それはまさに“屋根付きのF1マシン”
加速するアストンのミドシップ・ハイパーカー戦略
2019.08.05
デイリーコラム
ブランド初のミドシップは数量限定のスペシャルモデル
この夏、世界限定500台のハイパーカー「ヴァルハラ」の開発プロセスを提示する“ショーケース”イベントを、全世界の愛好家のためにスタートしたことにより、次なる局面へと入ったアストンマーティンのミドシップ戦略。2016年に、同じくショーケースイベントで「ヴァルキリー」(当時はまだこの車名ではなかったが)を初公開して以来、矢継ぎ早に精力的なアプローチを展開している。
その嚆矢(こうし)となったヴァルキリーは、サーキット専用モデルとして開発・製作されたFRの「ヴァルカン」では飽き足らず、さらなる高みを目指すために開発された、やはりサーキット志向の強いミドシップのハイパーカーだ。当初は「AM(アストンマーティン)-RB(レッドブル)001」と名づけられていたことからも分かるように、2016年からパートナー契約を結び、2年後の2018年からはタイトルスポンサーとしてその活動を支えるようになったF1の有力チーム、レッドブル・レーシングとの“コラボレーションモデル”である。
現代のF1シーンにおける最高の名匠、レッドブルのエイドリアン・ニューウェイ氏が「ロードカーを手がけてみたい」という積年の夢をかなえるべく開発したというこのヴァルキリーは、当代最新のF1テクノロジーの粋を集めたカーボンファイバー製モノコックに、英国のみならず、世界のモータースポーツと密接な関わりを持つ名門、コスワース社とともに開発した6.5リッターの自然吸気V12エンジンをミドシップ搭載する。
魅力はF1譲りの心臓部とエアロダイナミクス
開発当初は、現在のF1と同じV6ターボという選択肢も考えられたそうだが、レーシングカー由来の、エンジンマウントが無きに等しい車体構造では、カーボンシャシーに伝わる振動が不可避となるため、あるいはアストンマーティン愛好家に訴えるエンジンサウンドを重視して、ヴァルカンと同様に自然吸気V12を選択したという。
これに加え、電動のハイパーカーを自ら発表しているリマック社とともに開発した、F1でおなじみのKERS 由来の電動アシストシステムを組み合わせた“パワーユニット(PU)”とすることにより、ヴァルキリーのシステム総出力は1176ps/10500rpm、最大トルクは900Nm /6000rpmに到達。まさしく異次元のハイパーカーといえるだろう。
当代最新のエアロダイナミクスを徹底追求するため、2人の乗員がなんとか乗ることのできる程度の小さなキャビンしか持たないヴァルキリーだが、今年後半から150台が限定生産されるロードカーでもある。そしてヴァルキリーの純粋性をさらに高め、ヴァルカンと同じくサーキット専用モデルとした「AM-RB 002」、正式名称「ヴァルキリーAMR Pro」も、2020年から25台のみ製作されると発表されている。
一方、日本ではこの2019年7月22日に初公開されたヴァルハラは、当初「AM-RB 003」と呼ばれていた第3の新世代ミドシップ・アストンである。ヴァルキリーよりもロードゴーイングスポーツカーとしての資質を追求したモデルで、居住性アップのために拡大されたキャビンと、空力的にはより穏当ながら、ヴァルキリー同様に美しいボディーが与えられる。
また、車体を大型化することなくキャビンを拡大するためか、V6ターボガソリンエンジンを基幹とするPUシステムを搭載するものの、想定されるシステム総出力は1000ps以上と、ハイパーカーの称号にふさわしいレベルにある。
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ミドシップ・アストンの展望と伝統的GTの未来
今回のショーケースイベントでは、販売価格についての明言は避けられたものの、海外のスクープ系メディアによると「100万ポンドは超えるであろう」とのこと。生産は2021年スタートを期しており、予定台数は世界限定500台と、ヴァルキリーよりは多めである。この数字は、いわゆるハイパーカーとしても比較的多めで、これからイベントなどで雄姿が見られる機会もありそうだ。
このように、ヴァルキリーとヴァルハラは、アストンマーティンとしては1979年にプロトタイプを製作し、25台の生産予定と公表しつつもついに生産化には至らなかった「ブルドック」以来の悲願、すなわち“ミドシップ・アストンのシリーズ生産化”を、実に40年もの時を経て実現しつつあるのである。
アンディ・パーマー氏がCEOに就任して以来、モータースポーツ志向を前面に押し出し、ハードコア化が進んでいるように見えるアストンマーティンにあって、このドラスティックなミドシップ化は新生ハイパーカーだけにとどまらず、既存の量産モデルにも波及していくのか? だとすれば、これまでアストンマーティンを支えてきたエレガントなグランドツーリングカーはどうなるのか。例えば、すでに未来への指針を表明している「ラゴンダ」ブランドと同じく、電動化の道を進んでいくのか……。
アストンマーティン愛好家、そしてスーパーカーファンにとって、興味が尽きないところであろう。
(文=武田公実/写真=武田公実、アストンマーティン、レッドブル、Newspress、webCG/編集=堀田剛資)
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武田 公実
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