苦戦の予選からまたも1-3フィニッシュ メルセデスがチームプレーで100勝目【F1 2019 続報】
2019.10.28 自動車ニュース![]() |
2019年10月27日、メキシコのアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスで行われたF1世界選手権第18戦メキシコGP。シーズン後半に入ってからの全6戦でポールポジションを獲得しているフェラーリだが、今回もそのスピードを勝利につなげることができず、メルセデスのチームプレーに屈することとなった。
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ハミルトン6冠まであと14点
前戦日本GPで1-3フィニッシュを飾ったメルセデスが2019年のコンストラクターズチャンピオンとなり、フェラーリが持つ同タイトル6連覇(1999年~2004年)の記録に並んだ。またドライバーズチャンピオンシップでは、ランキング3位のシャルル・ルクレール以下の脱落が決定したことで、年間王者の可能性はメルセデスの2人のドライバーに絞られた。ドライバー、コンストラクター両タイトルを6年連続で取ったチームはこれまでのF1史になく、シルバーアローの輝かしい記録がまた1つ増えることになった。
鈴鹿でバルテリ・ボッタスが約半年ぶりに優勝したことで、ポイントリーダーでチームメイトのルイス・ハミルトンとの差を9点縮めることができたものの、両者の間には64点もの大きなギャップがあった。メキシコGPの後に続く残り3戦で手に入るポイントは、ファステストラップのボーナスを含めて最大78点。つまりハミルトンは、メキシコでボッタスに14点以上の差をつければ、自身6度目の栄冠に手が届く計算だった。しかし、これまでの17戦で3勝を含む表彰台13回を数えていたボッタスを、1レースで大きく突き放すのは容易ではないと思われていた。
ハミルトンにはさらなる不安要素があった。彼は2017年、2018年と立て続けにタイトルを手中に収おさめたものの、各年のメキシコGPにおけるレース結果は9位と4位。ともにレッドブルのマックス・フェルスタッペンに勝利を奪われていた。エルマノス・ロドリゲスは全21戦中最も高い標高2300m地点にあり、空気が薄いためパワー、エアロダイナミクス、冷却効率などが大幅にダウンする。ハイダウンフォースのセッティングにしつつも、実際に得られるダウンフォースは超高速コースのモンツァ並みという特殊な環境下で行われるGP。メインストレートを含めた2本の直線があることからも、今年はフェラーリが有利な立場にあり、メルセデスは苦しい戦いを強いられるであろうというのが大方の予想だった。
加えて、メルセデス移籍以来ハミルトンのレースエンジニアを務めてきたピーター・ボニントンが、メキシコ、アメリカと2戦欠場することとなり、シルバーアローの陣営には、代役を立ててのオペレーションがうまくいくかということも心配されていた。
じきに訪れるであろうことがほぼ確実なハミルトンの戴冠だが、昨年、一昨年とすっきりしない勝ち方をしてきただけに、王者には王者らしく勝って世界一となってほしいところ。タイトル獲得6回は、7冠という孤高のレコードを持つミハエル・シューマッハーに次いで2人目という偉業になるのだから。
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フェルスタッペンの“幻のポール”でフェラーリが6戦連続予選P1
プラクティスでメルセデスがトップを取ったのは1回目だけで、2回目はセバスチャン・ベッテル、3回目はルクレールと、フェラーリが順当にセッションをこなしてきた。
予選に入ると、フェラーリ対レッドブルのトップ争いが繰り広げられ、Q3ではメキシコで2連勝中のフェルスタッペンがダントツの最速タイムを記録したのだが、ハンガリーGPに次ぐ2度目のポールとはならなかった。最後のアタック中、ボッタスが最終コーナーでクラッシュしたことで減速を指示するイエローフラッグが出されていたものの、フェルスタッペンはそれを無視してアクセル全開で駆け抜けてしまい、3グリッド降格のペナルティーを受けたのだ。
この結果、ルクレールが今季7回目の予選P1を獲得。ベルギーGPから続く連続ポールを「6」に伸ばしたフェラーリは、ベッテルが予選2位となったことで、2戦連続のフロントロー独占にも成功した。
