ダーティハリーと名古屋章が夢の競演!?
波乱ムードが漂う日産の定時株主総会に潜入
2019.07.03
デイリーコラム
つまらない議案だと思っていたが……
株主総会に出席するなんて、最初で最後だと思っていた。4月8日に行われた日産の臨時株主総会は、取締役だったカルロス・ゴーン氏とグレッグ・ケリー氏の解任が議案だったからのぞいてみようと思ったのだ。今回の議案は剰余金の処分と定款一部変更、そして取締役選任と、至って地味である。シャンシャン大会に出てもつまらないと思っていたら、6月12日に筆頭株主のルノーが、投票を棄権する意向であると報じられた。43%の株を保有するルノーが棄権すれば、議案は否決されてしまう。
地味どころか、定款一部変更というのは日産のガバナンス改革で核となる重要議案だった。指名委員会等設置会社への移行に伴って「指名」「報酬」「監査」の3つの委員会を新設し、社外取締役による経営監視を強めることを目指す。日産の案ではルノーのジャン=ドミニク・スナール会長を指名委員会の委員とすることになっていたが、ティエリー・ボロレCEOのポストがない。反発したルノーは、ボロレ氏も委員にしろとねじ込んだのだ。
日産は、報酬委員会や監査委員会にルノーの取締役が入るのはガバナンス改革にそぐわないと考えている。ルノーとすれば、自分たちが外されるのは影響力をそぐ意図だと感じてしまう。水面下で駆け引きが行われ、6月20日の深夜になってようやくルノーが棄権撤回を表明。ボロレ氏を監査委員にすることで妥協が成立したのだ。一件落着ではあるが、日産とルノーの間に溝があることは明らか。FCAとの経営統合騒動のドタバタもあり、株主総会は一波乱ありそうな空気が漂っていた。
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“お辞儀3秒”でいよいよスタート
前回は新高輪プリンスホテルの飛天で行われたが、今回はパシフィコ横浜。日産グローバル本社のお膝元である。入場待ちの列で隣になったのは元日産社員。生産技術担当で、510型「ブルーバード」などを手がけたそうだ。いろいろ言いたいことがあるようで、「ゴーンは最初からあやしいと思っていた」「彼は資産を売っぱらっただけ」と手厳しい。でも、日産の将来に関しては、「技術があるから心配していない」とのこと。引退してもなお愛社精神は盛んである。
定刻になり、西川廣人社長が登場。開場から薄い拍手で迎えられる。最初にステージ上の全員が起立して“お辞儀3秒”。不祥事の後は、こうするのが定番の儀式だ。キョトキョトしながらスナール氏も頭を下げる。今のところ、日産とルノーの協業はうまくいっているようだ。
西川社長は日本で「ノート」と「セレナ」が好調ではあるものの、欧米での販売が芳しくないと率直に話す。主力モデルがライフの末期を迎えていることも理由であるとしながら、北米での値引き販売が負のスパイラルをもたらしたことを認めた。ガバナンス改革や組織改革、事業改革を推し進め、2022年までにコアモデルを20以上リリースすると宣言。ルノーとのアライアンスに関して準備段階で心配をかけたことを謝罪し、現在はルノーの理解と協力を得て日産の業績回復を最優先すると明言した。
クルマはわくわく、ビジネスはひやひや
いよいよ質疑である。前回は開場前から大声を上げる人がいてざわついたが、何事もなく議事は進行。不謹慎だが、ちょっとガッカリした。「ゴーンは泥棒、詐欺師の顔」とまくしたてたあの人は来ていないようなのだ。会場を爆笑させたスター株主である。その時「スナールは人が良さそうだからいい!」とも発言していたが、直近の展開を見て恥ずかしくなったのかもしれない。
退屈な総会になるのではないかという不安は、最初の質問で払拭(ふっしょく)された。友人が日産財団にいるという株主が、その友人がパワハラを受けていると告発したのだ。いきなりの変化球である。会場近くには争議解決を訴えて横断幕を掲げる人もいたし、アライアンス以外にもいろいろ苦労がありそうだ。
2番目の質問者は、「日産のクルマはわくわく感があるが、ビジネスにはひやひや感しかない」と言って笑いを取る。しかし、延々と持論を述べ立てたため会場から「長すぎるぞ!」とヤジが飛ぶことに。3番目の元社員も長広舌で、「塙さんには感謝している」「ゴーン体制で素晴らしい実績を残した」などと話していると、会場からまたもやヤジが。すぐさま「ウルセエ!」と返し、不規則発言が飛び交って騒然となった。
議案に対して修正案を提出する株主もいた。西川社長は冷静に「後ほど採決します」と受け流す。盛り上がったのは、スナール氏について批判的な発言があった時だ。「前の総会で“スナールは人が良さそう” と言っていた人がいたが、フランス人は狡猾(こうかつ)。FCAの件でも突然態度を変えたのは背信行為だ!」と叫ぶと会場から大きな拍手が起きる。さらに「日本人を脅して言うことを聞かせるというのが欧米のやり方だ。西川さんに日産を他の企業、他国に売り渡さないという覚悟はあるか?」とただした。
西川社長はここでも冷静で「日産は日産でブレはない。売り渡すなどということは一切ありません。もし利害が対立すれば、スナールさんには議論から外れてもらうことになっている」となだめにかかる。続いて、スナール氏が答弁に立ったのだった。
ダーティハリーVS名古屋章
「4月から私は変わっていません。もし変わったように見えるのなら、アポロジャイズ(謝罪)します。私は会長になる権利があったが諦めました。全力を尽くしてアライアンス強化に努めています。FCAとのアライアンスは日産にもメリットがあり、合併の話がつぶれてライバルは大喜びしています。私は日産の新しいガバナンス体制に反対していませんし、まったく悪い意図はありません」
いつもの柔和な笑顔で疑念を晴らそうとした。それでも納得しない株主もいて、質問に立つと「スナールさん、ボレロさん(ボロレ氏?)、ロジャーさん、ハウスさん、いるのなら立って顔を見せなさい」とカマす。さすがにマズいと思った西川社長が「いらっしゃいますので、立たずにそのままで……」と収めたが、質問者は再度ルノー側の名前を挙げて「この中にはいいクルマをつくろうとしている人はいないと思います。日産の改革にルノーが反対している。西川社長ガンバってください。議案は承認いたしません!」と締めた。
西川社長の解任動議まで飛び出したが、議案としては取り上げられずじまい。日産の利益はトヨタの8分の1なのだから、西川社長は豊田章男社長の年俸3億9000万円の8分の1に減額するべきだ、などの提案もあったが、採決の結果、会社提案の決議事項がすべて承認された。ルノーの意向に反する結果が出るはずはない。会場全員の持ち株を合わせても、ルノーの持つ43%には届かないのだ。
ステージ上のスナール氏を見ていて、あらためてクリント・イーストウッドに似ていると思った。対する西川社長は、名古屋章といったところ。人情刑事役の多かった名脇役である。44マグナムをぶっ放すハリー・キャラハンと渡り合うのはしんどそうだ。議案が拍手で承認された瞬間、スナール氏が「Go ahead, make my day.」とつぶやいたように見えたのは錯覚だろうか。
(文=鈴木真人/写真=日産自動車、鈴木真人/編集=藤沢 勝)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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