多くのフランス車との出会いと“すれ違い” 今尾直樹の2019年私的10大ニュース!
2019.12.11 デイリーコラム介錯人はジャガー
2019年は4月末から5月初めに史上初の10連休があったため、ナマケモノの筆者には大変よい年だった。そんなナマケモノに衝撃を与えた私的ニュースを思いつくままに書き連ね、そのあとあらためて筆者的にその衝撃度の大きい順に並べ直したのが以下である。それでは、2019年の私的10大ニュース、発表します。第10位から。
10位:オートモビル カウンシルでエンスー小学生に遭遇
2019年4月5日(金)~7日(日)の3日間、千葉県の幕張メッセで開かれた「オートモビル カウンシル」に、7日の日曜日、ふらりと出掛け、『CAR GRAPHIC(カーグラフィック)』のブースに顔を出したところ、webCGの読者でもある小学生の少年に遭遇した。この少年、カーグラフィック関係者のあいだでは有名で、それというのも、筆者のように無名の書き手の名前すら知っているほどクルマの記事を読み込んでいるエンスー少年なのだった。このような少年読者がいるのだから、筆者も一生懸命記事を書かねば……。とあらためて思った。
9位:ジャガーIペースでいまここにある未来を体験
4月某日、ジャガーの電気自動車(EV)「Iペース」で高速道路を走りながら、ふとこう思った。こんなに静かで、風切り音とロードノイズしかしないクルマで、いったいなにを書けばいいのだろう。自動車に乗っていることのリアルを、どう伝えればよいのか? Iペースはそう悩みたくなるほどに、内燃機関のリアルとはほど遠いリアルさを身上とするクルマなのだった。
疾(はや)きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く。それはいわば、内燃機関の自動車が長年目指してきた姿の完成形だともいえる。と同時に、できあがったジャガーの意欲作Iペースがもたらしたのは、1990年代後半からいわれてきた自動車の白物家電化の、ホンモノの家電化ではなかったか。
よりにもよって、そういうクルマを家電とは縁遠いように思えたジャガーがつくるなんて! 自動車ジャーナリストという職業は終わった……と筆者は悟った。ジャガーに介錯(かいしゃく)されたのだ、本望ではないか。と思った2019年4月だった。
8位:日産スカイラインのプロパイロット2.0でいまここにある未来を体験
9月某日、「プロパイロット2.0」を搭載した「日産スカイライン」で、手放し運転を体験する。両手を放していても、ステアリングホイールがススッと動いて首都高速のカーブを曲がっていく。自動運転が実現すれば、ステアリングフィールとかブレーキペダルのフィーリングとか、あるいはハンドリングとか、アンダーステアとかオーバーステアとかといった言葉は死語になるだろう。
そんな自動運転に、1990年にハンドリング世界一を目指した日産が最も前のめりになっている、というのは歴史の皮肉かもしれない。あるいは、それはそれ、これはこれ、ということでしょうか。そう思った2019年の9月だった。
愛車が発したSOSサイン
7位:メルセデス・ベンツEQCはリアタイヤのほうが太いのに普段は前輪駆動の怪
10月某日に試乗したメルセデス・ベンツ初の量産EV「EQC」は、ジャガーIペースと同様、前後アクスルにそれぞれモーターを配置し、ホイールベース間のフロアにリチウムイオン電池を敷き詰めている。ハードウエアとしてのモーターは同じながら、フロントは効率重視、リアはパワー重視と、セッティングが異なっている。2つあわせて最高出力408PS、最大トルク765N・mを発生する。Iペースのトータルの駆動力は400PSと696N・mだから、これを上回っている。
不思議なのは、webCGでも書いたけれど、前が235/50、後ろは255/45の、ともに20インチという前後異サイズのタイヤが選ばれていることだ。高性能4WDにはよくあることだとしても、EQCの場合、フツーに走っているときは効率を高めるためにフロントの電気モーターだけで走行している。だったら、リアタイヤはフロントと同サイズにすべきではないか? と筆者は感覚的に思う。
