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第40回:ジャガーIペース(前編)

2019.07.10 カーデザイナー明照寺彰の直言 明照寺 彰
ジャガーIペース
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ジャガーからブランド初の100%電気自動車(EV)「Iペース」が登場。SUVのようにも、ハッチバックのようにも見える400psの快速EV。そのデザインに込められた意図とは? EVデザインのトレンドを踏まえつつ、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。

明照寺:「『Iペース』って、ジャンル不明なカタチしてますよね」
ほった:「ジャガー的にはSUVのくくりみたいですけどね。車名も『○ペース』だし、最大渡河深度500mmなんてうたってるし」
永福:渡河深度って、ハラに90kWhのバッテリーを抱えたクルマで川渡りたいと思う人、いるのかな?
ほった:……。
明照寺:「『Iペース』って、ジャンル不明なカタチしてますよね」
	ほった:「ジャガー的にはSUVのくくりみたいですけどね。車名も『○ペース』だし、最大渡河深度500mmなんてうたってるし」
	永福:渡河深度って、ハラに90kWhのバッテリーを抱えたクルマで川渡りたいと思う人、いるのかな?
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タイヤサイズは、コイルサス仕様が235/65R18、エアサスペンション仕様が245/50R20。オプションで22インチのアルミホイールと255/40R22サイズのタイヤの組み合わせも用意される。
タイヤサイズは、コイルサス仕様が235/65R18、エアサスペンション仕様が245/50R20。オプションで22インチのアルミホイールと255/40R22サイズのタイヤの組み合わせも用意される。拡大
前後のオーバーハングをガッツリと切り落としたスタイリングも「Iペース」の特徴。
明照寺:「EVならではの、EVにしかできないデザインですよね」
前後のオーバーハングをガッツリと切り落としたスタイリングも「Iペース」の特徴。
	明照寺:「EVならではの、EVにしかできないデザインですよね」拡大
こちらは「Iペース」のコンセプトカー(上)と市販モデル(下)との比較。市販に至るまでに、ここまで変化のなかったクルマも他にないだろう。
こちらは「Iペース」のコンセプトカー(上)と市販モデル(下)との比較。市販に至るまでに、ここまで変化のなかったクルマも他にないだろう。拡大

新しいのにちゃんと“ジャガー”に見える

明照寺彰(以下、明照寺):ジャガーIペースのデザインは、一般的な基準で見るとジャンルがわかりづらいですよね。

永福ランプ(以下、永福):確かに微妙に独特で、微妙にどこにも属さない気がします。

明照寺:他のSUV系ジャガーに近いデザインテーマを守ってはいますが、パッケージは全然違います。まずは、「それでもジャガーに見える」というのがすごくいいんじゃないでしょうか。

ほった:別物のジャガーだけど、確かにジャガー。

明照寺:ちょっとパッケージが奇抜なので、見慣れない部分はありますけど、個人的にはカッコイイと思います。全高は1565mmとそれなりに高いんですが、背の高いパッケージにもかかわらず、これだけスポーティーに見せてるところがキモでしょう。まあ、タイヤサイズがデカイということもありますが。

ほった:今日お2人に見てもらったクルマなんて、22インチですよ。255/40R22。

永福:タイヤ交換が憂鬱(ゆううつ)だ……。

明照寺:タイヤの外径が非常にデカイじゃないですか。それで前後オーバーハングをこれだけ切り詰めているので、まあどうやったってカッコよくなるのかなという気もしますけど(笑)。

永福:クルマは低く平べったくすれば自動的にカッコよくなるのと同じで、タイヤ外径を大きくしても自動的にカッコよくなるんですね?

明照寺:そうです。でも、それを抜きにしても、Iペースはジャガーらしい質感が出ていて、すごくいいんじゃないでしょうか。ただ単純にジャガーらしいモチーフを使っているってだけじゃなくて。もちろん新しさもちゃんとあって、ちょっと面質がドライというか、他のジャガーに比べると、ボリュームはついてるけれど、“タメ”みたいなものが少なくて、キレがいいんですよ。

永福:タメが少なくてキレがいい?

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面質に見る、微妙だけど明確なサジ加減の違い

明照寺:あまり暑苦しくない造形と言ったほうがわかりやすいかな。そういう面でもウマイんですよ。それだけでEVらしさを表現してる。

永福:クールなんですね。

明照寺:そう。クールなんだけど、どう見てもジャガーなんです。

永福:面質がドライというのは?

明照寺:クルマを単純に断面で切ったとしましょう。その断面を見ると、このクルマはすごくボリュームは強いんだけど、一定の“丸さ”に近いんです。普通はもう少し“タメ”をつくりたいんですが。

ほった:つまり、面のRが変わらないということですか?

明照寺:断面の、ちょっとした差なんですけどね。普通のジャガーはもう少しタメをつくって、昔ながらの高級感を演出しています。ところがIペースは、単純な丸さに近い。普通、これをやったら退屈に見えがちなんですけど、このクルマは非常に“造形しろ”が豊かなので、それでも全然大丈夫なんですね。ちょっと難しい話で、ちょっとしたニュアンスの違いなんです。

永福:難しいけど、なんとなくわかります(笑)。

明照寺:同じEVでも、テスラはもうちょっと昔ながらの形状という印象ですね。ややタメがある。そこらへんはすごく微妙なさじ加減で、モデラーとデザイナーのキャッチボールの結果かな。

永福:「モデル3」の実物は見られました?

