トヨタ・カローラS(FF/CVT)
大看板ゆえの苦悩 2019.12.05 試乗記 自慢のTNGAプラットフォームに日本専用ボディーをかぶせた新型「カローラ」は、なるほどトヨタの意欲作かもしれない。しかし、日本市場を席巻していたかつての姿を知る者にとっては、新型のキラリと光るポイントを理解しつつも、要所要所で感じる雑味が気になってしまうのだった。ベストセラー、再び!?
2019年9月に通算12代目にモデルチェンジしたトヨタ・カローラ、発売翌月の10月にはおよそ1万1200台を売ってモデル別月間販売台数ランキングでめでたくトップに立ったという。およそ11年ぶりのことらしい。
しかしながら、である。ランキングトップとはいえその台数は1万台ちょっと。国内市場の縮小を考慮しても、圧倒的なベストセラーだった時代を知る私のようなオヤジには、物足りないというか、やはりそんなものかという印象が強い。若い方にはピンと来なくて当然ではあるが、カローラは2002年に「ホンダ・フィット」に年間販売台数トップの座を譲るまで、何と33年間にわたって首位の座を守り続けて来た絶対王者だったのである。ちなみにその年のフィットのセールスはざっと25万台、2位に甘んじたカローラでも23万台だった。翻って昨2018年のカローラの国内登録台数は約9万台。それに対して同じく2018年のグローバル生産台数はおよそ150万台だ。念のために記しておくと、これは市場別に異なるサイズや仕様をすべて合算したシリーズ全体での数字である。
いずれにせよカローラが現在もトヨタの大看板であることは明白だが、母国日本でのセールスの割合はたったの6%ということになる。これでは日本市場を重視せよと言われても、なかなかそうはいかないことも理解できるだろう。それゆえに、新世代のTNGAプラットフォームを採用しながら、セダンとワゴンの幅も長さも切り詰めて日本国内専用ボディーをわざわざ用意したことは英断であり、最大の特徴であることは間違いない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
国内専用でも3ナンバー
とはいえ、それはつくり手側から見た場合の話だ。身内のライバルである「プリウス」や「アクア」を送り出したのはトヨタ自身だし、海外の商売上の都合でこれまで代を重ねるごとに大型化してきたのもそちら側なのに、突然日本市場のために専用バージョンをつくりました、と言われても何だか釈然としないと感じる人もいるはずだ。
セダンがシンプルに“カローラ”と呼ばれることになった新型は、海外向けのセダンと比べて全長で135mm、全幅では35mm、ホイールベースは60mm短いものの、従来型の「アクシオ」との比較ではそれぞれ95mm、50mm、40mm拡大されている。いっぽうで全高だけは25mm低められて1435mmとなっている。言うまでもなくカローラは世界150以上の国と地域で販売されているボリュームモデルであり、新型は国内専用プラットフォームを用意するのではなく、プリウスや「C-HR」と同じく「GA-C」プラットフォームに統一された。もちろん、日本の3ナンバー枠のほうが“ガラパゴス的”ともいえるが、現実にそれでは困るというユーザーがいることも事実。それを考えて従来型のアクシオと「フィールダー」も当面併売されるという。規模が大きくなればなるほど、クルマづくりは一筋縄ではいかないのである。
“きちんと感”はあるけれど
上質とまでは言えないが、きちんと整然と仕上げられたインテリアの中でとりわけ目立つのはダッシュ中央にデンと据え付けられた大型スクリーンである。すっきりとした水平基調のインストゥルメントパネルの上にそびえるモニターは実家のテレビのように巨大に見える。しかもトヨタとしては初めてのディスプレイオーディオである点が新しい。これはスマートフォンとの接続を前提としたインフォテインメントシステムで、さまざまなアプリケーションを利用できる。もちろん従来通りの車載ナビゲーションシステムも選択可能であり、試乗車にはオプション(11万円)の「T-Connectナビキット」が装備されていた。
ただし、本来は7インチが標準装備のところ、オプションの9インチディスプレイを装備していたせいなのか、便利とか操作性云々(うんぬん)以前に画面が粗く、鮮明ではないことにちょっとがっかりした。大きなディスプレイはおそらく車内で動画を見たいという需要に応えたものだろうが、この12月からスマホを操作するなどの“ながら運転”の罰則が厳しくなったことを忘れてはいけない。
GA-Cプラットフォームを採用したことで低くスリークになった新型のプロポーションはなかなかにカッコいいと感じるが、その分AピラーとCピラーは大きく寝かされており、コーナー部分に細いサブピラーを何本も建ててサイドウィンドウとの兼ね合いを処理していることが分かる。運転席まわりの視界に特に問題はないが、低く構えたことで乗り降りにも影響が出るのは現行プリウスと同じ、この種のセダンに低くスリークであることが必要なのか、という点ではやや疑問が残る。トヨタが引きつけたい若者の多くも、今や低いことを単純にカッコいいとは感じていないのではないだろうか。
底上げされたことは間違いない
いっぽうダイナミックな性能という観点では、新世代プラットフォームを得て低くなったことは大いに効果がある。全体的なスタビリティーや安心できるステアリングフィール、しっかりとした乗り心地など、基本性能は見違えるほど向上している。
とはいえ、従来型と比較するのは新旧の開発陣にとっても本意ではないだろう。従来型は、まあ極端な言い方をすれば安手だった。「ヴィッツ」と同じコンパクトクラスのプラットフォームを使わざるを得ず、あらゆる面で満足できるレベルには達していなかったのである。それゆえ新型になって海外向けと同じレベルに地力が底上げされたことは大歓迎である。もっとも、2ZR-FAE型1.8リッター4気筒エンジン(140PS/6200rpm、170N・m/3900rpm)は既存のものを踏襲、トランスミッションも7段スポーツシーケンシャルシフトマチック付きとはいえCVTだから、それほど活気にあふれているわけではない。ごくおとなしく、普通に走る限りは滑らかで実用には十分といえるが、走って楽しいかと聞かれたら答えに詰まるのが正直な気持ちだ。
これから先、カローラをどのように扱うかはトヨタの大きな課題だろう。少なくとも新世代プラットフォームにふさわしい新世代パワートレインが求められているのは間違いない。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
トヨタ・カローラS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4495×1745×1435mm
