クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

第36回:日産デザインの明日はどっちだ?(後編) ―もう一度、輝くアナタが見たい―

2024.08.21 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!
有識者いわく、実は今でも「ホームラン級の傑作」を輩出することがあるという日産のカーデザイン。その実力はどのようなクルマに表れているのだろうか?
有識者いわく、実は今でも「ホームラン級の傑作」を輩出することがあるという日産のカーデザイン。その実力はどのようなクルマに表れているのだろうか?拡大

最近はあまり話題にならない日産のカーデザインだが、実は今でも、ホームラン級の傑作を出してはデザインチームの地力をうかがわせるという。では問題はどこにあるのか? 秘めたる能力を押さえつけている障害とは? 識者とともに日産デザインを考えた。

前編に戻る)

「Vモーショングリル」とは、日産のエンブレムとメッキなどのV字の装飾を組み合わせたグリルデザインのこと。写真は3代目「エクストレイル」のもの。
「Vモーショングリル」とは、日産のエンブレムとメッキなどのV字の装飾を組み合わせたグリルデザインのこと。写真は3代目「エクストレイル」のもの。拡大
初代「ジューク」の「Vモーショングリル」は、メッキ装飾とボンネットやバンパーとの間に関連性/連続性があるわけではなく、正直、「なんか付いてるね」という程度の印象しかなかった。
初代「ジューク」の「Vモーショングリル」は、メッキ装飾とボンネットやバンパーとの間に関連性/連続性があるわけではなく、正直、「なんか付いてるね」という程度の印象しかなかった。拡大
ちなみに、日産は正式に「このクルマでVモーショングリルを初採用!」と明言はしておらず、初代「ジューク」の当時のプレスリリースにもその記載はない。 
ほった「個人的には、『ウイングロード』あたりからその流れは始まっていたような気がするんですけどねぇ……」
ちなみに、日産は正式に「このクルマでVモーショングリルを初採用!」と明言はしておらず、初代「ジューク」の当時のプレスリリースにもその記載はない。 
	ほった「個人的には、『ウイングロード』あたりからその流れは始まっていたような気がするんですけどねぇ……」拡大
日産の報道資料をさかのぼると、初めて「Vモーション」なる言葉が出てきたのは、2013年のコンセプトカー「レゾナンス」発表の際だ。
日産の報道資料をさかのぼると、初めて「Vモーション」なる言葉が出てきたのは、2013年のコンセプトカー「レゾナンス」発表の際だ。拡大
2022年11月に発表された現行型「セレナ」。「デジタルVモーション」の起源はどう見てもこのクルマだが、当時はまだそうした固有名称はなく、プレスリリースにもデジタル~の名は記されていなかった。(写真:花村英典)
2022年11月に発表された現行型「セレナ」。「デジタルVモーション」の起源はどう見てもこのクルマだが、当時はまだそうした固有名称はなく、プレスリリースにもデジタル~の名は記されていなかった。(写真:花村英典)拡大

“Vモーション”から“デジタルVモーション”へ

清水草一(以下、清水):そういえば、「Vモーショングリル」も「ジューク」から始まっているんですよ。そういう意味でもジュークは、日産デザインにとって大きな節目だったんじゃないかと思います。

webCGほった(以下、ほった):Vモーショングリルですか……。

清水:当時、中村史郎さんが「今、こういう統一アイコンをやらないわけにいかないんだよ」っていう風におっしゃってました。14年前はどうしても必要だったと。それが今は「デジタルVモーショングリル」になりつつあるわけですが。

渕野健太郎(以下、渕野):Vモーショングリルもジュークが最初なんですね?

