ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン(4WD/8AT)
これならイケる! 2019.02.27 試乗記 およそ70年の歴史を持つ、本格クロスカントリーモデル「ジープ・ラングラー」。雪道を行く最強グレード「ルビコン」の走りは、ほかのクルマでは得がたい機能性を感じさせるものだった。過酷な冬にこそ乗ってほしい!?
たとえ日常使いできる「フルタイム4WD」といえども、そこはジープ・ラングラーのそれ。「ナメんなよ!」というのが、雪の北海道で試乗会を開いたFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の本音……、いや、訴求ポイントでありましょう。「FCAジャパン・ウインターチャレンジ2019」のサブタイトルは、「冬でも感じる、熱き思いがここにある」である。
実際、新千歳空港のそばに設営された雪上テストコースは、新型ジープ・ラングラーに苦労させることに苦労したであろう、力作だった。駆動方式や電子制御の設定を変えながら円旋回ができるベースエリアに、逆落としの坂。これは、逆走するとフロントスクリーンのむこうに空しか見えない、壁のような登り坂に転じる。別の場所には、複数のショートサーキットも用意された。スタッフの方々、寒い中おつかれさまです。
しかし残念ながら(!?)、新しいラングラーは、副変速機のシフターを「4H AUTO」に入れたまますべてのコースをあっさり走破してしまったのでした。
2017年、ジープブランドのアイコンたるラングラーがフルモデルチェンジを受け、翌年から販売が開始された。ボディー・オン・フレームこと「ラダーフレーム+前後リジッドサスペンション」の基本構成はそのままに、ホイーベースを延長して後席の居住性を向上。フレームに載せられる上屋は軽量化を果たしつつ、“誰が見てもジープなデザイン”を採る。そんな変わらない姿が、新型最大のトピックといえるかもしれない。
歓迎すべき近代化
エンジンには、3.6リッターV6に加え、なんと2リッター直4ターボがラインナップされた! ……こともニュースだが、「ラングラーよ、お前もか!?」と往年のファンに不安を抱かせたのが、「セレクトラック」ことフルタイムオンデマンド4×4システムの採用。後輪駆動をベースに、電子制御される多板クラッチを内包したハウジングを介して、必要に応じて駆動力を前輪に送るシステムである。タイトターン時にブレーキがかかることもないから、日ごろから気軽に使える4WDといえる。
一方、手動で「ガッチャン!」と2駆(2H=FR)と4駆(4H/4L)を切り替えるパートタイム4WDがそのまま残されているのが、さすがはジープ・ラングラー。4Hや4Lは物理的に前後を結ぶので、副変速機の操作は停車時に行うのが基本だが、望むポジションに入れにくいときは、クルマをクリープさせて無理なくギアレバーを操作するといったコツが必要なときもある。スイッチをパチパチするだけの電子デバイスとはなんとなくありがたみが違う気がして、そんなところもラングラーの魅力のひとつだろう。
雪上のクローズドコースで、試乗車の駆動方式を「2H」から「4H AUTO」に変えると、なるほど、クルマの挙動がグッと落ち着く。ゆるく旋回しながらガスペダルを乱暴に踏み込むと、たしかに後足を振り出しはするけれど、すぐにフロントにも駆動力が送られて、もとのコースに戻ろうとする。FR時のように、クルリとその場で回って恥をかく……なんてことがない。頼りがいのあるフルタイム4駆だ。
このセレクトラック・フルタイム4×4システムは、日本で販売されるすべてのラングラー、つまり2ドアの「スポーツ」(3.6リッターV6、受注生産)、4ドアの「アンリミテッド スポーツ」(2リッター直4ターボ)、同じく4ドアの「アンリミテッド サハラ ローンチエディション」(3.6リッターV6)に搭載される。
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ファンの期待に応えるタフさ
そして、タフでなければジープではない。ヘヴィデューティーでなければラングラーの意味がない、と考えている熱烈なファンの方々に朗報! より濃密な4輪駆動システム「ロックトラック・フルタイム4×4」を備えた上級グレード「ルビコン」の導入が間もなく始まります。
