ホンダN-WGN Lスタイル+ ビター(FF/CVT)
最強の二番手 2022.11.19 試乗記 新しくなった「N-WGN」にはホンダ車初の予防安全装備が搭載された。もちろん社会安全が第一だろうが、売れに売れている「N-BOX」に追いつけ追い越せとハッパをかける目的もあるはずだ。内外装を専用仕立てにした特別仕様車で、その仕上がりを試す。ノンターボとは思えない走り
クルマを受け取ってしばらく走っていると、なんだかしっくりしない。思っていたのと違う。試乗車は「ホンダN-WGN Lスタイル+ ビター」である。ベース車は標準車の上級グレード「L」だから自然吸気エンジンのはずなのに、加速が力強く軽快に走るのだ。ターボのはずはないのだが、と思い書類を確認すると、やはりエンジンは自然吸気。最高出力は58PSである。
つい最近ノンターボの「ダイハツ・ムーヴ キャンバス」に乗り、力不足でもどかしい思いをした。その記憶が残っていたので、N-WGNの軽やかな走りに意外さを感じたのだ。両側スライドドアのセミハイトワゴンとヒンジドアのハイトワゴンでは、かくも大きな差がある。重量と空力性能の違いが、ドライバビリティーに多大な影響を及ぼしているようだ。ムーヴ キャンバスのエンジンが52PSと控えめな出力であることも関係しているだろう。
N-WGNには2019年のフルモデルチェンジで試乗していて、そのときも自然吸気で十分だと感じていたことを思い出した。ハイトワゴンというジャンルは、バランスのよさが光る。軽自動車という規格内で、実用性と走りをうまく両立させている。1993年に「スズキ・ワゴンR」がつくり出し、1995年に「ダイハツ・ムーヴ」が続いた。N-WGNは2013年に「Nシリーズ」の第4弾として発表された最後発モデルである。
Nシリーズは大好評で、ホンダの稼ぎ頭になった。2011年に発売されたスーパーハイトワゴンのN-BOXが始まりで、10年後の2021年にシリーズ累計販売台数300万台を達成している。慶賀の至りではあるが、ホンダの悩みはN-BOXの人気が突出していることだ。300万台の3分の2にあたる200万台以上がN-BOXで、極端な偏りがある。2022年の1月から9月までの累計販売台数も、N-BOXの15万1594台に対し、N-WGNは3万2130台。状況は改善されていない。
高速道路でも山道でも
トレンドがハイトワゴンからスーパーハイトワゴンに移ったのは確かだが、他社はホンダほど差が開いてはいない。ワゴンRやムーヴは売れ続けている。N-BOXが強すぎることで、N-WGNが日陰の存在になってしまっているのだ。N-BOXの一人勝ち状況を、合理的に説明することは難しい。
久しぶりにN-WGNに乗って、あらためて出来のよさを味わうことができた。街なかでの取り回しがいいのはもちろん、長距離移動でもストレスがない。料金所ダッシュはスムーズで、すぐに流れに乗れる。先進安全装備の「ホンダセンシング」は全グレードに標準装備になっており、高速道路では渋滞追従機能付きアダプティブクルーズコントロールを使った楽ちん巡航だ。
本来の使い方ではないが、山道でも楽しくドライブできる。力強いとまでは言えないが、坂もぐんぐん登っていく。ステアリング操作に対する反応はそこそこ機敏で、コーナーでは狙ったとおりのラインを描いた。乗り心地も悪くない。サイズが小さいからある程度のピッチングは避けられないが、段差を乗り越えた際の衝撃はうまくいなされている。
エンジン回転数を上げる必要がないから、車内はまあまあ静か。ただ、走行中に雨が降ってきたら、盛大な雨音に見舞われた。音楽が聞こえなくなるほどの大きさである。そういう状況を想定してか、モニターの「会話」というボタンを押すと前席の音声が増幅されて後席に届く機能が備えられていた。後席に乗って試してみると、洞窟で話しているような不自然な響きで聞き取りにくい。まだ実用レベルには達していないようである。
安全性がさらにアップ
予防安全システムの新機能として新たに採用されたのが「急アクセル抑制機能」。暴走事故の予防と被害軽減を目的としている。従来は超音波センサーを使っていて、クルマの前後に障害物がある際にだけ作動した。新システムはセンサーに頼らず、「ペダルの踏み間違い」や「ペダルの踏みすぎ」を検知すると加速を抑制。同時に警報が鳴り、マルチインフォメーションディスプレイに警告が表示される。
ホンダセンシングには含まれておらず、ディーラーでスマートキーを登録してアクティベートする必要がある。試乗車にはノーマルなキーとアクティベートされたキーが付属していて、機能を有効にするのに手間取った。いろいろ試してみて、アクティベートキーでロック解除するとシステムが作動。インフォメーションディスプレイに「急アクセル抑制機能ON」という文字が表示された。
