【F1 2019 続報】第9戦オーストリアGP「最年少1-2の意味」
2019.07.01 自動車ニュース![]() |
2019年6月30日、オーストリアのレッドブル・リンク(4.318km)で行われたF1世界選手権第9戦オーストリアGP。メルセデス全勝、ルイス・ハミルトン4連勝で迎えた9戦目、ようやく他のドライバーたちにも出番が回ってきた。
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今シーズンは終わったのか?
ルイス・ハミルトンが前戦フランスGPで圧勝し8戦6勝、チャンピオンシップでは36点リードと独走。おまけにメルセデスは今季これまで全勝。全21戦のシーズンはまだ折り返し前というところなのに、2019年のタイトル争いの先行きが心配される事態に陥っている。上昇気流に乗ったハイブリッド時代の雄を前に、一矢を報いるドライバー、チームの登場が切望されていた。
活躍が期待される筆頭は、メルセデスのもう1台をドライブするバルテリ・ボッタス。第4戦アゼルバイジャンGPまではハミルトンと2勝を分け合い、ポイントランキングでもチームメイトを1点上回る僅差の戦いを繰り広げていた。しかしその後の4戦でハミルトンに怒涛(どとう)の4連勝を許し、あっという間に36点も引き離されてしまった。2014年にカレンダーに復活したレッドブル・リンクでのオーストリアGPで、ボッタスは2017年に勝利を収めており、また過去5年で最も多いリードラップを記録している。得意のコースでまた一皮むけた“ボッタス2.0”の誕生こそ、終わってしまいそうな2019年シーズンに必要な特効薬となるはずだった。
まだか、まだかと待ち焦がれて9レース目、フェラーリの今季初優勝にも望みを託したいところだった。フランスGPでのマシンアップデートもパフォーマンス向上にはつながらず、シャルル・ルクレール3位、セバスチャン・ベッテルは5位だった。タイヤの使い方に難儀しているスクーデリアだが、バーレーンGPやカナダGPなど、局所的に速くなることもある。パワーユニットの全開率が高いレッドブル・リンクで、強心臓の跳ね馬が疾風怒濤(どとう)のごとく駆け抜ければ、冷めかけたチャンピオンシップに熱が入るだろう、そう思われた。
もちろん、昨年チームの地元オーストリアで劇的優勝を遂げたレッドブルのマックス・フェルスタッペンの2連覇となれば、母国オランダの熱狂的なファンならずともその勝利に沸き立つことは間違いなかった。
2019年シーズンも、またメルセデスの独走が6年も続いたF1自体も、もうそろそろ「終わり」なんじゃないか ── そんな言葉が口を突くような状況に、オーストリアGPは鮮烈な衝撃を与えた。
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ルクレールがキャリア2度目のポール、トップ3に3強が並ぶ混戦
丘の斜面にへばりつくように造られた1周4.3kmしかない短いサーキットに、GP最少の10のコーナーが配置されたレッドブル・リンク。ここで好発進を決めたのは、直線スピードにたけたフェラーリを駆るルクレールだった。フリー走行2回目、3回目を最速で終えると、予選でもそのハイペースを維持。トップ10グリッドを決めるQ3になると、2度のアタックの両方でトップタイムを記録し、バーレーンGPに次ぐ自身2度目のポールポジションを獲得した。
今回は各所でペナルティーによる降格が発生し、グリッド順も上下動が激しかった。0.259秒差で予選2位だったハミルトンは、Q1でキミ・ライコネンをブロックしたとして3グリッド降格。加えて、予選5番手のケビン・マグヌッセンもギアボックス交換で5つダウン。結果ハミルトンは4番グリッド、マグヌッセンは10番グリッドからスタートすることとなった。
ルクレールと並んでフロントローにつけたのは、3番手タイムを記録したフェルスタッペンで、レッドブルは地元2連覇が狙える好位置に。また4番手タイムと振るわなかったボッタスは3番グリッドに繰り上がり、トップ3に3強のマシンが並ぶ色鮮やかなグリッドとなった。
フランスに続き上り調子のマクラーレンは、ランド・ノリスが5番グリッド。キミ・ライコネン6番グリッド、アントニオ・ジョビナッツィ7番グリッドとアルファ・ロメオが並び、レッドブルのピエール・ガスリーは8番グリッドと後方に沈んだ。オーストリアで覚醒したフェラーリだったが、ベッテルのマシンにはQ2セッション後にトラブルが発生、Q3に出走できずノータイムで9番グリッドとなった。
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トップを守ったルクレール、フェルスタッペン大きく後退