ロックトラック・フルタイム4×4と呼ばれる4駆システムは、セレクトラックを基に、前後のディファレンシャルギアをロックする機能を加え、さらにローギアードな走りでクロールする(ゆっくり進む)ことを可能にしたもの。そのうえ「スウェイバー・ディスコネクト・システム」と称して、スタビライザーを切り離す機能も備える。もちろん、サスペンションのストロークを拡大するため。「コレ、車輪が外れているのでは?」と思わせるほど左右の車輪を傾けながらロードホールディングを維持する姿を目にしたオフロード愛好者の人も多いのでは。
順序が逆になってしまったが、今回の試乗会でメインに乗らせてもらったのが、このラングラー アンリミテッド ルビコンだった。雪上テストを通じてパートタイムモードを使う必要性があまり感じられなかったのだが、せっかくなのでルビコンの4×4を試してみる。「4H AUTO」では軽い助走が必要だった、先に述べた急坂。ルビコンの最も強力な4Lにギアを入れ、前後のデフをロック。あえて坂の途中で止まって厳しい条件で再登攀(とうはん)に挑戦する。と、イヤイヤをするようにクルマは左右に頭を振るが、それでも各輪が、ガッ、ガ、と雪を蹴りながら、ジリジリと登りだし、みごと! 坂の上に到着することができた。拍手!!
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ラングラーだけの味がある
テストコースから宿泊地までの限られた距離だけれど、雪の一般道をラングラー アンリミテッド ルビコンで走った。むき出しのヒンジを見せる軽合金製のドアを開けて、フレームに「オン」されたキャビンに「よいしょ」と乗り込む。フロアの高さが、ラングラーの走破性を暗示する。
ドアのストッパーやバックレストのリクラインレバーの代わりに簡素なストラップが使われるのは、一種の演出だろう。クッション厚めの四角いレザーシート。太めのステアリングホイール。近いダッシュボードとフロントスクリーン。そこかしこに「らしさ」が感じられる。右ハンドルだと、左足の置き場に余裕がないのも、ラングラーの伝統か!? センターコンソールに、リアビューカメラの映像を映すこともできる8.4インチタッチスクリーンが備わるのは、新しい要素だ。
フルタイム4WDの恩恵で、慣れない雪道も鼻歌モード。前後リジッドの足まわりゆえ、時にキャビンが揺らぐこともあるけれど、それもラングラーならではの「味」でありましょう。これまたオフロード性能の潜在能力を示すファクターとして、むしろ好ましく感じるオーナーの方が多いに違いない。
個人的に「おもしろいなぁ」と感じたのが、かつての直6時代を思わせる、どこかドロンとしたV型6気筒。シュンシュン回る多気筒エンジンではなく、じっくりとトルクを重ねていくタイプで、なんだか、大小ゴツゴツの岩場をゆっくりと進んでいくラングラーの姿がオーバーラップして、「ブレないなァ」と感心する。ハンドルを握って感じるさまざまな事柄に、それぞれ「機能に裏打ちされた」と枕詞(まくらことば)を冠したくなるのが、ジープ・ラングラーというクルマだ。
(文=青木禎之/写真=FCAジャパン、webCG/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4785×1875×1868mm
ホイールベース:3008mm
車重:2021kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:284ps(209kW)/6400rpm
最大トルク:347Nm(35.4kgm)/4100rpm
タイヤ:(前)265/70R17 115Q/(後)265/70R17 115Q(グッドイヤー・アイスナビSUV)
燃費:シティー=18mpg(約7.7km/リッター)、ハイウェイ=23mpg(約9.8km/リッター)、複合=20mpg(約8.5km/リッター)(米国EPA値)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は米国仕様を元にした参考値
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:876km
テスト形態:ロードおよびオフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。