会場までの道のりはミステリーツアー!?
「ポルシェ・タイカン」のワールドプレミアに立ち会って
2019.09.11
デイリーコラム
自然エネルギーを象徴する3カ所で
ポルシェは2019年9月4日、初の100%バッテリー電気自動車(BEV)「タイカン」のワールドプレミアイベントを、欧州、北米、中国の世界3カ所で同時刻に行った。ドイツではベルリン近郊のノイハルデンベルクの太陽光発電所、北米では米国ニューヨーク州とカナダ・オンタリオ州の国境にあるナイアガラの滝近くの水力発電所、中国では福建省福州市から約150km離れた平潭(ぴんたん)にある風力発電所と、ポルシェにとって主要なマーケットであり、かつ自然エネルギーで電力を賄う象徴的な場所を選んでのプレゼンテーションだった。
なぜ、アジア地域では中国で開催されたのかといえば、それは言わずもがなアジアのみならず、世界でナンバー1の自動車マーケットだからだ。PM2.5などによる深刻な大気汚染に悩む中国は、大量の補助金を用意し、国策としてNEV(New Energy Vehicle)規制を推し進めている。NEV規制は米カリフォルニア州が採用するZEV(Zero Emission Vehicle)規制法にならい、中国で年間3万台以上の自動車生産、輸入を行うメーカーに対し、NEVに付与されるクレジットの獲得を義務付け、目標をクリアできなければ罰金を科すというものだ。現在の米中関係の影響による市場動向には細心の注意が必要だが、ポルシェにとって中国が最重要マーケットであることに変わりはない。
スニークプレビューで見たタイカン
ワールドプレミアに際し、福州市内のホテルに前泊した日本からの取材陣は、4日当日の朝、ホテル内に特別に設(しつら)えられた、厳重に秘匿された部屋でタイカンとの初対面を果たした。そこでは紺色の「ターボ」をもとに、チーフエクステリアデザイナーのペーター・ヴァルガ氏の解説によるスニークプレビューが行われた。
ボンネットよりも高い位置に峰のあるフェンダーや「911」を彷彿(ほうふつ)とさせるサイドウィンドウグラフィック、そして最新の992型911などと同じく水平に一直線に伸びたリアランプなどからは、一目でポルシェのDNAを見て取れる。ヘッドライトは、911とも「パナメーラ」や「カイエン」などとも違う、ポルシェの新しい顔といえるものだ。ヴァルガ氏も2015年に登場したコンセプトカー「ミッションE」のデザインを市販車に再現することに腐心したと話す。ヘッドライトの端から下に伸びたラインは空気を取り込むスリットになっており、空力性能や冷却性能を高めるという。
真っ白な空間に置かれたタイカンは、ボンネットが低く、キャビンもコンパクトで意外に小さく見えた。実際のところのボディーサイズは全長×全幅×全高=4963×1966×1378mmと、パナメーラより小型とはいえ決して小さくはないが、引き締まった筋肉質な印象を受けた。
ポルシェは変わり続ける
その日の夕方6時、ホテルに迎えのバスがやってきた。どこに行くのかは正確には告げられていない。福州市内から南へ約150km、2時間をかけてたどりついたのは、平潭にある風力発電所だった。この島は「世界三大風力地帯」のひとつに数えられるほど風力資源に恵まれており、現在は世界最大の洋上風力発電設備の開発が進められているという。
到着した頃にはすでに周囲は真っ暗で、そこが風力発電所だということは、言われなければわからない。暗闇に「PORSCHE」のロゴが白く輝き、ブルーにライトアップされた建屋が目に入るだけだ。中はとてつもなく広い。このためだけに作られた施設のようだが、もはや仮設というレベルではない。日本からのわれわれのほか、中国や韓国などアジアから約400名の報道陣が招待されたと聞いていたが、おそらくそれ以上の人数がいたのではないか。
現地の午後9時、ワールドプレミアイベントがスタートした。まず登壇したのは、ポルシェAG研究開発担当役員のミヒャエル・シュタイナー氏。冒頭でこのように述べた。
「ポルシェは常に変わり続けることによってのみ、ポルシェたりえた。今日は世界に対して、変化とはどういうものなのかを具体的にお見せしたいと思います。われわれの伝統をイノベーションによって未来へとつなげていく。すべてのポルシェには魂があり、レーシングドライバーたちがその魂をカタチづくっている。タイカンはそれを再定義するものです。『Soul, electrified.』それは、電動化された魂)。ポルシェはエモーショナルな内燃機関をつくり続ける一方で、すでにプラグインハイブリッドで成功を収めています。そしてこのピュアEVを3つめの柱として構築していく。ポルシェは電動化に60万ユーロを投資し、2025年までにポルシェの販売台数の半分を電動化することを予見しています」
タイカンを体感して膨らむ期待感
その後、全プロダクトのコンセプトなどを担当するゲルノート・ドエナー副社長、チーフエクステリアデザイナーのペーター・ヴァルガ氏のプレゼンテーションののち、再びミヒャエル・シュタイナー氏が登壇。いよいよアンベールのときを迎えた。
ステージの向かって左手から白の「タイカン ターボS」が滑り込んできた。その瞬間、生温かい風が一気に観客席へと流れ込む。最初は何が起きたのかわからなかった。ステージの背後にあったはずの壁やスクリーンが一瞬にして消え、真っ赤にライティングされた風力発電用のタワーが遠くにいくつも見える。それが本物だと理解するまでに少し時間がかかった。この風によって発電しているというわけだ。
このスケールの発表会を欧州と北米と合わせて世界3カ所同時に行うというのだから、ポルシェの並々ならぬ本気度を感じるというものだ。
ワールドプレミアに先立って、助手席ながらタイカンのプロトタイプに試乗する機会があった。0-100km/h加速3秒を切るその速さは、まさに異次元。これまでに乗ったすべてのBEVの中で最も重心が低くスポーティーだといえる。テストドライバーの腕にかかればESPをオフにしてのドリフトも自在だった。スペックだけを見ても、もはや速さに疑いの余地はない。あとはステアリングを通じて、どれだけポルシェらしさを感じることができるのか。大いに楽しみだ。
(文=藤野太一/写真=ポルシェ/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
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