どうしてこんなにそっくりなのか?
「クルマの顔」が似ているワケをデザイナーが語る
2019.04.05
デイリーコラム
ブランド認知の手法として
「このブランドのクルマ、コンパクトカーもハッチバックも大きなワゴンもみんな顔がそっくり。まるで見分けがつかないな……」
いまどきのクルマを見ていてそう思われた方、いらっしゃるのではないでしょうか? なぜそこまで似せる必要があるのか? ブランドのエンブレムは共通なのだから、違う顔でもよさそうなものですが。一体どんな根拠・理由があるのか、カーデザイナーの視点で考えてみましょう。
自動車に限ったことではありませんが、消費者に“ブランド”を認知させることはメーカーにとって極めて重要です。そのためには、他のブランドとの差別化が必要になり、そこで違いを見せるのに最も分かりやすい手段として、顔まわりを活用しているのです。
目的はブランド認知ですので、ブランド内の車種は基本的に顔の形を統一させた方が消費者に分かりやすいというロジックです。いまは特に、高価格帯のメーカーや、組織的に中小規模のメーカーがこれを活用したブランド訴求に躍起ですね。
「顔の共通化」は今日に始まったわけではなく、皆さんもご存じの通り、歴史のある欧州メーカーは昔からやってきたことです。そのような伝統的なメーカーのやり方をひな型に、各国のメーカーが追従しているという側面もあると思います。テスラ等の新興メーカーですら、同じ手法をとっています。その点、自動車業界内には、伝統的なメーカーに対する「憧れ」が残っているように思います。
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「○○らしさ」が求められる
われわれデザイナーは、それぞれのブランドの「らしさ」を常に求められます。
前述の顔ばかりではなく、全体のフォルムはもちろん、造形の“面質”や“線質”、またはホイールやランプ類といった個々の部品、さらには車名ロゴのフォントまで、一貫して「らしさ」を基準にデザインするのです。そこから外れるアイデアは選択されません。ちなみに、その最終的な判断者はデザイン部門のトップ。車種ごとの差別化や“時代性”の進化の度合いは、その判断者の裁量次第ということになります。
その中でも、顔まわりは特にデリケートな部分です。ほんの少しの変化で表情は大きく変わってしまいますし、開発中に他ブランドの製品と似てしまうこともあります。そうなるとまた「らしさ」の議論になり、結局代わり映えしないデザインになる、ということも多々あります。
BMWは、先代「3シリーズ」でグリルとランプをつなげてきました。これだけでも最初は勇気が要ったと思います。よりダイナミックな表現をしたかったのが“つなげた理由”だと思いますが、単純に変化も必要だったのでしょう。
新型ではさらにつながりが大きくなって、もはや「グリルとランプは一体型」という様相になりました。「5シリーズ」と「7シリーズ」も同じ構成になっています。見た目の異なるものが多くあると「らしさ」が統一できない、というのが理由でしょう。
グローバル化の弊害
ただ、いまはブランド訴求のために顔まわりが活用されすぎて、車種間の差別化が二の次になってしまっているという側面もあります。
例えばアルファ・ロメオの「ジュリア」と「ステルヴィオ」は顔の構成、比率はほぼ同じですが、乗用系とSUV系はユーザーから求められる表現が違うはず。きちんと差別化しないと混乱する恐れがありますね。ハッチバック&セダンの新型「マツダ3」と同じマツダのSUV「CX-30」も同様です。メルセデスの「CLS」と「Aクラス」のように、価格帯が大きく違うのにまったくといっていいほど同じ顔というのも、疑問に思います。
これはもちろん、戦略的に行っていることのはず。多くのメーカーはグローバル展開を見据えなければなりませんし、世界の国と地域に合わせてデザインを変えられるメーカーは一握りしかありません。総合的な判断により、意図的に似せているのだと思います。
しかし、ある意味デザインの判断者が「思考停止」に陥っているのではないかとも考えられます。BMWの例のように、ただグリルとランプをつなげるだけでも勇気が要る。現場のデザイナーはいくらでも違ったデザインのスケッチを描けますが、判断する立場の人間はそうはいきません。デザインをする上で、“進化感”や“変化感”は常に課題に挙げられていても、失敗できないプレッシャーや社内の政治的なしがらみまで考慮し、結果的に保守的にならざるを得ない……という状況があると思います。 かつてはあれほど個性的だったフランス車やイタリア車ですら、いまではずいぶん保守的です。実は、いま一番トガっているのは、ガラパゴス化製品の代表のように言われる日本の軽自動車かもしれません。
工業製品で「顔」があるのは、自動車とロボットくらいのものではないでしょうか。それほど自動車は擬人化されているわけで、ならばブランド内の個々の車種は兄弟であるといえます。ダイバーシティー(多様性・相違点)が尊重される時代、兄弟でも、個々の個性をしっかり出すべきだと思うのです。結局はそれが、ユーザーのためになるはずです。
(文=明照寺 彰/写真=ボルボ・カー・ジャパン、BMWジャパン、FCAジャパン、マツダ/編集=関 顕也)

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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