アウディQ8 55 TFSIクワトロ デビューパッケージSライン(4WD/8AT)
どこでもイケる! 2019.08.16 試乗記 アウディのSUVファミリーに、新たなフラッグシップモデル「Q8」が登場。大きくてスタイリッシュな“SUVクーペ”は、カッコだけの高級車なのか、それとも……? その走りっぷりをチェックした。DNAを感じるデザイン
アウディQ8は、簡単に言えば同社の旗艦SUV「Q7」のおしゃれクーペ版だ。「はやりのSUVクーペね」と言われたらその通りで、Q8はアウディ初のSUVクーペとなる。
こう書くと、サーフィンがブームになってからサーフボードを買いに行く人のように映るかもしれない。けれども、Q8の試乗会が行われた長野・白馬村までドライブして、現地のワインディングロードを駆け回ると、ただの“後出しジャンケン”ではないことがわかった。見ても乗っても、アウディがスポーティーなSUVを定義するとこうなるのか、と納得することができたのだ。
高速道路のサービスエリアで合流したアウディQ8は、遠目にもアウディ一家の一員だということがわかる。八角形になったシングルフレームグリル、先進的なメカニズムを内に秘めていることを予感させる彫りの深いボディー、4輪で大地を蹴ることをイメージさせる力強い前後のフェンダー、そしてLEDヘッドランプのシャープな目つき。
こういった要素があいまって、遠くから見ても、あるいはフロントグリル内のシルバーフォーリングスを外したとしても、ああアウディね、とわかる。エンブレムがなくても出自がわかるクルマは、ありそうで意外にないものだ。
ちなみにCピラーの造形は、1980年代のWRC(世界ラリー選手権)に“四駆革命”をもたらした往年の「アウディ・クワトロ」がモチーフとのこと。昔のクワトロの写真を引っ張り出して眺めてみたら、たしかにそっくり。モータースポーツや古くからのアウディのファンは、ニヤリとするだろう。
Q7より30mm低くて75mm短く、25mm幅広いQ8を目の前にすると、Q7より軽やかに走りそうに感じた。なぜなら、全長が75mm短くなったけれど、そのほとんどはリアのオーバーハングを詰めたことによるものだからだ。すっきりして、キュキュッと機敏に走りそうに感じる。
おかげでQ7では設定された3列目シートがQ8では選べないけれど、「クーペ」の語源は、フランス語で「切る」という意味の言葉だ。つまり馬車の後席を切り離すことで、プライベートでぜいたくな空間とスポーティーな運動能力を獲得したという故事にのっとったSUVクーペなのだ。
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新たな高級車像がある
ルーフを後方に向けてギュッと絞った造形にしてクーペっぽさを出すSUVもあるけれど、アウディQ8のルーフは後席居住空間を確保するために極端にルーフラインを下げるようなことはしていない。事実、後席には大人がくつろぐことができる余裕がある。カッコつけることと実用性のバランスがとれている。
乗り込もうとして、おっと思ったのが、ドアがサッシュレスだったことだ。伊達(だて)男という言葉が頭に浮かぶ。センターコンソールに上下2つの液晶パネルが置かれるという運転席からの眺めは、ここ最近のアウディ各車で見慣れたもの。上段が10.1インチのインフォテインメント用で、下段が8.6インチの空調や手書き文字入力用。2つのタッチパネルによって、室内からはスイッチ類がほとんど姿を消し、すっきりすると同時に、イマっぽい雰囲気となった。
「基本的には同じインテリアだけれど、『A6』や『A8』とはちょっと違う……」というモヤモヤした気持ちは、試乗後にA6のインテリアの写真と見比べて晴れた。A6とA8は、液晶パネルを縁取るパーツによって“かしこまった雰囲気”を醸しているのに対して、そうした装飾を廃したQ8は明るく開放的なムードになっている。ドアがサッシュレスであることや、インテリアのちょっとした工夫によって、カジュアルで自由な新しい高級車像を印象づけている。うまい、と思う。
高速道路を走りだして真っ先に感じるのは、乗り心地のよさだ。ちなみに試乗車は「アウディQ8 55 TFSI クワトロ デビューパッケージSライン」。標準仕様とは顔つきが異なるほか、「アダプティブエアサスペンション」をベースにスポーティーな味付けにした「アダプティブエアサスペンション スポーツ」が標準装備となる。
このエアサスがよかった。ハーシュネスは絶妙に吸収する一方で、ロールは抑えられてスポーティーな走行感覚を味わわせてくれる。高速道路の路面のつなぎ目で感じる突き上げはとても小さいのに、ギュッと引き締まったフィーリングを提供するあたり、ちょっと不思議な気分になる個性的なテイストだ。もうひとつ、静粛性の高さも特筆モノで、ボリュームを下げてもBang & Olufsenのオーディオシステムの音がよく聞こえる。
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長距離ドライブも楽勝
日本仕様のQ8のパワートレインは取りあえずのところ1種で、3リッターV6ターボと8段ティプトロニックの組み合わせのみ。標準仕様と豪華装備の「デビューパッケージ ラグジュアリー」、さらにスポーティー仕様のデビューパッケージSラインを合わせた3つの仕様でスタートする。
3リッターV6ターボは500Nmという大トルクを1370rpmから発生するというスペック通り、低回転域から力持ち。普通に走るぶんには、静かで滑らかな優等生エンジンだ。ていねいかつ速やかな仕事っぷりの8段ティプトロも、エンジンの上質な印象を強める。
面白いのは、SUVらしくどっしり走るようなセッティングになっているのかと思いきや、上まで回すと、硬質な回転フィールといい、乾いた排気音といい、盛り上がるパワー感といい、ドライバーを楽しませてくれることだ。
