躍進を支えるのは地道な取り組みの積み重ね
ボルボのセールスコンテストに見るブランド改革のキモ
2019.07.29
デイリーコラム
ブランドの上級移行を顧客が受け入れている
「ブランディングって和製英語だっけ?」
「そうなんじゃないですか。名詞を無理やり現在進行形にしたようなコトバ、普通に考えたらおかしいじゃないですか」
「でも調べてみたら、家畜に焼き印を押す行為を“branding”って言ってたらしいよ」
「この辞書だと、ブランディングは英語で“branding”ってなってますけど」
「……」
「……」
これは、過日webCG編集部内で交わされた、「ブランディング」にまつわるIQ低めな会話である。
方々の説明会やらセミナーやらで耳にするこの言葉について、記者は「自分のブランドをよそと差別化して、価値を高めるとかそういう意味でしょ」というフワっとした認識しかない。そこから先のカタい定義については、読む本や語り部によって違ったりして、いまいちピンとこないのである。それは他のビジネス横文字用語も同じで……まぁ何が言いたいかというと、記者はこの類いの用語が苦手なのである。
上述の例ひとつ取っても、いかにもビジネス原始人なパーソナリティーの私だが、それでも昨今のボルボ・カーズがブランディングに注力していて、そして成功していることは知っている。
2018年のグローバル販売は過去最高の64万2253台と、5年連続前年比増を記録。2019年の上半期も前年比7.3%増の34万0826台で折り返した。日本市場を取り上げても、2018年の販売台数は前年比10.4%増の1万7389台と、1997年以来21年ぶりに1万7000台を突破。一方でクルマ1台あたりの単価も、ボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長いわく「かつては350万円ほどだったが、今は500万円にアップしている」とのこと。販売台数が増え、かつ商品単価が上がっているという事実は、ボルボというブランドが上級移行し、かつそれをカスタマーが受け入れている証拠だろう。
だから記者は、ブランディングの細かい定義は知らないけれど、ボルボのブランディングがうまくいっていることは知っているのである。
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ロールプレイングの内容がリアル
今回、記者が取材した「CS-VESC(Customer Satisfaction-Volvo Excellent Salespersons Contest)」とは、そのボルボ・カー・ジャパンが隔年で開催している、ディーラースタッフのセールスコンテストである。
資料によると、1990年にVESC(Volvo Excellent Salespersons Contest)としてスタートし、スタッフの商品説明力向上を目的に2008年まで開催。その後は世界金融危機の影響もあってしばらく中止されていたものの、顧客満足度(Customer Satisfaction=CS)の向上を図るべく2015年に復活。同時に名前も「CS-VESC」に改められ、今日に至っているという。
実は私、このコンテストを取材するのは今回が初ではない。ずいぶん昔、まだ他媒体にいた頃に一度記事にしたことがあるのだ。うろ覚えだが、“展示車”が先代の「XC90」だったので、それこそ(イベント名にCSが付く前の)VESCの頃だろう。
当時の記憶を掘り起こし、「そんな時代もあったねと」と中島みゆきを口ずさみつつヒルトン東京ベイの会場を訪れた記者は、しかしさま変わりしたその内容に面食らってしまった。
一番の違いは、各スタッフのスキルを測る個人部門だけでなく、販売店のチームワークや、スタッフ全体での来客対応を評価するチーム部門の競技も行うコンテストとなっていたことだ。それ自体は事前に把握していたのだが、実際に見学してみると、ロールプレイングの内容も「コンテスト用、研修用です」といったマニュアルめいたものではなく、筋書きがいかにも繁忙期のディーラーでありそうなシチュエーションとなっていて、コンテストというより演劇のひとコマを見ているような気分になってしまった。
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シナリオのいたるところに“仕掛け”が
チーム部門のロールプレイングは、男性の顧客(この人の人物設定も非常に細かいのだ)がディーラーを訪問するところから始まる。マイカーは「V70」で、この日の訪問は「半年後の車検の見積もりをもらうため」という予約内容だった。ところが実際に話を聞いてみると、「最新のボルボ車にも興味があるんだよねぇ」とのこと。応接するスタッフは臨機応変な対応と、ボルボの安全や電動化への取り組み、北欧デザインの魅力、そして新旧ラインナップなどに関する知識が問われることになる。
これと並行して、ディーラーには電話で来訪可否の問い合わせが入る。BMWに乗る夫婦で、5分ほどでこちらに着くとのことだ。新規顧客になってくれそうな2人を迎え、プロフィールやニーズを引き出しつつ自社製品の特徴を紹介していると、またまたディーラーの電話が鳴り、今度は「ホームページに載っている『ミッドサマーキャンペーン』の内容について教えてほしい」との問い合わせが……。
