「王道」に挑むのは「SUV風」と「未来顔」
軽自動車の“カスタム顔”バトルが新時代に突入!
2019.06.19
デイリーコラム
はじまりは1997年
先日、「三菱eKクロス」の試乗記を書いた。タイトルは「カスタム顔に飽きたなら」である。これが通用してしまうのは、“カスタム顔”という言葉が広まって一般的になっているということなのだろう。軽自動車のハイトワゴン、スーパーハイトワゴンでは、内外装をスポーティーにドレスアップしたモデルをカスタムと呼ぶことが多い。実際に、グレード名となっていることもあるのだ。
初めてグレード名として採用したのは、「ダイハツ・ムーヴ」らしい。1997年5月のマイナーチェンジで追加された。「スズキ・ワゴンR」の後発となるだけに、独自性を発揮する必要があったのだろう。2003年に発売された「ダイハツ・タント」にも、2005年からカスタムモデルが加わっている。それ以来ムーヴとタントには常にカスタムシリーズがラインナップされているのだ。優しげな標準車に比べ、カスタムはいかつい顔を持つ。押し出しの強いルックスを好む層から人気となり、標準車をしのぐ売り上げを示すようになっていった。
「ホンダN-BOX」は2011年のデビューから標準車とカスタムをそろえていた。スズキの場合、ワゴンRは標準車と「スティングレー」だが、「スペーシア」にはカスタムがある。ひとごとながら心配になるのだが、商標の問題は大丈夫なのだろうか。そういうところにはうるさい業界なのだ。「ポルシェ911」は当初「901」として発表されたのに、3桁数字の真ん中が“0”のモデル名を登録していたプジョーから横ヤリが入って変更を余儀なくされていたではないか。
売れすぎて“カスタムかぶり”が発生
カスタムというのは普通名詞だから、登録はできないのかもしれない。歴史をさかのぼれば、1953年にトヨタが「トヨペット・カストム」というモデルを発売している。新開発のR型エンジンを搭載した乗用車「トヨペット・スーパー」の売れ行きがよくて製造が追いつかず、従来のS型エンジンを利用したモデルを仕立てるという苦肉の策だったようだ。要するに廉価版で、現在のカスタムモデルとは成り立ちが違う。
「Custom」という言葉は“注文の”とか“あつらえの”という意味だから、量販モデルにはそぐわない気がする。好みに合わせて作り変えることを示す「Customize」から来ているのだろう。カスタマイズされたクルマとは、簡単に言えば改造車だ。ヤンチャな人が乗るイメージだから、不良っぽい語感がある。他人とは違う自分仕様という匂いもするから、人気となったのはよくわかる。
ただ、標準車よりも売れ筋になってしまったのがマズかった。イオンモールで買い物をして駐車場に帰ってくると同じクルマが横に並んでいた、という好ましくない事態が各地で発生しているだろう。カスタムのほうが普通になってしまったのだ。他人とは違うクルマに乗りたいという欲求をかなえるには、別な道を探る必要がある。2014年に発売された「スズキ・ハスラー」が売り上げを伸ばしたのは、標準車もカスタムもイヤというユーザーが一定数いたからに違いない。しかも流行のSUV風スタイルなのだから、目立つにはもってこいだ。
独自の道を探るホンダ
2018年末に登場した、同じスズキの「スペーシア ギア」も、SUVライクな内外装を持つ。スーパーハイトワゴンだから、ハスラーでは狭いと考えるユーザーにとっては魅力的な選択肢となる。とりたてて悪路走破性が高いわけではないが、アウトドア気分にはひたれる。トレンドを踏まえたマーケティングから生まれたクルマなのだ。
冒頭で触れたeKクロスも、同じ流れである。先代モデルは「eKワゴン」と「eKカスタム」の2本立てだったのに、カスタムを捨ててSUVに路線変更したのだ。三菱が掲げる「ダイナミックシールド」というデザインコンセプトは「デリカD:5」では散々けなされたのに、eKクロスは評判がいい。煮詰まり感がある軽自動車の世界では、少々アクが強くても違いを見せられれば成功なのだ。
ホンダは異なる道を選んだようだ。7月に発売予定の新型「N-WGN」は、公開された写真を見る限りではシンプルなデザインである。標準車がそっけないフォルムなのはともかく、カスタムにも装飾的なディテールはない。威圧するようなフロントマスクも影を潜め、無機質で未来的な印象を与える。N-BOXカスタムがこれでもかといういかつい顔つきなので、陰に隠れた存在だったN-WGNはあえて逆張りをしてきたのかもしれない。
王道を行くタントカスタム
ホンダには軽自動車にトラウマがあるはずだ。「ライフ」の派生モデル「ダンク」はスポーティーなルックスが好評で、女子人気も高かった。当時北海道・鷹栖のテストコースで試乗会があり、仕事の後にホンダスタッフと飲みに行ったことがある。身分を隠してお店の女性に好きなクルマを聞いたところ、声を合わせて「ダンク!」という答えが返ってきた。しかし、2003年にフルモデルチェンジを受けた新型ライフは、“女の子らしさ”を狙った丸っこいスタイルに(ダンクは消滅)。ボディーカラーは「バニラ」「マッチャ」「カラメル」といったかわいらしい名前が付けられていた。販売は一気に下降線をたどったのである。
ホンダとは対照的に、新型タントカスタムはこれまでどおりのゴリゴリのカスタム顔。少しばかり都会的な色がついたものの、アグレッシブな表情は変えていない。カスタムの元祖としては意地がある。これからも王道を突き進むという決意表明なのだろう。プラットフォームとエンジンを同時に一新するという大がかりなモデルチェンジだが、外観はキープコンセプトだ。
2016年に「トヨタ・エスティマ」のマイナーチェンジがあった時にトヨタのスタッフに話を聞いたら、販売台数の4割が東京や神奈川などの南関東だと言っていた。北関東で売れるのは、「ノア/ヴォクシー」なのである。メッキで飾った立派な意匠が好まれるらしい。軽自動車は、どうなんだろう。保守派のタントが強みを見せるのか、SUV派のスズキと三菱が正しく未来を見極めているのか、はたまた孤高のホンダが勝利をつかむのか。自分で買うわけではないのに、これからはじまる夏の陣が楽しみでならない。
(文=鈴木真人/写真=三菱自動車、スズキ、ダイハツ工業、本田技研工業/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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