開発の決め手は“カバー”にあり!?
「日産デイズ」の意外なこだわり
2019.05.17
デイリーコラム
軽では破格の新設計
日産初の自社開発軽自動車(以下、軽)である新型デイズを見て、いちばん驚いたのはステアリングホイールが“まるい”ことだった。
ステアリングがまるいのは当然と思うかもしれないが、e-POWERが好調な「ノート」やプロパイロットが売りの「セレナ」、そして同社の最新技術を満載した電気自動車「リーフ」など、最近の国内市場をリードする日産車のステアリングには円形ではないDカット型が共通して使われている。スズキやホンダの例を見ても分かるように、最近の軽のステアリングは、兄貴分のコンパクトカーと共用するのが一般的。それに“電動化”や“自動運転”などの日産最新技術を前面に押す新型デイズにとって、ノートやリーフと同じ血脈を感じさせるのはけっして損ではないと思われる。
しかも、新型デイズの円形ステアリングは既存の流用品ではなく、新規で起こされた部品である。そういえば、今から約20年前、来日直後でキレッキレだった時代のゴーンさんが「ステアリングだけで何百種類もある!」と当時の日産における無駄の象徴としてステアリングを取り上げていたことを思い出す。今の日産車は「もう少し遊んでよ」と逆にいいたくなる(?)効率的な設計だが、そんな日産がわざわざステアリングを新設計するくらいに、新型デイズは期待の新商品なのだろうか。
……といったことを日産の新型デイズ担当技術者にうかがうと「当初は共用化も想定しましたが、デイズの使われかたを徹底的に調べて、ステアリングは円形がいいと判断しました」と答えてくれた。
繰り返すが、新型デイズは日産が初めて自社で設計開発した軽である。「軽市場や軽ユーザーに直接触れたのは初体験でした」とは前出の担当技術者。日産ブランドの軽はこれまでもあったが、クルマ自体はスズキや三菱が供給してきた。日産に販売や企画の軽担当者はいたが、一台をゼロから考案する商品企画や技術者に軽を経験した人間はいなかった。新型デイズは、そんな日産の技術者たちが軽の世界を初めての目のあたりにした歴史的瞬間(笑)でもあった。
大事なユーザーの仰せとあらば……
軽ユーザーは必然的に女性や初心者が多く、新型デイズは「運転に苦手意識のある女性に扱いやすいクルマ」を最大テーマに開発された。これまでの日産にも女性ドライバーや初心者に対する知見はあったが、今回は軽特有のニーズが浮き彫りになり「目からウロコの連続」だったそうだ。その結果として、新型デイズではシート形状やペダルの位置や角度、ダッシュボードの奥行きとボンネット長の比率(が、女性の直感的な車両感覚に直結しているとか)などがあらためて見直された。
円形ステアリングもその一環である。「女性や初心者にDカット型は総じて不評でした」と担当技術者。開発チームはその最大理由を「理論的な操作性というより、これまで乗っていたクルマや自分が運転を覚えた教習車とちがうという違和感」と分析した。さらには「ステアリングカバーがつけられないという指摘もありました」という理由も加わって、新型デイズはステアリングの新設計に踏み切った。
なんと! ステアリングカバー!! ステアリングカバーといえばカー用品店やホームセンターで売られている手軽なドレスアップ商品だが、見るからに滑りやすいテカテカ表面やフェイクファー素材、そして分厚いクッションタイプなど、明らかに「これではクルマの反応が秒単位で遅れて危険なのでは?」といわざるをえないシロモノも存在する。
新車に装着されるステアリングホイールはその形状やサイズ、強度や剛性、重量バランス、そしてグリップの握り心地や摩擦係数を研究し尽くして設計されている。そしてクルマのシャシーはその純正ステアリングホイールで操ることを前提に、千分の何秒レベルの反応、あるいはそれを超えた“あうんの呼吸”のリニア感を追求して開発されている。そんな努力と技術の結晶を台無しにしかねないステアリングカバーなどは自動車メーカーが真っ先に否定すべき存在のはずだ。
ステアリングカバー恐るべし
しかし、じつは自動車メーカー技術者の口から“ステアリングカバー”という言葉を聞いたのは、個人的に今回が初めてではない。
あれは先代「スズキ・ワゴンR」の試乗会だったか。試乗後に、ある同業先輩氏とシャシー担当技術者の意見交換の場にたまたま同席した。先輩氏は開口一番「パワステ中立付近に不自然な引っかかりがある」と指摘。そういう部分の適応力が高くて許容範囲も広い(=鈍感ともいう)私なんぞは「いわれればそうかもしれないけど、特筆するほど気にならない」が本音だったが、先輩氏は「直進からの切りだしが不快。なんなのか?」と完全に詰問モードである。
