トヨタ・カローラ ハイブリッドW×B(FF/CVT)
昔の名前で出ています 2020.01.24 試乗記 2019年秋の発売以来、好調なセールスが伝えられる12代目の「トヨタ・カローラ」。そのステアリングを握った筆者は、従来モデルとのあまりの違いに大きなショックを受けたのだった。起死回生のモデルチェンジ
1969年以来、国内の登録車販売台数(車名別)において「33年連続で第1位!」という快挙を成し遂げたのが、カローラというモデルだった。
が、かくも“絶対的王者”であったゆえに、そんな威光の片りんすら感じられない近年の凋落(ちょうらく)ぶりには、何ともいえない寂しさが漂っていた。特に、従来型の「カローラアクシオ/カローラフィールダー」に対する印象は、少なくとも筆者にとっては「見ても乗っても、とてもこの国を代表するモデルと誇ることなどできない」と言うしかない仕上がりだった。内外装にはひたすらコストダウンの影が見え隠れし、走り始めればそもそも直進性すら褒められたものではないという体たらく。極論すれば、そんな印象が拭えなかったのだ。
かくして、「もはや、このままフェードアウトしていくしかないのでは……」と諦めかけていたカローラが、ここにきて突如の大復活! 事実上は「オーリス」のモデルチェンジだった2019年デビューのハッチバック版「カローラ スポーツ」はもとより、単にカローラという名称で販売されるセダン、そして従来のカローラフィールダーから「カローラ ツーリング」へと名称が改められたステーションワゴンバージョン。いずれも、「これならば、日本を代表するモデルとして胸を張って世界にアピールできる!」と、まるで従来型を反面教師としたかのような気合の入ったフルモデルチェンジをトヨタはやってのけたのである。
デザインはうまくまとまっている
今回テストドライブを行ったのは、1.8リッターエンジンを組み込んだ「プリウス」由来のハイブリッドシステムを搭載する、セダンの最上級「W×B」グレードのFF仕様。275万円という本体価格に加え、ステアリングヒーター/シートヒーターやヘッドアップディスプレイ、スマホの置くだけ充電機能、そして、スマホ接続がなくてもカーナビの機能が使えるナビキットなど、総額47万円ほどのオプションアイテムを加えたモデルだった。
TNGAの思想に基づく最新の骨格を採用しながら「日本市場向けのコンパクト化を図った」というボディーはしかし、海外市場向けのモデルと見比べても、サイズダウンのための“無理強い”は特に意識させられないスタイリングでまとめられている。
欧米などに向けたグローバル仕様に比べると、それぞれ135mmと35mm短くなる全長と全幅は、「(大いに売れた)3代目のプリウスを参考に決定された」という。不満をうったえられることのなかったプリウスと同等のサイズであれば、日本国内でも問題なく受け入れてもらえるはず――それが、日本向けのカローラが今の大きさに決定された根拠というわけだ。
もっとも、巨大な開口部が強調されたフロントマスクや、リアデッキの短さは好みが分かれそうな部分。それでも、「従来型に比べればはるかにスタイリッシュになった」という点に関しては、異論はないはずだ。
後席の居住性にしわ寄せが
ドライバーズシートに腰を下ろすと、テレスコピック機能の付いたステアリングポストや、ドライバーに対してきちんと正対したペダル配置のおかげですんなり自然なポジションが取れるし、ドアミラー周辺に“抜け”が確保され、ダッシュボード上面も低く抑えられていることで、各方向への視界に優れていることにも好感が持てる。
ただし、そうした中で目障りに感じられ、実際テストドライブ中もたびたび視界内へと割り込んできて気になってしまったのは、ダッシュボード中央部分でことさらに存在感をアピールするディスプレイ。実はこのアイテム、標準の7インチに対して9インチと「大きいこと」を売り物とするオプション装備。昨今、この種のディスプレイが“大きさ”を競い合っていることは承知しているが、それでも「何もここまで……」と思えてしまうのだ。
一方、センターパネル部分に物理的なスイッチを用いてレイアウトされた空調のコントロール系は、ロジックの分かりやすさや操作性に優れる◎(二重丸)のデザイン。流行に乗り、操作完了まで注視が必要なタッチパネル式にしなかったのは、安全上からも大歓迎できるポイントだ。
まずはドライバーを「理想の位置にきちんと座らせる」ことに注力したTNGAと、グローバル仕様比で60mm短縮されたホイールベースの採用により、居住空間にそれなりのしわ寄せが生じていることは、特に後席に座ってみると否定できない。前席下への足入れ性に優れるので、大人が実用的に使えることは間違いないが、ニースペースにさほどのゆとりはないし、乗降時には“頭部の運び”が思いのほかタイトであるため、「セダンでも前席優先のパッケージング」という印象は拭うことができない。
実際、前後席間のタンデムディスタンスは従来型よりも30mmのマイナスというコメントを聞くと、「従来型比で全長が10cm近くも伸び、ホイールベースも40mm長くなっているのにどうして?」という突っ込みを入れたくなってしまう。過去とのしがらみを払い、クルマづくりの考え方をここまで一新させたのだから、もうカローラの名前にこだわらなくてもよかったのではないか……? そう思わされるのは、まさにこんな時である。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
フットワークは特筆もの