1週間前のフランス同様、オーストリアでも暑い日が続き、決勝日も気温33度、路面温度は51度に達した。タイヤマネジメントが大きな課題となる中、ポールシッターのルクレールは、速いがライフも短いソフト、続くフェルスタッペン、ボッタス、ハミルトンは長持ちするミディアムと、タイヤ選択が分かれた。
71周レースのスタート、今年亡くなったオーストリア人の元王者、ニキ・ラウダの名前を冠したターン1に真っ先に飛び込んだのはルクレール。フェルスタッペンはアンチストールが機能してすこぶる出だしが鈍く、瞬く間に7位に後退してしまった。フェルスタッペンの抜けた穴を埋めるように、2位ボッタス、3位ハミルトン、4位ライコネン、5位ノリス、6位ベッテルが続いた。
ベッテルが早々に5位、4位と上げる一方、出遅れたフェルスタッペンも10周して5位まで挽回。しかしこの時点で、まさかレッドブルが優勝争いまで順位を回復するなどとは誰も思っていなかったはずである。
先頭のルクレールは、ソフトタイヤを労わりながらも20周して4.5秒のリードタイムを築いていた。そんな折、22周目にメルセデスがまず動き、ボッタスがピットイン。後ろを走っていたベッテルも同時にピットに入りタイヤをハードに替えたのだが、フェラーリのピットは準備が整っておらず、無駄な時間がかかってしまった。
23周目に1位ルクレールもハードに換装。ハミルトンとフェルスタッペンはミディアムのまま走行を続けるも、暫定首位のハミルトンは「フロントウイングにダメージを負った」とチームに無線で通達。30周してピットに飛び込むと、タイヤとウイングを交換するため長めのストップを敢行した。この日のハミルトンは精彩を欠き、その後もペースは伸びず。残り2周でベッテルに抜かれ5位でレースを終えることとなった。
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フェルスタッペン、怒涛の追い上げで劇的優勝
32周目にフェルスタッペンがハードタイヤを装着し、トップランナーたちはタイヤ交換を完了。1位ルクレール、4.1秒差で2位ボッタス、その5.2秒後方に3位に上がったベッテル、3.5秒の間隔で4位フェルスタッペンという順位となった。
一番タイヤがフレッシュな4位フェルスタッペンが、ここから怒涛の追い上げを見せることになる。まずは3位ベッテルとの差をジワジワと縮め、47周目には1秒を切った。フェラーリのテールとレッドブルのノーズが近づき、フェルスタッペンが度々ストレートエンドで隙を突こうとするが、ベッテルもディフェンシブなラインで対抗。表彰台をかけたこの争いは、50周目にフェルスタッペンがオーバーテイクを成功させたことで決着した。
大観衆からの喝采を浴びるフェルスタッペンの、次なる獲物は2位ボッタス。1秒以上あった間隔は見る見る縮まり、56周目、レッドブルは鮮やかにメルセデスをぶち抜いたのだった。
ようやくスターティンググリッドと同じ2位に戻ったフェルスタッペンは、いよいよ5秒前方の1位ルクレールに照準を合わせた。レッドブル陣営は、ホンダのエンジンモードを変更し、パフォーマンスアップを指示。フェルスタッペンはファステストラップを更新しながら、ギャップを少しずつ、しかし確実に削っていった。
残り10周で3.2秒あった差は、6周を残した時点でいよいよ1秒以下に。残り4周、ターン3で勝負を仕掛けたフェルスタッペンにルクレールも応戦、フェラーリが辛くもポジションを守った。翌周の同じ場所、再び牙をむいたフェルスタッペンは、ルクレールのインにズバッと飛び込んだ。2台のタイヤは接触、アウト側のフェラーリはコース外に軽くはじき出され、勝負は決着。フェルスタッペンがついにトップを奪った。
2位に落ちたルクレールに余力は残っておらず、最終的に2.7秒のリードでフェルスタッペンがオーストリアGP2連覇を達成。メルセデスの、そしてハミルトンの連勝を止めたのは、次世代チャンピオン候補ナンバーワンのオランダ人ドライバーだった。
第2戦バーレーンGP同様、あと少しで初優勝を逃したルクレールは、フェルスタッペンの抜き方に納得がいかず、2位で表彰台に上がるも笑顔はなし。実はレース後、レーススチュワードはこのインシデントを審議しており、場合によっては、第7戦カナダGPのようにペナルティーで勝者が決まるという、あの後味の悪い結末の可能性もあったのだが、今回はそうはならなかった。
ともに21歳のフェルスタッペンとルクレールは、フロントローに並び、また1-2でレースを終えた最年少ペアとして記録されることとなった。このレースで3位に終わった29歳のボッタスとも、また34歳のハミルトン、間もなく32歳になるベッテルとも違う、若い世代の台頭が意味するものは何か?
今シーズンも、F1そのものも、まだまだ終わりなんかじゃない、ということだ。
次戦イギリスGP決勝は、7月14日に行われる。
(文=bg)