後輪を駆動するモーターがパワー重視のセッティングであることが、フロントよりも幅の広いリアタイヤを選んだ理由だという解釈はできるけれど、ここで申し上げたいのは、従来とは異なる、新しいクルマづくりが始まっているということだ。単にカッコ優先、ということかもしれない。であるにしても、そういう選択をメルセデスがしたとなれば、事件といってもよいのではあるまいか。
6位:愛車2005年式ルノー・ルーテシアR.S. 2.0の異音の原因判明
2018年の師走、「GRスープラ」(プロトタイプ)の試乗会に行った帰り、自宅近くのガソリンスタンドに寄ったら店員さんが左リアのタイヤがパンクしていると教えてくれた。給油後、そのすぐ近くのタイヤショップに行ったら、ものすご~く長いくぎが刺さっていて、ものすご~く長いものだから、タイヤの内部を傷つけていてトレッドのみの修理では危険だと判断された。1本だけ替えるのも変だから、リアのタイヤ2本の交換をお願いしたら、ショップのおにいさんが、「まだ十分みぞがあるから、もったいないですよ」といって1本のみ、しかも中古の別銘柄のタイヤを薦めてくれた。たいていの場合、ひとに勧められるままに物事を進める筆者は、6000円ほどの出費で済んだことを大いに喜びつつ、愛車に乗るたびになんとなく不安な心持ちがした。
で、年が明けて、愛車のリアから異音がするようになり、それは徐々に大きくなった。中古タイヤを付けてから、その異音は始まったと筆者には思われ、タイヤに詳しそうな先輩ジャーナリストに相談した。中古タイヤは付けないほうがいい、いつどうなるか、わからないから、というアドバイスをもらったけれど、でも、もらっただけで、ズボラな筆者はなんにもしなかった。すると、異音はますます大きくなってきた。クルマ屋さんをやっている義兄に見てもらうと、リアのハブベアリングがダメになっていることがすぐにわかった。「ルノー・ルーテシアR.S.2.0」にお乗りの方はハブベアリングに注意です。筆者の愛車にこの症状が出たのは走行距離7万5000kmぐらいのときである。
左リアだけ別銘柄の中古タイヤを履いているのはあいかわらずだ。見られると恥ずかしい。本当はどうすべきか、タイヤに詳しい方がいらっしゃったらご教示ください。
私的カー・オブ・ザ・イヤーは2台に
5位:フランス車が帰ってきた!
4月に御殿場で開かれた試乗会で「プジョー508」に乗り、しなやかで軽快な乗り心地に感激した。それはもう1980~90年代の、フランス車らしいフランス車を思わせる乗り心地だった。昔のメーターを液晶画面で再現したようなインストゥルメントパネルのデザインもエスプリがあって、「よっ、待ってました!」と叫びたくなるようなフランス車だった。
4位:続・フランス車が帰ってきた!
シトロエン創業100年を迎えた2019年。8月の試乗会で乗った「C3エアクロスSUV」は創業100年にふさわしいフランス車回帰、シトロエン回帰を感じさせた。プジョー508より非力な分、いっそう往年のフランス車っぽく感じた。
元日産のカルロス・タバレス氏がプジョー・シトロエン(PSA)のトップに就任したのは2014年3月だから、それ以前からフランス車回帰の方針は決まっていたと思われる。であるにしても、タバレス氏以後のPSAの動向は要注目である。プジョー508には私的カー・オブ・ザ・イヤーを差し上げたいと思うほどである。
ルノーはフレンチスポーツカーの極み、「アルピーヌA110」を復活させ、ニッポンにも2018年に上陸させている。タバレス氏はルノーの前COOだから、アルピーヌのプロジェクトについても熟知していたに違いない。
ドイツに染まることなく、第3の道を歩み始めたフランスの独立精神こそ、私たちが学ぶべきものではあるまいか。
3位:マツダ3のスカイアクティブXはネオクラシックの味がした
マツダの「スカイアクティブX 2.0」は、メルセデス・ベンツでもできなかった15.0:1(日本仕様。欧州仕様は16.3)というディーゼル並みの高圧縮比をガソリンエンジンで実現した夢のエンジンである。
これを搭載した「マツダ3」のAWDに筆者は11月某日、箱根で試乗し、まるで1980~90年代のヨーロッパ車のようだと思った。スカイアクティブX 2.0は、ビュンビュン回るスポーティーなエンジンというよりは、排気量2リッターにしてその1割増しの排気量の、つまり2.2リッターぐらいのパワーとトルクを発生する。それでいながら燃料消費は2割減の1.6リッター並みという、実用エンジンの鑑(かがみ)のようなエンジンだった。
