マイカーがあれば大丈夫!? 地方都市におけるMaaSの必要性を考える
2020.02.26 デイリーコラム最も身近なMaaSはアプリ
数年前から注目を集めるようになった「MaaS(マース/Mobility as a Service)」。日本全国で多数の実証実験プロジェクトが動き、令和2年度の政府予算案にはMaaS関連事業として「利便性が高く持続可能な地域公共交通ネットワークの実現(316億円)」などが盛り込まれている。
MaaSについて、国土交通省では<出発地から目的地までの移動ニーズに対して最適な移動手段をシームレスにひとつのアプリで提供するなど、移動を単なる手段としてではなく、利用者にとっての一元的なサービスとして捉える概念>としている。おおむねこれが共通認識なのだが、実は世界共通の定義は存在しない。MaaSそのものが発展途上のサービスで、今後言葉の定義が変わる可能性はある。
いま私たちが享受できるMaaSのひとつは乗り換え案内アプリだ。検索対象は鉄道のみならず、バスや空路、航路までも幅広く網羅し、日本全国に対応する。また、地図アプリでも経路検索が可能で、出発地から目的地まで徒歩も含めたルートを示してくれる。検索結果は所要時間や運賃などでソートがかけられるので、多様な移動手段を駆使しながら自分なりの旅程を組める。
タクシー配車アプリもMaaSの一種。この分野は競合ひしめく戦国時代といえる。先日、タクシー最大手の日本交通とディー・エヌ・エーが4月からタクシー配車アプリ事業を統合することを発表した。また、中国の滴滴出行(ディディチューシン)とソフトバンクの共同出資で発足したDiDiモビリティジャパンは2月20日から石川エリアにてタクシー配車プラットフォームを提供開始するなど、事業展開を加速している。
移動支援のほかに、地域経済と結びつける動きにも注目したい。昨2019年、ディー・エヌ・エーとセブン&アイ・ホールディングスは一定額以上の買い物をした来店客にタクシーの割引クーポンを配布する実証実験を行った。また、3月1日から新潟交通と日本ユニシスは新潟市で専用アプリを使ってバス一日乗り放題の企画乗車券を販売するほか、近隣店舗等の立ち寄りスポット案内等を行う計画だ。こうした地域系アプリの実証実験は全国各地で行われている。
MaaSのレベルが上がればマイカーユーザーにも
このように、MaaSアプリは公共交通機関の利用者にはメリットがあるが、マイカーユーザーには必要ないものが多いのが実情だ。地図アプリを除けば、基本は公共交通の使用を前提にしている。では、マイカーユーザーにとってMaaSは不要かといえば、そうではない。“現段階”ではそれほどでもないだろうが、将来的には必要になる可能性があると筆者は考えている。
スウェーデンのチャルマース大学の研究者が提唱した、MaaSのレベル分けがある。「レベル0」は何もない状態。鉄道やバスといった交通機関や地図情報など、それぞれが独立して存在するイメージだ。そして、「レベル1」が情報の統合(複数モードの交通提案、価格情報)、「レベル2」が予約、決済の統合(1トリップの検索、予約、支払い)、「レベル3」がサービス提供の統合(公共交通に加えてレンタカー等も統合)、「レベル4」が政策の統合(データ分析による政策)と、だんだんと複雑になっていく。現状はレベル1が成熟し始め、レベル2が始まりつつあるといったところだろう。
今後、MaaSのレベル2やレベル3が広がると、マイカーユーザーにもメリットのあるサービスが増えてくるのではないかと思う。例えば、MaaSは物流にかかわってくる可能性がある。郊外で人口が少なく、ドライバーの確保が難しいような地域では「貨客混載」が検討されている。鉄道の駅や道の駅などを回るコミュニティーバスを走らせるとして、道の駅で販売する商品を鉄道の駅で積み込むといった使い方が考えられる。
あるいは、MaaSは街づくりとも直結するものであり、ゆくゆくは中心部のにぎわいのために、欧州などで行われているゾーニングが導入される可能性もある。鉄道の駅周辺に必要な公共施設や商業施設を集積し、そのエリア内は許可されたクルマ以外は入れないようにする。マイカーユーザーはゾーンの外側にある駐車場にクルマを止めて、徒歩や公共交通でエリアに入っていく。そうなると、マイカーユーザーも何らかのMaaSアプリを使うことになる。例えば、公共交通の乗り換え案内やゾーン内の案内や決済、駐車場の利用などはおそらくアプリ対応になるだろう。
さらに、MaaSのレベル4は政策の統合(データ分析による政策)として、国・各自治体による交通政策が統合されていくという。あまりに未来感のある話で、正直本当にそうなるのかは分からない。ただ、政策の統合に意義があるのは間違いなく、そうなることを一市民としてささやかに願うばかりだ。
なお、ここまでほぼアプリの話が大半だが、言うまでもなくMaaS=アプリではない。重要なことは「利用者にとっての一元的なサービス」であること。多数の事業者が連携してサービスを運用しているが、ユーザーから見たらひとつのアプリで全部済んで便利! と思えるようなデザインでなければならない。また、こうしたアプリは利用する行為そのものに課金しづらい。どうやってMaaSを運営していくのか、ビジネスとしてはまだまだ議論の余地があるという。
マイカー天国の地方都市にMaaSは必要かーー答えはYESだと筆者は考えている。交通社会が健全で、より良いものであるように、マイカーを含めたすべてのモビリティーのためのMaaSが待たれる。
(文=林 愛子/写真=西日本旅客鉄道、国土交通省/編集=藤沢 勝)
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林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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