ホンダは難コースの鈴鹿で28年ぶりの勝利なるか?
今年のF1日本GPはレッドブル&トロロッソの走りに注目せよ
2019.10.10
デイリーコラム
過去5年の表彰台に見る「鈴鹿で強いドライバー&マシン」
鈴鹿サーキットに、31回目のF1日本GPがやってくる。
小林可夢偉が2014年シーズンを最後にF1を去って以来、日本人ドライバー不在が5年も続いているが、今年はレッドブルとともに既に2勝を記録しているホンダの凱旋(がいせん)レースということもあり、日本のファンのみならず例年以上に注目が集まる一戦となる。
ホンダがお膝元の鈴鹿で最後に勝ったのは1991年。当時マクラーレンをドライブしていたアイルトン・セナがゴール目前で突如ペースを落とし、僚友ゲルハルト・ベルガーに花を持たせたという、オールドファンには懐かしいエピソードまでさかのぼらなければならないほど、随分昔の出来事になってしまった。
果たして28年ぶりに「鈴鹿でのホンダ優勝」となるか。今年の予想の前に、V6ターボハイブリッド規定が始まった2014年から5年間の、トップ3の顔ぶれを振り返ってみたい。
【2014年】
- 1位ルイス・ハミルトン(メルセデス)
- 2位ニコ・ロズベルグ(メルセデス)
- 3位セバスチャン・ベッテル(レッドブル)
【2015年】
- 1位ルイス・ハミルトン(メルセデス)
- 2位ニコ・ロズベルグ(メルセデス)
- 3位セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)
【2016年】
- 1位ニコ・ロズベルグ(メルセデス)
- 2位マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
- 3位ルイス・ハミルトン(メルセデス)
【2017年】
- 1位ルイス・ハミルトン(メルセデス)
- 2位マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
- 3位ダニエル・リカルド(レッドブル)
【2018年】
- 1位ルイス・ハミルトン(メルセデス)
- 2位バルテリ・ボッタス(メルセデス)
- 3位マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
王者メルセデスが鈴鹿5連覇、ハミルトンが4勝と他を圧倒しているのだが、実は3年連続で2位、2位、3位と表彰台にのぼっているのが、今季ホンダ勢をけん引するレッドブルと、そのエースであるフェルスタッペンである。
世界でも指折りのチャレンジングなサーキットとして多くのドライバーが称賛する鈴鹿は、運転するものの腕に加えて、マシン、パワーユニット、そしてチームの高い次元での総合力が問われるコースだ。2本のストレート、左右リズミカルに駆け抜けるS字、複合コーナーのデグナー、さらにヘアピンやシケインといった低速コーナーもあれば130Rのような高速コーナーもある。多種多様なターンが一周5.8kmに目いっぱい詰まっているがゆえ、極めて難しく、挑戦しがいのあるトラックとして人気がある。
過去5年、チャンピオンとして不動の地位を築いたメルセデスが鈴鹿で強かったことは言うまでもないが、非力が否めなかったルノーのパワーユニットでもポディウムの常連となっていたレッドブルとフェルスタッペンの力量も、また相当なものだったと言うべきであろう。
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今年は三つどもえの混戦模様 鈴鹿で勝つのは……?
さて、2019年の日本GPを制するのはどこになるだろうか。過去の戦績からすればメルセデス、日本人としてはレッドブル・ホンダと言いたいところだが、今シーズンこれまでの流れからすれば、そう簡単に予想できるものでもなさそうだ。
今季は、3強チームそれぞれがある周期で活躍する「3つの局面」があった。まずは3月の初戦オーストラリアGPから6月の第8戦フランスGPまでメルセデス8連勝、ハミルトンが6勝を記録した「メルセデス連勝期」。メルセデスが強かったというより、ライバルの出だしが悪かったと言うべきかもしれないが、この時点で大量リードを築いたシルバーアローに、夏になってようやく強烈なカウンターパンチを食らわせたのがレッドブルだった。
6月末の第9戦オーストリアGP、雨で荒れた第11戦ドイツGPとフェルスタッペンが2勝。第12戦ハンガリーGPでは、フェルスタッペンが93戦目にして初ポールポジションを獲得、レースではハミルトンと壮絶なトップ争いを繰り広げ、サマーブレイク前まで「レッドブル・ホンダ隆盛期」が続いた。
