フォルクスワーゲン・シャランTDIハイライン(FF/6AT)
これぞドイツのミニバン 2019.10.19 試乗記 フォルクスワーゲンのロングセラーミニバン「シャラン」に追加設定されたディーゼルモデル「TDI」に試乗。日本のミニバンとは一線を画す、質実剛健を地で行く機能優先のたたずまいはこれまでのガソリンモデルと変わらないが、その走りにはどんな違いがあるのか?ようやく導入されたTDI
自らの不手際のせいで“遅れ”の規模に一層拍車を掛けてしまった感は否めないものの、ようやくにして次々と日本上陸が始まっているのが「TDI」の記号が与えられた、フォルクスワーゲンのディーゼルモデル。
すでにこの先は“EV一択”という姿勢を鮮明にし、フォルクスワーゲングループとして多くの著名ブランドにもそうした体制への変革を迫る(?)現状において、しかし、これまで長年にわたって築き上げてきたディーゼルエンジンに関する技術レベルの高さはやはり侮れない――そんなことを乗るたびにあらためて実感させられるのが、TDIのエンブレムが備わるモデルに共通する、走りのポテンシャルである。
今回試乗したのは、前述の通りモデル末期になってようやく導入となった「ゴルフ/ゴルフヴァリアント」と同じタイミングで日本に上陸を果たした、シャランのディーゼルバージョンだ。
率直なところ、ゴルフや「ポロ」といったメジャーなモデルに比べれば、そもそも日本ではシャランの影はいささか薄い。弟分である「ゴルフトゥーラン」とともにいわゆるミニバンにカテゴライズされ、同時にラインナップ中では唯一リアのドアにスライド式を用いるという点では、なるほどフォルクスワーゲンというブランド内にあっては異端児ともいえるもの。
いかにミニバンがポピュラーな日本市場の中にあっても、「メジャーになる理由はなかなか見当たらない」というのもやむを得ないことかもしれない。
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見た目以上に大きなボディー
日本では“最新のフォルクスワーゲン車”ということにもなるシャランTDIは、他のTDIモデルもそうであるように、搭載される心臓部がディーゼルであるとはいっても、それを外観から判別することはすこぶる困難である。
時節柄では、まるで“あおり顔”とでも表現したくなるような押し出し感満載のフロントマスクが与えられたわけでもなければ、奇抜なキャラクターラインのひとつも見当たらないエクステリアのデザインは、従来のガソリンバージョンと同様に何とも素っ気ないほどにクリーンでシンプル。そんな仕上がりであることが、むしろ「シャランならではの特徴」と言ってもいいのかもしれない。
あるいは、その“あおり顔”にへきえきとしている人の中からは、「まずはこうした控えめなルックスこそが魅力のポイント」という意見があらわれてもおかしくなさそう。それにしても、昨今の日本のミニバンがこぞって採用する「押し出しの強さこそが人気のバロメーター」という派手な顔つきの流行は、一体いつまで続くのだろう……。
かくもプレーンな佇(たたず)まいゆえに、さほど強い存在感を覚えることはないものの、いざ路地へと入り込んだり駐車枠の中に収めようとした時点で気付かされるのが、そのボディーの大きさだ。何せ全長×全幅=4855×1910mmというサイズだから、日本では「かなり大柄」という位置づけになる。全長こそ100mm近く短いが、あの面構えゆえ必要以上の存在感を発散するトヨタの「アルファード/ヴェルファイア」よりも、実は全幅は60mmも広いのだ。
ホイールベースも2920mmと長いので最小回転半径は5.8mと、当然小回りが利くわけでもない。ちなみに、この点ではホイールベースが3m(!)に達するアル/ヴェルが同等もしくはそれ以下の回転半径を実現させた点を褒めるべきなのかもしれないが。
意外に使える3列目シート
日本のライバルに比べると“エンタメ性”は皆無に等しいと思える一方で、そうした巨体の持ち主ゆえにさすがにキャビン空間のゆとりは文句なしだ。着座時に感じるシートの触感は硬めで、国産モデルとは一線を画した“走りのミニバン”を最初にほうふつとさせる部分。実際、本国ドイツではこうしたモデルでも平気でアウトバーンを150km/h以上で巡航している姿に、たびたび出会ったりもするものだ。
ほぼ平等に3分割されたデザインとスペースを有する3人掛けの2列目シートのつくりは、1.9m超のボディー幅ゆえに実現されたものといえる。さらに左右のシートには、全体がワンタッチで前方に傾斜するという大きな動きのウオークイン機能が備わり、3列目シートへの出入りがすこぶる行いやすいのも、大柄ボディーがあればこその業という印象だ。