快適な乗り心地と正確なハンドリング、通常だと静かだけど追い越しの際には気持ちよく反応してくれるエンジンの組み合わせのおかげで、200km、300kmはあっという間。目線の位置が高くて遠くまで見渡せることもロングドライブ向けで、例えば「東京~大阪間をクルマで日帰りする選手権」があったら、間違いなく上位に入るだろう。
ほぼひとつのアクションで作動が完了するアダプティブクルーズコントロールは、インターフェイスに優れているだけでなく加減速の作動も滑らか。運転が好きな人であっても、渋滞ではお世話になろうと思えるはずだ。運転支援装置の充実も、長距離ドライブがあっという間に感じる理由のひとつだった。
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峠でスポーツカーのように舞う
山中のワインディングロードに入ると、不思議な感覚に襲われた。
まず、車体がひとまわりコンパクトになったかのように感じる。Q7より全長が短くなったとはいえ、それでも3mに迫るホイールベースは変わらない。それなのにタイトコーナーでクルクルと小回りが利くように感じるのは、後輪操舵の効果だろう。アウディが「オールホイールステアリング」と呼ぶこのシステムは、低速では前輪と反対に後輪の舵を切って回転半径を小さくし、高速では前輪と同じ向きにステアして安定性を高める。
乗り心地がいいのにロールはよくチェックされていて、しかもハンドリングが正確な上に、優に2tを超える巨体がまるでライトウェイトスポーツカーのようにコーナーで舞うのは、エアサスとオールホイールステアリングの組み合わせによるところが大きいだろう。そしてこの感覚、どこかで味わったことがあると思ったら……、そうだこれは「ランボルギーニ・ウルス」に似ている。あんなにワンワンうるさくないから、“静かなウルス”だ。
Q8のプラットフォームはMLB evoと呼ばれるもので、フォルクスワーゲングループの大型SUVに共通するものだ。「ポルシェ・カイエン」「フォルクスワーゲン・トゥアレグ」「ベントレー・ベンテイガ」、そしてランボルギーニ・ウルスにも使われている。もちろん各社の味付けは違って当然だけど、それでも基本骨格が同じだと、どこか似てくるようだ。
いずれにせよ、アウディらしいデザイン性を目で楽しむことができ、乗り心地のよさと静かさという快適性を損なわずに運転を楽しむことができる。
こうしたバランスのよさ、しかもそれが非常に高いレベルでバランスしているあたりが、いかにもアウディのクーペSUVだと感じた。今度は真冬に、スキーをするためにQ8で白馬へ向かいたい。
(文=サトータケシ/写真=三浦孝明/編集=関 顕也/取材協力=Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA KITAONE KOGEN)
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テスト車のデータ
アウディQ8 55 TFSIクワトロ デビューパッケージSライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5005×1995×1690mm
ホイールベース:2995mm
車重:2200kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/5200-6400rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1370-4500rpm
タイヤ:(前)285/40R22 110Y/(後)285/40R22 110Y(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:10.3km/リッター(JC08モード)
価格:992万円/テスト車=1183万円
オプション装備:オプションカラー<ギャラクシーブルーメタリック>(9万円)/Sラインパッケージ<Sラインエクステリア+アルミホイール 5ツインアームデザイン コントラストグレー パートリーポリッシュト 10J×22+プライバシーガラス+アダプティブエアサスペンション スポーツ+前席スポーツシート+アルカンターラ×レザー+ヘッドライニング ブラック+デコラティブパネル マットブラッシュトアルミニウム+ステンレススチールフットペダル+ドアシルトリム S lineロゴ+4ゾーン デラックスオートマチックエアコンディショナー+Bang & Olufsen 3Dサウンドシステム>(110万円)/コンフォートアシスタンスパッケージ<HDマトリクスLEDヘッドライト+LEDリアダイナミックターンインディケーター+オールホイールステアリング+アルミニウム ルーフレール+アダプティブウィンドウワイパー+パワーグロージングドア+フロントクロストラフィックアシスト+アウディプレセンス フロント/リア+アダプティブドライブアシスト/エマージェンシーアシスト+プレセンスベーシック[リアシート]/リアサイドエアバッグ+アウディプレセンス360>(72万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2695km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:332.9km
使用燃料:39.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.4km/リッター(満タン法)/8.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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