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第41回:ジャガーIペース(後編)

2019.07.17 カーデザイナー明照寺彰の直言 明照寺 彰
ジャガーIペース
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他のどんなクルマにも似ていないデザインで登場した、ジャガー初の電気自動車「Iペース」。このモデルが提案する“新しいクルマのカタチ”は、EV時代のメインストリームとなりうるのか? 明照寺彰と永福ランプ、webCGほったが激論を交わす。

後ろへ向かうほど高くなる、ウエッジシェイプのベルトラインが目を引く「Iペース」。ガラスエリアも薄く、そのサイドビューは非常にスポーティーだ。
後ろへ向かうほど高くなる、ウエッジシェイプのベルトラインが目を引く「Iペース」。ガラスエリアも薄く、そのサイドビューは非常にスポーティーだ。拡大
フロントのタイヤまわりは、切り詰められたオーバーハングとマス感を抑えたフェンダーの造形により、スポーツカーのように“軽い”デザインとなっている。
フロントのタイヤまわりは、切り詰められたオーバーハングとマス感を抑えたフェンダーの造形により、スポーツカーのように“軽い”デザインとなっている。拡大
絞りこまれたキャビンと、それを強調する張り出したショルダーに注目。リアオーバーハングの短さもあって、車幅は1895mmという実寸以上にワイドに感じる。
絞りこまれたキャビンと、それを強調する張り出したショルダーに注目。リアオーバーハングの短さもあって、車幅は1895mmという実寸以上にワイドに感じる。拡大
「Iペース」のランニングシャシー。車両底部にぎっしりとバッテリーが敷き詰められている。
「Iペース」のランニングシャシー。車両底部にぎっしりとバッテリーが敷き詰められている。拡大
明照寺:「床下にバッテリーを積むEVは、どうしても車体に厚みが必要になる。SUVタイプのEVが多いのには、パッケージ的に理にかなっているからという理由もあるんです」
明照寺:「床下にバッテリーを積むEVは、どうしても車体に厚みが必要になる。SUVタイプのEVが多いのには、パッケージ的に理にかなっているからという理由もあるんです」拡大

EVはみんなSUVになる?

永福ランプ(以下、永福):Iペースがスポーティーに見える理由は、どのあたりにあるんでしょう?

明照寺彰(以下、明照寺):さっき言ったように、ただ単純にタイヤの外径がデカイというのがひとつありますけど、ボディーのタイヤ上部のマス感も、タイヤに対して小さいんですね。オーバーハングも切り詰められているので、タイヤまわりが軽く見えるんです。テスラもオーバーハングは切り詰められているので、かなりスポーティーに見えますけど。

永福:ウエストラインはどうでしょう?

明照寺:他のEVに比べると、ウエッジ感が強くてより前傾姿勢だし、キャビンのマス感も小さいですよね。また後ろから見ると、キャビンがかなり絞られていて、フェンダーがドーンと張り出して見えます。

永福:ボディー基部の厚みがマッチョ感につながっているということでしょうか。

明照寺:マッチョに感じますよね。それに、オーバーハングが短いと、その分幅が広く見えるという視覚効果もあります。一部のスーパーカーなんかを除くと、クルマって上から見るとタル形なんですよ。タル形なので、前後に長ければ長いほど両端の幅は狭くなる。でもオーバーハングが短いと、タルの幅が広い部分でズバッとカットするわけだから、その分幅が広く見えるんです。Iペースの場合、ちょっと後ろがヘビーすぎる気もしなくもないですし、腰下が強すぎる感じもしますが、その感覚も新しさにつながっているのかなと思います。

永福:なにか、従来と違うクルマという雰囲気は強いですよね。

明照寺:そもそもエンジン車とはパッケージが違いますからね。

ほった:確かに。

明照寺:パッケージの話で言うと、EVでは普通のクルマに対して、床下に電池が載る分車高が高くなるのが自然じゃないですか。つまりEV化が進むほど、今後さらにSUVが増えていくんじゃないかという気がします。メルセデスもアウディも最初のEVがSUVになるのは、SUVがパッケージ的に理にかなってるからでしょう。今後はデザインの幅が広がるよりも、むしろそこに収束していくかもしれない。

ジャガー Iペース の中古車

このクルマのジャンルはなんなのか

永福:僕はIペースのリアが、どうしても「インテグラ」に見えるんですけどね……。

明照寺:インテグラですか?

永福:ホンダのインテグラです。

ほった:丸目4灯時代の?

