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目指すは死亡交通事故ゼロ 加速するスバルの取り組みと未来の道路交通へ向けた課題

2020.02.03 デイリーコラム

期限は2030年

死亡交通事故ゼロは、自動車に関わるすべての人の悲願である。しかし、その実現は相当にハードルが高く、自動車メーカーの間でも、この目標を明確に掲げているところは決して多くない。

近年の例を見ると、2007年にボルボが「Vision 2020」なる宣言を行い、2020年までの「自社の新車による事故死亡者ゼロ、重傷者ゼロ」を掲げてもろもろの取り組みを行ってきた。残念ながら“2020年まで”(つまり今年である)という目標は達成できず、スケジュールは先送りとなってしまったが、同社が死亡事故ゼロに向けて研究開発や事故の実地調査などの施策を続けていることは、もっと広く知られていいことだと思う。

そのボルボと同じように、わが国ニッポンでも死亡事故ゼロを公言するメーカーがある。スバルである。スバルは2018年に新中期経営ビジョン「STEP」を策定。「2030年に死亡交通事故ゼロを目指す」(スバル車乗車中の死亡事故およびスバル車との衝突による歩行者・自転車等の死亡事故をゼロにする)と表明したのだ。

そして今年、1月20日に催された記者説明会「SUBARU技術ミーティング」の中で、スバルはこの目標へ向けた施策の、より突っ込んだ中身を公表した。すなわち「どういった取り組みを通して死亡交通事故ゼロを実現するのか」についてである。

具体的には、

  • ドライバーモニタリングシステム(DMS)の乗員認識性能向上
  • 車両運動制御技術の向上
  • 先進運転支援システム(ADAS)のセンサー画像認識性能向上と、さらなる自動化
  • 衝突被害を軽減する各種機能のADASとの連携と、交通弱者保護性能の向上
  • 先進事故自動通報(AACN)の導入やインフラ協調などといった“つながる安全”技術の導入

そしてこれらの技術・機能に加え、各領域における知能化技術(AI)の活用も通して、死亡交通事故ゼロを目指すとしたのだ。

「SUBARU技術ミーティング」において、中期経営ビジョン「STEP」の内容を再確認するスバルの中村知美社長。
「SUBARU技術ミーティング」において、中期経営ビジョン「STEP」の内容を再確認するスバルの中村知美社長。拡大
スバル の中古車

全方位的な取り組みから“死亡事故ゼロ”を実現する

スバルの取り組みの大枠について説明すると、彼らはまずADASの高度化によって65%、次にAACNの導入と衝突安全技術の継続的な強化によって35%、自社製品による死亡事故を削減するとしている。

ここで言うADASとは、要するに「アイサイト」のことだ。スバルの総合安全の一角を担うこのシステムについては、予防安全に関する点では既存のブレーキ制御に加えてステアリング制御も導入し、交差点における巻き込み事故や右直事故(右折車と直進車による事故)、出合い頭の事故、あるいは路外への逸脱による事故等に対応する新機能を投入。またDMSとの連携によって、ドライバーの意識喪失やわき見運転などにも対応させるとしている。一方、運転支援機能に関しては、2020年代前半のうちに車線変更支援やカーブ予測増減速、渋滞時ハンズオフなどの機能を実現していく予定だ。

次いでAACNについてだが、日本では“コネクテッド”の分野で話題に乏しいスバルも、実は北米では、コンシェルジュサービスやSOSコール、施錠/開錠といった車両のリモートコントロールなどからなる「スターリンク」を2016年にスタートしており、事故発生時の自動通報機能もすでに実用化している。

今後は、事故時の早期救急を実現するべく同機能を強化。衝突の方向や衝撃の大きさ、多重衝突の有無、シートベルト着用の有無、エアバッグ展開の有無などから乗員の状態を推定するアルゴリズムの導入などを通し、救急機関へ送る情報精度を向上させることで、救命率を向上させるとしている。また、AACNについてはシートセンサーやDMSに加え、アイサイトや歩行者エアバッグとも連携。事故の際には乗員だけでなく歩行者の救援にも活用するとのことだった。

これらの技術や機能のほかにも、2020年代の後半には歩行者に加えてサイクリストを保護するエアバッグを導入。衝突のシーンや、乗員・歩行者の特性に合わせてシートベルトやエアバッグなどの作動を制御し、それらの拘束装置が人、特に子供や高齢者らに傷害を与えないようにする技術も導入するとしている。

