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17年のカーライフで購入台数は50台超!
クルマ選びの鬼、マツダの新型車を買う

2019.09.04 デイリーコラム 鈴木 真人

クレバーなカーライフを送る“例外的な男”

巨匠・徳大寺有恒氏の言葉に、「自動車は、売っても買っても損をする」というものがある。至言であろう。売ろうとすると思った値段では買い手がつかず、欲しいクルマは高値のままというのがこの世の常だ。クルマ好きというものは、とかくターゲットを狭く設定してしまう。このクルマが欲しい! と思い込むと、ほかのモデルは目に入らない。そうなると、市場原理が働かなくなる。

webCGの編集部員は、常軌を逸したクルマ選びをすることで知られている。代表格は、タイヤ交換で40万円もかかる無駄な大排気量のアメ車に乗っているH青年だろう。いくらアクセルを踏んでも前に進まないイタ車を最近入手したW氏もどうかしている。売れ残っていた国産SUVを大幅値引きでゲットしたとはしゃいでいたF青年は、それがぬか喜びであることにまだ気づいていない。不人気車なのだから、買った瞬間に市場価格は3分の1に下がっている。

“間違いだらけのクルマ選び”が横行する編集部の中で、例外的にクレバーなカーライフを送っているのがK青年である。常に複数台のクルマを所有し、気に入ったクルマがあれば迷いなく購入する。それでも損は最小限に抑えているというからたいしたものだ。現在は「マツダCX-8」と「メルセデス・ベンツEクラス」のステーションワゴンに乗っている。もう1台は必ずマニュアルトランスミッションのクルマを持つことにしていて、それを最近買い替えた。

エッセイ『バイパーほったの ヘビの毒にやられまして』でおなじみの、編集部H青年の「ダッジ・バイパー」。タイヤ交換で右往左往していたが、現在は「それどころじゃない」(本人談)理由で修理工場に入庫中だとか。
エッセイ『バイパーほったの ヘビの毒にやられまして』でおなじみの、編集部H青年の「ダッジ・バイパー」。タイヤ交換で右往左往していたが、現在は「それどころじゃない」(本人談)理由で修理工場に入庫中だとか。拡大
編集部W氏はかつてwebCGの社用車として活躍した「フィアット・パンダ4×4」をお買い上げ。イタリア車のいいところも悪いところもたっぷりと詰まっている。
編集部W氏はかつてwebCGの社用車として活躍した「フィアット・パンダ4×4」をお買い上げ。イタリア車のいいところも悪いところもたっぷりと詰まっている。拡大
編集部F青年は「三菱エクリプス クロス」の“新車”を55万円引きでゲット。不人気車だから安いということにどうして気がつかないのだろうか。
編集部F青年は「三菱エクリプス クロス」の“新車”を55万円引きでゲット。不人気車だから安いということにどうして気がつかないのだろうか。拡大

K青年の浮世離れした生活

これまで乗っていたのは「フォルクスワーゲンup! GTI」。ノーマルの「up!」のトランスミッションが5段AGSのみなのに対し6段MTを備えるハイパワーバージョンで、2018年に限定販売された人気モデルである。突然手放したのは、再発売が決まってしかもカタログモデルになるという情報を聞きつけたからだ。発表されてしまえば中古車価格が下落するのは間違いない。機敏な行動で、首尾よく高値で売り抜けるのに成功した。

自動車は趣味の対象であるとともに実用的な乗り物なのだから、いくつかのモデルを比較対照して選ぶのがまっとうな社会人というものである。徳大寺氏の言葉が響くのは一部の偏ったマニアの間の話で、多くの自動車ユーザーは性能と価格を吟味した上で理性的な判断を下す。当たり前の話だ。

up!の話でわかるように、K青年は極めて怜悧(れいり)な頭脳を有し、合理的な思考を旨としている。クルマ好きではあるが、欲しいクルマであっても高ければ買わない。リセールバリューまで考えて購入するモデルを決める。中古車サイトをチェックし、市場動向を探るのが日課だ。彼のクルマ選びを振り返れば、きっと有用な情報が得られるのではないか。

ただし、K青年のカーライフが尋常ではないことを断っておこう。大学の入学祝いに初代「ニューMINI」を買ってもらって以来、17年の間に購入したクルマは優に50台を超える。当然所有している期間は短い。MINIも1年で手放しており、3カ月程度で買い替えたクルマも珍しくないという。これまでの最長は「BMW 525iツーリング」の約2年。車検を取ったことが一度もないというから驚く。

現在は横浜と山梨県のリゾート地に家を持っており、2つの場所をクルマで移動する。走行距離が伸びるのは自然で、3カ月で手放したクルマでも1万kmは乗っているそうだ。浮世離れした生活とも言えるが、本人は人当たりのいい好青年である。イ・チャンドン監督の傑作映画『バーニング』に登場するベンというセレブ実業家にどことなく似た雰囲気を持つナイスガイだ。