明照寺:見てますよ。結構大きなクルマという印象でした。決してそんなにコンパクトではない。もっと小さいかなって考えてたんですけど。やっぱり床下にバッテリーを積んで、ある程度航続距離を稼ぐには、それなりにボディーサイズがないと難しいのかなと思いました。テスラの「モデルS」やモデル3は、SUVタイプの他のEVに比べて全高が低いじゃないですか、その分余計に全幅やホイールベースを取っているんでしょうね。

ほった:なるほど。

ジャガー各車のボディーサイドの陰影に注目。まずは「Iペース」から。
ジャガー各車のボディーサイドの陰影に注目。まずは「Iペース」から。拡大
次いでコンパクトSUVの「Eペース」。
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ジャガー初のSUVとなった「Fペース」。明照寺氏の言う“丸さ"の違い、微妙な面質の違いを感じ取っていただければ幸いである。
ジャガー初のSUVとなった「Fペース」。明照寺氏の言う“丸さ"の違い、微妙な面質の違いを感じ取っていただければ幸いである。拡大
アメリカのEVメーカー、テスラの新型セダン「モデル3」。
明照寺:「思ったよりも大きなクルマでしたね。もっとコンパクトなセダンかと思っていたんですが」
アメリカのEVメーカー、テスラの新型セダン「モデル3」。
	明照寺:「思ったよりも大きなクルマでしたね。もっとコンパクトなセダンかと思っていたんですが」拡大
「ジャガーIペース」(手前)と、「テスラ・モデルX」(奥)。
「ジャガーIペース」(手前)と、「テスラ・モデルX」(奥)。拡大

ユーザーはEVに“未来”を求めていない

明照寺:少し前までは、デザイナーにとってEVは、「未来を示さないといけないクルマ」という強迫観念がありました。デザイナーだけじゃなく、会社としてもそういうものを期待してましたし。実際、「BMW i3」が出たときは単純にすごいって思いました。でも、市場的にはあんまり受け入れられなかった。EVが未来的でなくてはならないっていうのは、作り手のエゴだったのかもしれません。i3は個人的にすごく“いいもの感”があって、好きなデザインなんですけど。

永福:私もいまだに、全EV中のベストデザインだと思ってます。根こそぎ新しくて、機能を感じさせて、美しかった。

明照寺:ただ、ドアを観音開きにする必要はなかったんじゃないかな。テスラがヒットしたのは、普通のクルマだったからかもしれません。テスラのモデルSは、サイズの大きい普通のセダンでしたよね。そのあたりから、今後のEVの方向性が見えてきたんじゃないでしょうか。ユーザーはEVにも、作り手が思っている以上に「普通のクルマ」を求めてるんだなと。

ほった:仮に私がEVを買うとしても、普通のデザインのやつを選びたいです。

永福:そうかなぁ。断然i3だけどなぁ。

ほった:それは、いわゆるカーマニアの意見でしょう。

明照寺:その流れからか、アウディにしろメルセデスにしろ、至って普通のSUVみたいなEVを発表しましたよね。

永福:あの2台には全然面白みを感じません。

明照寺:でも、ユーザーの嗜好はたぶん“そっち”なんですよ。例えばこちらのコンセプトカー、「メルセデス・ベンツEQC」なんですけど、この差し色的に使われた青、これすらも、今やちょっと古臭く見える感じがしますね。少し前までは、エコカーというと総じて青を使いたがる傾向がありましたけど。

永福:ありましたよねぇ。青はエコ、すなわち先進的なエリートのシルシ! というような。

明照寺:そういうアクセントカラーを使わないという部分も含めて、Iペースのデザインは非常に時流に乗ってるし、プロポーションもスポーティーでいいんじゃないかと思います。

(文=永福ランプ<清水草一>)
 

未来感を前面に押し出して登場した「BMW i3」だが、市場の反応はいまひとつだった。
未来感を前面に押し出して登場した「BMW i3」だが、市場の反応はいまひとつだった。拡大
テスラ初のヒット作となった大型セダン「モデルS」。
ほった:「先進的なイメージのテスラですけど、最近出てきた新型『ロードスター』といい、クルマのデザインそのものは結構古典的というか、スタンダードなんですよね」
テスラ初のヒット作となった大型セダン「モデルS」。
	ほった:「先進的なイメージのテスラですけど、最近出てきた新型『ロードスター』といい、クルマのデザインそのものは結構古典的というか、スタンダードなんですよね」拡大
アウディ初の量販EVとなる予定の「e-tron」。ご覧の通り、そのデザインは至って普通のSUVである。
アウディ初の量販EVとなる予定の「e-tron」。ご覧の通り、そのデザインは至って普通のSUVである。拡大
プロトタイプ時代の「メルセデス・ベンツEQC」。
ほった:「今となっては青いアクセントが“時代を感じさせるデザイン”になっちゃってますね」
プロトタイプ時代の「メルセデス・ベンツEQC」。
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内燃機関を搭載したクルマでは不可能なスタイリングを除くと、「Iペース」にEVであることを過度に主張するような部分はない。
明照寺:「青や緑のアクセントカラーもそうですが、もうユーザーは、EVにことさら未来的だったり、エコだったりといったイメージを求めてはいないのかもしれません」
内燃機関を搭載したクルマでは不可能なスタイリングを除くと、「Iペース」にEVであることを過度に主張するような部分はない。
	明照寺:「青や緑のアクセントカラーもそうですが、もうユーザーは、EVにことさら未来的だったり、エコだったりといったイメージを求めてはいないのかもしれません」拡大
明照寺 彰

明照寺 彰

さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。

永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。

webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。

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