レッドブル・ホンダの快進撃に次世代チャンピオン候補の台頭!
2019年のF1が王者独走になっても最高におもしろいわけ
2019.08.09
デイリーコラム
フェルスタッペンが移籍? レッドブル・ホンダ初優勝の裏側
全21戦が組まれている2019年のF1は、先のハンガリーGPを終えてサマーブレイクに突入。前半の12戦を振り返れば、2014年から頂点に君臨するターボハイブリッド時代の王者、メルセデスが開幕から8連勝し、そのエースであるルイス・ハミルトンは4連勝を含む8勝を記録。それぞれのチャンピオンシップでライバルを大きく引き離してシーズンを折り返した。
しかし、王者が独走しているからといって、今年のF1が既に“終わっている”わけではない。むしろ、これだけ中身の詰まったシーズンもなかなかないのではないか、というほどの充実ぶりである。前半戦の最大のトピックは、第9戦オーストリアGP、第11戦ドイツGPと優勝、第12戦ハンガリーGPではポールポジションを記録するなど健闘を続けているレッドブル・ホンダ&マックス・フェルスタッペンだろう。
例年、開幕からのスタートダッシュが決められないでいたレッドブルは、今季もメルセデス、フェラーリに次ぐ“3強の3番手”としてシーズンに突入。今年はフロントウイング周辺のレギュレーションが変わり、いわゆる「アウトウォッシュ効果(前輪で生じた乱流をフロントウイングで側面に逃す)」が抑制された影響で、定評のあった空力面でバランスを崩してしまった。
シーズン当初から優勝を狙っていた第6戦モナコGPでは、トップのハミルトンにフェルスタッペンが猛追を仕掛けるも、ピットでの危険なリリースでペナルティーを受け2位から4位に転落。第8戦フランスGPでも、メルセデス、フェラーリに力及ばず4位に沈んだ。この時点でレッドブルは、ランキング首位メルセデスから201点、2位フェラーリからは61点も離された。
こうした苦しい戦況に「フェルスタッペンの離脱」といううわさまで流れた。フェルスタッペンとレッドブルの契約は2020年までとなるが、そこにはパフォーマンスが一定以上に達しなかった場合の解約条項があると見られており、メディアが伝えるところによれば「ハンガリーGPまでにドライバーズチャンピオンシップ3位以内にいなければ、フェルスタッペンに移籍の自由を認める」という内容。フランスGP時点でフェルスタッペンはランキング4位。この報道が本当ならば、チーム側も大いに気をもんでいたことだろう。
そんな旗色が悪い中で迎えたのが、チームの地元での開催となるオーストリアGP。昨年劇的勝利を挙げたフェルスタッペンが、今年も大暴れすることとなった。
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ホンダのアグレッシブな開発プラン
懸案のフロントウイングをモディファイしてきた「レッドブルRB15」に搭載されるのは、「スペック3」と呼ばれるパワーユニット。ホンダは、4月末の第4戦アゼルバイジャンGPで「スペック2」をデビューさせると、早くも2カ月後の第8戦フランスGPではスペック3にバージョンアップ。内燃機関たるICEなどは年間3基までという現行レギュレーションにあって、ペナルティー覚悟のアグレッシブな開発プランを採ってきていた。そのスペック3の眼目はターボの改善。航空機「ホンダジェット」の知見を生かしたというターボチャージャーが、標高が高く、高温に見舞われたオーストリアで大活躍することになった。
2番グリッドからスタートで失敗し7位。そこから徐々に、着実にポジションを上げてきたフェルスタッペンに、レース終盤「エンジン11、ポジション5」という指示が飛んだ。常勝軍団のメルセデスがオーバーヒートに苦しむ中、ホンダのパワーユニットはひときわパワフルなモードでレッドブルを後押し。フェルスタッペンがシャルル・ルクレールを抜きトップに立つと、ついにレッドブル・ホンダとしての初優勝の瞬間が訪れた。
さらに続くイギリスGPでも、レッドブル・ホンダは予想以上の速さを見せた。超高速シルバーストーンの予選で、トップから0.183秒遅れの4位。昨年、ルノーのパワーユニットでは0.71秒差だったことを考えれば大いなる前進だ。レースではフェルスタッペンが3位に上がった直後、セバスチャン・ベッテルに追突される不運に見舞われてしまったが、レッドブル・ホンダのポテンシャルの高まりを十分に示していた。
