メルセデス・ベンツEQC400 4MATIC(4WD)
老舗がつくった新常識 2019.10.10 試乗記 メルセデス・ベンツ初の量産型電気自動車「EQC」が、日本の道を走りだす――興味津々でステアリングを握った筆者は、従来の常識では予想できなかった、その動力性能や静粛性に時代の変化を感じたのだった。新しいもの好きにはたまらない
「よくもそんなことを!」というスウェーデンの16歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの、国連の気候行動サミットにおける怒りのスピーチが記憶に新しいなか、メルセデス・ベンツEQCの試乗会が東京・六本木のメルセデス ミーを基点に開かれた。1886年にガソリン自動車を発明したふたりのドイツ人を創業者に持つメルセデス初の本格量産電気自動車(EV)である。EQCそれ自体はすでに、日本でも2019年7月に発表済みで、10月以降、いよいよ納車が始まっている。
年内販売されるのは、限定55台の発表記念特別仕様車「EQCエディション1886」のみで、ここでご紹介する「EQC400 4MATIC」は2020年春からの納車となる。エディション1886は7月の発表と同時期にウェブ商談が始まっていることもあって残りわずかだそうで、絶対的な台数はともかく、自動車界の盟主メルセデス初の量産EVに対する、いわゆるアーリーアダプター、新しいもの好きの注目度は高い。
今回、試乗できたのはEQC400 4MATICのほうで、エディション1886ならではの人工皮革のシートを持たない等の違いはあるけれど、お値段は1200万円の発表記念特別仕様車よりお求めやすい1080万円。ということは、948万円の「メルセデスAMG GLC43 4MATIC」や、1192万円の「G350d」などが身内での強力なライバルとなる……かもしれない。
「Sクラス」をしのぐ静かさ
EQCのEQはEVであることを示すメルセデスの新しいサブブランドであり、Cは「Cクラス」「GLC」のCである。プラットフォームは同じSUV仕立てということでGLCをベースに開発されている。サスペンションは前4リンク、後ろマルチリンクで、リアにのみセルフレベリング用のエアサスを装備する。フロントを省いたのは、おそらく節電のためではないかと筆者は想像する。ともかく部品の8~9割は新しい。内燃機関を持たない代わりに、電気モーターをふたつ、前後アクスルに1基ずつ搭載し、両アクスル間のフロアにリチウムイオン電池を敷き詰めて、まったく新しいボディーを載せているのだから、それはそうだろう。
2873mmのホイールベースはGLCと共通で、全長×全幅×全高=4761×1884×1623mmのボディーは、GLCより数値的にちょっぴり小さいけれど、ほとんど同じ。ようするにでっかい。リアが傾斜したそのスタイルは「ポルシェ・カイエン」をちょっと思わせる。SUVクーペのスポーティー感と、真っ黒でツルリンとしたフロントグリル周辺、それに全体のヌメッとした面の処理が近未来感を醸し出そうしていることは理解できる。タイヤは前235/50、後ろは255/45のともに20インチで、試乗車は「ミシュラン・パイロットスポーツ4 SUV」というハイパワーSUV専用を履いている。
スターターボタンを押す。音楽が鳴るとかの特別な演出はなく、アクセルを踏むと無音でスルスルと走りだす。メルセデス ミーから右に出て六本木通りを左折し、霞ヶ関から首都高速に入る。印象的なのは、電気モーターだからエンジン音がしないのは当然として、そのエンジン音がしないことによってたいていのEVでは目立つロードノイズと風切り音が「Sクラス」並み、いやおそらくそれよりも低く抑えられていることだ。前後ふたつの電気モーターは、ハードウエアは同一ながら、フロントは効率重視、リアはパワー重視のセッティングだそうで、ふたつ合わせて最高出力408PSと最大トルク765N・mを発生する。
異質な速さに驚く
4WDながら、低負荷領域、フツーに走っているときは効率を高めるためにフロントの電気モーターだけで走行する。前輪駆動特有のトルクステアは皆無と言ってよい。
太いタイヤを履いたリアの電気モーターは状況に応じて稼働する。ドライ路面でもアクセルを全開にすると、ムチをあてられたサラブレッドさながら、あるいはカタパルトから飛び出したジェット機が、ってどっちにも乗ったことがないけれど、お尻が蹴っ飛ばされたように無音のまま加速する。
0-100km/h加速は5.1秒で、例えば440PSの2894ccV6ツインターボを搭載する「カイエンS」の5.2秒より0.1秒速い。感覚的にはだけど、もっと速い。というより速さの質が異なる。超短い助走区間で飛び上がる棒高跳びの選手みたいな、映画のスパイダーマンみたいな加速。無音と書いたけれど、ヒィ~ンという高周波音が、幻聴かも、と思えるようなレベルでたしかに聞こえる。