ほった:日産が公式にそう言っているわけじゃないですけどね。

渕野:正直、造形にそんなに絡んでなくて、最後に付け足したみたいな感じだったけど……。

清水:最初はこの程度だったということですね。

渕野:そのようですね。まぁとにかく、グリルの統一っていうのは確かに当時、流行(はや)りというか、そうしないといけないみたいな風潮がありました。三菱は「ダイナミックシールド」で、スバルは「ヘキサゴングリル」、日産はVモーションで、トヨタは「キーンルック」。みんななんとかしてブランド価値を上げようとしてましたね。

清水:それが今の日産デザインに、どちらかというとマイナスの重しをかけてるような気がしないでもないんですよ。このクルマのVモーショングリル最高! みたいに思ったことってないんだよねぇ。

渕野:そもそもVモーションって、途中でどんどん幅広くなっていったじゃないですか。

清水:太くでっかくしなきゃどうしようもない感じでしたから。BMWのキドニーグリル(参照)と同じで。

渕野:特にSUVはグリルの主張を強く見せないといけないっていうのがあるので、現行「エクストレイル」あたりも結構幅広くなってます。で、今度はデジタルVモーションっていうのが出てきたわけですけど……。これは個人的な見解ですけど、今のクルマの顔まわりのトレンドはグラデーションだと思うんですよ。

清水:はあ。

ホンダ フィットアリア の中古車webCG中古車検索

ラジエーターグリルは古くさい?

渕野:従来のカーデザインでは、ランプ、グリル、ボディーが明快に分かれていたんですけど、その境界線をグラデーションで曖昧にして、フロントマスクのグラフィックよりもボディー全体の塊感や立体感を強く出そうとしているんです。最近はほかのメーカーのクルマを見ても、(写真を見せつつ)例えばこれは「プジョー408」ですけど、グリルがグラデーション化してますよね。ルノーも最新の「セニック」なんかは、そんな感じです。最後のはレクサスですけど、「LM」をはじめ顔がグラデーション化しつつある。見ようによっては少し違和感がありますけど(笑)。

清水:どうしても昆虫化しますね。

渕野:なんでこれが流行ってるかというと、背景にあるのはEV(電気自動車)の普及かなと思うんです。EVはグリルがなくても構わない。穴が開いたグリル自体が、ちょっと古い印象になっている。EVが今のカーデザインのトレンドを引っ張っているので、デジタルVモーションもその延長線上にあるんじゃないかなと。

清水:ただ、そういうグラデーショングリルのなかで、デジタルVモーションが一番手抜き工事に見えるなぁ。

ほった:(各車の写真を見つつ)ですねぇ、こうして見ると。

渕野:「ノート」も変わりましたよね。「デイズ」も「デイズ ルークス」も。「キックス」もモデルチェンジするみたいだし、最近だと「ノート オーラ」も……。

ほった:オーラのはいただけませんね。

清水:ノート オーラ、改良前は好きだったんだけど……。

渕野:ノート オーラの場合、もしかしたらデザイナーの狙った見え方と少し乖離(かいり)があるのかなと思います。デザイン的にグリルの“くくり”が結構しっかりしてますよね。その中にボディー色のバーがポコポコっと3本入っているので、グリルとしてしっかり見せたいのかグラデーションで散らしたいのかが、ややどっち付かずになっている気がします。

清水:日産ディーラーでボディーが赤の新型ノート オーラを見たんですけど、そのポコポコが生焼けのカルビみたいで「げっ」と思いました。

グラデーションをつけるなどして、ボディーとフロントグリルの境をボカすデザインは、昨今のトレンドなのだ。写真は現行型「プジョー408」。
グラデーションをつけるなどして、ボディーとフロントグリルの境をボカすデザインは、昨今のトレンドなのだ。写真は現行型「プジョー408」。拡大
こちらは「ルノー・セニックE-TECHエレクトリック」。
こちらは「ルノー・セニックE-TECHエレクトリック」。拡大
日本勢では、レクサスの「LM」(写真)や「LBX」などがグラデーショングリルの最右翼だ。
日本勢では、レクサスの「LM」(写真)や「LBX」などがグラデーショングリルの最右翼だ。拡大
日産がはっきりと「デジタルVモーション」という言葉を使い出したのは、2023年4月発表の、「ルークス」のマイナーチェンジモデルから。
日産がはっきりと「デジタルVモーション」という言葉を使い出したのは、2023年4月発表の、「ルークス」のマイナーチェンジモデルから。拡大
「日産ノート オーラ」のマイナーチェンジモデル。
「日産ノート オーラ」のマイナーチェンジモデル。拡大

サラっとさせたかったの? クドくしたかったの?

ほった:うーん。なんというか、デサイナーさんもホントに「これがいい」と思ってデザインしたんですかね? 正直、大多数は改良前のほうがいいって言うと思うんだけど。スケッチを描いた段階で「……これはやめとこ」って思わなかったのかな?

