人とクルマの新しい付き合い方? 自動車サブスクリプションの可能性と素朴な疑問
2020.01.13 デイリーコラムリースと何が違うのよ?
古式ゆかしきレンタカーに加え、カーシェアリング、個人間カーシェア、そしてサブスクリプションと、ここ数年でさまざまな形態のサービスが登場した自動車ビジネス。2019年末には方々のニュースや新聞が「トヨタの新サービス、KINTOが苦戦!」なんて報を打ったもんだから、今冬の忘年会では知古の友(活計は自動車業界外)より「アレってなんなの?」とまま聞かれた。まだ始まったばかりだというのに不名誉な報じられ方をしているKINTOだが、おかげで新聞の経済面を読むような面々の間では、確かに認知度が上がっているようである。
それにしても、「アレってなんなの?」って言われましても、新聞に書いてある通りよ。月々の定額払いでクルマが利用できるサービスよ。残価設定型ローンとは何が違うの? 税金とか保険料とかが全部月額に含まれてて、後々の出費がかからないところじゃないの? リースと一緒じゃない? 西野カナと加藤ミリヤくらいの違いだねえ。それじゃあ、なんでこんなに騒がれてんの? と問われて記者は答えに詰まった。
酒が入った素人というのは時に識者より鋭くなるもんで、砂肝をいただきながら「実際そうかも」と思った次第。サブスクだかフリスクだか知らないけれど、ややこしいカタカナ用語で新しい感を出してはいるが、サービスの実態は既存のリースとそう変わらない。主に法人向けだったサービスを個人向けにも展開したというのが実態で、かねて社用車などでリースに触れているユーザーからしたら、本当に「何が新しいの?」といったところだろう。
KINTOだけの話ではないが、恐らく私たちメディアは、わさわさと出現してきた自動車利用サービスの仕組みに関心があるわけではない。社会性や持続性を持った“クルマを売らない自動車サービス”は果たして成り立つのか。本格的な模索が始まったことに対し、「そんなこと、ホントにできるの?」と注目しているのだ。
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借用なのか? 所有なのか?
この「気軽に使える個人向けリースが本当に普及するのか?」という問題について、やっぱりトヨタの参入は大きかったと思う。そもそもトヨタがKINTOを始めていなければ、われわれは「本当に普及するの?」なんて疑問すら持たなかったはずだ。先述の「なんでこんなに騒がれてんの?」という飲み友の問いに対しては、遅ればせながら「自動車メーカーの、それも天下のトヨタが乗り出したから」というのが答えになるのだろう。
先日、そんなKINTOの現状と今後の展開を説明する事業説明会が催された。詳しくは高山正寛氏のコラムにお任せするが、個人的に「へぇ」と思ったのがウェブ契約の利用率の高さだ。これまで販売店というアウェーの地で、百戦錬磨のセールスマンとやりあわなければ入手できなかった自動車を、なんとネットでポチれるようになったのである(必要書類郵送などの手続きはあるが)。これを進化と言わずして何と言おう。Amazonや楽天が日本人の生活様式を変えて幾星霜、ようやっと自動車のセールスもインターネットにつながったのかと感慨深い。
もうひとつ、自動車のサブスクリプションについて興味深く感じているのが、それが“借用”とも“所有”とも言い切れないサービス(?)となっている点である。いや、サービスの仕組みを考えたら間違いなく借用というか貸与なんだけど、その利便性やユーザーに提供する価値・体験が、非常に所有に近いのだ。
例えばレンタルやカーシェアは分かりやすく借用で、ニコニコ現金一括払いは当然のこと購入、すなわち所有である。では残価設定ローンは? リースは? サブスクは? 端末料金が通信費とごっちゃだった時代にも、アナタはポケットのそれを「俺のケータイ」「俺のスマホ」と呼び、フィルムを貼ったりカバーを買ったり、猫っかわいがりしていたはず。この辺は仕組み上の線引きと提供価値の上での線引きに、微妙に“ズレ”があるのだ。
想像してくださいよ。「KINTO ONE」や「スマボ3/5」なら、アナタは少なくとも3年間はクルマと苦楽を共にし、駐車場で世話をするよしみとなる。利便性は“マイカー”と全く一緒だし、所有感が芽生えないはずがない。
そんなわけで、記者は自動車サブスクリプションを“借用”と“所有”……というか、今風に言うと“利用”と“所有”の間にあるサービスだと勝手に理解している。私自身古い人間なので、趣味のクルマをこれで賄う気にはなれないが、もし何がしかの事情で実用のクルマを持つ必要が生じた場合、「2台目はこれでいっか」と思える程度にはポジティブにとらえている。
いや、ポジティブというか、大げさな話「これがある程度受け入れられないと、日本の自動車市場はヤバいのでは?」とさえ考えているのである。
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これは果たして進化なの?
自動車リテラシーの高い読者諸兄姉ならご存じのことと思うが、今や日本の一般家庭が、新車を買い、維持するというのはハードルが高い行為となりつつある。
クルマそのものの価格に加え、購入時にかかる自動車重量税に、なぜか「環境性能割」という名で呼ばれる環境税、年イチで支払う自動車税に任意保険料、車検が来れば再び重量税&自賠責保険の支払いと、クルマを持つとなにかにつけて出費がついて回るのだ。最も身近な支出である燃料代も、内訳を見れば半分は税金。都市部では駐車場問題が頭痛の種で、これから市場を支えていくはずの若者は、任意保険の額に絶望して自動車デビューを諦める。こんなありさまだからして、居酒屋で「クルマを持つなんて無理だし、ばかばかしい」と笑う友に反論できる言葉を、私は持たない。
個人的にKINTOというのは、そうした状況に国内シェア45%(登録車)のメーカーが危機感を持ち、着手した事業だと思うのだ。自動車所有にまつわる煩わしい部分を、できるだけメーカーが背負い、保険などもあれこれ工夫し、自動車利用の間口を極力広げる。クルマを買うことが難しくなった昨今、それでも顧客にモビリティーを提供すべくメーカーがたどりついた答えが個人向けリースだとしたら、たとえ自分が「クルマは自分の名義にしてナンボ」と刷り込まれた世代であっても、それを頭ごなしに拒否する気にはなれないのである。
一方で、カーシェアなどの説明会で垂れ流される「シェアリングは賢い」「これからは所有より利用」という聞き飽きたうたい文句も、個人的にはどうかと思う。「いや、どっちが賢いとかじゃないでしょう。自分たちの商売に都合のいい解釈を、さも善のように語るなよ」と。
現状、非所有型のサービスに注目が集まっているのは、先述の通り購入や維持が難しい世相があるからだろう。が、曲がりなりにも経済的自由が保障されている日本である。せちがらい時代に即した新サービスの創出もよいが、私たちが気兼ねなく欲しいものを買える環境についても、あらためて考えていくべきではないの? 自動車の所有が特権階級だけのものだった時代への逆戻りは、決して社会の進化ではないはずだ。
(webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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