メルセデス・ベンツCLS63 AMG(FR/7AT)【試乗記】
あふれんばかりに豊潤 2011.06.13 試乗記 メルセデス・ベンツCLS63 AMG(FR/7AT)……1755万円
メルセデス・ベンツのスタイリッシュセダン「CLS」がフルモデルチェンジ。557psのハイパワーを誇る、「63 AMG」のAMGパフォーマンスパッケージ装着車をテストした。
思わず背筋が伸びる
ベースとなるフォルムが繊細なエレガンスを漂わせていたがゆえに、率直に言って先代「CLSクラス」では、AMGのスタイリングがどこかしっくりこない感もあった。しかし大きく、角度も立ったラジエーターグリルや、ボディサイドをえぐる大胆なキャラクターライン、盛り上がったリアフェンダーなどによって力強さがグッと強調された新型では、むしろこの「CLS63 AMG」の方が主張が明確に映る。
大型のフロントバンパーにはLEDがずらり並べられ、ディフューザー形状とされたリアバンパーの下からはスクエア形状4本出しのエグゾーストパイプが顔をのぞかせている。マニアならば、赤く塗られたブレーキキャリパーやカーボンファイバー製のトランクリッドスポイラーから、これが強化版たるAMGパフォーマンスパッケージ装着車だと気付くかもしれない。
個人的には先代の線の細さがいまだ懐かしくもあるが、ともあれ存在感が非常に高いのは事実だ。出るモデルすべての商品力が高く、勢いを感じさせる今のメルセデスのあり方を考えれば、これぐらい押し出してなくちゃという気もしなくはない。ようするに、なんだかんだ言って徐々に気に入ってきているという話である。
先に「CLクラス」や「Sクラス」に搭載されて世に出たAMGの新しい心臓、V型8気筒5.5リッター直噴ツインターボユニットは、このCLS63 AMGでは最高出力525ps/5250-5750rpm、最大トルク71.4kgm/1750-5000rpmを発生する。それだって十分に、いや十二分に速いのだが、パフォーマンスパッケージでは最高出力が557ps/5500rpm、最大トルクが81.6kgm/2000-4500rpmにまで跳ね上がる。迫力の重低音サウンドはアイドリング時から密度ギッシリ。走り出す前には、思わず背筋が伸びる。
重低音と静寂と
従来の自然吸気6.2リッターの荒々しいビート感とは違って、こちらのエンジンの回り方は洗練を感じさせる。一方で特に低中速域のトルクの厚さとフラット感は一枚も二枚も上手で、アクセルペダルを踏み込むとクルマが間髪入れずに前に出る。速度計の針が盤面の右半分に届いても勢いがまるで衰えない加速感は、そのまま離陸していってしまうのではと一瞬、空恐ろしくさせるほどだ。
ちなみにパフォーマンスパッケージでなくても動力性能に不満の出る余地はない。しかし差はたしかにあるだけに、一度試したら戻れなくなること必至だ。特に中速域のさらに分厚いトルクはたまらない魅力と言えるだろう。
AMGスピードシフトMCTの、駆動力の途切れのないダイレクトな変速ぶりも、すさまじい加速感に一役買っている。自然吸気6.2リッター時代と違って、音やパワー感だけではシフトアップのタイミングがつかみにくいこのエンジンだが、モードを「C」から最速の「S+」に切り換えておけば、クルマがジャストなタイミングに自動で電光石火のギアチェンジを行ってくれる。へたにパドルに触れるより、その方が絶対速い。
サウンドはやや控えめだ。V型8気筒らしいドロドロとした重低音は聞かせるものだが、室内にいる限りは、ゆったり流したい時でもエンジン音や排気音が気に障ることはなかった。
AMGらしからぬ、と思われそうだが、ECOスタート/ストップ機構も標準装備されている。エンジン停止は滑らかだし再始動も迅速な、実に良くできたシステムだが、信号待ちなどで室内が静寂に包まれるのは、特にクルマがAMGなだけに、不思議な感覚ではある。
ステアリングフィールに難あり
これだけのパフォーマンスを受け止めんとするだけにサスペンションはかなり硬めだ。しかしダンパーの出来が素晴らしいおかげだろう、乗り心地はまったく悪くない。姿勢は常に不気味なほどにフラットに保たれ、あらゆる入力のカドが丸められており、むしろ望外に快適なのだ。なにしろ最強の「SPORT+」でも街乗りを難なくこなせるほど。ボディの剛性感の高さも好印象の一因に違いない。
コーナリングについては日本の公道を走っている限り、限界を垣間見るのは難しい。スタビリティは抜群に高く、高速コーナーで思い切り踏んでいっても怖さは皆無だ。それでも注文をつけるとすれば初採用の電動パワーステアリングだろう。これ、手応えが実に滑らかで上質感も高いのだが、路面感覚が今ひとつ手のひらに伝わってこないのだ。せっかくの飛び切りのパフォーマンスを味わいつくすためにも、もう少しクルマとの対話性は高めたい。
冒頭に、新型CLSクラスの場合、外観はむしろAMGの方がしっくりくると書いたが、実際に走らせてみての印象も同様のものだった。「CLS350ブルーエフィシェンシー」は、外観はともかく中身は燃費は良いし走りもサラッと軽快で、良いクルマだけどちょっと草食っぽい。スペシャルティ性なら、何もかもあふれんばかりに豊潤なAMGに限るだろう。しかも、それでいてしっかり燃費は向上し、たぐいまれな快適性まで併せ持っているのだ。いかにも今っぽいスマートなラグジュアリーが薫る1台である。
(文=島下泰久/写真=郡大二郎)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】 2026.8.21 メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。
-
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】 2026.8.19 マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】 2026.8.18 クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】 2026.8.17 BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
-
トヨタRAV4アドベンチャー(前編)
2026.8.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」に試乗。ご存じのとおり今やトヨタの屋台骨を支えるSUVであり、先代モデルではグローバルでの年間販売台数が100万台に到達。世界で最も多く販売されるトヨタ車の6代目だ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
DS N°8エトワールAWD(4WD)
2026.8.22試乗記DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。 -
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】
2026.8.21試乗記メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。 -
これは“ヨーロッパ版軽自動車”か? 欧州の新自動車規格「M1E」とニッポンの軽の可能性
2026.8.21デイリーコラム欧州で検討されている、新たな小型電気自動車(BEV)規格「M1E」。手ごろなBEVの普及と域内自動車産業の保護を目的としたこの規格は、軽自動車という独自の小型車を育んできた日本にとってもチャンスとなるのか? 新たな自動車規格の展望と可能性を考察する。 -
FCEVで世界一の販売台数 「ヒョンデ・ネッソ」にみる水素の可能性と普及へのカギ
2026.8.20デイリーコラムフルモデルチェンジしたヒョンデの燃料電池車(FCEV)「ネッソ」は、1014km(参考値)の一充填走行距離を実現したという。進化したゼロエミッションの走りを味わいながら、ヒョンデが目指す水素社会の可能性とFCEVの未来について考えてみた。 -
第292回:350SEが運ぶのは幸福か、それとも究極の不幸か…… 『星の時 4K』
2026.8.20読んでますカー、観てますカーブラジルの女性小説家クラリッセ・リスペクトルが1977年に発表した小説を、女性監督スザーナ・アマラウが1985年に映画化した伝説の作品。「メルセデス・ベンツ350SE」がもたらす運命の瞬間を謎めいた手つきで描き出す。

