清水:いや、昨今は第一印象が「げえっ!」くらいのほうが、だんだんカッコよく見えてったりするじゃない。……ノート オーラに限っては、改良前が懐かしいけど。

ほった:やっぱりそうじゃないですか。それに日産も、ノート オーラNISMOだけは、あんまりイメージを変えてないんですよ。

清水:ホントだ! こりゃ断然NISMOだね。

ほった:ニスモ……じゃなくて日産モータースポーツ&カスタマイズは慧眼(けいがん)でしたな。

渕野:自分もノート オーラは好きなクルマだったんです。小さな高級車的なコンセプトもいいですし、ノーマルのノートに対して少し幅広くした結果、プロポーションがよくなり、顔まわりもシンプルに構成されてましたから。

清水:ノーマルとは質感がかなり違いましたよね。

渕野:幅が30mm違うだけで、全然見え方が変わってますね。改良型は、もっと主張を強くしたかったのかな? 

清水:世の中、「トヨタ・ヤリス」みたいな毒虫デザインがバカ受けしてるから、日産も毒虫にしたくなったのかな。このカルビグリルだってウケるかもしれない。

渕野:ノート オーラの場合、グリルだけじゃなくて、ホイールとかでも細かいことをやってるんです。要は立体感よりもグラフィックで見せてるんですよ。それが今風な感じもするわけです。

ほった:さっきは「プジョーやレクサスはグラフィックよりボディー全体の立体感を見せようとしてる」って話でしたけど、ノート オーラは、ほかのグラデーショングリルのクルマとは意図が逆ってことですか?

渕野:立体感が強いと、結構くどくなったりもしますから。でも新しいノート オーラもさらっとは見えてない。こっちは「キャシュカイ」ですけど……。

ほった:ヨーロッパの。

清水:こっちのほうがスッキリしてていいな。

渕野:これも結構すごいグラフィックですけど。

ほった:俺はムリ(笑)。悪だくみしてるみたい。

清水:観察者の許容範囲が試されるね。日産のデザインには。

改良前の「ノート オーラ」(上)と改良後のノート オーラ(下)の比較。色をそろえたかったので、ともに「90周年記念車」の写真になってしました。読者の皆さまは、どちらがいいと思いますか?
改良前の「ノート オーラ」(上)と改良後のノート オーラ(下)の比較。色をそろえたかったので、ともに「90周年記念車」の写真になってしました。読者の皆さまは、どちらがいいと思いますか?拡大
渕野「『ノート オーラ』ではホイールでもかなり凝ったことをしているんですけど……」 
ほった「なんかもう、全体的に目がチカチカしますな」
渕野「『ノート オーラ』ではホイールでもかなり凝ったことをしているんですけど……」 
	ほった「なんかもう、全体的に目がチカチカしますな」拡大
マイナーチェンジ前の「ノート オーラ」のフロントマスク。細工の少ない、シンプルですっきりとした意匠をしていた。(写真:花村英典)
マイナーチェンジ前の「ノート オーラ」のフロントマスク。細工の少ない、シンプルですっきりとした意匠をしていた。(写真:花村英典)拡大
ちなみに、2024年7月に発売された「ノート オーラNISMO」には、「デジタルVモーション」は使われていない。
ちなみに、2024年7月に発売された「ノート オーラNISMO」には、「デジタルVモーション」は使われていない。拡大
日本未導入のコンパクトSUV「キャシュカイ」。 
清水「うーん。こっちのほうが新しい『ノート オーラ』よりスッキリして見えるなぁ」 
ほった「そうですか? 正直、どっこいどっこいな気がしますけど」
日本未導入のコンパクトSUV「キャシュカイ」。 
	清水「うーん。こっちのほうが新しい『ノート オーラ』よりスッキリして見えるなぁ」 
	ほった「そうですか? 正直、どっこいどっこいな気がしますけど」拡大

現行の国産車で随一といえる「アリア」のデザイン

清水:それより問題は、ノーマルのノートがだいぶ安っぽくなっちゃったことだよ。

渕野:マイチェン後のノートは、グリルとボディー色の境目のところにグラデーションを入れようとしてますけど、これもあまり効果的には見えてないですね。カーデザインにグラデーションを取り入れるのは、結構難しいんだなって思いました。

清水:というか、これはグラデーションが粗すぎますよ。

ほった:ワタシなんか、単純にクラデーションなんかやめちまえよって思うんですが。

清水:新しいものを全否定したらダメじゃんか!