そんな3列目も、シートバック高が肩下にとどまりはするものの、大人が長時間を過ごすことが意識されたデザインで仕上げられている。ヒップポイントがかなり高くアップライトな姿勢で座ることになるので、2列目シートをちょっと前方にセットすれば、足元にそれなりに窮屈ではない空間を確保できる。
と同時に、それがいかにもヨーロッパ生まれの作品であることを思い知らされるのが、ドライバーズシート以外のすべてをアレンジして、“荷室モード”とした際の室内空間の広大さ。それはまさに、「独り者の引っ越し荷物など、楽々とのみ込んでしまいそう」と思えるほど。3mに迫る奥行きが作り出せるのは、日本のミニバンには到底まねのできない芸当であろう。
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街中よりも高速が得意
注目のエンジンに火を入れると、それがディーゼルユニットであることはノイズの質からも明白だ。さらに、アクセルを踏み込むと意外にも明瞭に耳に届くのが乾いた排気音。いずれも、気に障る類いの音質ではないものの、昨今のディーゼルモデルの中にあっては必ずしも「静粛性が高いモデル」とは言い切れない。
「ゴルフTDI」に比べると500kgほども重い車両重量に対応すべく、エンジンは同じ2リッターながらも最高出力で27PS、最大トルクで40N・m上回る“ハイチューン版”を搭載。それでも、走りはじめの段階では「ちょっと重いナ……」というのが率直な第一印象。組み合わされる6段DCTも1速から3速までのギア比がややワイドな設定なので、街乗りシーンで頻繁な発進加速が連続すると、「う~ん、これはガソリンモデルの方がオススメかな……」とこちらもまた、正直なところそんなフレーズが思い浮かぶこととなった。
ところが、そんな少しばかりネガティブな印象が一気に覆ったのが高速道路へと乗り入れたシーン。間断なく十分な排ガスエネルギーを受けるターボチャージャーが力強い過給効果を生み出し、こうした場面ではまさに“水を得た魚”のごとく生き生きと走ってくれることになるのだ。
100km/hクルージング状態でのエンジン回転数は1700rpmほど。それはまさに380N・mの最大トルクを発しはじめる1750rpmというポイントに符号するもので、ストップ&ゴーが連続する街乗りシーンとは打って変わっての、高速道路上での活力に富んだ走りも“さもありなん”という印象。前述したアウトバーン上でのあの快速ぶりも、まさに納得! なのである。
かくして、走行シーンによって印象が大きく振れることになるのがこのモデル。言うまでもなく、高速道路を用いての大人数でのロングツーリングといった場面では、アウトバーンで鍛えられた安定感にあふれる足腰も手伝い「向かうところ敵なし」を実感させてくれる、ミニバン界の真打ちということになるのだ。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・シャランTDIハイライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4855×1910×1765mm
ホイールベース:2920mm
車重:1900kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:177PS(130kW)/3500-4000rpm
最大トルク:380N・m(38.8kgf・m)/1750-3250rpm
タイヤ:(前)225/50R17 98V/(後)225/50R17 98V(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト2)
燃費:14.0km/リッター(WLTCモード)
価格:529万6000円/テスト車=563万1500円(消費税10%を含む)
オプション装備:レザーシートパッケージ(25万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(8万2500円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1781km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:388.6km
使用燃料:30.0リッター(軽油)
参考燃費:12.9 km/リッター(満タン法)/12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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