メーカーの垣根を越えた協業が加速
EV専用アーキテクチャーが自動車業界を変える
2019.09.23
デイリーコラム
昨今の取り組みに見るEV普及への本気度
多数の完成車メーカーが出展を見送った今年(2019年)のフランクフルトモーターショー。日本勢も軒並み不参加という中で、唯一気を吐いたのがホンダだった。
ワールドプレミア(世界初公開)は、2020年初夏からデリバリーを開始する量産型電気自動車(EV)「Honda e(ホンダ・イー)」。2017年のフランクフルトモーターショーで「Honda Urban EV Concept(ホンダ・アーバンイーブイコンセプト)」として登場し、2019年3月のジュネーブショーではプロトタイプが紹介された。コンセプト、プロトタイプ、量産型と、律義に3度もショーでのお披露目を経て発売するあたりに、ホンダの意気込みがうかがえる。
とはいえ、世のEV市場はメーカーの思惑とは裏腹に伸びが鈍い。「“量産”といってもEVだから、つくる数はたかが知れているのでは?」などと言われると、そうなる嫌いは否定できない。しかし、最近特に、メーカー各社のEVに対する本気の姿勢がうかがえるのも事実。各社が取り組むEV用アーキテクチャーの開発も、そうした傾向の一つとして挙げられる。
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基本骨格と部品を共有し、開発をスリム化
ホンダはメディア向けのイベント「Honda Meeting 2019」で、クルマの基本骨格を共用したEV専用のアーキテクチャーを採用し、部品の共有化を高めていくという方針を示している。ザックリ言えば、さまざまなEVに利用する共通の基本骨格を用意し、駆動ユニットやバッテリーパックなどのパーツを組み合わせて、クルマをつくるということ。それによって、個々のモデルの開発がスリム化し、生産体制のコンパクト化が期待されるのだ。ただし、専用アーキテクチャーの開発や部品の共有化は、同時期に複数のモデルに適用でき、かつ一定以上の台数が売れてこそメリットがある。やや古い事例だが、かつて三菱自動車はEVの横展開に賭けるのではなく、実績のある軽自動車「i」の車体をEV「i-MiEV」に適用することを選んだ。
ホンダはそうではなく、EV専用アーキテクチャーを開発し、部品共有化を推進する方針だ。これは、さまざまな車格のEVを量産することを本気で考えていることの証しだと言える。
自動車産業において共用や共有といった発想は珍しいことではない。むしろ、車台や部品等の共用化は当たり前のように行われている。これは開発・生産のコスト削減というメリットだけでなく、いくつかのアーキテクチャーや部品にリソースを集中できるので、その技術が磨かれるというメリットもある。
こうした改革に強いのは、やはりトヨタだ。2012年発表の「TNGA(Toyota New Global Architecture)」は車両開発の要となっており、レクサスなどのハイクラスモデルまでも、このコンセプトで貫かれることとなる。この思想はEVにも持ち込まれ、2019年6月にはEV専用プラットフォーム「e-TNGA」が発表された。そこで示された共同企画の概念図には、グループ企業のダイハツだけでなく、スバルとスズキも加わっていた。スバルとはミディアムSUVの企画開発を行い、先日資本提携を発表したスズキは、ダイハツと共にコンパクト車の企画開発を手がけるという。
顕在化しつつあるEVの新しいニーズ
また、海外勢ではフォルクスワーゲン(VW)がEV用プラットフォーム「MEB(エレクトリックツールキット)」を開発している。2016年のスタート以降、投資した金額は70億ドルに上り、これからの10年間で、グループ全体でMEBプラットフォームを使用した車両を2200万台生産する計画だ。さらに2019年7月にはフォードがMEBの採用を発表。2023年にはその第1号モデルを欧州に出すという。
世界的なEV用プラットフォームの盛り上がりは、EVの量産化を予感させる。量産となると従来の比ではない投資が必要になるが、それでも挑戦するのだとしたら、メーカーには「EVの新しい売り方」が見えているのかもしれない。
いままでのEVは、官公庁などが環境対策のシンボルとして購入するものの、後が続かなかった。最近は航続距離などの課題が解消しつつあるが、既存の乗用車と比べて使い勝手が悪いことは事実であり、一部の高級EVを除けば、オーナーカーとして普及する道筋は見えていない。
しかし、CASEとMaaSの概念が浸透しつつある昨今では、従来とは違ったEVニーズが生まれている。いまは自動運転の実証実験として運営されているケースが多いが、過疎化と高齢化が進む地方都市で新たな移動手段として期待されている車両は、軒並みEVだ。必ずしも“ピュアEV”である必要はないのだが、やはりEVはコンピューター制御しやすいのでMaaSに向く。公共交通ではオーナーカーのような趣味性の高いバリエーションは必要ないので、アーキテクチャーや部品が共用化されることと矛盾は生じない。
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ライバルが手を取り合う中で……
そしてもう一つ見逃せないのは、トヨタもVWも複数のメーカーでEVプラットフォームを共用化しようと取り組んでいる点だ。自動車メーカーにはいま、CASEへの投資負担が重くのしかかっている。関連技術を一通り自社開発できるのはトヨタやVWなど一部企業だけだが、それらトップ企業でもGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の存在もあって安泰ではない。全方位の投資は負担が大きすぎる。そこで、EVについてはアーキテクチャーや部品を複数の企業でシェアすることで投資を抑える方針としたのではないだろうか。
EV用プラットフォームを複数企業が共有すると書くと、似たようなクルマばかりでつまらなくなりそうだが、視点を変えれば協調領域と競争領域を設定したということだ。自動運転では当たり前のようにやっている開発手法である。協調領域を決めることで各社の投資負担を抑える一方で、競争領域の部分では各社が個性を打ち出すことが期待される。個人的には、スズキとダイハツがどのような違いを見せてくれるのかを楽しみにしている。
こうした流れの中で、ホンダは今のところ他社との共用は発表していない。ホンダの、ホンダによる、ホンダのためのEVシリーズ……。次回のフランクフルトで出会えるだろうか。
(文=林 愛子/写真=トヨタ自動車、フォルクスワーゲン、本田技研工業/編集=堀田剛資)
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林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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