第1回:恵まれたクラシックカーの条件
幸運の黄色いエステート 2019.05.29 クラシックボルボ21世紀を駆ける ボルボ・カー・ジャパンの中にあって、古いクルマのレストアやメンテナンスなどのサービスを担う「クラシックガレージ」。彼らが再生した「ボルボP1800ES」を題材に、「クラシックカー趣味の入門に好適」とされるボルボの“クラシックカー事情”を紹介する。徹底した“安全思想”の副産物
長らく居残っていた余寒も去り、春らしい日和となった2019年5月17日。この日、横浜で始まった「クラシックジャパンラリー2019」に、イエローのボディーも鮮やかなボルボP1800ESの姿があった。ステアリングを握るのは。ボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長。このクルマは、ボルボ・カー・ジャパン直轄のプロジェクトであるクラシックガレージが、かつて自分たちの先達(せんだつ)が輸入販売した個体をリフレッシュしたものなのだ。
ヤナセ傘下の北欧自動車が、ボルボの輸入を始めたのは1960年のこと。「PV544」が主力モデルだった頃の話だ。その後、1974年に帝人ボルボが輸入代理店の権利を譲り受け、1986年には本社100%出資の日本法人が発足。今に至っている。
間もなく60年になろうとする日本での歴史の中で販売された個体の中には、今も現役で稼働しているものも多い。大きな要因となっているのはボディーのヤレの小ささだろう。その堅牢(けんろう)さはパッシブセーフティーの高さをうたってきたボルボにとって必然ではあったわけだが、それが結果として味落ちの少なさにもつながっている。単純な話に思われるかもしれないが、古いボルボに触れるほどにそれが実感として伝わってくるのだ。とはいえ、それ以外のところはもちろん他のクルマと変わらないわけで、順調に経年劣化が襲ってくることになる。
ただし、ボルボでは古いモデルの部品が多くラインナップされており、入手は難しくないという。もちろんすべてが当時物の完全純正というわけではなく、中には再販品やリビルト品、サードパーティーものも含まれるが、そのぶん価格も抑えられており、クラシックの入門にも向いているというのだ。
全国のディーラーからクラシックカーの情報が届く
現在、ボルボ・クラシックガレージでは1998年以前のモデル、すなわち「900」系以前のFR系モデルを対象に修理やレストアの対応を行うほか、全国のボルボディーラーのネットワークを通じて入手した古いモデルを徹底的にリフレッシュした上での販売も手がけている。担当の阿部昭男さんは帝人時代からボルボ一筋、日本のボルボの歴史の半分以上を内側から見続けてきた方だ。
今回取材したP1800ESは、1973年に北欧自動車を通して日本に入ってきた正規輸入車で、走行は12万km余の2オーナー車両だ。前オーナーの元では機関は実働状態が保たれていたが、ボディーの腐食が進むなど手を施さなければ維持が難しい状態だったという。
「このまま廃車になるのは忍びないということで、われわれにお声がけいただきました。おかげさまでそういう話が全国のディーラーさんやネットワークを通じて入ってきます。ボルボはユーザーさんに恵まれていることもあってか、年式の割には程度のいい個体も多いんじゃないでしょうか。このP1800ESにしても、海に近い街にいましたからサビは進んでいましたが、それ以外は素性のいいものでした」
ちなみに阿部さんによると、P1800ESの正規輸入車で現在も登録が抹消されていないのは20台。並行輸入車を含めても、恐らく日本で稼働している個体は30台あるかないかだろうという。8078台という総生産台数に対してはかなり小さな数字だが、当時は恐らくこのシューティングブレーク的なコンセプトに共感する、こじらせたクルマ好きも少なかったのだろう。
「P1800」のレストアは今が好機
このP1800ESは、ボディーが板金再塗装で完全にリフレッシュされた上、スチール製の燃料タンクも新品に交換。サビとの決別を図った上で、エンジンはオーバーホール、トランスミッションは掃除と調整、足まわりはブッシュ類やマウント類の交換とブレーキのオーバーホールと、機関系もひと通りのリフレッシュを受けている。内装で目を引くのはおろしたてのダッシュボードだが、こういった走行機能に関係のない部位も新品が手に入るということに感心させられる。
「いま、P1800系は再生産の部品も割と出そろっていて、レストアするにはいい状況にあるんですよ。海外のオーナーさんの中には、自分で部品を入手してコツコツ仕上げたりされる方もいらっしゃいますね」
古いクルマの部品需要を読むことはさすがに難しい。3Dプリンターの活用など以前に比べると生産の小回りは利くようになったとはいえ、ものによっては受注が一定数たまったところで生産に取りかかるものもある。P1800系は今、調達のタイミング的にちょうどいいところにいるというわけだ。ちなみにP1800系に関して、現在手に入らない部品はボディーサイドやショルダーの金属製デコレーショントリムくらいとのことだ。部品が手に入りやすく、丈夫で、過去のオーナーに大切にされてきた個体が多い。クラシックボルボには、手をかければ応えてくれる条件がそろっている。(後編へ続く)
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸、ボルボ・カー・ジャパン/編集=堀田剛資)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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第2回:「ボルボP1800ES」の走りを試す 2019.5.30 ボルボ・クラシックガレージがレストアを手がけた1973年型「P1800ES」に試乗。車体の隅々まで手がかけられたクラシックカーは、時代を経たクルマだけが持ち合わせる走り味と、インポーターの手によるサービスならではの安心感を併せ持つ稀有(けう)な存在だった。
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