アウディデザインのキーマンに聞いた!
“温故知新”のこだわり4つのポイント
2019.07.10
デイリーコラム
「シングルフレームグリル」の起源は日本人デザイナー
アウディ ジャパンは2019年7月3日、東京都現代美術館でSUV「Q」シリーズのフラッグシップモデルとなる「Q8」を発表した。
アウディにとって「8」は、重要な意味をもつ数字だ。セダンの「A8」にスポーツカーの「R8」、そしてQ8と、トップエンドモデルであることを意味している。そして、昨年発表された新型A8がセダンの、Q8がSUVの、今後のアウディデザインの礎となるものだ。
ここで少しアウディデザインの歴史について振り返ってみる。近年で最もエポックな出来事は2005年に登場した3代目「A6」で初めて採用された「シングルフレームグリル」の誕生だ。ちなみにこのA6のエクステリアデザインを担当したのは、当時独アウディに在籍していた日本人デザイナーの和田 智氏だった。このシングルフレームグリルは、アウディのキーデザインのひとつとして四角い台形から六角形や八角形へと変化しながら現代に受け継がれている。
社長が替われば会社が変わるように、編集長が替われば誌面が変わるように、自動車のデザインが変化するきっかけは、デザイン部門のトップの交代とリンクしている。
このシングルフレームグリルが誕生した当時、アウディのデザイン部門のトップを務めていたのが、自動車デザイン界ではつとに有名なワルター・デ・シルヴァ氏だった。氏はアウディをはじめ、ランボルギーニやセアトのデザインも統括。のちにフォルクスワーゲン(VW)グループ全体のデザイン責任者となった。そののち、2007年にアウディのデザイン部門のトップを引き継いだのが、ヴォルフガング・エッガー氏だ。アルファ・ロメオのチーフデザイナーとして「156」「166」「147」「8Cコンペティツィオーネ」などを手がけたことで知られており、現在は中国BYDのデザインヘッドを務めている。
そして、2014年から現在までアウディのデザインヘッドを務めているのがマーク・リヒテ氏だ。VWでキャリアをスタートし、「ゴルフ」(5、6、7世代)や「パサート」「トゥアレグ」「アルテオン」などのプロダクションモデルを手がけてきた。これらのモデルの姿かたちに鑑みれば現在のアウディにつながるクリーンで先進的なデザインを得意とする人物であることは容易に想像がつくだろう。
2014年11月にリヒテ氏は、アウディのこれからの方向性を示す「アウディ・プロローグ」というコンセプトカーを発表。いまあらためて見てみると、このコンセプトには、新型A8をはじめ「A7」やA6などに用いられたデザインエッセンスが込められていることがわかる。
単なる「Q7」のクーペ版ではない
新型Q8の国内発表に際し、エクステリアデザインのプロジェクトリーダーを務めたフランク・ランバーティ氏が来日した。氏は初代R8(ロードカー)や、ルマンのLMP1マシン(R8や「R10」「R15」)、さらに現行の「A4」や「A5」、そして「アイコン コンセプト」などにいたるまで幅広く手がけるアウディを代表するデザイナーの1人であり、デザインヘッドの交代による変化を最も身近に感じてきた人物だ。
リヒテ氏がデザイン部門のトップになって以降の、新世代デザインについて尋ねてみた。
「マーク・リヒテの本来的な意味での最初の作となるのが、新しいA8です。その流れがA6やA7へとつながっており、次の新しい『A1』へと受け継がれていきます。そしてSUVとしての新しいデザイン言語をもつのが、このQ8、そして『e-tron』、さらに今後日本にも導入されるであろう新型『Q3』です」
アウディでは「PI(Product Improvement)」と呼ぶが、いわゆるマイナーチェンジのタイミングでも、新しいデザインエッセンスを盛り込むのが常だ。しかし、もちろんそこにはさまざまな制約があり、リヒテ氏が率いるデザインチームが一から手がけたという意味では、セダンとしてはA8が、SUVとしてはQ8が初のモデルになるというわけだ。
新世代のシングルフレームグリルのデザインは、Aモデル(セダン系)では水平基調なのに対し、Q8にはQモデル(SUV)のアイコンである八角形のシングルフレームグリルを採用しており、力強さとアグレッシブさを強調し、差別化を図っている。
ランバーティ氏は続ける。「リヒテが常に言っているのが、アウディの特徴であるクワトロ、パワートレインをきちんと表すこと。それは単にブリスター形状にするということではなく、4つのホイールの表現という意味です。エレガントだったり、スポーティーだったり、力強さだったり、洗練されていたり、モデルによってその表現手法は異なりますし、いろんなバリエーションが考えられます。それがデザイナーとしての腕の見せどころでもあるのです」
Q8は「BMW X6」をはじめ、メルセデスの「GLEクーペ」や「ポルシェ・カイエン クーペ」「レンジローバー ヴェラール」など、強豪がひしめくカテゴリーへのアウディの新たな挑戦となるモデルだ。Q7をベースにクーペライクなデザインをというのが、そもそもQ8のプロジェクトのスタートだった。
「競合がすでにある中で、Q7のルーフを変えるだけのようなやり方ではクローンになってしまう。そこでアウディのDNAを注ぎ込むべく、やっぱりまったく新しいクルマをつくろうということになり、パッケージを変えました。ここがすごく重要でした。ホイールアーチを変え、ルーフを30mm下げ、リアエンドを短く……。こうしてよりよいプロポーションのSUVクーペに仕上がったのです」
「スポーツクワトロ」から受け継いだ4つのポイント
シングルフレームグリルの太い枠は、ベースモデルではボディーと同色に、「Sラインパッケージ」ではプラチナムグレーに、欧州ではすでに発表されている高性能版の「SQ8」ではアルミになっている。これは自らが手がけた初代R8で、サイドブレードの色を変更できるようにしたことに着想を得たものだ。そして、アウディではまったく新しいクルマをデザインするときに必ずアウディの歴史上のクルマを振り返るという。新型Q8に用いられたデザインテーマは「スポーツクワトロ」と話す。
「スポーツクワトロはアウディの歴史上で最もカッコいいというわけではありませんが(笑)、最もエキサイティングなクルマではあります。ドライブするとワクワクする。また、先ほども述べたように、マーク・リヒテのルールとして、アウディは必ずクワトロをデザインで示さなければならない。ですからクワトロブリスターがあります。さらに、スポーツクワトロには力強いブラックのフロントマスクとのびやかなルーフライン、極太のCピラー、そしてリアのブラックパネルといった特徴がありました。この4つのポイントをQ8に取り込んでいるのです」
