86年の歴史でサイズも形も柔軟に変化
BMWの「キドニーグリル」の奥深き世界
2019.06.26
デイリーコラム
「7シリーズ」では従来モデルよりも40%の大型化
BMWジャパンは2019年6月24日、フラッグシップセダンの改良型「7シリーズ」と、新たな最上級SUV「X7」を発表した。
両車に共通するのは、いやが上にも目を奪われる大きな「キドニーグリル」だ。7シリーズでは、先代モデル比で約40%もの大型化を果たしたという。またX7では、スポーツモデルのような横型ではなく縦型に近い形状にして、屈強なイメージを演出している。
ここで少しBMWの歴史を振り返ってみる。そもそもBMWは飛行機のエンジンメーカーだった。ちなみに現在も使用されている青と白のエンブレムは、長年バイエルンの青い空に回転するプロペラを図案化したものというのが定説だったが、実はバイエルン州旗(白と青)をもとにしたデザインという話が有力なようだ。
戦後にドイツで航空機製造が禁じられ、BMWはモーターサイクルメーカーへと転身する。そのビジネスが軌道に乗ると、当時「オースチン・セブン」のライセンス生産を行っていたディクシー社を傘下におさめて四輪事業へと進出する。
1933年、BMWとして初のオリジナル四輪車「303」が登場。当時、グリルといえば大きな一枚ものが一般的だったが、他車との差別化を図るために2分割したことがキドニーグリル(kidney grille)の始まりだったという。ちなみにキドニーとは英語で腎臓の意味だ。
以降、1930年代後半につくられた軍用車の「325」(BMW初の四輪駆動車でもあった)、1950年代にイソ社からライセンスを受けてつくっていた小型車「イセッタ」、それをひとまわり大きくした「600」、さらに600をベースにミケロッティがデザインしたクーペ「700」といった例外を除けば、歴代のBMWモデルにはすべてにキドニーグリルが備わっている。
2世代目の7シリーズで初めて横長のデザインに
303の誕生以降、基本的に縦長のデザインで変遷をたどっていたキドニーグリルが、最も小さく、限りなく四角に近づいたのが1978年に誕生し、車名に初めて“M”を冠した「M1」だった。ジウジアーロがデザインを手がけただけあって、キドニーグリルがなければBMWというよりはイタリアンスーパーカーのようだ。
初めて明確に横長のデザインになったのが、1986年にデビューした2世代目となるE32型の7シリーズだった。当時、BMW初のV12エンジンを搭載した「750i」「750iL」には、「735i」との差別化のために、横長の大きなキドニーグリルが装着されていた。このデザインが1990年に登場した第3世代のE36型「3シリーズ」や、同様に第3世代のE34型「5シリーズ」でも採用されるようになり、一気に市民権を得た。
そして、2015年にデビューした第6世代のG11型7シリーズでは、キドニーグリルに「アクティブエアストリーム」という新機能を盛り込んだ。これは、エンジンやブレーキの冷却のために空気を取り入れる必要がない時には、エアベントを備えたラジエーターグリルを電動で閉じて、空気抵抗を低減する機能だ。これも現行5シリーズ、そして新型3シリーズにも採用されている。
また機能としてではなく、あくまでデザインとして使われているキドニーグリルがある。それは「i3」や「i8」といった「iシリーズ」のものだ。ジャガーのデザイナーも「Iペース」には機能的にグリルは必要ないが、ひと目でジャガーとわかるようにあのデザインにしたと話していた。電気自動車のカテゴリーで他車を一歩リードするテスラがほぼグリルレスのデザインで統一している以上、差別化するにはグリルのデザインが重要な意味をもつことになる。
キドニーグリルに代わるものは必要か!?
以前、独BMWに在籍する日本人デザイナーの永島譲二氏にキドニーグリルについて話を聞いたことがある。現行BMWのキドニーグリルは四角ではなく、左右にとがった頂点のある五角形のようなカタチをしている。基本的にセダンやSUVではその頂点とヘッドライト上端の高さがそろうようなデザインになっている。これに対して新型の「Z4」と「8シリーズ」では、「キドニーグリルのとがった頂点の部分が下側にくるようにデザインしています。スポーツカーについては、頂点を下げたキドニーにすることでより低く見せるというアイデアによるものです。では、すべてのスポーツカーがそうなるのかといえばそれは今後のお楽しみであって、この2台に関してはということですが」と話していた。
またZ4では、グリル内部もひし形のような形状になっている点が新しい。さらに今後導入される新型3シリーズの「M340i xDrive」では、グリル内のメッシュにBMWとして初めての意匠を採用している。「これまでのものとの違いを出すため、三次元的で奥行き感のある、羽がはえたようなデザイン」だという。
実は永島氏にキドニーグリルのないBMWは考えられないのか尋ねてみたことがある。「まず大前提としてBMWに見えなければいけない。説得力のある、代わりになるものができるのであればもちろん歓迎します」と落ち着いた口調で答えてくれた。
しかし、よくよく考えてみれば、アウディの「シングルフレームグリル」やレクサスの「スピンドルグリル」などは2000年代に入ってから生まれたものだ。一方でキドニーグリルの歴史は実に86年にも及ぶ。そうやすやすと代わりになるものなど生まれるはずもないし、生み出す必要もないのかもしれない。
歴史を振り返ってみても7シリーズのキドニーグリルはデザインや機能面でのターニングポイントとなってきたことが分かる。電動化が進めば、グリルはデザイン面でより一層重要な意味をもつものになるだろう。新型7シリーズが“キドニーグリル”というBMWにとって重要なヘリテージを最大化して提示してみせたのは、ある意味で歴史的必然といえるものかもしれない。
(文=藤野太一/写真=BMW、webCG/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
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