安全技術の開発に向けた取り組みを説明するスバルの専務執行役員、大拔哲雄氏。
安全技術の開発に向けた取り組みを説明するスバルの専務執行役員、大拔哲雄氏。拡大

現実的な施策の数々に高まる期待感

以上が、「SUBARU技術ミーティング」における安全に関するプレゼンテーションの、記者なりの“概訳”である。読者諸兄姉の皆さんは、どう思われただろう。

個人的な感想としては、せんえつながら「身の丈を意識しているというか、良くも悪くもすごく現実的なロードマップだな」と感じた次第。どこが“良く”でどこが“悪く”……というと語弊があるので、“記者がふに落ちなかった”と言い換えせていただく……なのかを説明すると、まず前者については、おのおのの技術が地に足が着いたもので、実現への過程やその効果の説明にも曖昧さがなかったことである。

例えばADASに関してだが、詳しい方ならお気づきだろうが、スバルが挙げた「近年中にアイサイトに投入する計画の新技術」は、個別に見るとボルボや日産などがすでに実用化しているものに近い。スバルは、これらの先進技術を早期にアイサイトでも網羅するとともに、今より高性能なセンサーやAIの導入で進化・発展させ、さらに他の機能と相互に連携させることで、死亡事故の削減に役立てようとしているのだ。

革新的な提案がない分、聞こえは地味だが、今日の技術と地続きになっているこの施策は非常に現実味がある。一時盛り上がり、今やとんと話題を聞かなくなった道路インフラのIoT計画などと違って、絵空事ではなく本当にやってくれそうな気がするのだ。そしてこの「スバルはこりゃあ本気だな」という印象は、AACNや衝突安全に関する技術の説明にも感じられるものだった。

正直に白状すると、これまで中村知美社長の「私たちは本気です」という言葉をちょっと眉唾に聞いていた記者だが、今回のプレゼンを受けて、いささか反省した。懇親の席で話をうかがったスバル関係者(2人の人物から話を聞いたが、そのうちの1人は安全に関するプレゼン資料の数字をまとめた人でもあった)の、当意即妙な回答っぷりにも、「関係者は、自分たちが目下何をやるべきかをはっきり認識しているんだな」と感じた次第である。

「SUBARU技術ミーティング」の会場の様子。
「SUBARU技術ミーティング」の会場の様子。拡大

IoTの活用についてスバルはどう考えているのか

では逆に、記者にとってどこがふに落ちなかったのかというと、プレゼンテーションで説明されたすべての技術が実現したとして、果たして本当に死亡事故をゼロにできるのか? という疑問が拭えなかった点である。

くしくも、先述の関係者のひとりは「交通安全には“人”と“インフラ”と“クルマ”の3つの領域がある」と述べていた。記者も本当にその通りだと思っていて、かつ将来は、これら3つの要素を相互に連携させることが重要だと考えている。しかし今回のプレゼンでは、スバルが“人”と“インフラ”について、どの程度の比重を置いて考えているのかが、イマイチわからなかったのだ。

例えば、道路インフラや通信インフラによる提供が想定される、交差点などで自車の死角をカバーするシステム、あるいはトンネルや峠道などにおける“見えない先”の交通情報を共有するシステムなどは、事故の予防に少なからず寄与するはず。今回のような説明会では、この辺りの技術に言及するメーカーも少なくない。記者なども、素人ながら路車間通信や車車間通信の開発、そこから集めた情報を発信するクラウドの整備、そして自動車側におけるコネクテッドの活用領域の拡大は、事故を減らすうえで不可欠な施策なんじゃないかと思うのだ。しかし、この点についてはプレゼン資料でも「インフラ協調」の6文字が書かれているのみで、先述の担当者も「“つながる系”の取り組みは、まずは自動通報機能を日本にも導入して……」という説明に終始した。

うーん。インフラとの連携は、自動車開発におけるメーカー間の“協調領域”であることはもちろん、官民が協力して取り組まないと進まない分野でもある。単独で先走った未来を口にするつもりはないということなのか。あるいは、そもそも「2030年には有用なシステムは間に合わない」と考えているのかもしれない。

なお、インフラ側の整備について「ホントのところ、関係省庁への働きかけはどうなってるのでしょう?」と尋ねたところ、自工会の部会などを介して国土交通省とのやり取りがあり、メーカーサイドだけでなく、時には国交省側から指摘や要望が出されることもあるのだとか。2030年に間に合うかは分からないが、より事故の削減に寄与するシステムの創出へ向け、皆さんぜひ頑張ってほしい。