4番手タイムだったハミルトンは3番グリッドに繰り上がり、フェルスタッペンと2列目に並ぶことに。レッドブルのアレクサンダー・アルボンはキャリアベストとなる予選5位、クラッシュしたボッタスは6位だった。マクラーレンが3強チームに次ぐ4列目につけ、カルロス・サインツJr.7位、ランド・ノリスは8位。トロロッソのダニール・クビアト9位、同じくピエール・ガスリー10位と、ホンダ勢4台すべてがトップ10グリッドにおさまった。
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フェルスタッペン早々に脱落 タイヤを巡るフェラーリ対メルセデスの攻防
メキシコでは各陣営ともタイヤを持たせることに苦慮し、タイヤを巡っての作戦が勝敗を左右することになった。
71周レースのスタート、長いストレートの奥にあるターン1にトップで飛び込んだのはルクレール。好発進のハミルトンをけん制したベッテルが2位を守った。一方でベッテルのやや強引なディフェンスに翻弄(ほんろう)されたハミルトンは、フェルスタッペンと競り合いながらコーナーに進入、勢い余って2台はコースを外れてしまった。フェラーリの2台を先頭に、3位アルボン、4位サインツJr.、5位ハミルトン、6位ノリス、7位ボッタス、8位フェルスタッペンという順位でオープニングラップが終わった。
4周目、フェルスタッペンはツイスティーなスタジアムセクションでボッタスを抜く際に軽く接触してしまい、右リアタイヤがパンク。緊急ピットインの末に最後尾まで落ちてしまう。メキシコ2連勝中だったレッドブルのエースは、早々に優勝争いから脱落した。
トップ3チームは扱いづらいソフトタイヤを嫌い、ミディアムをスタートタイヤに選んでいたが、1ストップで済ませるか、2ストップに賭けるかの判断については方向が定まらず、ドライバーごとに作戦が分けられることになった。
まず上位陣で2ストップを選んだのはアルボンとルクレールで、レッドブルは15周目、フェラーリはその翌周に、それぞれにミディアムタイヤを与えた。最終的にルクレール4位、アルボンは5位でチェッカードフラッグを受けることになり作戦失敗、フェラーリは優勝争いをしていた1人をここで失うことになった。
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1ストップ作戦に賭けたメルセデスがチームプレーで100勝目
1ストップを狙ったのは、ベッテル、ハミルトン、そしてボッタス。このうち最も早くハードタイヤに交換したのはハミルトンで、24周目にピットインを行った。「ピットストップのタイミングが早すぎたんじゃないのか?」と心配を口にするハミルトンに、チームは「そのタイヤをうまくマネジメントしてくれ」と返答。いくら長持ちとはいえ、ハミルトンはハードタイヤで48周も走らなければならなかったのだ。
対してボッタスのピットストップは37周目、ベッテルは38周目とレースの折り返し過ぎまで待った。2ストップ組のルクレールが44周目、アルボンも翌周に新たなハードを履くと、1位ハミルトン、2位ベッテル、3位ボッタス、4位ルクレール、5位アルボンという序列に。ハミルトンとベッテルの間にあった3秒強のギャップは徐々に詰まるも、2秒前半まできたところで動かなくなった。2位ベッテルは3位ボッタスに1秒を切るところまで迫られ、防戦に追われていたのだ。
結局、トップ5の順位はそのままでチェッカードフラッグが振られ、予選で4番手タイムしか出せなかったハミルトンがレースでは完勝を遂げた。メルセデスのトト・ウォルフ代表は、「(ハミルトンのタイヤが最後まで持つという)確信はなかったが、後方からのスタートである以上、リスクを負う必要があった」と、ハミルトンの長い第2スティントが賭けであったことを認めた。
リスクを計算する頭脳に加え、そのリスクをしっかりマネジメントできるドライバーと組織があってこその勝利。ハミルトンのタイトルは決まらなかったが、6冠の偉業に値する素晴らしいチームプレーにより、シルバーアローの通算100勝目が歴史に刻まれた。
残り3戦となった2019年シーズン、アメリカ大陸3連戦の2戦目はアメリカGP。決勝は1週間後の11月3日に行われる。
(文=bg)