広い場所で試してみることにする。作動するのは車速が30km/h以下ということで、停止状態から強くアクセルを踏み込む。何度か繰り返すが、反応しなかった。後退でも作動するというので試してみたが、やはり機能しない。ECUが踏み間違いと判断した場合にのみ作動するから、意図的な動作には反応しないみたいだ。従来の誤発進抑制機能や衝突被害軽減ブレーキはそのまま搭載されているので、障害物があれば加速が抑制されるはずである。
もうひとつの新しい機能が「リアシートリマインダー」。後席に人を置き去りにしたり荷物を放置したりしたままクルマから離れようとしたりすると、警告表示が出る。カバンを置いてドアを開けてみたら、こちらは確実に機能した。
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シックで大人っぽい特別仕様車
安全機能の拡充は歓迎すべきことだ。ホンダとしては、N-WGNの販売促進も期待しているのだろう。購買層を広げるための策がもうひとつある。特別仕様車の追加だ。試乗車は、Nシリーズのサブブランド「Nスタイル+」の第3弾となる特別仕様車だった。2021年12月に「N-BOXカスタム スタイル+ ブラック」が、2022年8月に「N-ONEオリジナル スタイル+ アーバン」が発売されている。いずれもシックで大人っぽいイメージを追求したモデルだ。
スタイル+ ビターは、専用のカラーリングや加飾などを用いたコーディネートで特別感を演出している。ボディーカラーは試乗車の「ブリティッシュグリーンパール」のほかに、「プレミアムアガットブラウンパール」を設定。エクステリアではグレーメタリック/ブラックのツートンホイールキャップが装着され、シルバーのドアミラーを装備。リアライセンスガーニッシュやドアハンドルなどにはクロームメッキの装飾パーツが採用されている。
インテリアではインパネガーニッシュやステアリングガーニッシュ、ドアパネル、セレクトレバーのカバーなどがクロームメッキ仕様。シートはレザー調のプライムスムースとトリコット生地を組み合わせている。特別感とお得感をアピールしているわけだが、販売拡大につながるかどうかは分からない。N-BOXの場合は売れ筋なだけに他人と違うスタイルのモデルが欲しいと考えるユーザーが多いと思われるが、N-WGNは差異化を必要とするほどの数が出ていないのだ。
特別仕様車のことはともかく、N-WGNはもっと売れてもいいクルマだと思う。スーパーハイトワゴンの過剰なスペースを誰もが必要としているわけではないし、運転感覚ではハイトワゴンに明らかなアドバンテージがある。N-WGNには荷室の2段収納や後席下の物置スペースなど、使い勝手を向上させる工夫も多い。自信を持って薦められるクルマだが、ハイトワゴンというジャンル自体がアピール力を失いつつある。ダイハツとスズキは、スライドドアを持つムーヴ キャンバスや「ワゴンRスマイル」を追加することで販売を回復させた。ホンダもそろそろ決断の時を迎えているのかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダN-WGN Lスタイル+ ビター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1675mm
ホイールベース:2520mm
車重:850kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:58PS(43kW)/7300rpm
最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:23.2km/リッター(WLTCモード)
価格:154万9900円/テスト車=183万3700円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ホンダセンシング 急アクセル抑制機能(5500円)/8インチプレミアムナビ<VXU-227NBi>(20万9000円)/フロアカーペットマット(1万7600円)/ドライブレコーダー(5万1700円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:354km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:418.7km
使用燃料:21.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.1km/リッター(満タン法)/18.4km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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