かくして、ネーミングを受け継いだからには、かつてのモデルと比較されることは、良くも悪くも避けられない新型。特に、実用性重視のセダンでは、「運動性能などはもうソコソコでオーケー……」という意見を持つ人も少なくないかもしれないが、実際に乗り比べてみれば、10人中10人が「コッチの方が絶対に良い!」と認めるに違いないのが新型カローラの走りである。
せっかくのハイブリッドモデルなのに、ロードノイズなどの大きさから静粛性に対してあまり高い得点が与えられないのは残念なポイントだが、フットワークのしなやかさは特筆すべきレベルで、この点では“欧州代表のライバル”である「フォルクスワーゲン・ゴルフ」すら何するものぞというだけのアドバンテージを実感させてくれる。
加えて言うならば、そんな乗り味の秀逸さは、ヒエラルキーにおけるトップグレードであることを誇示するために(?)シリーズ唯一の17インチシューズが与えられたこのモデルよりも、15インチのエコタイヤを履いたよりベーシックなグレードの方が上だったりする。いずれにしても、路面への当たりが優しく、一方で無駄な動きは抑えられた優れたボディーコントロール能力は、新型カローラシリーズ全般に共通する美点であることは間違いない。
同時に、エンジンの空走感が抑えられ、アクセル操作に対する加速のダイレクト感がグンと増したハイブリッドシステムがもたらす動力性能にも感心させられた。“熟成”という言葉を実感させられる動力性能を、ビックリするほどの優れた実燃費と両立させたハイブリッドモデル。タコメーターではなく、出力/回生力とエンジン始動の閾値(しきいち)を分かりやすく表示するパワーメーターが欲しいと、そんな欲すら出てきた。
こうしたモデルの登場で、プリウスの販売に影響が出ることも当然予想される。スマホとの接続が前提となるディスプレイオーディオの標準採用などには、「カローラにはふさわしくない」という声も反対勢力から挙がったに違いない。が、そんなハードルを乗り越えて生まれた新型は、従来型からは想像のできない「会心の出来」と言っていい内容の持ち主。だからこそ、もはやカローラの名前ではなくてもよかったのでは? いや、新時代を開拓するブランニューモデルとしてデビューした方がふさわしかったのではないかと、そんなことも考えさせられてしまう最新のトヨタ車だったのである。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
トヨタ・カローラ ハイブリッドW×B
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4495×1745×1435mm
ホイールベース:2640mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/3600rpm
モーター最高出力:72PS(53kW)
モーター最大トルク:163N・m(16.6kgf・m)
システム総合出力:122PS(90kW)
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ヨコハマ・ブルーアースGT AE51)
燃費:30.8km/リッター(JC08モード)/25.6km/リッター(WLTCモード)
価格:275万円/テスト車=321万7126円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万3000円)/ステアリングヒーター+シートヒーター<運転席、助手席>(2万7500円)/イルミネーテッドエントリーシステム<フロントコンソールトレイ、フロントカップホルダーランプ[LED]>(1万3200円)/カラーヘッドアップディスプレイ(4万4000円)/ブラインドスポットモニター<BSM>+リアクロストラフィックオートブレーキ<パーキングサポートブレーキ[後方接近車両]>+オート電動格納式リモコンドアミラー<ヒーター、ブラインドスポットモニター付き>(6万6000円)/ディスプレイオーディオ<9インチ+6スピーカー>(2万8600円)/エアクリーンモニター+「ナノイー」(1万4300円)/寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー+リアヒーターダクトなど、PTCヒーター付き>(1万7600円)/おくだけ充電(1万3200円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビキット(11万円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビキット連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万3176円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>/フロアマット<デラックスタイプ>(2万8600円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:4364km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:193.0km
使用燃料:8.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:22.4km/リッター(満タン法)/23.1km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。