ホンダN-WGN L・Honda SENSING(FF/CVT)
勘所にピタリ! 2019.10.24 試乗記 ホンダの軽シリーズの中で、かつてはそれほど目立たなかった「N-WGN」。どこか懐かしいデザインをまとう2代目は、さまざまなユーザーニーズに応えられる、極めて商品力の高い軽乗用車に仕上がっていた。運転支援システムさまさま
その日のC2こと首都高速中央環状線はひどいことになっていた。予定されていた道路のメンテナンスに加え、緊急の補修工事が実施されたため、山手トンネルの中は、時々微速で前進する巨大な駐車場と化していた。
しかし「ホンダN-WGN L・Honda SENSING」に乗るリポーターにとっては、「待ってました!」といったところ。ステアリングホイールのスポーク部分に設けられた「MAIN」スイッチを押して、「渋滞追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)」を起動する。あとは上限速度と車間距離を設定するだけ。
たちまちN-WGNはノロノロ運転に順応し、車間距離を保ちつつ前走車に追従し、必要に応じて勝手に止まってくれる。前のクルマが動き出したら、RES(レジューム)ボタンを押してやれば、再びスローなクルージングが始まる。今回のような異常な渋滞時には、ホント、運転(!?)がラクになって助かります。
安全のためにさらなる配慮を
個人的な感慨にふけるようで恐縮ですが、クルマの運転は自分で操作してナンボ。「体が動く限り3ペダル式のマニュアル車に乗りたい」と悲壮な決意を抱いていた者ですが(ちょっと大げさ)、自動車テクノロジーの大きな流れには逆らえない。実際に実現するかはともかく、自動運転へと向かう技術トレンドの中で、いちユーザーとしていつの間にか教育されて、ACCを滞りなく使っている自分にちょっとビックリ。
かつてはステアリングコラムから生えたクルーズコントロールの設定レバーを、押したり、引いたり、ひねったりした揚げ句、結局「よくわからん」と操作を放棄していたくらいですから。テクノロジーというものは、「技術そのものの洗練とユーザーの習熟が両輪となって社会に浸透していくのだなァ」と、暇を持て余した車内で詮無いことを考えていたわけです。
ひとつ提言するならば、N-WGNは「ACCが稼働状態か否か」をもっと大きく派手に表示して、ドライバーにオン/オフを明示した方がいいと思います。断続的な低速前進が延々と続くようなときは、たいていドライバーは眠気に襲われている。うっかりACCを解除したり、無意識のうちにブレーキを踏んでそのことを忘れてしまい、通常のクリープ状態をACC機能による追従と錯覚することが起こりうる。
すると、自動ブレーキが働かないので、前のクルマに追突しそうになって肝を冷やすことになる(個人の体験です)。将来的に、N-WGNのメーター類が全面液晶になった暁には、速度もエンジン回転数も省略して、「ACC ON」とだけ大書してほしいくらい。もしかしたら、その頃には自動運転の「AUTO」表示になっているかもしれませんが。
考え抜かれた機能とデザイン
ホンダN-WGNは、「N-BOX」「N-VAN」に続く、新世代「Nシリーズ」のいちモデルである。のほほんとしたノーマルモデルと、アグレッシブな顔つきの「カスタム」に大別される。先代は、スーパーハイト系ながら走りもバッチリなN-BOXと、玄人筋からの評価が高かったスポーティーな「N-ONE」に挟まれて、いまひとつ存在感を出せずにいた。
ニューN-WGNは、デザインで個性を主張する手段に出たようだ。ちょっと初代の「スズキ・ワゴンR」を思わせるシンプル&ポップな外観で、いい具合に肩の力が抜けている。感心するのは、前後とも面積の大きなドアを与えながら、サイドビューが間延びして見えないこと。基本のデザインがしっかりしているから、ルーフをペイントした2トーン塗装も生きてくる。試乗車の「ガーデングリーンメタリック」も、明るくて渋い、なかなか見ないボディーカラーだ。デビュー当初のみならず、今後も車体色のチャレンジを続けていただきたいものです。
乗り降りの際にありがたい大きなドア=広い開口部を実現できた背景には、強力な高張力鋼板を多用したボディー構造がある。新しいN-WGNは、ボディー骨格の64%にいわゆるハイテン鋼を使っているとか。Aピラー/Bピラーには、特に強靱(きょうじん)な鋼が使われる。
……といったこわもてなハードウエアをまるで感じさせないのがN-WGNのインテリアで、ベンチシート風に室内幅を目いっぱい使ったフロントシート、豊富な小物入れに小物置き、いまや必需装備となったUSBジャックと、しっかりポイントを押さえている。
好みの運転姿勢が取りやすくなったこともうれしいニュース。運転席にはハイトアジャスターが付き、ステアリングホイールは上下に加え、前後も多少の調整が利くようになった。限られた車体寸法ゆえ、衝突安全テストへの対策がシビアになる軽自動車として画期的なことだ。
走りには目をつぶって
リアシートの広さもN-WGNの特長で、フラットな床面を眺めていると、「いったいドコに燃料タンクが置かれているのか?」といぶかしく感じるほど。ホンダ自慢のセンタータンクレイアウトも、すっかりこなれている。
あきれるのが、後席をスライドさせて奥行きを案配できるラゲッジルームの使いやすさ。容量が大きいだけではない。床面が低く、その結果生じた天地の余裕を生かすべく、ボードを使って荷室が2階建てとなった。いわゆる床下収納と異なり、テールゲートを開ければ上下とも直接アクセスできるから、これは便利。N-WGNは、いわば軽版の「フリード+」だ。
658cc直列3気筒エンジンは、58PS/7300rpmの最高出力と、65N・m/4800rpmの最大トルクを発生。850kgのボディーを過不足なく走らせる。N-WGNの、道具としての使い勝手に圧倒されたのとは裏腹に、ドライブフィールの印象は希薄。先行して発売された「日産デイズ」が軽自動車の走りのステージを一段上げたあとだったので、インパクトが弱かったのかもしれない。追われるNシリーズのツラいところだ。
いまや、小型乗用車、普通乗用車と並んで、国内の自動車販売台数を三分する勢力となった軽自動車。新世代のNシリーズは、全車安全運転支援システムたる「ホンダセンシング」を標準で装備する。価格は相応に上昇して、N-WGNは129万8000円から。試乗車のL・Honda SENSINGは、素の状態で136万4000円である。
「これは、かつての『アルト47万円』にあたる安価なモデルが必要なのでは?」と感じ、「それはN-VANではないか」と思いついたのだが、こちらもCVTモデルが129万1400円からと、あまり変わらないのであった。
(文=青木禎之/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ホンダN-WGN L・Honda SENSING
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1675mm
ホイールベース:2520mm
車重:850kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:58PS(43kW)/7300rpm
最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:29.0km/リッター(JC08モード)/23.2km/リッター(WLTCモード)
価格:136万4000円/テスト車=165万9900円
オプション装備:ボディーカラー<ガーデングリーンメタリック&ホワイト>(6万0500円) ※以下、販売店オプション Gathersナビゲーションシステム(20万9000円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(2万6400円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2241km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:356.0km
使用燃料:19.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.1km/リッター(満タン法)/18.8km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。