ほった:大丈夫ですよ。ワタシ一人がどうこう言ったって世の流れは変わりゃしません。グラデーショングリルは広まって、しまいにゃ「アリア」もデジタル顔になるんでしょうから。

清水:……なんか、それはヤだな。

渕野:アリアといえば、先ほど「歴代日本車のデザインで1位は?」って話がありましたけど(参照)、現行車に限れば自分はアリアが1位だと思います。

全員:おおー!

渕野:自分はすごく好きなんです。「マツダ3」とどっちが上か? っていう感じですけど、マツダ3よりもアリアのほうが先進性がある。

清水:僕もVモーションのなかではアリアが一番かな。スッキリサワヤカで。

ほった:これがオーラみたいにマイナーチェンジしたら、大変なことになりますよ(全員笑)。

渕野:そうなる可能性もありますけど……。

2023年11月に発表された「ノート」のマイナーチェンジモデル。
2023年11月に発表された「ノート」のマイナーチェンジモデル。拡大
マイナーチェンジ後の「ノート」では、グリルの両脇にグリルバーやスリットと連続性を持たせた模様を入れることで、グラデーション効果を持たせようとしていたが……。その効果はイマイチだ。
マイナーチェンジ後の「ノート」では、グリルの両脇にグリルバーやスリットと連続性を持たせた模様を入れることで、グラデーション効果を持たせようとしていたが……。その効果はイマイチだ。拡大
2021年に発表されたクロスオーバータイプのEV「アリア」。日産渾身(こんしん)の一台であり、今日における“技術の日産”を象徴するモデルだ。
2021年に発表されたクロスオーバータイプのEV「アリア」。日産渾身(こんしん)の一台であり、今日における“技術の日産”を象徴するモデルだ。拡大
「アリア」のフロントマスクはすっきりとしたシンプルな意匠。Vモーションの表現も、逆台形のダミーグリルと左右のシグネチャーランプで、控えめな表現となっている。 
ほった「このご尊顔が『デジタルVモーション』でガシャガシャになったら、目も当てられませんよ」
「アリア」のフロントマスクはすっきりとしたシンプルな意匠。Vモーションの表現も、逆台形のダミーグリルと左右のシグネチャーランプで、控えめな表現となっている。 
	ほった「このご尊顔が『デジタルVモーション』でガシャガシャになったら、目も当てられませんよ」拡大

このデザインはホームラン級

清水:アリアのデザインって、具体的にはどこがそんなに評価が高いんですか?

渕野:このクルマは、まずプロポーションがすごくいいんです。それに、サイドの造形なんかもかなり凝ってるんだけど、コテコテしてないように見えるでしょう。一見シンプルに見えながら、実はすごく凝ってるところが日産らしいんですよ。2代目「キューブ」的な引き算のデザインっていうか。

トヨタだったら、もっと明快に立体構成を表現すると思うんです。例えばこれは「レクサスNX」ですけど、アリアとドアの雰囲気が全然違う。実際には、リアタイヤにかかるリフレクションの流れなどは、割と近い感覚でやってるんです。でもNXが、キャラクターラインを面のピークにそろえて、後ろのほうでキックアップさせてるのに対して、アリアはライン自体はまったくシンプルにして、ボリュームの付け方で全然違う表現にしている。どっちが正解という話ではないんですけど、アリアは凝ってるけれどシンプルに見える。それがこのクルマのキモでしょう。

清水:うーん、凝ってること自体わかりませんでした(笑)。

渕野:インテリアもすーごくいいんですよ。全体の造形だけじゃなくて、CMF……カラー・マテリアル・フィニッシュの略ですけど、そのセンスがいい。カッパー(銅色)の加飾が入ってるじゃないですか。カーデザインでは数年前からカッパーが流行ってるんですけど、自分はそれに違和感があったんです。それまでシルバーだった部分をカッパーに代えただけって場合が多くて、収まりが悪かったんですよ。でもアリアを見て、初めて「これはカッパーで正解だな」って思いました。まわりの色味とカッパーの使われ方がすごくいい。あとは表示系ですよね。そういうのが一体になって魅力が出てます。日産って、たまにこういうホームラン級のデザインを出してくるんですよ。

