【F1 2019 続報】聖地・英国シルバーストーン そこは「歴史がつくられる場所」
2019.07.15 自動車ニュース![]() |
2019年7月14日、イギリスのシルバーストーン・サーキットで行われたF1世界選手権第10戦イギリスGP。1950年に記念すべきF1第1戦が行われたかの地で、新たな歴史がつくられることとなった。
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聖地での継続か、ロンドンでの新GPか
年々高騰を続ける開催権料に堪えかねて、イギリスGPが行われるシルバーストーン・サーキットのオーナー、ブリティッシュ・レーシング・ドライバーズ・クラブ(BRDC)が、F1との契約の破棄条項を行使したのは2017年のこと。これにより、2026年まで決まっていた同地でのGP開催は2019年までに短縮。1950年のF1第1戦が開かれた“聖地”シルバーストーンでのGP存続に黄色信号がともっていたが、2年の交渉の末、2024年までの5年間の開催継続が、7月10日になってようやく発表された。
歴史、観客動員数、満足度ともにトップクラスのシルバーストーン。F1のオーナーであるリバティ・メディアは、これまでその重要性を認めてきたものの、一方で、ロンドンでの新たなGP開催という野望も隠してはこなかった。アメリカに本拠を置くリバティ・メディアは、イギリスGPやイタリアGPなど伝統の欧州戦に加え、2020年に始まるベトナムGPのような、F1にとっての新市場や、マイアミなど大都市でのF1開催に意欲を示しており、シルバーストーンでの開催継続が決まった後も、ロンドンGPについては検討を続けたいとしているほどである。
また、今回の契約内容の詳細は明らかにされていないものの、シルバーストーン側は、当初の狙いだった開催権料の引き下げはもちろん、140km程度しか離れていないロンドンでの開催をけん制する何らかの条項を挟み込んだのではないかとの臆測も流れている。
そんな政治的な動きは置いておくとしても、ファンにとってもドライバーにとっても、今回のニュースは朗報以外のなにものでもなかったはず。流れるように走り抜ける「マゴッツ」「ベケッツ」「チャペル」といった往年の名コーナーが配されたシルバーストーンは、運転するものの技量を浮き彫りにする名コースとして知られる。そして近年においては、ルイス・ハミルトンの母国での大活躍により、週末を通じてGP随一の盛り上がりを見せることでも有名だ。
ハミルトンは、昨年セバスチャン・ベッテルに優勝を奪われるまで同地で4連勝。このうち2015年と2017年にはポール+ファステストラップ+優勝の“グランドスラム”を達成しているほど、シルバーストーンとの相性はいい。今季これまでに6勝を挙げ、チャンピオンシップでも2位バルテリ・ボッタスに31点差をつけ首位独走中で臨んだハミルトン。もし今年勝てば、イギリスGP歴代最多の6勝目となるばかりか、6度目の栄冠に向けた大きな弾みにもなる。サーキットに大挙したユニオンジャックをまとう群衆の期待は、大きくなるばかりだった。
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ボッタス、0.006秒差でハミルトンからポールを奪う
予選直前のフリー走行3回目でフェラーリが1-2を取るも、ここ一番の勝負どころで、きちんと結果を残せるのが、チャンピオンシップリーダーのメルセデス。予選Q3ではシルバーアローの2台がポール争いを繰り広げ、バルテリ・ボッタスが5戦ぶりにハミルトンを上回る好タイムを記録。今季4回目、通算10回目の予選P1を決めた。
「ブルックランズ」コーナーでミスをしたハミルトンは、わずか1000分の6秒差で敗れ2位。イギリスGPでの連続ポール奪取は「4」でストップした。そしてフランスGPで最多フロントロー独占記録を更新したメルセデスは、その記録を「64回」に伸ばした。
トップから0.079秒遅れで予選3位だったのはフェラーリのシャルル・ルクレール。もう1台の赤いマシン駆るベッテルは、跳ね馬を手なずけることができず6位に沈んだ。フェラーリは2台ともスタートタイヤをソフトとし、ミディアムを選んだメルセデス、レッドブルとは異なる作戦を採ってきた。
レッドブル勢は、前戦オーストリアGPのウィナー、マックス・フェルスタッペンが4位。特筆すべきはチームメイトのピエール・ガスリーで、今季これまでの悪い流れを断ち切るような力強い走りで5位につけた。
