BMW640iカブリオレ(FR/8AT)【試乗記】
華やかだけど根はマジメ 2011.05.29 試乗記 BMW640iカブリオレ(FR/8AT)……1133万6000円
新型「6シリーズ」のトップバッターとして導入されたオープンモデル。3リッター直6のベースグレードに試乗して、走りと乗り心地を確かめた。
機能に妥協なし
日本の輸入車シーンは、多くのカテゴリーをドイツ勢が席巻している。しかし例外もある。たとえば1000万円以上のラグジュアリーマーケットだ。とくにクーペやカブリオレについては、イギリス車やイタリア車の姿を見かけることが少なくない。
この価格帯ともなると、さすがにハードウェア面に大きな差はない。昔のイギリス車やイタリア車は信頼性に不安があったが、現在はそういった問題は解消した。となるとデザインやマテリアル、レスポンスやサウンドなどの「味」が重要になってくるわけで、機能と品質で押してきたドイツ車の優位性が薄れるのは仕方がない。
もちろん彼らはそんなことは承知している。だからロールス・ロイスやベントレーを手中に収めたのだろうが、だからといって自分たちの持ち駒を欠かしたりはしない。BMWも例外ではなく、「6シリーズ」に2度目のモデルチェンジを実施して市場に送り込んだ。
今回はカブリオレからの投入で、日本仕様は「640iカブリオレ」と「650iカブリオレ」の2タイプ。といっても排気量は額面どおりではなく、試乗した前者は3リッター直列6気筒、後者は4.4リッターV型8気筒のいずれもターボ付きとしてダウンサイジング化を果たし、ATは8段にバージョンアップした。さすがはドイツ生まれ、機能面でのアドバンテージに手抜かりはない。
初代「6シリーズ」を思い出す
アクが強かった先代モデルに対する反省なのか、新型のデザインは目になじみやすい。精悍(せいかん)なフロントマスクやリアエンドも、ウェッジシェイプを強めたボディサイドも、BMWそのものだ。ソフトトップのルーフラインがきれいなカーブを描いているのも目立つ。ただこれについては、少し違和感があったのも事実である。
というのも、クローズドの状態で後ろから眺めると、高くなったトランクリッドとスロープするルーフに挟まれて、先代から受け継いだ垂直のリアウィンドウの丈が妙に短く見えるのだ。
運転中の後方視界に不満はなかったけれど、身長170cmの僕が後席に座ると足元は余裕があるのに、座面が硬く高めなせいもあって、頭上には余裕がない。
流麗なプロポーションは遅れて登場するクーペに任せて、カブリオレは全高を少し上げ、ルーフラインを水平に近づけて、クラシカルなたたずまいを出しても良かったのではないか。せっかくコンサバティブなソフトトップを採用したのだし、オープンカーにはそういう遊び心こそ大切じゃないかと思う。
そんなソフトトップに覆われたキャビンに入って最初に目に入ったのは、インパネのセンターにあるモニターだった。他の部分とは違ってシルバーの枠で覆われていたので、iPadのようなデバイスが差し込んであるのかと思い、引っ張ったけれど抜けなかった。こういう部分をガジェット風に仕立てるのがBMW流だと思ったのだが。
でもセンターコンソールを大きなカーブで描くことで、巨大なモニターや数多くのスイッチを並べつつ、初代6シリーズが備えていたドライバーオリエンテッドな雰囲気を再現した点は評価したい。実務的な印象がぬぐえなかった先代に比べると、パーソナルカーらしさは確実にアップしていた。
さらに厚みのあるクッションでほどよいサポート感を備えた前席に腰を下ろし、スタートボタンを押してエンジンを始動、Dレンジをセレクトして走り始めると、もうひとつの6シリーズらしさを体感することができた。
より軽やかに穏やかに
新型のボディサイズは4895mm×1895mm×1365mmと大柄だが、車重は1930kgと2tを切る。おかげで320ps、45.9kgmを発するエンジンと8段ATによる加速に不満はなく、約1700rpmでこなす100km/h巡航は余裕さえ感じる。でも右足を深く踏み込めば、まぎれもないストレート6の音色を楽しむことができる。
考えてみれば、日本で買える直列6気筒エンジンを積んだソフトトップのオープンカーは、希少である。この上にV8ターボの「650i」もあるけれど、もうパワフルなほうがエライという時代じゃないし、そちらを選ぶとライバル車が気になりそうだ。BMWらしさにこだわるなら、「640i」に絞って間違いないんじゃないだろうか。
前席における風の巻き込みは、一般道であれば、サイドウィンドウを上げていれば気にならない。ただしルームミラーでチラ見した限り、後席に座る編集スタッフW嬢の髪は、それなりに揺れていた。「6シリーズカブリオレ」のアイデンティティである垂直のリアウィンドウを上げ下げしても、その具合はさほど変わらなかった。
ボディの剛性感は文句のつけようがない。ハンドリングは大柄なボディを感じさせないほど素直。エンジン同様「駆け抜ける歓び」を感じる。ところが乗り心地は、このブランドとしてはかなり穏やかだ。ダイナミックダンピングコントロールをどのモードにセットしても、印象はさほど変わらない。ステアリングもBMWとしては珍しく軽めだった。
旧型よりもラグジュアリー色を強めたことで、持ち前のスポーティさが伝わりにくくなった感は否めない。でもそういった付加価値のベースとなる基本設計はきわめて完成度が高く、先日試乗記をお届けした新型「X3」同様、万人に薦められる内容になっている。華やかなオープンボディをまとっていても、その点では典型的なドイツ車だった。
(文=森口将之/写真=峰昌宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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