第28回:アルファ・ロメオ・ステルヴィオ(前編)
2019.03.27 カーデザイナー明照寺彰の直言![]() |
イタリアの名門、アルファ・ロメオがリリースしたブランド初のSUV「ステルヴィオ」。そのデザインに込められたメーカーと市場の本音とは? ブランドの命運を賭けて送り出された新世代アルファのデザインを、現役の自動車デザイナーが語る。
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顔以外はいたってフツー
明照寺彰(以下、明照寺):アルファ・ロメオのステルヴィオですけれど、顔以外は“フツーのスポーティーなSUV”ですよね。
永福ランプ(以下、永福):そうなんですよ! アルファなのは顔だけで。
明照寺:実車を見ると、ショルダーのラインがやたら強くて、その下のドア面が多少弱いかなという気がしますが、それは確信犯的にやっているのかもしれません。「ジュリア」もそうですから。
永福:サイドのエッジの入れ方は、基本的にジュリアと同じですよね。というか、このエッジの形状は、非常にBMWっぽく見えるわけですが……。
明照寺:まあ、そうはいっても、破綻はないし、まとまってるのかなという感じです。リアシートもそれなりに余裕があるし、荷室も奥行きが結構あるので、使えそうに思えました。
永福:明照寺さん、アルファに対して「あんまり使えない」という先入観があるからじゃないですか(笑)。
明照寺:リアガラスの下端がめちゃめちゃ高いので、後方視界は最悪でしょうけど、「車庫入れのときはバックカメラを見て」ということなんでしょうね。それより問題だと感じるのは、デザインの主張というか、「これからのアルファ・ロメオってこうなるんだ」といった部分があまり感じられないことです。このクルマだけじゃなく、ジュリアもそうなんですけど。
永福:そう! アルファのアイデンティティーは顔だけに残して、あとは売れセンのデザインで行くぞ、というのが主張のように感じます。
明照寺:例えば、ジャガーは切り落とされたようなリアまわりのデザインを、全車種共通で採用しています。ポルシェの「マカン」や「カイエン」は、伝統的な「911」のモチーフを使っていますし、レクサスはグリルから始まる大胆な面構成がシャープで、ブランドのキャラクターを出しています。特にプレミアムブランドは、ブランドそのものの方向性がないと、なかなか認知が難しいわけです。
ほった:ステルヴィオはそれが弱いんですね。ジュリアも。
「スポーツカーのDNA」という言葉が似合うブランド
明照寺:アルファって、北米で販売が再開されたんですよね。
ほった:はい。現在はジュリアとステルヴィオ、それと「4Cスパイダー」が販売されてます。
明照寺:北米でも戦えるように筋肉質な表現にしようとしてるんでしょうけど、どうも“それだけ”のようにも感じます。アルファならではの部分はどこなのか、ちょっとわかりづらい。
永福:ジュリアは、横から見たら先代の「BMW 3シリーズ」でしたが、ステルヴィオも横から見ると、“どっかの欧州ブランドのSUV”としか認識できないんですよ。サイドにエッジを入れるなら、かつての「GTV」みたいに斜めにドカンと入れてくれ! とか、どうしてもそういう強烈な個性を期待してしまうんですが。
明照寺:そういうのを期待しちゃいますよねぇ(笑)。私も、個人的にアルファ・ロメオは大好きなんですよ。エンブレムにもすごい伝統を感じるじゃないですか。
永福:大蛇がサラセン人を食ってるエンブレム、最高ですね(笑)。
ほった:あの食われてる人が大蛇の舌に見えるので、グロさが緩和されて助かってますけど。
明照寺:よく、スポーツカーのDNAがどうたらこうたら、ってどのメーカーも言いますけど、アルファ・ロメオほどそういう文句が似合うブランドもないじゃないですか。その分ハードルも高いから、プレッシャーもあるんでしょうけど、だからこそもっと新しい提案を出してほしいなと思いますね。
永福:北米再進出を考えると、こうせざるをえないのかなぁ。ビジネスに走ったということでしょうかね。
明照寺:ビジネスで成功すれば、それはそれでひとつの答えかもしれませんけど。
ブランド再生の使命を思えば……
明照寺:実際どうなんですかね? 北米の最近のアルファのビジネスは。
ほった:えー、大変興味深い数字が出ています。当初は4Cだけだったので年間500台とかそんな感じだったのが、2017年にジュリア、2018年にステルヴィオが加わって、それぞれ1万2000台、2万4000台と増えてます。
永福:倍々ゲームだね!
ほった:アメリカの市場規模を考えると、多いとは言えませんけどね。
永福:大河の一滴ではあるけれど、でもアルファ・ロメオは長らく北米市場から撤退してたわけだから。それを思えばジュリアやステルヴィオのBMW的プロポーションは、アメリカ人にもとっつきやすかったのかもしれない。
ほった:年間2万4000台という数字は、日本の10倍くらいですから、つまり成功ですかね?
永福:ゼロだったことを思えば間違いなく。
明照寺:ステルヴィオくらいのサイズのSUVって、すごくたくさん出てきてますよね。その中で特に主張が強いデザインではないし、中途半端に感じますけど、アメリカではそれくらいがよかったといえるのかもしれない。
ほった:アメリカでアルファ・ロメオっていったら、映画『卒業』でダスティン・ホフマンが「アルファスパイダー」に乗ってたあたりでいったん終わってて、たぶんもうアメリカ人にはアルファに対する認識がないと思うんですよ。そこにいきなり強烈なヤツを送り込んでも、ビックリしちゃって手を出せない可能性はありますよね。
永福:日本にいきなり「バイパー」送り込まれたら、ビックリしちゃうみたいな(笑)。
ほった:たしかにステルヴィオのサイドビュー、弱いですけど……。
明照寺:例えば、メルセデスやBMWなら、SUVでも四角いのとクーペ系と、両方用意してますよね。でもアルファの場合、とてもそこまではできない。だから、どっちもどっちみたいなシルエットにしたのかなという感じはあります。すごくキレイに破綻なくまとまってるんですけど、アルファらしい個性は感じられない。個人的に大好きなブランドなので、頑張ってもらいたいんですが。
永福:本当に頑張ってもらいたいですねぇ。さすがにどん底からは脱したので、消滅の危機は免れたんでしょうけど……。
(文=永福ランプ<清水草一>)
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明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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