そして、雨で大混乱のうちに終わったドイツGPでフェルスタッペンが今季2勝目をマークすると、次のハンガリーGPではフェルスタッペンが初ポールポジションを獲得、レースではハミルトンと互角に渡り合うもピット戦略でメルセデスに惜敗と、夏の連戦で快進撃を続けた。
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「最強伝説」第2章の予感
ホンダにしてみれば、2015年のF1復帰から続いた隘路(あいろ)がようやく開けてきた、2019年前半戦だった。
ホンダがこれまでにF1で記録した優勝は74回。このうち、オールホンダで臨んだ「第1期(1964-1968年)」で2勝、エンジンサプライヤーとして黄金期を築いた「第2期(1983-1992年)」で69勝、エンジン供給から途中フルワークスへと移行した「第3期(2000-2008年)」では1勝だけ。連勝に次ぐ連勝、タイトルを総なめにした「ホンダ最強伝説」は、実は30年も前の第2期のイメージでしかなく、2000年代に入ってからのホンダは、残念ながら最強チーム(エンジン)には程遠かった。
特に「第4期(2015年以降)」が苦難の連続だったことは記憶に新しいところ。他のパワーユニットメーカーより1年遅れてデビューしたターボハイブリッドを載せたマクラーレンは、よく壊れ、そして絶望的に遅かった。元王者フェルナンド・アロンソに「(下位カテゴリーの)GP2のエンジンだ!」となじられ、かつてともに16戦15勝を飾ったマクラーレンには三くだり半を突きつけられたホンダは、しかし撤退の道を選ばず、2018年にはトロロッソと手を組んで地固めに取り組んだ。
そして今年、トロロッソの兄貴分である元チャンピオンチームのレッドブルにもパワーユニットを供給。次世代チャンピオン候補ナンバーワンの呼び声高いフェルスタッペンのドライブで、しっかりと上昇の機運をつかんだ。
ハンガリーGPを終え、フェルスタッペンはランキング2位のバルテリ・ボッタスに7点差まで詰め寄り、レッドブルは2位フェラーリの44点後方まで迫った。今後の結果次第では、独走中のメルセデスを苦しめる展開も十分に考えられる。その先に、「最強伝説」の第2章があるかもしれないと思えば、9月のベルギーGPから始まる後半戦にも注目せずにはいられない。
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「F1の輝かしい未来」次世代チャンピオン候補の台頭
ジャーナリストやファンの間で、先日ある動画が話題となった。今から7年前のカートレース後に撮られたという映像には、まだあどけない、しかしはっきりと誰だか分かる顔をした少年たちがいた。
「彼はフェアじゃないよ! 僕をコースの外に押し出したんだ」とご立腹なのはマックス・フェルスタッペン。その率直な物言いは当時から健在だ。そのフェルスタッペンが非難する“彼”に、インタビュアーがマイクを向けると「いや、よくあるレースでの出来事だよ」と、悪びれずにさらりと一言。シャルル・ルクレールの年に似合わぬ落ち着きも、また昔から変わっていないようだ。
あの頃はまたレーシングドライバーを夢見る子供だった2人が、今、最高峰F1でトップチームに籍を置き互いに優勝を争うまでになって……と親心で目頭が熱くなるには、まだ早すぎる。なぜなら、21歳の彼らはドライバーとして伸び盛りで、F1の次なる時代を築いていくという大仕事のスタートラインに立ったばかりだからだ。
同じ1997年生まれ、親が元レーシングドライバーというこの2人は、それぞれの道を歩みF1にたどり着いた。オランダ人のフェルスタッペンは、レッドブルの育成ドライバーとして頭角を現し、2015年、史上最年少17歳でトロロッソからF1デビュー。既に100戦近くの経験と、GP7勝という実績を誇り、いまやレッドブルのみならずF1を代表するドライバーに。世界各国にオレンジ色を身にまとった大応援団が詰めかける“マックス・フィーバー”のおかげで、来年にはオランダGPが復活するまでになった。