今シーズン、マクラーレンにお株を奪われていたルノー勢は、ダニエル・リカルド7位、ニコ・ヒュルケンベルグは10位からダブルポイント獲得を目指すことに。好調マクラーレンのけん引役である19歳の新人、ランド・ノリスは初の母国GPで予選8位だった。今季デビューしたイギリス生まれのタイ人ドライバー、トロロッソのアレクサンダー・アルボンは、2度目のQ3進出で自己ベストの9位という好位置を得た。
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首位キープのボッタスに、セーフティーカーという不運
曇りか雨か、イギリスらしいはっきりしない天候が続いていたこの週末。52周のレースも、雲が多く、気温17度、路面温度27度と涼しい中で行われることとなった。
好スタートで1位を守ったボッタスだったが、ハミルトンも2位をすんなり受け入れたわけではなく、気迫のこもった走りで追撃。ハミルトンは4周目にボッタスをオーバーテイクするも、ボッタスも負けじと食らいつき、すかさず首位奪還と、序盤からメルセデス同士が丁々発止とやりあった。
シルバーアローの2台が優勝を争うその後方では、フェラーリとレッドブルがコースのいたるところで抜きつ抜かれつの接戦を展開。オーストリアで接触したルクレールとフェルスタッペンは3位の座を、またベッテルとガスリーは5位を巡り、レース序盤から激しく火花を散らした。
このレースの勝敗を決めたのが、タイヤ交換のタイミングだった。17周目に1位ボッタスがミディアムから再びミディアムにスイッチ。ハミルトンはスタートタイヤのまま周回を重ね暫定首位に居座ったのだが、ここでハミルトンのもとに幸運が舞い込んでくる。20周目、アルファ・ロメオのアントニオ・ジョビナッツィがスピン、コースアウトしたことでセーフティーカーが導入されたのだ。
全車がスロー走行を余儀なくされる中、これを好機とばかりにハミルトン、ベッテルらがピットに飛び込みハードタイヤを装着。このフリーストップでハミルトンはトップに躍り出ることができた。割を食ったのは、既に最初のピットストップを済ませていたボッタスで、2位に落ちたばかりか、もう1回タイヤを交換しなければならないというハンディを背負うことになってしまった。
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ハミルトン、イギリスGP最多6勝目
ハミルトン1位、ボッタス2位、ベッテル3位、ガスリー4位、そしてセーフティーカーラン中にハードに履き替えたフェルスタッペン5位、同じくルクレール6位という並びで、24周目にレースは再開。フェルスタッペンとルクレールはまたも拮抗(きっこう)した戦いを見せるも、27周目にレッドブルが順位をスワップ、フェルスタッペンが4位に上がると、5位ガスリーが壁になりルクレールの進路をふさぐことになる。ルクレールがガスリーをかわし5位に上がるまでには、10周近くを要することとなった。
後ろを気にする必要がなくなったフェルスタッペンが狙うのは、3位を走るベッテル。37周目、フェラーリの真後ろにつけたレッドブルが3位へと浮上したのだが、その直後、抜かれたベッテルがフェルスタッペンのマシンに追突、2台は宙を舞いコースの外にはじき出されてしまった。ノーズを壊したベッテルはピットインし最後尾まで脱落、さらに10秒加算のペナルティーを受け、結果16位でゴール。接触後も走行を続けることができたフェルスタッペンは、ガスリーの後ろの5位でレースを終えたのだった。
46周目、ボッタスが2度目のタイヤ交換でソフトタイヤに履き替えるも、後続に20秒以上の大差をつけていたためポジションを失わず2位のままフィニッシュ。ルクレールは結局3位に戻ってのチェッカードフラッグとなった。
サーキットに詰めかけた14万1000人もの観衆が待ちわびた、母国のヒーローの勝利。ハミルトンは、1950年から途絶えることなく続いてきたイギリスGPで歴代最多となる6勝目を飾り、また歴史にその名を刻むこととなった。
いや、そもそも歴史は一人だけでつくられるものではない。コース各所での手に汗握る接戦、その積み重ねが歴史をかたちづくっている。今回のレースで見られた幾多のオーバーテイクに、シルバーストーンがなぜ聖地と呼ばれているのか、その理由が隠されているのではないだろうか。
次戦ドイツGP決勝は、7月28日に行われる。
(文=bg)