ホイールベース:2640mm
車重:1300kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:140PS(103kW)/6200rpm
最大トルク:170N・m(17.3kgf・m)/3900rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:14.6km/リッター(WLTCモード)
価格:213万9500円/テスト車=254万9426円
オプション装備:ボディーカラー<スカーレットメタリック>(3万3000円)/ステアリングヒーター+シートヒーター<運転席、助手席>(2万7500円)/ブラインドスポットモニター<BSM>+リアクロストラフィックオートブレーキ<パーキングサポートブレーキ[後方接近車両]>+オート電動格納式リモコンドアミラー<ヒーター、ブラインドスポットモニター付き>(6万6000円)/ディスプレイオーディオ<9インチディスプレイ+6スピーカー>(2万8600円)/エアクリーンモニター+「ナノイー」(1万4300円)/おくだけ充電(1万3200円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビキット(11万円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビキット連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万3176円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/フロアマット<デラックスタイプ>(2万0900円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1352km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:312.4km
使用燃料:23.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.3km/リッター(満タン法)/13.6km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2026.2.23 「BYDシーライオン6」は満タン・満充電からの航続可能距離が1200kmにも達するというプラグインハイブリッド車だ。そして国内に導入されるBYD車の例に漏れず、装備が山盛りでありながら圧倒的な安さを誇る。300km余りのドライブで燃費性能等をチェックした。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ ハイブリッド インテンサ(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.22 2025年の大幅改良に、新バリエーション「インテンサ」の設定と、ここにきてさまざまな話題が飛び交っている「アルファ・ロメオ・トナーレ」。ブランドの中軸を担うコンパクトSUVの、今時点の実力とは? 定番の1.5リッターマイルドハイブリッド車で確かめた。
-
トライアンフ・トライデント800(6MT)【海外試乗記】 2026.2.20 英国の名門トライアンフから、800ccクラスの新型モーターサイクル「トライデント800」が登場。「走る・曲がる・止まる」のすべてでゆとりを感じさせる上級のロードスターは、オールラウンダーという言葉では足りない、懐の深いマシンに仕上がっていた。
-
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】 2026.2.18 かつて「マセラティの新時代の幕開け」として大々的にデビューした「MC20」がマイナーチェンジで「MCプーラ」へと生まれ変わった。名前まで変えてきたのは、また次の新時代を見据えてのことに違いない。オープントップの「MCプーラ チェロ」にサーキットで乗った。
-
アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ エストレマ(FR/8AT)【試乗記】 2026.2.17 「アルファ・ロメオ・ジュリア」に設定された台数46台の限定車「クアドリフォリオ エストレマ」に試乗。アクラポビッチ製エキゾーストシステムの採用により最高出力を520PSにアップした、イタリア語で「究極」の名を持つFRハイパフォーマンスモデルの走りを報告する。
-
NEW
右も左もスライドドアばかり ヒンジドアの軽自動車ならではのメリットはあるのか?
2026.2.25デイリーコラム軽自動車の売れ筋が「ホンダN-BOX」のようなスーパーハイトワゴンであるのはご承知のとおりだが、かつての主流だった「スズキ・ワゴンR」のような車型に復権の余地はないか。ヒンジドアのメリットなど、(やや強引ながら)優れている点を探ってみた。 -
NEW
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う
2026.2.25マッキナ あらモーダ!かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。 -
NEW
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.25試乗記「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。 -
NEW
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して
2026.2.25エディターから一言マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。 -
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.2.24試乗記ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。 -
エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?
2026.2.24あの多田哲哉のクルマQ&Aすっかりディーラー任せにしている車検・点検について、ユーザーが自ら意識し、注視しておくべきチェックポイントはあるだろうか? 長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに意見を聞いた。














































