第2回:速さだけが全てじゃない
趣を異にする3台のスポーツモデルをチェック
2019.04.24
JAIA輸入二輪車試乗会2019
“速さがすべて”の「アプリリアRSV 1100ファクトリー」のようなマシンがある一方で、「トライアンフ・スラクストンR」や「ドゥカティ・スクランブラー カフェレーサー」のように、走りの味に重きを置いたバイクもある。趣の異なる3台のスポーツバイクを試す。
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想像以上にサーキットオリエンテッド
アプリリアRSV4 1100ファクトリー……286万2000円
21世紀のレーサーレプリカたる「RSV4 RF」のエンジンを、999ccから1077ccに拡大して公道での乗りやすさに(若干)配慮したのが、ネイキッドの「トゥオーノV4ファクトリー」。そのキャパシティーアップをまんまパフォーマンスに注いだのが、RSV4 1100ファクトリーである。
ボア×ストローク=81×52.3mmのショートストロークユニットは、1万3200rpmで217psの最高出力を発生。トゥオーノのそれが175ps/1万1000rpmだから、2100rpm余計に回して、約25%ものパワーアップを果たしている! 最大トルクは、122Nm/11000rpm。
シート高は、RFよりさらに11mm高い851mm(泣)。シート幅が細いのがまだしもの救いだが、身長165cm、足の長さに不足があるライダー(←ワタシのことです)の場合、両足つま先立ちとなる。ツラい。これはもう、ひとたび走り始めたなら、二度と止まりたくない!?
低い位置から生えるバーハンドルに手を伸ばすと、ハンドル位置が近く垂れ角が控えめなためか、思いのほかポジションはキツくない。念のためステアリングを左右に切ってみても、手がタンクに挟まれることはない。
スペックを見ると、新しいV4エンジンは明らかにスポーティーな高回転型ユニットだが、一方、その排気量から低回転域でもトルクが厚い。アイドリングでも楽に8の字が描ける。
いざ走り始めると、どこかバタついた印象で回り始める65度V4は、5000rpmあたりから音質を朗らかに変えて急速にスムーズさを増す。と同時にRSV4は、ライダーの血の気を引かせる激しい加速を披露する。ギアをチェンジ。再び回転を上げ……。
スイマセン、大磯プリンスホテルの広い駐車場をもってしても、ギアを2速に入れるのが限界でした。なにしろ、7000rpm付近ですでに100km/hを超えちゃうバイクなので。それでも約200kgの車重をまったく感じさせない軽快さと、自分にはもったいないほどの一体感を味見することができた……なんて言ったら、バイクに笑われる!?
独特の空力パーツをサイドに装着し、ライド・バイ・ワイヤはじめ、トラクション、ローンチ、そしてウイリーコントロールといった各種電子制御を備えるアプリリアのV4スポーツ。でも、ライダーに一番必要なのは、心置きなくスロットルを開けられるレースコースですね。想像以上にサーキットオリエンテッドなRSV4 1100ファクトリーでした。
(文=青木禎之/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)
スタバに行けるカフェレーサー
ドゥカティ・スクランブラー カフェレーサー……142万5000円
先に明かしてしまうなら、この日乗ったオートバイの中で“今日イチ”だったのがこのスクランブラー カフェレーサーだ。四輪も二輪も、軽量コンパクトな“ボーイズレーサー”好き、という個人的好みは多分にあるので、その上での話とご理解ください。
803ccの空冷Lツインは、スクランブラーの標準モデル「アイコン」と共通だ。73psの最高出力と67Nmの最大トルクも同じ。いっぽうこのカフェレーサーの特徴はそのディメンションとライディングポジションにある。
標準のスクランブラーより立たされたキャスターアングル、短いホイールベースに、前後17インチホイールを履くカフェレーサーは、800ccクラスのロードバイクとは思えないぐらいコンパクトだ。だがセパレートハンドルやバックステップによる前傾姿勢はそれほどキツくない。アラフィフオヤジでもなんとか耐えられるぐらいの緩やかさなのがうれしい。
スクランブラー カフェは、手の内に収まるエンジンパワーと軽快なハンドリングがとても楽しい。その走りの魅力をひと言で言うなら「意のまま感」だ。曲がりたい方向に視線を送るだけで、車体がスッとそちらを向いてくれるような乗り手との一体感がある。
デビューしたときは、「ブラックコーヒー」と呼ばれる黒いカラーだけだったが、新型カフェレーサーはブルーのフレームにシルバーのタンクを組み合わせ、旧タイプの「DUCATI」ロゴも相まってグッと70’sなテイストになった。サイドのアルミプレートに描かれた「54」のナンバーは、かつてのドゥカティのワークスライダー、ブルーノ・スパジャーリのゼッケンに由来する。
レトロ感あふれるデザインはオヤジの大好物である。またがった瞬間「やるぜぃ」と思わせてくれるヤンチャさもあり、まさに回春剤のようなバイクだ。
ひとつ気になるとすれば、「スクランブラー」なのに「カフェレーサー」という、若干節操のないコンセプトとネーミングだが、あまりカタいことは言わずにカジュアルに付き合うのがよいと思う。
もともと“カフェレーザー”とは、1970年代にカフェからカフェへと命がけのレースを繰り広げた若者たちが駆ったカスタムマシンが由来だが、このスクランブラー カフェなら「ちょっと近くのスタバまで……」という軽いノリでまたがるのが似合うのではないだろうか。
(文=河西啓介/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)
“頑固一徹”なだけじゃない
トライアンフ・スラクストンR……184万3100円
“現代によみがえったクラシック”たる「ボンネビル T120」を、これまたクラシカルなカフェレーサー風にモディファイしたのが「スラクストン1200」。1200ccの並列2気筒は、吸排気系にファインチューンを施して、ボンネビル比17psアップの最高出力97ps/6750rpmと、0.7kgm太い11.4kgmの最大トルクを4950rpmという低めの回転数で得ている。
スラクストンRは、スラクストン1200をシングルシート化して、さらに過激に仕上げた上級モデル。ショーワ製のビッグピストンフロントフォーク(倒立タイプ/フルアジャスタブル)、ブレンボ製モノブロックブレーキキャリパー(ダブルディスク)、オーリンズ製リアモノショックと、「銘品をそろえました」な豪華仕様。試乗車はロケットカウル(!?)を装着して、ますますやる気を見せる。810mmとやや高めのシートにまたがって、腰を伸ばし気味に低いハンドルバーを握る。「ザ・カフェレーサー」なポジションですね。
270度のクランク角を持つ2気筒は特徴的なビートを刻みながら、それでもどこかのんきな風情を漂わせてスラクストンRを走らせる。回転数でパワーを稼ぐというより、厚めのトルクでグイグイ押し出すタイプ。スロットルレスポンスのよさが、かえって「野趣あふれる」スラクストンRの個性を際立たせる。丁寧にグリップをひねり、真面目にバイクと向き合わないと、スムーズに走らない。
集中が必要なのは「曲がり」も同様で、しっかりフロントに荷重を移して、ライダーが意識的に姿勢を変えないと、これまたスムーズに曲がらない。一見さんにいかにも厳しいブリティッシュスポーツなのでした。
……と書くと、スラクストンRは頑固一徹な古典派のようだが、いや、たしかにそうした一面はあるけれど、一方でライド・バイ・ワイヤを採用し、3種類のドライブモードを備えるといった先進性も併せ持つ。姿カタチは昔のママで、でも、中身は最新のカフェレーサーが欲しい。そんな趣味人の理想を具体化したのが、スラクストンRなのだ。
(文=青木禎之/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。