清水:アリアはホームラン級のデザインなんですね。でもそれが生産すらまともにできなくて、結局ほとんど、街で見かけない。

ほった:コロナ禍と半導体不足だけじゃなくて、生産設備のトラブルまで重なったらしいですね。発売が遅れたうえに発売直後に受注停止で、販売再開は今年(2024年)の3月でしたっけ? マジでもったいない話ですよ。

「アリア」のデザインの特徴といえば、まず挙げるべきはプロポーションのよさ。 
ほった「渕野さんがいつも気にしている、タイヤに対するボディーの収まりもいいですね。この角度だと、ボディーのラインとタイヤのラインがほぼ一筆書きで、オーバーハングの存在を感じない」
「アリア」のデザインの特徴といえば、まず挙げるべきはプロポーションのよさ。 
	ほった「渕野さんがいつも気にしている、タイヤに対するボディーの収まりもいいですね。この角度だと、ボディーのラインとタイヤのラインがほぼ一筆書きで、オーバーハングの存在を感じない」拡大
「日産アリア」(上)と「レクサスNX」(下)の比較。ドアに映る陰影を見ると、ともにリアタイヤにかかるような“後ろ下がり”のリフレクションが表れているいっぽうで、アリアはおおらかな面の変化によるボリューム感で、NXはパキパキとしたキャラクターラインで、それぞれに異なる表情を実現している。(写真<下>:花村英典)
「日産アリア」(上)と「レクサスNX」(下)の比較。ドアに映る陰影を見ると、ともにリアタイヤにかかるような“後ろ下がり”のリフレクションが表れているいっぽうで、アリアはおおらかな面の変化によるボリューム感で、NXはパキパキとしたキャラクターラインで、それぞれに異なる表情を実現している。(写真<下>:花村英典)拡大
インテリアでは、ダッシュボードのエアコンルーバーなど各所にカッパーの装飾を採用。他の箇所の繊細妙味な色味もあって、それが実に自然に収まっている。(写真:向後一宏)
インテリアでは、ダッシュボードのエアコンルーバーなど各所にカッパーの装飾を採用。他の箇所の繊細妙味な色味もあって、それが実に自然に収まっている。(写真:向後一宏)拡大
空調のコントロールパネルは木目調のダッシュボードと一体化しており、車両を起動するとアイコンが浮かび上がる。操作性も考慮しており、ハプティクス機能付きで押した際にはちゃんと“手応え”がある。
空調のコントロールパネルは木目調のダッシュボードと一体化しており、車両を起動するとアイコンが浮かび上がる。操作性も考慮しており、ハプティクス機能付きで押した際にはちゃんと“手応え”がある。拡大

ポテンシャルは高いのに……

ほった:日産全体の話に戻るんですけど、単発でアリアとか評価の高いクルマはあるけど、総じてはどうなんでしょう?

渕野:それについては……デザインって、経営のよしあしが如実に出る分野だと思うんです。

清水:ふーむ。

渕野:一般論ですけど、経営が悪くなればなるほど、外からの注文が多くなる。「こうしてくれ、ああしてくれ」っていうのが増えて、デザイナーの自由度がどんどんなくなっていく。

清水:縛られてダメになっていくわけですね。

渕野:今の日産の事情はわかんないけど、やっぱり業績が上向きでイケイケの会社のほうが、デザインもいいものが出てくるじゃないですか。日産も中村史郎さんのときは、バックにカルロス・ゴーンという強力なリーダーがいた。そういうのがあると、やっぱり強いですよ。