日産自動車が2019年のCESで発表した未来技術「Invisible-to-Visible」。VR技術を用いた「見えないものを可視化」する運転支援システムで、周辺情報の収集には、車載のセンサーはもちろん、クラウド上のデータも用いることとなっている。
日産自動車が2019年のCESで発表した未来技術「Invisible-to-Visible」。VR技術を用いた「見えないものを可視化」する運転支援システムで、周辺情報の収集には、車載のセンサーはもちろん、クラウド上のデータも用いることとなっている。拡大

“人の意に反する制御”の難しさ

そして最後に“人”についてである。過日、ボルボの関係者が語ったところによると、同社の「Vision 2020」において最大の障壁となったのは、ドライバーのリテラシーだったそうだ。飲酒や薬物による酩酊(めいてい)状態での運転や、無謀なスピードでの運転が引き起こす事故を防ぐ手だてを、講じられなかったのだ。

日本でも、新聞を見れば信号無視や飲酒運転、速度超過による重大な事故が後を絶たない。もちろん、こうした課題についてもADASやその他の自動化技術によって対応できなくはない(らしい)のだが、かつて「停車まで行う自動緊急ブレーキ」を導入した際にも、さまざまな課題やあつれきがあったと聞くほどである。「信号無視を予測して自動でブレーキをかける」「異常な加速を検知して自動で減速する」などという、より踏み込んだ領域での“ドライバーの操作に反する制御”については、記者の記憶する限り、やはりどのメーカーも慎重な姿勢を崩していない。

今回のスバルについても、関係者の回答は「アイサイトのカメラは信号などの色も識別できるし、技術的には不可能ではない。業界がそういった流れとなった際に対応できるよう、検討はしている」という微妙なもの。ドライバーを疑う制御、今以上に広範な領域における運転への介入については、同社も先陣を切るつもりはないようだった。

かつて飲酒運転撲滅の有効策として期待されたアルコールチェッカーだが、飲酒者が他の人の息を使ってチェックをごまかすという問題が横行。その効果は限定的だった。
かつて飲酒運転撲滅の有効策として期待されたアルコールチェッカーだが、飲酒者が他の人の息を使ってチェックをごまかすという問題が横行。その効果は限定的だった。拡大

無謀なドライバーの尻拭いをメーカーに任せていいの?

こうしたスバルの態度に関して、記者は正直、良い/良くないと評することができない。自分自身、どういった態度で臨むことを正しいとするべきなのか、分からないからだ。

というか、そもそもドライバーのリテラシーが引き起こす問題までメーカーに対応させることは、果たして適切なのだろうか? 今回の取材において、もし上述の担当者が「なんで私たちが、無謀な運転が引き起こす事故まで面倒を見なきゃならないんですか?」と切り返してきたら(実際にはそんなことなかったけれど)、記者は一切反論できなかった。

予防安全技術が普及し、“つながる技術”が実用化されたことで、かつてとは異なるステージに進んだ感のある自動車メーカーの取り組み。冒頭で「死亡事故ゼロを明言するメーカーは少ない」と述べたが、逆に言えば、現実は一部のメーカーが死亡事故ゼロを標榜する段階にまで進んでいるのだ。アイサイトやそれに準ずる技術が普及する前には、到底考えられなかったことだろう。

一方、私たちのリテラシーはここ10年間でどう変化しただろうか。最近では、新型車が出るたびに安全装備の増加による車両価格の上昇を嘆く声を聞くが、その原因となっているのは未熟な、あるいは倫理観の欠如したドライバーによる事故なわけで、「果たして私たちユーザーは文句を言える筋合いなのか?」という気もしてしまうのである。

技術解説のパネルの傍らで、「皆さんから寄せられる、技術による進化の期待に応えたい」と力強く語るメーカーの担当者を前に、「でも『期待してばかり』というのもダメだよなあ……」と、ユーザーの立場で反省した今回の取材だった。

(文=webCGほった/写真=webCG、スバル、日産自動車、ボルボ・カーズ/編集=堀田剛資)

安全技術の開発はメーカーの義務だが、事故の原因は、車両の不具合を除けばあくまでドライバーにあることが多い。メーカーの取り組みにばかり期待していてはだめなのだ。
安全技術の開発はメーカーの義務だが、事故の原因は、車両の不具合を除けばあくまでドライバーにあることが多い。メーカーの取り組みにばかり期待していてはだめなのだ。拡大
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