筋書きはざっとこんな感じだ。時間にして20分のロールプレイングだが、そのシナリオや舞台装置、訪問客のしぐさや立ち居振る舞いなど、さまざまな箇所に販売店やスタッフの能力を測る仕掛けが仕込まれている。
例えばBMWの夫婦を見ると、旦那さんが商品説明を受ける傍らで、退屈そうに店内を物色しだした奥さんに他のスタッフが気付いてフォローできるか。彼女からバッグを受け取るとき、それがボルボと同じ北欧ブランドのものであると気付いて話を広げられるか。試乗車の「V90」はトノカバーが外されたりリアシートが片方倒れていたりという状態だったが、試乗前にそれに気付いて直せたかもしっかりチェックされていた。また、販売店にかかってきた“2本目”の電話は、ホームページに掲載されているキャンペーン内容の問い合わせだったが、これも今時点でのホームページの掲載情報や、実施中のキャンペーンの詳細を把握していないと受け答えができないものだった。
もちろん、基本となる採点の軸は“ボルボスタンダード”に準じたドレスコードやマナーであり、車両やボルボブランドに関する知識であり……とのことだが、こうしたマニュアル化されていないポイント、ボルボ関係者いわく「お客さまの立場に立って、お客さま目線で接客ができているか」も見られるシナリオとなっていたのだ。
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スタッフのスキルアップに合わせて競技内容も進化
ボルボのセールスコンテストがCS-VESCとして復活して、今回で3回目。こうしたロールプレイングの筋書きは随時ブラッシュアップしており、よりリアルな評価ができるものに改善しているという。
木村社長いわく、「コンテストのレベルはじわじわ向上しており、今年はそれに合わせて、設定をよりリアルにしました」とのこと。例えば、前回までは20分という競技時間を考慮し、オーナーの情報や「こういうニーズでくるよ」といったヒントをある程度参加者にも伝えていたという。しかし今回は、そうした事前情報を、実際に接客前に得られるものと同程度まで絞り込んだのだ。「設定をかなりリアルに振った割には、(ロールプレイングが)破綻するチームもなく、各チームがよさや持ち味を見せてくれたんじゃないかと思います」
このCS-VESCが復活したのは2015年。木村社長がボルボ・カー・ジャパンのトップに就任した翌年のことで、顧客満足度を第一に掲げる木村社長の、人材育成に関する取り組みの一環だったことがうかがえる。
「人材育成については、この5年間ずっと継続してやってきています。商品知識については、受け付けの人も含めた全国1500人のスタッフ全員に、うちのクルマと競合車にサーキットで乗ってもらう商品研修を年に2回実施しています。もうひとつ力を入れているのが接客やおもてなし。今はITの時代なので、セールス以上に商品の情報をよく知るお客さまがいる一方で、これまで通り『ちょっと見てみようか』とフラッと訪れるお客さまもいる。そういった中で、お客さまの時間を無駄にしない。的確にニーズに応える、対応できるようにする。今日のもの(=CS-VESC)は、その集約だと思っています」
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まずは従業員がハッピーであること
もうひとつ興味深かったのが、木村社長が顧客満足度とともに従業員の満足度を重視していた点だ。
「うちでユニークなのは、お客さまを満足させるには、従業員自身が満足して働いていないとだめだと考えていることで、インポーター主導で年に1回、従業員の満足度調査をやっているんですよ。CS(Customer Satisfaction)を上げるために、そのベースとなるES(Employee Satisfaction)をどうやっていくんだ? という対策も、地区担当員と話し合いながらいろいろやっています」(木村社長)
もちろん、意欲のあるスタッフにとっては2年に一度のCS-VESCも“満足度アップ”につながる催しだろう。表彰式では個人部門で優勝したボルボスタジオ青山の鈴木裕美さんが、練習に付き合い、環境を整えてくれた店舗の同僚やゼネラルマネジャーらに謝意を述べていた。ボルボスタジオ青山はもちろん、このファイナルまで残った拠点はどこも、スタッフ総出で出場メンバーをサポートしていたに違いない。そういうイベントがあることは、接客業に意欲を持つスタッフのモチベーションにつながるはずだ。
「自分たちの商品を深く知ることと、お客さまのニーズにどれだけ寄り添えて、いろんな提案や接客ができるかということを中心に、ずっと地道にやってきました。CS-VESCも5年たちましたので、これで3回目です」
木村社長の話に耳を傾けつつ、冒頭の“小難しいビジネス横文字用語問題”に話を戻す。トレンディーでおしゃれな標語を掲げるのも結構だが、結局、やるべきことは今も昔も変わらないのではないか。
ブランド改革の秘訣(ひけつ)は、地道な取り組みの積み重ねと見つけたり。
(webCG堀田)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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