ほった:なるほど。じゃあ日産の今のモヤモヤは、経営というかガバナンスが落ち着くまでしばらく続きそうなんですね。

清水:今、リーダーシップが強い感じはないもんね。

渕野:なんかちょっと大きな話になっちゃいましたけど(笑)、はたから見ると、そういう気がします。

清水:とはいえ、今の日産はラインナップをめちゃめちゃ整理したので、少数精鋭になって、箸にも棒にもかからないデザインのクルマは残ってないと思うんですよ。

渕野:そうですね。アリアと同じような流れで「サクラ」があるじゃないですか。あれもシルエットはコンサバですけど、顔まわりや内装がめっちゃいい。

清水:サクラを見ると、日産ってこんなにセンスよかったの!? って思いますね。

渕野:センスいいんですよ。日産は国内のメーカーのなかで一番デザイナーっぽい、クリエイターっぽい人がいるイメージです。本拠地も神奈川県ですし。

清水:デザインセンターは厚木の奥地ですけど……。

ほった:本社のある横浜はともかく、あそこらへんにオシャなイメージはないですね(笑)。

渕野:とはいえ、こういうホームランを見ると、感度が高い人が集まっているのは事実だと思います。それが発揮しきれてないのかもしれない。

清水:ポテンシャルはもっと高いわけですね。

渕野:すごくそう思います。

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=日産自動車、ルノー、トヨタ自動車、花村英典、向後一宏/編集=堀田剛資)

国内外で高い評価を受けている「アリア」のデザイン。2022年には、世界最大級のデザイン賞のひとつである、ドイツの「レッド・ドット・デザイン賞(プロダクトデザインカテゴリー)」を受賞している。ちなみに、日産が同賞を受賞するのは7度目のこと。
国内外で高い評価を受けている「アリア」のデザイン。2022年には、世界最大級のデザイン賞のひとつである、ドイツの「レッド・ドット・デザイン賞(プロダクトデザインカテゴリー)」を受賞している。ちなみに、日産が同賞を受賞するのは7度目のこと。拡大
清水「日産もずいぶん車種を整理して、ダメデザインのクルマはなくなったと思うんだよ」 
ほった「『ラティオ』とかですか?」 
清水「そうそう! こういうやつ。いずれ“愛すべきダメダメデザインカー”というテーマもやってみたいねぇ」
清水「日産もずいぶん車種を整理して、ダメデザインのクルマはなくなったと思うんだよ」 
	ほった「『ラティオ』とかですか?」 
	清水「そうそう! こういうやつ。いずれ“愛すべきダメダメデザインカー”というテーマもやってみたいねぇ」拡大
2022年5月に発表されたEVの軽ハイトワゴン「サクラ」。水引に着想を得たというアルミホイールや、四季の彩りをモチーフにしたという4種類のツートンカラーなど、その意匠は和のテイストを取り入れたものだった。
2022年5月に発表されたEVの軽ハイトワゴン「サクラ」。水引に着想を得たというアルミホイールや、四季の彩りをモチーフにしたという4種類のツートンカラーなど、その意匠は和のテイストを取り入れたものだった。拡大
「アリア」同様、カッパーのアクセントが目を引くインテリア。内装色にはブラック(写真)とベージュのほか、ブラックを基調にベージュのシートを組み合わせた「プレミアムインテリア」も用意される。
「アリア」同様、カッパーのアクセントが目を引くインテリア。内装色にはブラック(写真)とベージュのほか、ブラックを基調にベージュのシートを組み合わせた「プレミアムインテリア」も用意される。拡大
神奈川・厚木の日産テクニカルセンター内に位置するグローバルデザインセンター。日産はこのほかにも、米サンディエゴや中国・上海、英ロンドン、ブラジル・サンパウロにデザインセンターを持っている。
神奈川・厚木の日産テクニカルセンター内に位置するグローバルデザインセンター。日産はこのほかにも、米サンディエゴや中国・上海、英ロンドン、ブラジル・サンパウロにデザインセンターを持っている。拡大
その道のプロから見ても、非常に高い実力とセンスを備えているという日産のカーデザインチーム。その力がいかんなく発揮され、デザインのよいクルマがバンバン輩出される日がくるのを期待して待ちましょう。
その道のプロから見ても、非常に高い実力とセンスを備えているという日産のカーデザインチーム。その力がいかんなく発揮され、デザインのよいクルマがバンバン輩出される日がくるのを期待して待ちましょう。拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

カーデザイン曼荼羅の新着記事
カーデザイン曼荼羅の記事をもっとみる
関連キーワード
関連サービス(価格.com)
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。