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オリンピックだけじゃもったいない!?
トヨタの新型EV「APM」はこんなクルマ

2019.07.19 デイリーコラム 関 顕也

楽な移動が最優先

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開幕まで1年となった、2019年7月18日。トヨタ自動車は、同大会で来場者の移動をサポートする専用モビリティー「APM」を公開した。車名は「Accessible People Mover」を略したもので、「エーピーエム」と読む。

APMが搬送するのは、大会関係者や選手のほか、高齢者、妊婦といった、歩行に労力を要する来場者だ。想定されるルートは会場のゲートから競技場や客席までの“ラスト・ワン・マイル”と呼ばれる道のり。バスやクルマが乗り入れできないこの区間の移動を手助けすることで、より多くの人が幸せにオリンピックを楽しめれば……というのがトヨタの望みである。

そのAPM、対面しての第一印象は「トゥクトゥク」(タイの三輪車)やゴルフカートの未来型、というものだった。全長×全幅×全高=3940×1620×2000mmのワンボックス型でドアはなく、左右どちらからでも低いフロアを一歩またげば乗車できる。

定員は最多で6人。3列シートのレイアウトは前から1人(ドライバー)/3人(乗員)/2人(乗員)の順で、2列目を折りたたみ、床下の乗降スロープを引き出すことで、車いすを(着座したまま1台)積み込めるようになっている。この際の定員は、1人(ドライバー)/1人(車いす)/2人(乗員)の計4人となる。最前列には、常にドライバーが1人だけ、しかもセンターの高い位置に座っている。そう聞くと運転席こそ特等席のようだが、これは、ドライバーが乗員を容易に見渡せ、しかも左右どちらからでもすばやく乗り降りして乗員をサポートできるよう配慮してのポジション。当然、パッセンジャー・ファーストなつくりなのである。

そのほか、今回公表されたAPMのスペックは以下の通り。

  • 最高速度:19km/h
  • 航続距離:約100km
  • 充電方式:普通充電(AC100VまたはAC200V)

生産予定台数は、この150台に、ストレッチャーが積める“救護仕様”50台を加えた計200台となっている。

これから1年かけて、例えば誤発進を防ぐ安全装備を追加するなどブラッシュアップしていくとのことだが、今回公開されたのはほぼ完成版。なかなかの作り込みで、乗り降りやシートの折りたたみといったデモを目にした取材陣からは「ちまたのタクシーよりもいい感じ」「一般向けに売らないのかな?」といった感想も聞かれたほどだ。

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックにトヨタが提供する専用モビリティー「APM」。
2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックにトヨタが提供する専用モビリティー「APM」。拡大
車いすに乗ったまま乗車できる。アプローチするためのスロープは、「APM」のフロア下に収納されている。
車いすに乗ったまま乗車できる。アプローチするためのスロープは、「APM」のフロア下に収納されている。拡大
車いすをおさめた状態。この角度からだと、1列目にある運転席の高さがよくわかる。
車いすをおさめた状態。この角度からだと、1列目にある運転席の高さがよくわかる。拡大
2列目および3列目のシート。「APM」は最高速度が低いため、シートベルトの装備・装着は無用となっている。
2列目および3列目のシート。「APM」は最高速度が低いため、シートベルトの装備・装着は無用となっている。拡大
リアビュー。床の低さとグラスエリアの広さが印象的。
リアビュー。床の低さとグラスエリアの広さが印象的。拡大
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レアな五輪限定車

なにせAPM、公道走行用のナンバーも取得できるという。ならばオリンピック専用といわず、じゃんじゃん量産すればいいのでは? たくさんつくればコストも抑えられるだろうし……。オリンピックで知られれば、海外からのオファーだってありそうだ。

「いえ、いまのところ、その計画はありません」と苦笑するのは、APMの開発責任者を務める、トヨタZEVファクトリーの谷中壯弘さんだ。
「オリンピックのあとで自治体や会社組織から引き合いがくる可能性はありますが、トヨタとしては、まずは東京オリンピックにしっかり貢献することだけを考えています」

聞けば、200台の限定数は予算やトヨタの生産キャパシティーなどの条件から決まったそうだが、それだけというのももったいない。オリンピックで使うことになっている200台がその後どうなるのかといえば、それもまた、払い下げを含めて将来計画はないそうだ。

4年に一度の特殊なイベントで使う専用車両とあって、開発に際しては、多くの苦労を伴ったという。移動に難のある方が対象なので、ユーザーからのヒアリングや製作のトライ&エラーが増えるというのもそのひとつ。それでも、正味の開発期間は1年半。「これまでのEV開発で培った技術をうまく活用しながら、信頼性の高い車両を短い期間でつくることができました」と、谷中さんも胸を張る。

「サステイナブルな環境配慮型ビークルであるべき」という考えから、EVオンリーのAPM。それでも前記の通り、最高速は20km/h弱と、平均的なロードレーサー(スポーツ自転車)くらいは出せる。航続距離(約100km)も、用途を考えれば悪くない。

こんなクルマがオリンピックの場内限定だなんて、つくづくもったいない! とは思うものの、その気になればこうしたEVが比較的短期間でつくれてしまうというのは事実。1964年の東京五輪をきっかけに、あんなものやこんなものが普及したように、2度目のオリンピック以降は街にEVが続々と……なんて展開は、あるのかもしれない。

(文と写真と編集=関 顕也)

雨風は、写真のようにカーテンを引いてしのぐことになる。乗降性を優先する運転席にカーテンは備わらないが、Aピラーまわりに透明な雨よけシールドが装着されている。
雨風は、写真のようにカーテンを引いてしのぐことになる。乗降性を優先する運転席にカーテンは備わらないが、Aピラーまわりに透明な雨よけシールドが装着されている。拡大
「APM」について説明する谷中壯弘さん。トヨタZEVファクトリー ZEV B&D Lab グループ長として、ほかの小型EVの開発も手がけている。
「APM」について説明する谷中壯弘さん。トヨタZEVファクトリー ZEV B&D Lab グループ長として、ほかの小型EVの開発も手がけている。拡大
手前の黄色いポールはグリップ部が回転可能。乗員が使いやすいよう向きを変えられる。
手前の黄色いポールはグリップ部が回転可能。乗員が使いやすいよう向きを変えられる。拡大
シンプルな運転席。センターの高い位置にレイアウトすることで、視界の確保と左右両側からの乗降性を両立させた。
シンプルな運転席。センターの高い位置にレイアウトすることで、視界の確保と左右両側からの乗降性を両立させた。拡大
ボディーカラーは200台すべて、写真のブラック×ホワイトのみとなる。ただし、ラッピングやロゴによるドレスアップは施される見込み。
ボディーカラーは200台すべて、写真のブラック×ホワイトのみとなる。ただし、ラッピングやロゴによるドレスアップは施される見込み。拡大
関 顕也

関 顕也

webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。

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