こんなにモーレツな加速をするのに、こんなに快適な乗り心地を持つSUVは、考えてみたら、ガソリン自動車のSUVには存在しないのではあるまいか。2480kgというスーパーヘビー級の車重、しかもリチウムイオン電池をホイールベースの内側のフロアに敷き詰めていることから生まれる低重心、さらに航続距離確保のために最高速を180km/hにとどめていること等が比較的ソフトなサスペンションの設定を許しているのに違いない。
キモは「違和感のない新しさ」
もうひとつ筆者が興味深いのは、ふだんは前輪駆動の、いわばオンデマンド4WDなのに、フロントのタイヤがリアより細いことだ。駆動輪のタイヤのほうを太くするか、もしくは同じサイズにするのが常識でしょう。こんな組み合わせは、内燃機関の自動車ではあり得ない。前後の重量配分は、車検証によると、前が1200kg、後ろが1280kgとある。EQCは48:52で、ちょっぴりリアヘビーなのだ。リアヘビーで前輪駆動というのも、これまた内燃機関ではあり得ない。前輪駆動で、ときどき4WDという「ポルシェ911ターボ」というのはヘンでしょう。
EQCのリアの電気モーターはパワー重視で、いざというときにドカンと加速するから、フロントより太い。そして、前後モーターはどちらも減速時にエネルギーを回生するオルタネーターとしても働く。発電する一方、回生ブレーキの役割も果たす。ドイツ人のやることである。理にかなっていないはずがない。
ちなみに回生ブレーキによる減速度合いは、ステアリングホイールのパドルで4段階の切り替えができる。一番強い減速Gを発生するD--(ダブル・マイナス)に設定すると、回生ブレーキだけで十分な減速が得られる。完全停止はしない。ドライバーはフットブレーキを踏むクセをつけるべきだ。メルセデスはそのように現時点では考えているという。
EVだからといってEVらしさを前面に出す、ということはあえてしていない。メルセデスの内燃機関車に乗ってきた方にもできる限り違和感のない、メルセデスらしい乗り味を追求した。ということを今回の試乗会の冒頭のレクチャーでメルセデス・ベンツ日本の広報マンが語っていて、なるほどなぁと思った。
その一方で、前後のタイヤサイズと駆動方式の関係ひとつとってみても、EQCにはEVならではの新しい試みがなされている。ハンドリングのためだけでも、スタイリングのためだけでもない。ふたつの電気モーターが別個に前後輪を駆動するEVならではの、新しい常識が生まれつつある。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツEQC400 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4761×1884×1623mm※
ホイールベース:2873mm※
車重:2495kg※
駆動方式:4WD
モーター:非同期モーター
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)/--rpm
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)/--rpm
リアモーター最高出力:--PS(--kW)/--rpm
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)/--rpm
システム最高出力:408PS(300kW)/--rpm
システム最大トルク:765N・m(78.0kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)235/50R20 104Y/(後)255/45R20 106Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 SUV)
一充電最大走行可能距離:400km(WLTCモード)
交流電力量消費率:20.8-19.7kWh/100km(NEDCモード)※
価格:1080万円/テスト車=1093万円
オプション装備:スペシャルメタリックペイント<ダイヤモンドホワイト>(13万円)
※欧州仕様車の参考値
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1042km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
NEW
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
NEW
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。 -
「BYDラッコ」「スズキeスカイ」登場で卍どもえに 軽乗用BEVの覇権はどこが握る?
2026.10.14デイリーコラムこれまで「日産サクラ/三菱eKクロスEV」と「ホンダN-ONE e:」のみだったところに「BYDラッコ」と「スズキeスカイ」が加わり、軽BEV市場がにわかに盛り上がりを見せている。どれもほぼ同じ床面積を持つBEVだが、比べてみるとその中身は結構違う。今後の覇権を握るのはどの陣営か。


