K青年が先日まで所有していた「フォルクスワーゲンup! GTI」は2018年に限定販売されたもの。2019年2月にカタログモデルとして再導入されるとの報をさるディーラー筋から入手し、値下がり前にうまく売り抜けたそうだ。
K青年が先日まで所有していた「フォルクスワーゲンup! GTI」は2018年に限定販売されたもの。2019年2月にカタログモデルとして再導入されるとの報をさるディーラー筋から入手し、値下がり前にうまく売り抜けたそうだ。拡大
K青年がこれまでで最も長く所有したという「BMW 5シリーズ ツーリング」(E61型)。これも含めてただの一度も車検を通したことがないというのだから驚く。
K青年がこれまでで最も長く所有したという「BMW 5シリーズ ツーリング」(E61型)。これも含めてただの一度も車検を通したことがないというのだから驚く。拡大

K家が迎えたニューモデル

本題に入る。彼がup! GTIの代わりに購入したクルマのことだ。厳しい審査を通り抜けたのは、「マツダ3」の「ファストバック」である。リアクオーターの流麗な造形と世界初の燃焼方式SPCCI(Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火)を実用化したスカイアクティブXが話題だ。ただ、彼が選んだのは1.5リッターガソリンエンジン搭載モデル。スカイアクティブX搭載モデルが発売される12月(マツダ3のローンチ時は10月と発表されていた)まで待てなかったのか。K青年は明確な考えを持っていた。

「最初は僕もマツダ3はXでなければ、と考えていました。ディーラーでまず1.8リッターディーゼルに試乗したんですが、あまりピンとこなかったんです。シャシーの出来が良すぎて、それを使いこなせていない。鼻先が重く感じました。次に1.5リッターガソリンに乗ったら、すごくいいんですね。前に乗っていた『ロードスター』(ND)と同じ音がします。エンジンは非力で坂を登りませんが、のんびり走るのが好きなので気になりません」

スカイアクティブXモデルには乗っていないわけだが、待つ必要はないと判断した。

「Xが出ても買い替えるつもりはありません。ディーゼルっぽい力強さを持っていると言われますが、マツダ3には合わないんじゃないでしょうか。今回はあくまで実験的に採用しただけで、本命は『マツダ6』だと思います。スカイアクティブXのマツダ6が出たら買うつもりですよ」

新しいものが出たからといって、すぐに飛びついたりはしない。実に堅実で賢明な態度である。マツダ3の長所も短所も見極めた上での購入なのだ。

「ハンドリングがしっとりして雑味がありません。マツダがこれまでやろうとしてなかなか実現できなかったテイストが、ようやく完成したのだと思います。ただ、リアのトーションビームサスペンションは結構ハネますね。まあ、それが面白いんですが」

もうひとつ、特筆すべきポイントがあるという。ワイパーだ。

「ウオッシャー液の出方が素晴らしいんです! まったく飛び散らないし、フロントガラスの全体をしっかりワイパーがカバーしています。吹き残しがないのはうれしいですね」

細かいところまで観察している。50台以上をマイカーとして乗り継いできたからこその視点だろう。試乗だけでは目が届かないところもある。K青年の聡明(そうめい)さを見習わなければならない。とはいいながら、かく言う僕自身は最近ヘンなドアのクルマからヘンな屋根のクルマに乗り換えたばかりなのだった。webCG編集部の面々同様、スマートなクルマ選びへの道は遠い……。

(文=鈴木真人/写真=フォルクスワーゲン、BMW、webCG/編集=藤沢 勝)

K青年が新たに購入したのは「マツダ3ファストバック」。選んだのは1.5リッターガソリンエンジンのMTモデル。
K青年が新たに購入したのは「マツダ3ファストバック」。選んだのは1.5リッターガソリンエンジンのMTモデル。拡大
K青年のお気に入りポイントのひとつであるワイパー。ブレードにウオッシャー液の吹き出し口が内蔵されているタイプで、「しぶきが飛ばず、吹き残しもない優れもの」だそうだ。
K青年のお気に入りポイントのひとつであるワイパー。ブレードにウオッシャー液の吹き出し口が内蔵されているタイプで、「しぶきが飛ばず、吹き残しもない優れもの」だそうだ。拡大
筆者が先日まで所有していた「トヨタ・セラ」。
筆者が先日まで所有していた「トヨタ・セラ」。拡大
「セラ」から買い替えたのは「ルノー・ウインド」。ミドシップのように見えるが、実際は1.6リッター直4エンジンをフロントに横置きで搭載するFF車である。
「セラ」から買い替えたのは「ルノー・ウインド」。ミドシップのように見えるが、実際は1.6リッター直4エンジンをフロントに横置きで搭載するFF車である。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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