |
単独開発が難しい自動運転技術
もちろん公道を走る以上、安全を軽視できるわけがない。重要なのは何をもって“ある程度の完成度”とするか、その見立てだ。これまでにWaymoの車両も路上で停止するなどのトラブルが起きているが、ウーバーのような重篤死亡事故は起きていない。単位距離あたりのトラブル発生頻度で見ても、Waymoはダントツに成績がいい。ちなみに、2018年10月時点でWaymoの総走行距離は1000万マイルに達している。
2018年秋、Waymoとホンダの破談が話題になった。両社は数年前から連携の道を模索していたようだ。というのも、自動運転の研究開発にかかるコストはけた違いで、ホンダに限らず単独開発は不可能に近い。トヨタはマツダなどと組む一方でソフトバンクと新会社を設立し、メルセデスはボッシュとの取り組みを進め、フォルクスワーゲンとフォードは電気自動車の開発も含めた包括提携を発表している。
ホンダはWaymoと組むことでITまわりの開発が進み、Waymoはホンダによって市販車開発への道が明るくなるという、双方に利点のある提携話だったはずだが、この交渉は実らなかった。ホンダは2018年10月にGMクルーズホールディングスおよびGMとの提携を発表。そしてWaymoにはルノー・日産との提携話が浮上したというわけだ。
拡大 |
開発の先に見えてきた2つの方向性
いま自動運転を巡ってあらゆる企業が連携の道を模索しているわけだが、その技術開発には2つの方向性が見えてきた。ひとつはPOV(Personally Owned Vehicle)と呼ばれる個人向けのクルマの自動運転だ。当面のターゲットは高速道路での渋滞時の自動運転である。車両は車速30km/h未満のノロノロ運転を代行してくれるが、渋滞解消や危険察知の際には人間がハンドルを握らなければならない。その次に目指すのはより高速での自動運転の実現、そして人間が一切ハンドルを握らない高度な自動運転だ。
もうひとつはMaaS(Mobility as a Service)と呼ばれる新しい移動サービス向けの車両だ。こちらはビジネスモデルも含めて多様なアイデアが出ているのだが、イメージとしてはコミュニティーバスの自動化が近い。人間がハンドルを握らない完全自動運転で、低速かつ一般道の決められた運行ルートだけを走行する。MaaSはバスなどの運転手不足を解決する手段として注目されており、いま日本各地で実証実験が行われている。
POVとMaaS用車両では目指す自動運転の姿も、対象となる市場もまったく違う。POVはいまの自動車と同様にカッコよさや乗り味といったものが要求されるが、MaaS用車両の買い手は事業者なので車体の見た目やバリエーションなどへの要求は低い。技術的には車載センサーなどの共通項はあるものの、両者の研究開発の方向性は異なっている。
そしてホンダとGMクルーズも、トヨタとソフトバンクも、ターゲットはMaaSだ。新興企業と提携してOEMでMaaS用車両を作り、別のラインでPOVの自動運転を開発するというのがいまのトレンドといえる。
ルノー・日産はグーグルファミリーのWaymoと提携することでMaaS市場に大きなプレゼンスを発揮するとともに、POV開発にリソースを集中できる可能性があるわけだが、果たしてそうなるかどうか。今後の動向から目が離せない。
(文=林 愛子/写真=Waymo/編集=堀田剛資)
拡大 |

林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
-
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―NEW 2025.12.5 ハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。
-
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る 2025.12.4 「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
-
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相 2025.12.3 トヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。
-
あんなこともありました! 2025年の自動車業界で覚えておくべき3つのこと 2025.12.1 2025年を振り返ってみると、自動車業界にはどんなトピックがあったのか? 過去、そして未来を見据えた際に、クルマ好きならずとも記憶にとどめておきたい3つのことがらについて、世良耕太が解説する。
-
2025年の“推しグルマ”を発表! 渡辺敏史の私的カー・オブ・ザ・イヤー 2025.11.28 今年も数え切れないほどのクルマを試乗・取材した、自動車ジャーナリストの渡辺敏史氏。彼が考える「今年イチバンの一台」はどれか? 「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の発表を前に、氏の考える2025年の“年グルマ”について語ってもらった。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。