ハイブリッドやEVのような新しさではなくて、どこか懐かしい。しかし、単なる懐かしさではない。だって、現代の環境基準や安全基準に適合したクルマをつくるのは一筋縄ではいかないはずだ。つまり、この古さこそが新しい。20世紀に21世紀を先取りしたのが初代「トヨタ・プリウス」だとすれば、21世紀に20世紀を復活させたのがマツダ3のスカイアクティブXである。夏目漱石作品に出会ったかのような新鮮な懐かしさ。「こんな夢を見た」と言いたくなるような……。
マツダによれば、2030年でも、世界の自動車の中で内燃機関を搭載するものは90%におよぶと推測されるという。であれば、内燃機関の改良をあだやおろそかにしてはならない。プジョー508にもあげちゃったけど、それは輸入車部門として、2019年の私的ニッポンのカー・オブ・ザ・イヤーはマツダ3である。
シトロエン2CVとのすれ違い
2位:電圧とは滝の高さ、電流とは川の流れの水量だと清水和夫さんから教わる
EVの欠点は、電流が多くなると熱損失が大きくなることである。そのため、性能を上げようとすればするほど、熱を冷やすためのクーラーが必要になる。ポルシェが初のEVスポーツカー「タイカン」を、通常の400Vではなくて800Vのシステム電圧にしたのは、つまり滝の高さ(電圧)を上げて、川の水量(電流)を少なくし、熱損失を小さくするためなのだ。ただし、電圧を上げるとバッテリーの寿命が短くなるという説もあるそうで、電気自動車も単純ではない。
ということを、9月某日、九州で開かれたジャガーIペースの試乗会でモータージャーナリストの清水和夫さんから教えてもらい、電気のさっぱりわからない筆者は大いに感銘を受けた。電気自動車はこれからの商品だから、ユーザーに伝えなければならない自動車ジャーナリストの仕事はこれまで以上にたくさんある、という意味のことを清水さんは楽しげに語っていた。
電気ですかぁ。いち、に、さん、ダーッ! というのは前にもどこかで書いた気がするけれど、これは書いてないと思う。電気がわかればなんでもできる。
1位:シトロエン2CVの購入希望を断られる!
シトロエン100周年を迎えた2019年。筆者は数少なくなってきたであろう「2CV」の出物をネットで偶然発見した。グレーと黒の「チャールストン」で、走行距離はたったの、忘れちゃいましたけど、数千kmだったか、多くても1万km台で、内外装は新車のようにきれい。価格は180万円ぐらいだった。首都高三郷ICのすぐ近くにあるお店で、そこは知人のクルマ屋さんのO君の紹介でたまたま取材したことがあった。そこで、O君に連絡して、この2CVに興味がある旨を伝えた。すると、O君こそ、フランスからパーツを輸入し、ボロボロだった当該2CVを新車のごとくに仕立てたひとだった。O君は筆者に言った。
「止めるところはあるんですか?」
「いまルノーを止めている、砂利の駐車場」と筆者が答えると、「それではクルマがかわいそうです」とO君は筆者ではなくて、クルマのことを案じた。
シトロエン2CVの最大の敵はサビである。2CVを購入するのであれば、屋根付きの駐車場は絶対に必要だ。とO君は断言し、筆者は当該2CVの購入を断念せざるを得なかった。筆者が住む東京はるか郊外には屋根付きの月決め駐車場というものが存在しない。どなたか、ウチの近所に屋根付き駐車場を建ててはいただけないでしょうか。
ということで、シトロエン2CVの掘り出し物探しは2020年に続く。
こうして振り返ってみて、私は自分が1980~90年代のクルマがヨカッタ、と思っていることに初めて気づいた。そして、つくり手の側にも、同じ思いのひとがいるということにも(たぶん)。
(文=今尾直樹/写真=ジャガー、日産自動車、プジョー、シトロエン、マツダ、ポルシェ、webCG/編集=藤沢 勝)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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