フェルスタッペンに比べるとルクレールのF1キャリアはまだ短いが、若手を乗せないことで知られるフェラーリに、GP2年目で抜擢(ばってき)されたのだからポテンシャルは折り紙つき。第2戦バーレーンGP、第9戦オーストリアGPではポールポジションを獲得。いずれも優勝とはならなかったものの、クレバーな走りで4冠のチームメイト、ベッテルのお株を奪うことも多々あった。
新進気鋭のこの2人が、火花を散らす優勝争いを繰り広げたのがオーストリアGP。抜きつ抜かれつの好ゲーム、意地と意地のぶつかり合いが文字通り接触にまで発展するも、F1では先輩格のフェルスタッペンの方が一枚上手、レッドブルが勝利をかっさらっていった。
このレースを見たF1スポーティングディレクターのロス・ブラウンは、2人の戦いぶりを「F1の輝かしい未来を示している」と絶賛。フェルスタッペンとルクレール、史上最年少1-2が意味するのは、ブラウンが言う通り、F1の未来そのもの。この先10年は続くかもしれないライバル対決に思いをはせれば、心も踊るというものだ。
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3強に次ぐ中団チームのトップ、マクラーレンの躍進
名門の復権、とまではいかないが、開幕前にこれほどマクラーレンが躍進するとは誰も思っていなかったのではないだろうか。
何しろドライバーの1人は、前年F2タイトルを取り損ねた19歳のルーキー、ランド・ノリス。もう1人も移籍してきたばかりで、まだ表彰台の経験もない24歳のカルロス・サインツJr.。実績もなく、またチームになじみもないドライバーラインナップに加えて、近年チームは苦戦続き。果たしてマクラーレンの今季は大丈夫なのか?……などという心配は、早々に無用であることが分かった。
ノリスは、開幕戦オーストラリアGPでいきなり予選8位を取ると、トップ10グリッド以内に12戦で8回も入り、入賞も最高位6位を筆頭に5回記録するなど大活躍。GP5年目のサインツJr.も負けじと奮闘し、2人が前半戦だけで稼いだポイントは82点と、昨季1年で集めた62点を優に超えてしまった。244点でランキング3位につけるレッドブルには遠く及ばないものの、5位トロロッソには39点ものマージンを築いており、3強に次ぐ中団チームのトップに君臨している。
この躍進の背景には、チームの組織改革がある。マクラーレンを強豪に育て上げたロン・デニスを追い出した後、チームのボスとなったザック・ブラウンCEO。その頼れる右腕として、この5月からアンドレアス・ザイドルがF1マネージングディレクターに就任した。
2017年までポルシェの世界耐久選手権LMP1プログラムで陣頭指揮を執っていたザイドルは、かつてBMWザウバーなどでF1経験も積んだ人物。モータースポーツを熟知し、しがらみもない彼は、マクラーレンの悪名高き“マトリクス型組織構造”を捨て去るなど手腕を発揮し始めている。
さらにトロロッソから引き抜いた気鋭のデザイナー、ジェームス・キーも3月からチーム入りを果たしており、こうしたリストラクチャリングは現在も進行中である。近年の停滞がマネジメントを巡る政治論争を発端としていたことを考えれば、新たなトップ人事が組織に落ち着きをもたらし、チームの士気を高めるであろうことは想像に難くない。
マクラーレンは、7月にノリスとサインツJr.の来季残留を発表。この早々の決断は、チームの未来をこの若い2人に託してみよう、という決意の表れであるとともに、元チャンピオンのアロンソや、デニス時代の輝かしい戦績という“過去の名声”から解き放たれたことを意味するのではないだろうか。復活の道を歩み始めた“かつての名門”、その行く末に刮目(かつもく)しないわけにはいかない。
2019年のF1は、9月1日の第13戦ベルギーGPで後半戦をスタートさせる。
(文=柄谷悠人/写真=メルセデス・ベンツ、レッドブル・レーシング、フェラーリ、マクラーレン/編集=関 顕也)
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柄谷 悠人
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