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FFを選んでもコダワリは変わらず
新型「1シリーズ」に見るBMWの理想主義

2019.08.02 デイリーコラム 藤島 知子

お客さまとの“ズレ”に直面

「駆けぬける歓び」というキャッチフレーズとともに、独自のブランドの世界観を築き上げてきたBMW。彼らがつくるクルマは縦置きエンジン、後輪駆動のFRで前後重量配分50:50を実現するなど、理想の走りを実現するための“メカニズムへのコダワリ”が半端ではない。そうしたコンセプトはエントリーモデル「1シリーズ」についても同様で、2004年に登場した初代と2011年に発売された2代目はFRレイアウトを採用していた。

ところが、そんな1シリーズに異変が起こった。最新モデルとしてリリースされた3代目は、前輪駆動のFFレイアウトで登場したのだ。

BMWのラインナップを見渡すと、FFについては、すでに実用空間重視の「2シリーズ アクティブツアラー」や3列シートの「2シリーズ グランツアラー」が存在しているが、1シリーズはといえば、軽量コンパクトな素性のよさを生かして、素直なハンドリングと軽快な走りが楽しめる貴重なFRモデルとされていた。それだけに、「あの1シリーズがついにFFになっちゃったの!?」と、嘆く人もいるだろう。BMWはすでにMINIブランドでFFの研究開発を徹底的に行っており、FFのクルマづくりに関する手腕は実証済み。気になるのは、「これまで続けてきたFRの実績を捨ててまで、1シリーズをFF化することが大事だったのか?」ということだ。

その点では、以前、コンパクトSUV「X1」のユーザーに関する話をBMWの担当者にうかがった時のことを思い出す。「現在の1シリーズのオーナーは、自分のクルマの駆動方式が何なのか知ることなくクルマを選ぶ人が多い」というのだ。

クルマ好きからすれば、「メーカーのコダワリも知らずに、なぜBMWを選ぶのか?」と聞いてみたくなるところだが、ブランドへの憧れやスポーティーな雰囲気に引かれて、自分を演出するクルマとして選ぶユーザーも少なくないのだろう。その観点ではたしかに、駆動方式がFFなのかFRなのかは、必ずしも関係ない。クルマの中で過ごし、道具として使う上では、走りに対するかたくななコダワリよりも、車内でゆったりくつろげることや荷物が積みやすいことのほうがよっぽど重要なのだ。

3代目となる新型「BMW 1シリーズ」。モデルチェンジに際し、駆動方式が従来のFRからFFへと変更された。
3代目となる新型「BMW 1シリーズ」。モデルチェンジに際し、駆動方式が従来のFRからFFへと変更された。拡大
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4391×1799×1434mm。FRの従来型よりも全長は若干短くなった一方、全幅と全高は拡大されている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4391×1799×1434mm。FRの従来型よりも全長は若干短くなった一方、全幅と全高は拡大されている。拡大
ホイールベースは先代よりも20mm短縮されているが、パッケージングの根本的な変化により、後席のニールームは33mm拡大した。ヘッドクリアランスは19mm広がっている。
ホイールベースは先代よりも20mm短縮されているが、パッケージングの根本的な変化により、後席のニールームは33mm拡大した。ヘッドクリアランスは19mm広がっている。拡大
FF化に伴い、フロントのエンジンは横置きに搭載されるようになった。
FF化に伴い、フロントのエンジンは横置きに搭載されるようになった。拡大
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すべての乗員に歓びを

考えてみれば、1シリーズのユーザー構成比は、世界的に見ても女性ユーザーの比率が4割と高くなっているし、「取り回しやすいボディーサイズと実用空間を併せ持つ一台」を念頭に置くならば、新型1シリーズの開発においてFF化に踏み切ったことは“正義”ともいえるだろう。

3代目1シリーズについては、ドイツ・ミュンヘンで行われた試乗会でBMWの商品企画の担当者と話す機会を得た。彼が言うには、デジタルメディアが普及し、実際のカスタマーに直接アプローチできる環境になったことで、最近は、クルマのさまざまな機能がどれくらいの頻度で使われているかをリサーチしたり、車両から取得した情報をビッグデータとして活用したりして、クルマを使う時に遭遇する環境にフォーカスしたクルマづくりを進めているのだという。

その点、今回の1シリーズはFF化によって乗員の周辺スペースにゆとりが生まれ、3分割式でアレンジできる後部座席はシーンに応じて臨機応変に使いこなせるようになった。壁面の張り出しが多かったFRの先代に対し、荷室の最小幅は67mmも広がっている。「駆けぬける歓び」というBMWのキャッチコピーは、その言葉の通り、ドライバーが主役のクルマづくりを示すものといえるが、FF化した新型1シリーズは「乗員みんなが主役になれるクルマ」に進化したといえるだろう。

毎日使ってうれしい実用的な空間や、対話しながらさまざまな機能を設定できるインフォテインメントシステム、さらに運転支援機能も充実した新型1シリーズ。安心で快適なドライブをフォローしてくれる一方で、FF化しながらも、ユーザーの心を熱くする、BMWの理想の走りを求める開発の手は緩んでいない。これまで拾いきれなかった客層を取り込む懐の深さを見せながらも、同時に走りを深化させようとしているあたりは、やはりBMW。根底にあるマインドはちっとも変わっていないのだ。

(文=藤島知子/写真=BMW/編集=関 顕也)

ドライバーに向けて傾けられたセンターコンソールなど、“ドライバーオリエンテッド”なコックピットは新型でも健在だ。
ドライバーに向けて傾けられたセンターコンソールなど、“ドライバーオリエンテッド”なコックピットは新型でも健在だ。拡大
荷室の容量は5人乗車時で380リッターと、先代よりも20リッター拡大された。写真は後席を前方に倒し、積載スペースを1200リッターにまで広げた状態。
荷室の容量は5人乗車時で380リッターと、先代よりも20リッター拡大された。写真は後席を前方に倒し、積載スペースを1200リッターにまで広げた状態。拡大
2019年9月末には、新型「1シリーズ」の販売がグローバルに開始される。日本市場への導入時期は未定である。
2019年9月末には、新型「1シリーズ」の販売がグローバルに開始される。日本市場への導入時期は未定である。拡大
藤島 知子

藤島 知子

モータージャーナリスト <愛車:アウディS1、アストンマーティンDB9> 幼い頃からのクルマ好きが高じて、市販車やミドルフォーミュラカーなどのレースに参戦。2007年にはマツダロードスターレースで女性初のクラス優勝を獲得した経験を持つ。レース活動で得た経験や女性目線をもとに自動車専門メディアやファッション誌などに寄稿。テレビ神奈川の新車情報番組『クルマでいこう!』は出演10年を迎える。日本自動車ジャーナリスト協会会員、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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