BMWのキドニーグリルに関する記事でも述べたが、ヘリテージを受け継ぐこと、つまり“温故知新”がこれからの自動車デザインにおいて重要なキーワードになることは間違いない。最後にランバーティ氏はこんなふうに笑顔で話してくれた。
「われわれはメルセデスみたいとか、BMWみたいとか言われるようではもちろんダメで、Q8はアウディらしくシンプルでクリアでありながら個性が表現できている……おそらく(方向性は)間違っていないと自負しています(笑)。“他にはないね”と言っていただければ、デザイナーとしては最高のほめ言葉だと思いますね」
(文=藤野太一/写真=アウディ、webCG/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
-
まさしく桁違いの1169PS&2000N・m 新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」が搭載する数々の新機軸NEW 2026.5.27 2025年発表のコンセプトカー「メルセデスAMG GT XX」が新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」として正式にデビューした。その中身は100%電気自動車であり、上位グレードは最高出力1169PSという途方もないスペックを誇る。技術的ハイライトを解説する。
-
買った後にもクルマが進化! トヨタ&GAZOO Racingが提供するアップデートサービスのねらいと意義 2026.5.25 GAZOO Racingが「トヨタGRヤリス/GRカローラ」の新しいソフトウエアアップデートを発表! 競技にも使える高度な機能が、スマートフォンのアプリで調整できるようになった。その詳細な中身と、GRがオーナーに提供する“遊びの機会”の意義を解説する。
-
“ポチって”始まるブランド体験 「Amazonで買えるホンダ」って何だ? 2026.5.22 ホンダは2026年4月末、オンラインブランドストア「Honda Goods」をAmazon内にオープンした。その内容は? 「これは」と思うアイテムをピックアップしつつ、車両メーカーが力を入れる「グッズ販売」の意義について考えてみよう。
-
間もなく販売スタート 「シビックe:HEV RS」でホンダはかつての輝きを取り戻せるか? 2026.5.21 新型「プレリュード」に続き、「ホンダS+シフト」を搭載する「シビックe:HEV RS」が2026年6月に正式発売される。有段変速機のようなダイレクトで鋭い駆動レスポンスとシフトフィールが味わえるという同モデルの特徴を、開発担当者に聞いた。
-
「北京モーターショー2026」で実感 中国車の進化のスピードは想像のはるか上をいっていた 2026.5.20 今や世界最大の自動車市場である中国だが、すでに開発拠点としても世界でも有数の地位に達している。「北京モーターショー2026」で見た数々のテクノロジーは、今後は自動車の進化の中心が中国になると思わせるほどのレベルだった。現地からのリポートをお届けする。
-
NEW
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】
2026.5.27試乗記「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。 -
NEW
まさしく桁違いの1169PS&2000N・m 新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」が搭載する数々の新機軸
2026.5.27デイリーコラム2025年発表のコンセプトカー「メルセデスAMG GT XX」が新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」として正式にデビューした。その中身は100%電気自動車であり、上位グレードは最高出力1169PSという途方もないスペックを誇る。技術的ハイライトを解説する。 -
NEW
第114回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(前編) ―「トヨタ・タンドラ」の導入に対する元カーデザイナーの本音―
2026.5.27カーデザイン曼荼羅「トヨタ・タンドラ」が日本にやってくる!? トランプ大統領のゴリ押しと、トヨタ&ホンダによるアメリカ生産車の日本導入決定により、今にわかに注目を集めている“アメリカのクルマ”。かの地で育まれた特殊な造形美を、カーデザインの識者はどう見ているのか? -
車載カメラが普及した今、“デジタルサイドミラー”が主流にならないのはなぜか?
2026.5.26あの多田哲哉のクルマQ&Aサイドミラーの役割をカメラが担う“デジタルサイドミラー”は、レクサスやアウディなどで採用例があったものの、普及するには至っていない。その決定的な理由はなにか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんが語る。 -
マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R(FR/6MT)【試乗記】
2026.5.26試乗記販売台数わずか200台の限定車「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」に試乗。スーパー耐久レース参戦をはじめとするマツダのモータースポーツ活動を担うサブブランドが生み出した初の市販コンプリートカーは、いかなる走りをみせるのか。 -
買った後にもクルマが進化! トヨタ&GAZOO Racingが提供するアップデートサービスのねらいと意義
2026.5.25デイリーコラムGAZOO Racingが「トヨタGRヤリス/GRカローラ」の新しいソフトウエアアップデートを発表! 競技にも使える高度な機能が、スマートフォンのアプリで調整できるようになった。その詳細な中身と、GRがオーナーに提供する“遊びの機会”の意義を解説する。





