その質問に対する先代ワゴンRシャシー担当技術者の回答は「それはもちろん意図的なチューニングであり、その理由はステアリングカバーを使っておられるお客さまから、まっすぐ走りにくいとの声があったから」というものだった。自動車メーカーも本心ではステアリングカバーなど否定したいだろうが、それなりに普及している現実がある以上、それに対応するのも彼らの責任ということか。自動車メーカーは大変である。
それにしても、恐るべし、ステアリングカバー!!! そんなこともあって、新型デイズの試乗後、あらためて近所のホームセンターをのぞいたら、相変わらずのシロモノも健在でありつつも、いかにも薄手で握りやすそうなスポーツタイプも登場していて、それなりに進化もしていた。最近のクルマはイジれる部分も減るいっぽうだし、スマホなどにもみられる日本特有の“なんでもカバーしたい国民性”を考えても、せめてステアリングカバーくらいは安全に共存共栄できる道はないのかな……と思ったりもした令和元年である。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎、webCG/編集=関 顕也)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ホンダがコンセプトモデル「アキュラ・ネクセラ ビジョン」を発表 次世代デザインを読み解くNEW 2026.9.3 本田技研工業の米国現地法人アメリカン・ホンダモーターが、アキュラブランドの次世代デザインを示すというコンセプトモデル「ネクセラ ビジョン」を初公開した。バタフライドアを採用するこのスポーツカーは、次世代アキュラの何を表現しているのか。
-
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い 2026.9.2 5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。
-
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの? 2026.8.31 自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。
-
酷評もされたBEVのフェラーリが4000万ドル!? 「ルーチェ」の初物に誰が、なぜ大金を出したのか? 2026.8.28 フェラーリ初の電気自動車として話題になった「ルーチェ」。その特別仕様の生産0号車が、米国内のカーオークションにおいて4000万ドル(約64億円)という衝撃価格で落札された。その背景について、事情に詳しい西川 淳がリポートする。
-
これが次世代アウディの源流 ハイブリッドスーパーカー「ヌヴォラーリ」に乗って気づき感じたことは? 2026.8.27 2026年6月に発表されたアウディのハイブリッドスーパーカー「ヌヴォラーリ」は、同ブランドの新しいデザインフィロソフィーを体現したモデル。個性的な内外装やこだわりのつくり込み、そしてステアリングを握った印象を米モントレーから報告する。
-
NEW
ホンダがコンセプトモデル「アキュラ・ネクセラ ビジョン」を発表 次世代デザインを読み解く
2026.9.3デイリーコラム本田技研工業の米国現地法人アメリカン・ホンダモーターが、アキュラブランドの次世代デザインを示すというコンセプトモデル「ネクセラ ビジョン」を初公開した。バタフライドアを採用するこのスポーツカーは、次世代アキュラの何を表現しているのか。 -
NEW
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(後編)
2026.9.3あの多田哲哉の自動車放談ワインディングロードで新型「BMW iX3」のステアリングを握った多田哲哉さんは、その走りに感心した様子。どんなところが優れているのか、トヨタのエンジニアの視点で語ってもらおう。 -
NEW
新型「三菱パジェロ」の外装・内装を写真でチェックする
2026.9.2画像・写真5年間のブランクを経て、三菱のフラッグシップSUV「パジェロ」がついに復活! 「グランドカリスマ -泰然自若-」をコンセプトにデザインされた本格クロスカントリーモデルは、どのような姿をしているのか? 内外装の詳細を、写真で紹介する。 -
NEW
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い
2026.9.2デイリーコラム5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。 -
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。




