永福:いや、マイケル・J・フォックスのインテグラ(笑)。カッコインテグラ。

明照寺:ああああ、なるほど(笑)。

永福:Iペースを見るたびに、「あー懐かしいな」って思ってしまうんですよ。当時、あのインテグラは斬新だったと思うんですよね。Iペースのほうが全然ウエストラインは高いんですけど。

明照寺:自分はそこにはまったく気づかなかった(笑)。インテグラ、たしかに近いといわれれば近いですね。

永福:近いでしょう? Iペースのリアは、かさ上げしたインテグラですよ。

明照寺:インテグラっぽくなったのは偶然でしょうけど(笑)、Iペースにはセダン系やスポーツカー系のモチーフをそのまま使っているところがありますね。それもまた、パッケージがこれだけ違ってもジャガーに見える要因かな。

ほった:いま、まさかの「Iペース=インテグラ」というジャンルの枠を越えた新理論が示されたわけですけれど、そもそも、このクルマのジャンルってなんなんですかね? 車名の通りにSUVと捉えちゃってていんでしょうか?

明照寺:だからそこは、ジャンルという考え方はないに等しいんじゃないかな。単純にSUVとは言えない。

永福:どっちかは決めないでつくった気がするなぁ。逆にそこを狙っているような。

ほった:だとすると、これはホントの意味で“クロスオーバー”だし、積極的にジャンルをぶっ壊しにきてるデザインなのかなって思います。もっと言うと、「EV時代のクルマのカタチはこうなるんじゃないの?」という提案性が、“ザ・今まで通り”な「メルセデスEQC」とか「アウディe-tron」よりも強い気がするんですけど。

明照寺:それはその通りでしょう。

「ジャガーIペース」のリアビュー。横長のリアコンビランプや、バンパーに設けられたナンバープレートとの位置関係などに注目。
「ジャガーIペース」のリアビュー。横長のリアコンビランプや、バンパーに設けられたナンバープレートとの位置関係などに注目。拡大
俳優のマイケル・J・フォックスがCMキャラクターを務めた、2代目「ホンダ・インテグラ」。
永福:「『Iペース』のリアビューは、インテグラにソックリじゃありませんか?」
俳優のマイケル・J・フォックスがCMキャラクターを務めた、2代目「ホンダ・インテグラ」。
	永福:「『Iペース』のリアビューは、インテグラにソックリじゃありませんか?」拡大
シャープな印象を感じさせる「Iペース」のリアコンビランプ。同車には、セダンやスポーツカーなどに使われるような意匠のディテールが、各所に用いられている。
シャープな印象を感じさせる「Iペース」のリアコンビランプ。同車には、セダンやスポーツカーなどに使われるような意匠のディテールが、各所に用いられている。拡大
「Iペース」のデザインスケッチ。
「Iペース」のデザインスケッチ。拡大
こちらはリアビューのデザインスケッチ。
こちらはリアビューのデザインスケッチ。拡大
ほった:「『○ペース』っていうのはジャガーではSUV系のネーミングなんですけど、こうしてスケッチを見ていると、SUVというよりスポーツカーって感じですよね」
ほった:「『○ペース』っていうのはジャガーではSUV系のネーミングなんですけど、こうしてスケッチを見ていると、SUVというよりスポーツカーって感じですよね」拡大

EV時代の主流になるデザインとは?

永福:ただまぁ、EVのメインがどういうものになるかは、まだわからないって気がするんですけどねぇ。Iペースは1000万円級の高級車なので、絶対にメインストリームにはならない。考えてみると、いま世界で数が売れてるEVって、「テスラ・モデル3」と「日産リーフ」だけですからね。

明照寺:いまの段階だとそうですよね。

ほった:あとは中国で売れてる北京汽車の「EC」シリーズですか。EV販売世界第2位のクルマです。

永福:あれはごく普通のコンパクトSUV風だよね。そう考えると、「BMW i3」は本当に斬新だった。

ほった:構造も挑戦的でしたよね。

永福:とんでもない大力作だったと思うんですよ。値段だってレンジエクステンダー付きでも600万円くらいだから、モデル3のロングレンジ版と大差ない。なのにこれが売れないっていうのがわからないなぁ。

ほった:うーん。……i3のデザイン、私は「やりすぎじゃないの?」と思いますけど。

永福:えっ、モテないカーマニアなのに!?

明照寺:私は「すごくいい!」と思いましたけど。

ほった:もしBMWが数を見込んでたんならって話です。これ見て、一般的に「なんじゃこりゃ」って感じる人は多いと思いますよ。スーパーカーでもないのに張り切りすぎというか。なんだかんだ、普通の人は普通のカッコのクルマが欲しいんじゃないですかね。それはさておき、個人的には電気自動車なのにグリルがあるのが納得いかないんです。i3も中途半端でしょう。キドニーグリルのカタチだけ残してて。

永福:キドニーグリルがなかったらBMWにならないじゃない!

ほった:BMWじゃなくていいじゃないですか、もういい加減。

永福:いやいや、それは絶対ダメだ。つーかあり得ない!