そして、8月末の第13戦ベルギーGPから日本GP前の第16戦ロシアGPまでの「フェラーリ覚醒期」だ。絶好調だった冬の合同テストから一転、思わぬ苦戦を強いられることになったスクーデリアが遅まきながら目覚め、ベルギー、イタリアの高速戦で2連勝したばかりか、続く市街地コースの第15戦シンガポールGPでは1-2を決め3連勝。ロシアGPではシャルル・ルクレールの4連続ポール奪取、ベッテルのリタイアで出されたバーチャルセーフティーカーまでは優勝争いに加わるほどの活躍を見せた。
先にも触れたように、鈴鹿では総力戦となるため、パワーユニットならピークパワーのみならず、レスポンスやドライバビリティーの良さも求められる。さらに車体においても、S字などではしっかりとしたダウンフォースが必要とされる一方、ストレートでのドラッグ(空気抵抗)にも気を配らなければならず、どこか一点が秀でているだけでは勝負にならない。近年はハイダウンフォース寄りのメルセデス、レッドブルが上位に食い込んできたが、今季の直近の2戦では、“直線番長”だったフェラーリが空力バランスを大幅に改善してきたことで三つどもえの様相を呈しており、先が読みづらくなっている。
シーズンを通して浮き沈みの少ないメルセデスが半歩リードといったところかもしれないが、ポールを連取しているフェラーリが予選でフロントローに並ぶとなれば、オーバーテイクが難しい鈴鹿で勝ちきる可能性も考えられそうだ。
ここのところ“3強の3番手”に落ち着きつつあるレッドブルは予選に課題がある。今季ポールは1回のみと、8回のメルセデス、7回のフェラーリに大きく引き離されており、せめて2列目、できれば3番グリッド以上を狙いたいところ。しかし失敗が多いレーススタートにはもうひとつの不安材料もある。しっかりとスタートし、タイヤを持たせ、巧みなピット戦略でトップを目指す、そうした、したたかな戦い方ならレッドブルにも勝機はありそうだ。
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ホンダ今季の集大成「スペック4」と日本人ドライバーのFPデビュー
パートナーシップ2年目を迎えたトロロッソに加え、3強の一角であるレッドブルにも今年からパワーユニットを供給するようになったホンダ。2019年シーズンにあたり、メルセデス、フェラーリとの差を縮めることを眼目に、矢継ぎ早にバージョンアップを図ってきたことは周知の通りだ。
早くも4戦目のアゼルバイジャンGPで「スペック2」をデビューさせ、その2カ月後のフランスGPに「スペック3」を投入。スペック3でのターボの改善が奏功し、高地・高温のオーストリアGPでの優勝につながった一方で、イギリスGPではターボラグの問題が露呈した。
そして8月末のシーズン後半戦スタートには、パフォーマンスと信頼性を向上させたという「スペック4」へと進化。V6エンジンなどは年間3基までしか使えないにも関わらず、4つも改良版を出したのだから降格ペナルティーは必至となってしまったが、前戦ロシアGPではV6エンジンもわざわざ新しいものに替え、日本を含む残るGPで何が起きてもいいように余裕を持たせる万全策も取ってきた。今季残り5戦でのバージョンアップは予定されていないことから、日本GPではホンダの2019年の集大成が見られることになる。
そして、ホンダ勢にとっては頼もしい“援軍”が鈴鹿にやってくる。2017年からレッドブルとタッグを組んでいるエクソンモービルが、新しいタイプの燃料を持ち込んでくるのだ。燃料やケミカル系の違いで数十馬力のパワーアップも可能といわれる昨今のF1にあって、鈴鹿でレッドブルとトロロッソを強力に後押ししてくれるかもしれない。
そんなホンダの活躍もあってか、今年の日本GPのチケットの売れ行きは例年以上に好調とのことで、9月上旬には「Honda応援席」と銘打たれた1万席がほぼ完売となったという。これで日本人ドライバーがいれば……と思うファンに、朗報が舞い込んできた。初日のフリープラクティスに、ホンダ系のドライバーである山本尚貴がトロロッソをドライブすることが正式に決まったのだ。
F1に必要なスーパーライセンスポイントを保持する唯一の日本人であり、昨年は国内のスーパーフォーミュラとSUPER GTでダブルタイトルを取った実力派ドライバー、山本の登場となれば、日本におけるF1への興味、期待感もまたいっそう高まることだろう。
マクラーレン駆る元王者フェルナンド・アロンソに「GP2エンジンだ!」と酷評されてから4年。紆余(うよ)曲折、幾多のトライ&エラーを繰り返してきたホンダは、ポディウムの頂点に立てる実力と自信をつけて母国に帰ってくる。その戦いぶりに、注目しないわけにはいかないだろう。
2019年のF1日本GP決勝は10月13日に行われる。台風19号の影響が懸念されているが、日曜日には好転するとの予報を信じ、レースを心待ちにしたい。
(文=柄谷悠人/写真=メルセデス・ベンツ、フェラーリ、レッドブル・レーシング、トロロッソ/編集=関 顕也)

柄谷 悠人
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