明照寺:それをやったら、それこそ誰も買ってくれないでしょう(笑)。

2018年9月に行われた、日本導入発表会の様子。「Iペース」の価格は959万円からと、押しも押されもしない高級車である。
2018年9月に行われた、日本導入発表会の様子。「Iペース」の価格は959万円からと、押しも押されもしない高級車である。拡大
BMWが2013年に発表した電気自動車「i3」。いかにも「電気で走る未来のクルマ」というデザインをまとっている。
BMWが2013年に発表した電気自動車「i3」。いかにも「電気で走る未来のクルマ」というデザインをまとっている。拡大
総アルミのランニングシャシーにカーボン製のキャビンを架装する車両構造や、風力発電で電力をまかなう生産工場など、「BMW i3」は単に電動パワートレインのクルマというだけでなく、あらゆる面でチャレンジングな製品だった。
総アルミのランニングシャシーにカーボン製のキャビンを架装する車両構造や、風力発電で電力をまかなう生産工場など、「BMW i3」は単に電動パワートレインのクルマというだけでなく、あらゆる面でチャレンジングな製品だった。拡大
「BMW i3」のキドニーグリル。もちろんダミーである。
「BMW i3」のキドニーグリル。もちろんダミーである。拡大
現在開発が進められている「iX3」と「i4」。BMW iブランドの次期モデルがどんなデザインとなるのか。ライバル勢が異なる路線を進み始めていることもあり、気になるところである。
現在開発が進められている「iX3」と「i4」。BMW iブランドの次期モデルがどんなデザインとなるのか。ライバル勢が異なる路線を進み始めていることもあり、気になるところである。拡大

グリルなんて飾りです

ほった:そもそも、EVの時代にグリルってどうなんですか? 個人的には、iシリーズにキドニーグリルを残したってのは、BMW世紀の大失敗だと思うんですけど。

明照寺:電気自動車だからグリルレスにするっていう考え方も、もちろんありますよね。実際テスラはそうしてます。ただ、グリルはブランドの象徴で、どうしてもそこに頼りがちなんです。だからアウディも結局変えなかった。メルセデスもちょっと形を変えただけで、そしてすごいデカいスリーポインテッドスターを付けてきた。やっぱりグリルはブランド表現で一番効果的ですから。ジャガーも結局、グリルっぽい形を残してますしね。Iペースやi3は、プロポーションが既存のクルマと全然違うから、余計そういうものが付いてないと認知されないでしょう。ないとドコのクルマか、いよいよわからなくなりますよ(笑)。

永福:EVだからグリルはいらない、というのは間違いですよね。少なくとも今はまだ。将来はわかりませんが。

明照寺:そう思います。

永福:ほった君、そういうことだから(笑)。では、そろそろまとめましょうか

明照寺:アウディもメルセデスも、本当に保守的なデザインでEVをつくったわけです。

ほった:そうなんですよね~。

明照寺:でも個人的には、やっぱりEVは、デザインにどこかしら先進感を出してほしいんです。そんな中、Iペースは、かなり挑戦的なものを提供したと思います。

永福:われわれクルマ好きとしては、EVに限らずですけど、自動車デザインはどこかしら挑戦的であってほしいですよ。

ほった:グリル廃止にもぜひ挑戦しましょう。

永福:まだそれを言う(笑)!

(文=永福ランプ<清水草一>)

<連載終了のお知らせ>
「カーデザイナー明照寺彰の直言」は、今回をもちまして終了とさせていただきます。長い間ご愛読いただきまして、本当にありがとうございました。(webCGほった)

2017年のフランクフルトショーで発表されたコンセプトカー「BMW iビジョンダイナミクス」。
ほった:「ここまでして、EV時代にグリルって残すべきものなんですかね?」
2017年のフランクフルトショーで発表されたコンセプトカー「BMW iビジョンダイナミクス」。
	ほった:「ここまでして、EV時代にグリルって残すべきものなんですかね?」拡大
「ジャガーIペース」のフロントにも、他のラインナップ(もちろん内燃機関車である)と同じモチーフのフロントグリルが残されている。
「ジャガーIペース」のフロントにも、他のラインナップ(もちろん内燃機関車である)と同じモチーフのフロントグリルが残されている。拡大
ちなみに「Iペース」のダミーグリルは上部が開口しており、ボンネット上から空気を流す構造となっている。
ちなみに「Iペース」のダミーグリルは上部が開口しており、ボンネット上から空気を流す構造となっている。拡大
2代目「XK」以降、すべてのジャガーのモデルを手がけ、2019年6月末に勇退したデザイン・ディレクターのイアン・カラム氏。もちろん「Iペース」も彼の手によるものだった。
2代目「XK」以降、すべてのジャガーのモデルを手がけ、2019年6月末に勇退したデザイン・ディレクターのイアン・カラム氏。もちろん「Iペース」も彼の手によるものだった。拡大
 
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明照寺 彰

明照寺 彰

さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。

永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。

webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。

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